日立製作所 研究開発グループでは、未来を描くための「問い」として、人々の変化のきざしを捉え、「もしかしたら、将来、人々はこういう考え方や行動をとるようになるかもしれない」という観点でまとめています。(※)今回は、Z世代の環境活動家・露木志奈(つゆきしいな)さんに同世代の意識や価値観、次世代に向けて活動をする思いについてお聞きしました。

※詳しくは「きざしを捉える」を参照

画像1: 「なぜやるのか?」が世界を変える。教育からはじまる持続可能な社会|きざしを捉える

露木志奈氏

2001年横浜生まれ、中華街育ち。「世界一エコな学校」と言われるインドネシアの「Green School Bali」で高校3年間を過ごし、卒業。COP24(気候変動枠組条約締約国会議) in Poland、COP25 in Spainに参加。肌が弱かった妹のためにShiina Cosmeticsを立ち上げる。2019年9月、慶應義塾大学に入学。現在は、環境講演を全国の小中高学校に行うため、休学中。すでに170校、2万4千人以上にお話を届けた。(写真:竹花康)

日常生活やビジネスにおいてサステナブルを意識した行動が注目されている今、環境負荷の少ないライフスタイルは広がりつつあり、とりわけその姿勢が鮮明なのは、1990年代後半から2000年代に生まれたZ世代だといわれています。幼いころに東日本大震災や大規模な計画停電を経験し、環境教育を受け、またグローバルに情報収集を行う彼らによって、環境問題の本質を見つめ、自分ごととして捉える意識がますます広がっていくでしょう。

2001年横浜生まれ、Z世代の環境活動家として活動する露木志奈さんは、これまで約170校で環境問題を伝える講演を行ってきました。「当たり前に行動を起こせるようになること」が大切だと語り、若い世代へのアクションを続ける露木さんに、Z世代の意識や次世代に託す思いについてお聞きしました。

消費者は教育の延長線上にいる

――Z世代は「環境ネイティブ」とも呼ばれ、教育の場だけではなく、生活のなかでも環境意識を育んできたといわれています。高校時代をインドネシア・バリ島の「グリーンスクール・バリ」で過ごされた露木さんの環境意識は、どうやって育まれたのでしょうか。

私の場合は、幼いころから自然のなかで遊ぶことが多く、そのなかで環境への関心が育まれたと思います。小学校の高学年になると山村留学に参加し、2年間、親元を離れて生活するなかで、自然は楽しいだけの場所ではなく人間が生きていくために不可欠なものだと気づきました。それが今の活動につながっています。

高校は、英語を話せるようになりたくて留学を志したのですが、母に「語学以外も学べるところならいい」と言われたんです。それなら自分の興味のある分野にということで、世界一エコな学校ともいわれるグリーンスクール・バリに留学しました。

画像: グリーンスクール・バリの開放的な校舎(写真:甲斐昌浩)

グリーンスクール・バリの開放的な校舎(写真:甲斐昌浩)

一緒にスクールに通っていた友人姉妹が10代前半で、脱使い捨てプラスチックをめざす「Bye Bye Plastic Bags」という活動をはじめ、今では国際的なNPO団体となっています。彼女たちの「何かをはじめるのに、大人になるまで待たなくていい」という考え方には、強い刺激を受けています。

私もより深く環境問題に向き合うようになり、在学中に、原材料をすべて明確にした口紅を開発しました。開発のきっかけとなったのは、肌が弱い妹が「ナチュラル」と書かれたクリームで肌が荒れたことで知った「化粧品に使われる『ナチュラル』ということばの定義が明確ではないこと」に対する憤りでした。

――Z世代のなかでも環境問題意識の高低はあると感じます。その意識の差は、どこからくるとお考えでしょうか。

根本にあるのはやはり学校教育ではないでしょうか。同世代の環境活動家を見ても、環境問題に関心のある人は、留学経験があるなど一度は国外に出た人が多いと感じます。その点で日本の環境教育はまだまだこれからだと感じています。

消費者の環境意識が教育の延長線上にあることは、環境意識が高いといわれるヨーロッパの国々が20年も前から、学校教育において環境問題に力を入れてきたことからもうかがえます。そして、グリーンスクール・バリの創立者がカナダ出身であるように、欧米からの移住者の環境意識が現地に影響を与えた例は少なくないでしょう。

例えば、バリ島では、数年前までビニール袋が環境汚染をしているという感覚を持つ人は少なく、便利なものとして広く使われていました。しかしBye Bye Plastic Bagsなどの環境活動が実を結び、2019年に使い捨てプラスチック製品が禁止されたのです。

画像: グリーンスクール在学中、Bye Bye Plastic Bagsの活動に参加する露木志奈さん(最前列左から2人目、本人提供)

グリーンスクール在学中、Bye Bye Plastic Bagsの活動に参加する露木志奈さん(最前列左から2人目、本人提供)

なぜ“今”なのか。休学して講演を続ける理由

――2020年11月から慶應義塾大学環境情報学部を休学し、環境活動家として全国のさまざまな学校で講演活動をされています。大学よりも環境活動を優先したいと思われたのはなぜでしょう。

私は、環境問題や気候変動を解決するために大学に入りました。真面目に授業に出て知識をインプットしていましたが、環境問題は待ってくれません。今、アウトプットしないと、行動しないと何も変わらないと思い、休学して行動することにしました。また、どう行動するのか悩んでいたときに、大阪の中高一貫校から「グリーンスクールでの学びや口紅の開発について話してほしい」というオファーがあり、生徒の前で話したらすごく楽しくて。これが今、自分がやりたいこと、やるべきことだと気づきました。

最初は肩書きも実績もなく、「講演させてください」とアプローチしては何度も断られました。でも、『先生の学校』(株式会社スマイルバトン)という先生を中心に教育に興味がある人が集まるコミュニティで話をするチャンスを得て、20人ほどの先生に興味を持っていただけたことで、徐々に講演をする機会が増えました。さらに、のべ300人ほどの先生方とミーティングを重ね、今は、コンスタントにご依頼をいただけるようになっています。活動をはじめて約1年半で、小学校から高校まで、約170校、計24,000人ほどの生徒たちに講演をしてきました。

――講演ではどのようなことを伝えていらっしゃるのでしょうか。

主に3つあります。1つ目は、グリーンスクールでの学びや口紅の開発といったこの活動をはじめるまでの話です。化粧品に何が入っているか、材料がどこからきているのか、製品が環境にどんな影響を与えるのかといった環境意識を経験談に交えて伝えています。2つ目は、今、気候変動がどんな状態にあり、日本や世界にどんな影響を及ぼしているのか。そして、その影響から環境を守るためにはタイムリミットがあるということです。

3つ目は、私たちは日常で何ができるのかということです。人は一般的に、主体的に考えたことは守る傾向があります。ですから、マイボトルやマイバッグを使いなさい、ではなく、なぜ自分がやらなければいけないのか、という「行動の意味」を伝えることを大切にしています。

例えば、私が講演を行った逗子市にある小学5年生のクラスでは、私が伺う前から面白い取り組みが行われていました。小学校では禁止されていることが多いシャープペンシルについて、そもそもなぜ禁止されているのか、どんな場面なら使っていいのかなど、みんなで話し合い、使い方のルールを決めたそうです。私の講演が、このケースのように「なぜ、その行動をするのか」を話し合うきっかけになればいいと思っています。自分で考えることで、なぜそのルールを守るのかが理解できるし、そうすると次はどんな行動を起こすべきか、視野も広がっていくはずですよね。

画像: 小学校での講演の様子(写真:川島伸一)

小学校での講演の様子(写真:川島伸一)

――これまでの講演を通して、特に印象的だった出来事はありますか。

ある小学生は「本のカバーは紙のムダだと思うけれど、カバーがないと内容がわからない。では、表紙に読み取れば本の内容がわかるバーコードをつけたらどうだろう」というアイデアを出してくれました。学校の電力を再生エネルギーにしたいと交渉した中学生や、規格外の野菜で農家と商品開発を行った高校生など、みんな、さまざまなアクションを起こしています。

特に印象的だったのは、先ほども話に出てきた神奈川県逗子市の小学校です。彼らは、給食で牛乳を飲むときのストローの代替品として、植物の茎を使ったマイストローをつくりました。講演から1年後に再訪したところ、最終的には「そもそもストローって要らなくない?」という結論が出て、教室に「ストローを使わないで牛乳を飲む方法」というポスターが貼られていたんです。ポスターに書かれたキャッチコピーは「『それ面倒くさくない?』と言われたら、『環境問題の方が千倍面倒くさいよ』と言えるようになろう」。すごくキャッチーですよね。私が使わせてほしいくらいでした(笑)。

環境ネイティブの価値観が社会にダイレクトなインパクトをもたらす

――環境問題は、立場や世代などによってさまざまな捉え方があります。露木さんはどのような考え方や姿勢で関わっていこう、ステークホルダーをどう巻き込んでいこうとお考えでしょうか。

啓発活動に加え、環境問題をより深く考えるきっかけになった口紅の開発と販売。つまりビジネスも考えています。私自身は物欲もさほどないため、以前は教育や啓発活動だけでもいいと思っていました。でも、それでは“自分だけがサステナブル”に留まってしまうかもしれない。自己満足の域を出ず、きっと世界は変わりません。

ビジネスにすることで、多くの人を、世界を巻きこむことができるのではないでしょうか。もちろん、自分だけではとても実現できないので、クラウドファンディングの準備などを少しずつ進めているところです。

――Z世代をはじめとする若い世代の消費行動や価値観と社会の変化について、露木さんはどのように感じ、どのような未来を描いていますか。

既にその兆候が見られますが、今後、環境教育が進んで地球の未来に関心を持つことが当然になれば、「モノそのもの」に価値を置かない人がさらに増えると思います。同世代においては、どんな思いでつくられたモノなのかを基準に購入する、共感できる企業のモノだから使う、というような意識の広がりを感じています。

その意識はさらに、仕事に対する価値観を、「給料」ではなく「企業理念への共感」や「自分の価値観を踏まえた仕事のやりがい」などをより重視した「社会にどれだけ貢献できるか」といった方向にシフトさせていくでしょう。少子高齢化が進むなか、人材市場でも若い世代の価値観がダイレクトに企業にインパクトを与えることになります。企業は変化を求められているのです。

画像: 高校での講演の様子(写真:竹花康)

高校での講演の様子(写真:竹花康)

学校教育においては2019年の学習指導要領の改訂によって、生徒が自分で問いや課題を見つけ、課題解決のために情報を集めて分析したり周囲の人と意見を交わしたりしながら、自分独自の答えを見つけていく「探究学習」が注目されるようになりました。

教育に「探究」が入ってくるということは、かつて私がそうだったように、「自分が本当にやりたいこと」を見つけられる機会が増えるということ。そして、そのような教育を受けている小学生は、情報をいろいろなところから得ているため、質問も積極的で、深く考えることができていると感じます。さらに、「社会の課題や自分が本当にやりたいこと」を考えるきっかけになるような教育に触れてきたことで、将来の仕事選びにおいても、お金だけでは左右されない価値観が育まれるのではないでしょうか。

とはいえ、先生は、いきなり「探究を促しなさい」「では、SDGsについて教えなさい」と言われても、まずは自分が学ぶ場が少ないですし、思いはあっても、日々いろいろなことに忙しくて行動を起こすのも大変だと思います。そこに、私が講演をする意味があるはずです。講演できっかけをつくり、そのあとの生徒の具体的な行動は先生がサポートする、ということができればいいですよね。教育が変われば未来は変わり、環境問題へもよりよいアプローチができる。私はそう信じています。

編集後記

子どもたちが何をすべきかを自分で考えておのおのが行動を広げられるように、行動の意味を伝えることを大切にしているという、露木さんの講演活動におけるポリシーにとても共感しました。同時に、サステナブルが根付いているフィンランドの方が、環境のことを考える第一歩として「まず自分が好きなものを知ることが大事だ」と言っていたのを思い出しました。これは、何が好きかを知ることで、愛着を持って使い続けることができ、結果的に環境に良い影響を与えるという考え方ですが、直接的な解決方法をただ伝えるのではなく、まず気持ちを育むという部分で露木さんのお話と通じる部分もあり、日本の教育との違いも表している気がします。

学校教育で「探究」をしてきた子どもたちが、本当にやりたいことを見つけ、そのためのアクションを起こしたり、それができるかどうかで就職先を選ぶようになるということが、社会がこれから迎えようとしているインパクトなのだという露木さんの強い思いにも深く頷きました。つくられ、決められたルールを守ることよりも、目的を理解したうえで、自分たちでルールをつくったり、変えたりしていく。教育の場が「社会の変え方」を伝える場になってきているのだと思います。

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画像2: 「なぜやるのか?」が世界を変える。教育からはじまる持続可能な社会|きざしを捉える

小学生から素敵なキャッチコピーが生まれていることこそが、ものすごく価値のあることですよね。面倒くさがりの娘にも伝えたいです。一方で、「環境問題の方が千倍面倒くさいよ」を常に意識することは、簡単なようで、とても難しいことだとも感じます。社会にソリューションを提供する側の人間として、環境への意識を普段の生活に自然に取り入れていくための「階段」をつくっていきたいです。

画像3: 「なぜやるのか?」が世界を変える。教育からはじまる持続可能な社会|きざしを捉える

「環境は待ってくれないので休学する」という露木さんのような決断ができる子どもを育てるために、親は何を意識し、価値観も含めてどう変わればいいのか?育てる環境や子ども自身にどう考えてもらうかなど、いろいろと刺激を受ける記事でした。小学生のわが子を見ていると、インターネットやクラスメイトから情報を収集しながら、知らず知らずのうちに自分自身の意見表明ができるようになっています。記事に書かれている新しい価値観も、徐々に当たり前になっていくのだろうと思います。

画像4: 「なぜやるのか?」が世界を変える。教育からはじまる持続可能な社会|きざしを捉える

幼い頃に、『地球の秘密』(出版文化社)という小学生が描いた絵本に触発されて「水や電気の無駄遣いをやめよう」という話をしたら、まわりは「何を言ってるの?」という反応でした。環境問題は世の中も含めたまわりの人たちの意識が「今、どうあるのか」ということも大事だと思います。私は子どもがまだ小さいので、何歳くらいから、どう教えるか悩むこともあります。水の無駄遣いはよくはないけど、「流れ出る水で遊ぶ」という経験も大切だと感じたり……。(めちゃくちゃ目を輝かせて遊んでいるので、やめさせられない。笑)

画像5: 「なぜやるのか?」が世界を変える。教育からはじまる持続可能な社会|きざしを捉える

日本では「SDGs=環境に良いこと」という捉え方が多いように感じますが、本来SDGsには貧困や教育格差、ジェンダー平等なども含まれます。そういった観点では、開発途上国で問題となっている大気汚染を、第三次産業の比率が高くなった先進国が一方的にそれを問題視していいのか――。ぱっと見の善し悪しではない議論ができてこそ、本当の意味で「豊かな未来」になるのではないかと思います。

関連リンク

「25のきざし」Sign3:Beyond Green

「持続可能な社会のきざし」Socio-education

きざしを捉える

「もしかしたら、将来、人々はこういう考え方をして、こんな行動をとるようになるかもしれない」。

さまざまな分野の有識者の方に、人々の変化のきざしについてお話を伺い、起こるかもしれないオルタナティブの未来を探るインタビュー連載です。

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