[Vol.1] エンゲージメントが向上するオフィスのあり方
[Vol.2] 技術の力で、働く場所はもっと自由になる。
[Vol.3] フィジカルなオフィスの利点をバーチャルに生かす
日本の住宅はリモートワークに適しているか
丸山:
今日は、山下さんと一緒に協創の森に建つ協創棟の内部を巡りながら、ポストコロナの働き方やオフィス環境のあり方についてお話を伺っています。
協創棟の2階には協創を具体化するための場所や仕掛けが集まっています。しかし、アフターコロナを見据えた時、今後はもう少しウェブなどを利用した配信のための環境を整えていくべきかと思っています。
配信ならば環境に依存せず、どこでもできると思われる方も多いと思いますが、現在日立製作所の大半の従業員が在宅勤務している日本の住宅というものは、「住む」ことに最適化されていて、リモートワークにあまり適していない気がするんです。
そうなると、会社に来てオンラインミーティングやワークショップなどの作業の配信がしやすい、ということもオフィス環境にとって必要になるのではと思います。
山下さん:
ポストコロナではオフィス機能が取捨選択されていくと思いますが、なかでも「人と会う」ことにフォーカスが当たっています。かつてオフィスを重要視していた、シリコンバレーのビッグテックは、オフィスとリモートを併用する「ハイブリッドワーク」を標榜しています。その中で顧客との協創やファンコミュニティとの関係性構築をフィジカルな場所として残すという選択をしている企業も出てきています。
臨場感をもって遠隔メンバーと話すには
丸山:
また、オンラインだと、会議中はずっと相手の顔画像か、プレゼンテーションスライドだけを見ていることになります。そうなると得られる情報が非常に限定的になってしまうのですよね。本当はもっと日常の中に配信があるような状態にしていきたいんです。何かアイディアや実践例をご存知ですか。
山下さん:
オンサイトメンバーとオンラインメンバーが共存できるように、普通の席とディスプレイを対面させるようなトライアルを行なっている企業もあります。
丸山:
なるほど。拡張現実の状態になっているんですね。
山下さん:
遠隔地のメンバーと、臨場感をもって話ができるテレプレゼンスを高める仕組みについては、どこも試行錯誤中のようです。オンラインミーティングはコミュニケーションのきっかけをさぐる視線やしぐさなどの身体的サインを得られず、それが認知的な疲労感につながると指摘されていますので、ソリューションは急務ですね。
丸山:
わたしたちが取り組んでいるのは、お客さまや多様なステークホルダーと共に考えていく研究ですから、日常的に外と対話することが前提となります。安心して対話を深めていくためにも、外とつなぐ環境を社内でしっかりつくっていきたいと考えています。
ポップアップショーケースで「暮らす」と「働く」をつなぐ
丸山:
「働く」ことを見つめていくと、もっと仕事の場が街に出ることもあるだろうと思っています。ではここで、高田主任研究員が取り組んでいるテーマをご紹介させてください。
高田:
今、使い方も置く場所も自由に設定できるブースを開発しています。ちょっとした小商いやショーケースなど、いろいろなことに使えるものにしたいと考えています。いわゆる「ポップアップショーケース」ですね。
山下さん:
奥のスクリーンに写っているのはなんですか?
高田:
ブースの開口部に「3Dライダー」というセンサがついていて、通りかかった人の動きを計測しています。カメラと違い顔を映さないので、プライバシーは守られています。
ブース内には「手かざしセンシング」というセンサがついていて、「この棚に手を伸ばした」、「何回手を伸ばした」、ということが分かるようになっています。来訪者の関心を定量的にデータとして収集できるので、マーケティングデータとしても使えます。
丸山:
建築家には、商店街の真ん中にスタジオを構えたりして、常に外と触れることを大切にしている方がいますよね。私がこの企画の立ち上げ時に関わらせてもらった際に意識したのは、そういう「街の中に仕事場を置く」という新しい体験の価値です。
都市の中に、自由に働ける場所を埋め込んでいく
丸山:
SNSで私生活を公開する人も多い時代です。公と私、外と内の境界は以前よりもだいぶ薄くなってきていると思います。そんな中で、毎日の仕事が生活動線の中に溶け込んだらどうなるんだろう。また、生活動線の中に、たとえばこのような什器を仕掛けることで、いままで気が付かなかった新たな「働く」が発生するのではないか。そんなことを考えています。
山下さん:
ありとあらゆる場所が働く場所になる、オフィスからデジタルに移っていくWaaS(Workplace as a Service)という流れは確実にきていると思います。その時、自由に働ける場所を都市環境の方にどれだけ埋め込めるか、というのはひとつの論点ですね。
最近のコワーキングスペースを見ていると、かなり「生活」側に近くなっていると思います。銭湯の2階がコワーキングスペースになったり、地域の人たちの生活の場が「仕事もできる場所」として開放されるようになってきています。これまで通勤によって完全に切り離されていた「生活」と「働く」が、どんどん近くなっています。
さらに近年は、シェアハウスとコワーキングスペースを融合した「コ・リビング」のスタイルも増えています。
丸山:
職住近接が進んでいるんですね。
次回は、サイバーとフィジカルの融合技術「コモングラウンド」を活用した「コモンリビングラボ」について、また、社内コミュニケーションを活性化させる社内ポッドキャスティングについて、日立の2つの取り組みをご紹介します。
山下正太郎
コクヨ株式会社に入社後、戦略的ワークスタイル実現のためのコンサルティング業務に従事。手がけた複数の企業が「日経ニューオフィス賞(経済産業大臣賞、クリエイティブオフィス賞など)」を受賞。2011年、グローバルでの働き方とオフィス環境のメディア『WORKSIGHT』を創刊。同年、未来の働き方を考える研究機関「WORKSIGHT LAB.(現ワークスタイル研究所)」を立上げる。2016〜2017年、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート ヘレン・ハムリン・センター・フォー・デザイン 客員研究員、2019年より、京都工芸繊維大学 特任准教授を兼任。2020年、パーソナルプロジェクトとして、グローバルでの働き方の動向を伝えるキュレーションニュースレター『MeThreee』創刊。同年、黒鳥社とのメディア+リサーチユニット『コクヨ野外学習センター』を発足。
丸山幸伸
研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部
東京社会イノベーション協創センタ 主管デザイン長(Head of Design)
日立製作所に入社後、プロダクトデザインを担当。2001年に日立ヒューマンインタラクションラボ(HHIL)、2010年にビジョンデザイン研究の分野を立ち上げ、2016年に英国オフィス Experience Design Lab.ラボ長。帰国後はロボット・AI、デジタルシティのサービスデザインを経て、日立グローバルライフソリューションズに出向しビジョン駆動型商品開発戦略の導入をリード。デザイン方法論開発、人財教育にも従事。2020年より現職。
高田芽衣
研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ
価値創出プロジェクト 主任研究員(Chief Researcher)
1997年(株)日立製作所入社、中央研究所で無線通信システムの研究を経て、2016年より東京社会イノベーション協創センタに所属。2019年東京農工大学工学府博士後期電子情報工学専攻修了、博士(工学)。現在、働き方改革・オフィス関連のソリューション検討、スマートシティ分野の顧客協創活動に従事。
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