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「サービスデザイン・ジャパン・カンファレンス」は、サービスデザインネットワーク日本支部(SDNJ)が開催する日本最大のサービスデザインのイベントです。企業や行政、自治体など幅広いフィールドで活躍するサービスデザインの研究者や実践者の知見を集結させ、日本の最新状況のスナップショットを共有することを目的としています。今回、研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部 環境プロジェクトの佐々木剛二と、Takram Londonの牛込陽介さんが「トランジションズ・システム変革の理論とデザイン実践」をテーマにしたセッションを行いました。第3回はTakramと日立製作所のウェブ・プロジェクト「サステナブルな未来へのトランジション」、および「自然と人間の復興のための3つのトランジション」について紹介します。

[Vol.1] 自然と人間の関係を結びなおすトランジション
[Vol.2]トランジション・デザインと二つの時間性
[Vol.3]望ましい未来に向けたトランジションの道筋を描く

「サステナブルな未来へのトランジション」

画像: トランジションを鍵概念として、次の世界へのさまざまな道筋を示したウェブサイト

トランジションを鍵概念として、次の世界へのさまざまな道筋を示したウェブサイト

牛込さん:
Takramと日立のコラボレーションとして「サステナブルな未来のトランジション」をテーマに、「どのようなトランジションの形があるのか」、「どのような手法でトランジションの姿が描けるか」について、Public-interest(公益)のリサーチとして公開するプロジェクトを行っています。そのうちのひとつが「サステナブルな未来へのトランジション」というウェブサイトです。最初にプロジェクトの背景について、佐々木さんから説明いただきます。

佐々木:
自然を含めた世界の状況をどのように変えていくべきかを考えたとき、「めざすべき世界が何であるか」を示すだけでなく、そこに至る変革の道筋をシステム的に示すことだと考えています。このウェブサイトは、世界の最前線で活動している方々と対話し、彼らが持っているアスピレーションや意思、社会に対する理論を受け止めて、求められる変化へのビジョンを探ることを目的に開始したプロジェクトです。

牛込さん:
このプロジェクトはトランジションのカタログのようなウェブサイトです。トランジションに取り組む実践者の目線を主体としており、彼らがどのような形で現在の世界を認識し、また未来の世界を想像しているか、またその間をつなぐ道筋をどのように立てているのかを記述しています。現在、ウェブサイトには11の事例を紹介しており「あなたは次のトランジションをどのように描きますか」など、読者を導くメッセージを送っています。

「その先の世界」をつなぐパスウェイの可能性に触れる

画像: 「サステナブルな未来へのトランジション」では、9つのトランジションが示されている。

「サステナブルな未来へのトランジション」では、9つのトランジションが示されている。

エネルギーに関するテーマを例にすると、自然エネルギー財団やInternational Energy Agency(国際エネルギー機関)といった団体に対して「化石燃料から再生可能なトランジションにおいて何がキーコンセプトになるのか」という視点からリサーチを行いました。

これまでのインタビューでは、自然エネルギー財団の大野輝之さんにもお話を伺いました。「エネルギー・トランジションはあくまでエネルギー産業のトランジションで、エネルギー産業ができることは多いが、エネルギー産業の外にいる人ができることは意外と少ない」というお話が印象的でした。そうしたインタビューを通してそれぞれの団体が持っている「現在の世界」と「ほしい世界」がどのような要素で成り立っているのかを紹介しています。私たちがトランジションの「パスウェイ・ダイアグラム」と呼んでいるチャートでは、「現在」と「その先の世界」をつなぐパスウェイがどういった形で広がるのかという可能性に触れています。

画像: トランジションのパスウェイ・ダイアグラム。現在と未来を結ぶ道筋が示される。

トランジションのパスウェイ・ダイアグラム。現在と未来を結ぶ道筋が示される。

佐々木:
このチャートは、現在のシステムと、望むべき将来のシステムを結ぶトランジションの道筋を描いたものです。私たちのBusiness as usualは、一種のコンフォート・ゾーンの中にある状態ともいえます。たとえば、現在は、炭素を多く排出する生活様式が中心ですが、すでに再生可能エネルギーを中心とする社会への転換が必要な時期を迎えています。しかし、旧来のレジームでは、インフラ整備にかかるコストが大きいため、これまでどおりのやり方をしたほうがいい、という意見が力を持っていました。

一方で、めざすべき世界を実現するためには、チャレンジが大きく、不確定要素もあります。たとえば、日本で再生可能エネルギーを中心的な電源とするには、送電線をはじめとするインフラを大幅に拡充する必要があります。また、それを実現するためのノウハウを持った人材も不足しています。よって、現状を維持する方が、コストも安く抑えられますし、いままでどおりの価値観を続けられるし、一見安定した世界観のようにも見えます。しかし、長い視点で見ると現在のあり方を維持することが、破滅的な帰結をもたらす道であることを忘れてはいけません。

人間と自然の復興へのトランジションを描く

牛込さん:
もう一つのウェブサイトは「自然と人間の復興のための3つのトランジション」 です。これまでにお伝えしたトランジションの考え方に基づき「人間と自然の関係が次の世界へ移行できるか」といった大きな視点でまとめられており、分かりやすいビジュアルで表現されているのが特徴です。

たとえば、このチャートでは、「気候」「生物多様性」「人間の生活」の3つのトランジションが相互に結び付いていることを表現しています。

画像: 「自然と人間の復興のための3つのトランジション」では、「気候」「生物多様性」「人間の生活」における変化の相互連関性を示している。

「自然と人間の復興のための3つのトランジション」では、「気候」「生物多様性」「人間の生活」における変化の相互連関性を示している。

現在、人間の繁栄は生物の多様性の喪失を代償に成り立っていますが、いまやそれが地球の未来を脅かしていることが現在の認識です。私たちがほしい世界は「再生的な世界」であり、「自然との共生が成り立つ世界」です。このサイトでは、それぞれの世界をつなぐトランジションにたどり着くために、必要な4つのパスウェイが描かれています。それぞれのパスウェイでトランジションを妨げる障害と、それを乗り越えるブレイクスルーを示しています。

画像: イラストレーション、テキスト、そしてサウンドを通じて、3つのトランジションを表現している。

イラストレーション、テキスト、そしてサウンドを通じて、3つのトランジションを表現している。

多様な課題のintersectionality(交差性)もとても重要です。生産や消費のシステムを循環型にすることは、生物多様性だけでなく気候変動にとっても有効です。異なるトランジションにおける側面が相互にどのように影響し合っているかを念頭において、ウェブサイトのデザインを行いました。循環型のシステムにインセンティブを与えることは、気候変動に関して言えば脱炭素型のイノベーションにインセンティブを与えていくことでもあります。

佐々木:
これはいわば「サステナブルな未来へのトランジション」の発展版ですが、いろいろな方に見ていただきたくて、Takramさんにそれぞれの世界を独自のビジュアルで示していただきました。また、今回は、その世界を感じられるようなサウンド・デザインも行っているので、ぜひ大きめのブラウザで音声をオンにして楽しんでください。これはグラスゴーで行われたCOP26の日立のブースにも置かせていただいたものです。

牛込さん:
最後に、これからのデザインに何ができるかを考えてみます。
今までよりも壮大な、社会のトランジションといったものがデザインの対象になってきたことを話してきましたが、デザイナーがすべてをデザインして提案していくアプローチを是としてるわけではありません。みんなで決めていくための土台作りをしたり、会話を助けるファシリテーターとしてのデザイナー像もあり得ると思います。トランジションのコンセプトにおいても、デザインの対象、オーディエンス、その周りの地球環境といったエコシステムを理解し、オーディエンスの声を聞いて対話の場所をつくる役割が、デザイナーが有益な存在でいるためのアプローチのひとつだと思っています。

佐々木:
このウェブサイトに示した内容は、発表の最初に語った(人新世を生み出してしまった)デザインのあり方に対するアンチ・テーゼでもあります。人間の繁栄が自然を崩壊させてきた文明のあり方から、自然を回復させる文明やライフスタイルへの転換の可能性、そしてそこから見える社会の変化の道筋を描きました。

「人間のためのデザイン」が転換を迫られている現在の世界の中で、自然と人間、社会にかかわる統合的な世界の変革について、複数形で考えながら、一緒に考えていくための素材として示しました。今後も、前向きな議論を行っていきたいと考えています。

画像1: [Vol.3]望ましい未来に向けたトランジションの道筋を描く│人新世時代の人類学とデザインから考える

佐々木 剛二
日立製作所 研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部 環境プロジェクト 主任研究員(Chief Researcher)

博士(学術)。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了後、日本学術振興会特別研究員、東京大学学術研究員、森記念財団都市戦略研究所研究員、慶應義塾大学特任講師などを経て現職。人類学、移民、都市、持続可能性などに関する多様なプロジェクトに携わる。著作に『移民と徳』(名古屋大学出版会)など。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。

画像2: [Vol.3]望ましい未来に向けたトランジションの道筋を描く│人新世時代の人類学とデザインから考える

牛込 陽介
Takram Londonディレクター、クリエイティヴ・テクノロジスト

未来リサーチ、デジタルプロトタイピング、インタラクションデザインを専門とし、未来についてのより確かな意思決定のためのデザインを行っている。日立製作所と共同で行った「サステナブルな未来へのトランジション」リサーチなど、人・テクノロジー・地球環境との間で起こる出来事に焦点を当てたプロジェクトに数多く携わる。2018年Swarovski Designers of the Future Award受賞。Core77、ICON magazineなどでコラムの執筆も行っている。
https://ja.takram.com/

[Vol.1] 自然と人間の関係を結びなおすトランジション
[Vol.2]トランジション・デザインと二つの時間性
[Vol.3]望ましい未来に向けたトランジションの道筋を描く

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