プログラム1「誰が為のパーソナルモビリティ?」
プログラム2「テクノロジーがけん引する新たなモビリティ体験」
プログラム3「未来の街を活性化するための、移動体技術の『3つの問い』」
自動運転で乗り物酔いはなくせるか
丸山:
最初のトークテーマは「乗り物酔いを世界からなくす」。ちょっと大げさな感じもしますが、最近はVRの中でもVR酔いをして気持ち悪くなることがあります。自動運転になれば車の酔い方も変わるのではと期待しているのですが。
髙橋 絢也:
乗り物酔いをなくすのはすごく重要なことですが、実際は加速度(G)の変化に加えて、人が視覚的に得ている情報とGとの間にどういうギャップがあるのかも考えないといけないのでなかなか難しいのが現実です。
私たちは予測できない変な動きをさせられると酔ってしまうので、そうならないようにすることがポイントだと思います。
高橋 暁史:
プログラム2でも紹介したインホイールモーターになると車輪の自由度が増すので、乗り物酔いを改善するソリューションが期待できると思っています。
丸山:
自動運転の車が増えた時、運転経験のない人が乗客として乗るケースが増えるともいますが、そうすると酔う人が増えますか?
髙橋 絢也:
最初のうちは増える可能性はあります。いかにスムーズに速く運転しながら酔わせないようにするかは技術的にも求められるものが大きいですね。
丸山:
自動運転の車になると、車内のスペースをディスプレイに、という提案も見かけたりしますが、そうなるとすごく酔うような気もしています。
髙橋 絢也:
映像を使えるのであれば、映像を見ている人が「Gがかかりそう」と思った時に期待したGをかけるという可能性はありますね。
瞬間移動の価値と需要を考える
丸山:
二つ目のテーマは「瞬間移動が移動体験の価値をあげる」です。
移動は無駄だと言われると、移動時間を短くする方向に技術開発も進んでいくと思いますが、逆説的に移動がすごく短くなるほど、移動自体の価値も上がるというトレードオフが起こってくるのでは、と思っています。
高橋暁史:
メタバースなどが出てきて瞬間移動が言われていますが、私は脳内刺激みたいなものも含めて移動だと思います。映像だけ視覚情報として入ってくればいいわけではなく、移動自体に何か価値があるからこそ移動するんだと思います。
移動を時間のロスだと捉えている人も多いと思うのですが、移動してる空間自体がクリエイティブな作業をできる空間であればロスにはならないですよね。そういったスペースがこれから車には必要なのかなと感じています。
なので瞬間移動が移動体験の価値を上げるかというと、なかなか難しい問いではあります。
髙橋 絢也:
一つの目的のために移動する必要があるなら瞬間移動が一番最適になりますが、移動そのものが目的という場合もありますし、車を運転すること自体が目的、という場合もあります。どちらに重きを置くかだと思うんですよね。
自動運転になって車内でさまざまなことができるようになれば、移動が負荷ではなく、新しい経験と捉えられるのではないでしょうか。
丸山:
道路にとらわれず空を飛べばいい、という議論もありますね。
高橋 暁史:
垂直離着陸できるeVTOLが盛んに研究されていて、瞬間移動まではいかなくてもかなり早い移動が可能になると思います。個人的には夢があると思いますが、空を飛ばすためのエネルギーは地上を走るエネルギーと桁が違うのでそこをいかに解決するかが課題です。駆動システムもインホイールモーターの何分の1かに小さくする必要もありますね。
ただそれが実現して大阪までの3時間が1時間に短縮されたとしても、そんなに需要があるかは疑問です。需要があるとするならば、富士山の頂上やマチュピチュに一瞬でいけるとかでしょうか。
丸山:
空にはドローンなども飛んでいますが、安全性の議論はされていますか。着陸は垂直に降りるんですよね?
髙橋 絢也:
安全の議論は常にやっていますが、二次元が三次元になると難しい。地上の場合は止まっていると安全ですが、空は止まっていると落ちてしまうので安全ではないんです。風などの要因もありますし、安全に飛ぶためには地上とはまた違う技術が必要になると思います。
着陸する先も安全じゃないといけないですし、残りのエネルギーと自分の性能で、どこに降りられるのかを常に考えながら飛んでいる状態になるのかもしれません。
丸山:
止まるために飛ぶ、みたいな感じですね。
トロッコ問題から考える安全と責任
丸山:
三つ目のテーマは「自動運転のトロッコ問題をどう解くか」。トロッコが止まれない状態の時、右に行ったら人が1人、左に行ったら人が3人いるとしたらどちらに行くか、というトロッコ問題が自動運転やAIの世界ではよく例に上がります。
髙橋 絢也:
私は自動運転でトロッコ問題は起こらないと思っています。自動運転のシステムが完成した時には、その時にどうするかという条件も定義されていなければならないからです。
みなさんが夢に見ている自動運転は、自分で運転している車が好きな時にボタンを押すと自動運転になるものだと思いますが、その時もコンピューターは「どうしますか?」と聞いてくると思います。そうなると自動運転ではなく人の問題で、ドライバーの責任になります。
高橋 暁史:
トロッコ問題については私も同意しますが、例えばこんな場合も想定されます。横断歩道で歩行者が手を挙げたので車が止まり、歩行者が渡り切ったので発進しました。ところが物を落としたことに気づいた歩行者が急に戻ってしゃがんだ時、自動運転はそれを認識できるのでしょうか。
髙橋 絢也:
オブジェクトとして見てしまうとダメだと思うんです。例えば子どもの場合、意味もなく突然戻ってくることもあるので、子どもなら横断歩道を渡りきったタイミングで発進させるとか、属性によって分けるしかないと思います。
丸山:
特に都市部においては、当面は高速道路とか鉄道のレールのような、ある程度規制されたエリアだけで実用化していくことになるのでしょうか。
髙橋 絢也:
入りやすさとしてはそうだと思います。そのうえでメリットとデメリットを考えて、どれくらい社会受容性が得られるかという問題になると思います。
高橋 暁史:
やっぱりちゃんとエリアを区切って管理をする、車という動物に人が手綱をつけて管理する必要があるということですよね。
丸山:
ちょっと意地悪な質問ですが、運転免許を返納した方が乗りたいシニアカーがあった場合、専用エリアに行く前に家の前から乗りますよね。
高橋 暁史:
免許を返納している以上は、専用のエリアだけに限定しないとダメなのかなと思いますね。
丸山:
なかなか一筋縄ではいかない課題もありますが、安全やその責任を誰がどう担保するかということは、これから社会で議論されていくことになりますね。
今日は自動運転の技術から切り込んで行きましたが、私たちイノベーションの会社としては引き続き取り組んでいかなければいけないと思っています。
髙橋 絢也
研究開発グループ テクノロジーイノベーション統括本部
制御・ロボティクスイノベーションセンタ 自動運転研究部長(Department Manager)
2004年日立製作所に入社後,自動車の走行制御に関する研究に従事。2011-14年に日立ヨーロッパ(ドイツ)にて運転支援システムを開発し,帰国後,自動運転に向けた走行制御技術に携わる。2019年から鉄道,建機含めたモビリティの自動・自律化に関する研究開発を推進している。
高橋 暁史
研究開発グループ テクノロジーイノベーション統括本部
電動化イノベーションセンタ モビリティドライブ研究部長(Department Manager)
2004年日立製作所に入社後,モーターを主としたパワーエレクトロニクスの研究開発に従事。2010年にドイツ・ダルムシュタット工科大学にて博士号を取得し、2013-16年には核融合の国際プロジェクトITERに参画。2021年より現職。
丸山 幸伸
研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部
東京社会イノベーション協創センタ 主管デザイン長(Head of Design)
日立製作所に入社後、プロダクトデザインを担当。2001年に日立ヒューマンインタラクションラボ(HHIL)、2010年にビジョンデザイン研究の分野を立ち上げ、2016年に英国オフィス Experience Design Lab.ラボ長。帰国後はロボット・AI、デジタルシティのサービスデザインを経て、日立グローバルライフソリューションズに出向しビジョン駆動型商品開発戦略の導入をリード。デザイン方法論開発、人財教育にも従事。2020年より現職。
プログラム1「誰が為のパーソナルモビリティ?」
プログラム2「テクノロジーがけん引する新たなモビリティ体験」
プログラム3「未来の街を活性化するための、移動体技術の『3つの問い』」