[Vol.1]スタートアップ企業と考えるメタバースの未来
[Vol.2]SF小説への「ツッコミ」を起点に未来を想像する
[Vol.3]描いた未来を価値創出へつなげる
スタートアップ企業と共に、社会課題解決に取り組む
東京・丸の内にある、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するためのフラッグシップ拠点「Lumada Innoation Hub Tokyo」(以下、LIHT)。LIHTは、多様なパートナーと日立の知恵やアイデアをつなぐ協創の場として活用されています。1社では解決に及ばないさまざまな社会課題や地域の課題をテーマとして、共に取り組み解決するイノベーション創出を目的とした「Lumadaアライアンスプログラム」を行ってきました。
そんな背景をもつLIHTでの開催となったのが「メタバース×社会インフラ」ワークショップ。スタートアップ企業との協創による新たな事業創出を目的とした「日立スタートアップ協創プログラム2021」の一環で、今回のワークショップは「メタバースと社会インフラの接続による価値創出」をテーマとしています。
野崎と熊谷が、開催の経緯について語りました。
野崎:
社会課題が細分化し、課題解決の手段も多様化する今、さまざまな課題に私たちだけで対応するには限界があります。そこで、スタートアップ企業の皆さんと共に知見を持ち寄り、ディスカッションしながら新しい事業の機会を一緒に見つけたいと考えました。
熊谷:
スタートアップ企業とのコラボレーションというと、従来はわたしたちの事業の足りない部分をスタートアップ企業の皆さんと連携して埋めていく要素が強かったと思います。もちろんそれも大事ですが、最近はビジョナリーなスタートアップ企業の方が増えています。彼らの持っている社会課題への問題意識を学び、議論を通じてありたき未来を共に描き、その実現のために、共に事業創出をはかりたい。そんな風に思っています。
野崎:
そのためにはまず我々が今考えている価値を発信して、それに共感してもらえるようなスタートアップ企業と出会う必要があります。しかしそれは自分たちだけで実現するのは難しい。そこで、オープンイノベーション支援を手がけるCrewwさんに、スタートアップ企業とのマッチングを全面的にご協力いただきました。
メタバースを社会インフラに拡張する
高田芽:
メタバースは、現時点ではゲームやエンタメなどの限られた文脈で語られることが多いですが、今後、飲食・移動・まちづくりや行政・公共・教育など社会インフラの領域においてもどんどん活用が進むと私たちは考えています。
その時、どんな市場やサービスが生まれ得るだろうか、それらを実現する技術にはどんなものがあるだろうか。そこではどんな問題が起きるだろうか。そんな問いをスタートアップ企業の皆さんと共有したいと考え、今回のワークショップではSFプロトタイピング(※)の手法を使うことにしました。
※SFプロトタイピング…SF小説を通じてさまざまな未来像をプロトタイプ(試作)し、そこからバックキャストして何をすべきかを導き出す手法。企業のビジョンやミッションの策定、新規事業の創出などのアイデアに生かしたり議論をするための手法として注目されている。
高田将:
COVID-19 によって生活スタイルが大きく変わったように、今、どんどん予測のつかない世界になってきています。そんな中、望ましい未来を能動的につくるための手法として注目を集めているのがSFプロトタイピングです。
以前からVUCAの時代と言われてきましたが、COVID-19の流行により、これはいよいよフォアキャストではなくバックキャストでの将来像検討が必要だとの機運が高まり、そこにSFプロトタイピングの手法がフィットしているのではないかと思います。
高見:
ビジョンがブルースカイシナリオを描いて人々を先導していくコンテンツであるのに対して、SFプロトタイピングはけっこうモヤモヤするんです(笑)。幸せなのかどうなのか、どっちつかずのエンディングだったりする。考えさせられるような性質の物語です。ですから、通常のブレインストーミングよりも新たな視点が生まれてきます。
モヤモヤすることこそ語り合いたい
高見:
SFプロトタイピングの表現と対話は、ビジョンをつくるプロセスの途中や、今回のようにその一歩手前でのワークといえるかもしれません。ビジョンをつくるときには、いろんな人と対話をしていく必要があります。そのための対話の手法がSFプロトタイピングです。だからSFプロトタイピングでは問いを生み出すことを重視しています。
高田芽:
「メタバース」というキーワード自体はどんどん盛り上がってきていますが、その反応はさまざまです。可能性を感じている人もいれば、懸念や不安が先立つ人もいます。また、「所詮ゲームの世界のこと」と過小評価する人もいます。必ずしもみんなの認識が定まっていない。今回のワークショップでは、そのモヤモヤするところを議論していただきたいですね。
今回のワークショップのテーマである「バーチャル観光」についても、実際いろいろな反応があると思うんです。「ここがエベレストの頂上ですよ」と言われても、「本当かなあ?」と疑ったり、本当は雨の日もあるのにいつでも晴れの日を見せられて不満を感じたり。そういったリアルとバーチャルにまつわる違和感もあれば、技術的な懸念点もあるでしょう。
同じひとつの物語を、専門分野もさまざまな人たちが読んだら何を感じるのか。それぞれが感じたことを共有するところから、どんな議論が生まれるのか。とても楽しみです。
高田将:
今回、日立グループの各事業領域の方々にも声をかけ、参加メンバーを募りました。日立のメンバーにとっても、新たな気づきを得る機会になるのではと期待しています。同じ物語を見ていても、「ここも機会なのか」「ここも課題なのか」と多様な視点からの気づきが得られることも、このワークショップの価値のひとつになるんじゃないかと思っています。
高田芽:
もうひとつ私たちにとってのチャレンジになるのが、知的財産のオープン化です。アイディアはオープンに話し合いましょう、機密情報ではなくどんどん発信しましょう、というルールにしました。
参加する日立の各事業領域のメンバーは、普段から「内部で時間をかけて検討してから表に出す」という形に慣れている人たちです。でもそれでは社会の動きとスピード感が合わない。一方で、スタートアップのみなさんは、オープンにやりとりして早く世に出すことに慣れていらっしゃいます。
私たちも不慣れながら、その形で一緒にやってみたいと思っています。慎重に言葉を発することに慣れたメンバーが、壁を取り払って最先端を行く人たちと話すことは難しさもあると思うのですが、それでも同じ土俵に立ちたい。そんなチャレンジも含め、このワークショップに期待しています。
――次回は、Lumada Innoation Hub Tokyo(以下LIHT)で行われた「メタバース×社会インフラ」ワークショップ当日の模様をお届けします。コロナ禍にあって、LIHTの会場とオンラインのハイブリッド開催となった今回のワークショップ。メタバースを体験するような場で、どのような議論が展開したのでしょうか。
野崎 賢
コーポレートベンチャリング室 部長(Senior Manager)
産業制御、金融リスク管理システムやビッグデータ分析などの研究、技術戦略調査・分析、コーポレートでの新事業創生制度設計及び実践、顧客協創によるオープンイノベーション、などに従事。2019年より現職。博士(工学)。
熊谷 貴禎
コーポレートベンチャリング室 部長(Senior Manager)
日立製作所に入社後、新サービスの研究開発に従事し、顧客協創手法「NEXPERIENCE」の開発を担当。2019年より、スタートアップ企業とのオープンイノベーションに挑戦中。筑波大学大学院特別講演講師。
高田 芽衣
研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ
価値創出プロジェクト 主任研究員(Chief Researcher)
日立製作所入社後、無線通信システムの研究を経て、2016年より東京社会イノベーション協創センタに所属。現在、働き方改革・オフィス関連のソリューション検討、スマートシティ分野の顧客協創活動に従事。博士(工学)。
高見 真平
研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ
価値創出プロジェクト デザイナー(Senior Designer)
日立製作所に入社後、UI・UXデザイン担当。現在はサービスデザインの一環で、テクノロジーが未来に及ぼす影響を思索的な物語として試作する「SFプロトタイピング」に取り組んでいる。多摩美術大学情報デザイン学科非常勤講師。
高田 将吾
研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ
価値創出プロジェクト デザイナー(Designer)
日立製作所に入社後、都市・交通領域におけるパートナー企業との協創をサービスデザイナーとして推進。
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