日立製作所研究開発グループが実施するオンラインイベントシリーズ「協創の森ウェビナー」。変化が激しく、複雑化する社会課題に対し、エンドユーザーはこれまでのようにサービスを享受するだけでなく、市民として社会システムの構築に参加し、さまざまな価値を生み出すサイクルを生み出しつつあります。ライトニングトークでは、新たなサイクルに対し、社会システムシミュレータCyber-Proof of Concept(Cyber-PoC/システムの能力やエンドユーザーの利用価値、事業利益等のシミュレーションを同時に行い、有効性を視覚化するツール)が担う役割とその課題について、研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ 主任研究員の森本由起子がお話します。また、政策立案から発信まで、意思決定を支援し、市民の参画を可能にする新たなAI技術(政策提言を支援するAI)について、研究開発グループ 先端AIイノベーションセンタ 主任研究員 福田 幸二がお話します。(※組織名・役職名はウェビナー開催時のものです)

プログラム1「トランジション実現に向けた課題と金融の役割」
プログラム2「Cyber-Proof of Conceptを活用したロードマップ策定支援」「政策提言のためのAI技術」
プログラム3「ロードマップ、どう描く?」

価値のサイクルを回すために、Cyber-PoCができること

森本:
日立はこれまで、製造業、鉄道、金融といった、社会を支えるさまざまなインフラシステムの開発に携わってきました。私たちは機能や性能だけでなく、技術が提供するシステムのエンドユーザーにとっての価値や、その先にある、経営者にとっての経営的な価値のサイクルを回すことが重要だと考え、このサイクルを支援するシミュレータを開発してきました。

Cyber-PoCは、社会課題の解決のアイデアをお客さまと一緒に検証する社会システムシミュレータです。

例えば、ある街では今、急激な発展の一方で道路インフラの整備が進まず、街中のあちこちで渋滞が起きるという深刻な課題を抱えていると仮定します。鉄道の敷設に適切な場所、お客さまの鉄道利用状況、鉄道だけではなくこれまで通り車を利用し続けるユーザーの移動状況、また経営者視点での投資の回収状況等を、リアルなビジネスに近い形で事前に検証できるシミュレーターがCyber-PoCです。

しかし、世の中はこれから大きく変わります。交通渋滞や騒音など社会課題はひとつだけではありません。社会の変化が激しく、取り巻く環境も複雑なため、想定外の事象も発生するなど、将来予測が困難な現状があります。こうした現状から、今後、エンドユーザーはサービスを享受するだけでなく、市民として社会システムの構築に参加し、経済的な価値だけでなく、社会価値や環境価値を生み出す存在に変わっていくと考えています。

画像: サービスの享受者から価値を生み出す存在へ。市民の役割が変わりつつある

サービスの享受者から価値を生み出す存在へ。市民の役割が変わりつつある

昨年11月には、COP26でCyber-PoC sustainabilityの最新版、Cyber-PoC Policy Recommendation for Carbon Neutralityが展示されました。ゴールをどう共有するか、そこまでの道のりをどう設計するのか、それに答えるのが新しいCyber-PoCです。

Cyber-PoCに期待されることは、まず、価値のあるゴールを市民が合意・共有できるようにすることです。そして、そこに至るまでの社会システムのトランジションを設計できるようにすることです。喫緊の課題が何なのかを明らかにする必要がある一方で、途中段階でも市民が価値を享受できるようにすることが、変革を続けるための鍵になると考えています。

画像: Policy Recommendation AI for Carbon Neutrality / カーボンニュートラルに向けた政策提言のためのAIシミュレーター - 日立 www.youtube.com

Policy Recommendation AI for Carbon Neutrality / カーボンニュートラルに向けた政策提言のためのAIシミュレーター - 日立

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それぞれの内にある「社会のモデル」を可視化する

福田:
政策に関する人の意思決定を支援するためのAI技術がめざすことは2つあります。

1つ目は、異なる背景や意見を持つ人同士が議論できるようにすることです。前提として、意思決定や政策決定は人が主体となって行うものです。また、民主主義社会において、多くの人に影響を与える政策の意思決定は、多くの人との議論を経て合意した上で行う必要があります。

しかし、今は「分裂の時代」と言われ、異なる意見や背景を持つ人同士の議論が成立しにくい状況です。なぜ議論が成立しないのでしょうか。それは、政策の違いが「思い描く社会のモデルの違い」に起因しているからだと考えられます。議論を有意義なものにするためには、最終的な政策そのものではなく、それぞれの人が社会をどのように捉えているのか、社会のモデルの違いについて議論する必要があります。

政策提言を支援するAIは、プロセスの過程でそれぞれの人が思い描いている社会のモデルを可視化します。そうした社会のモデルを比較した上で、議論を進めることができるのです。

画像: 多様な人々が議論するためには、それぞれが前提としている社会モデルの可視化が必要であると話す福田

多様な人々が議論するためには、それぞれが前提としている社会モデルの可視化が必要であると話す福田

自分の意見や政策を、誰でも発信できる

福田:
政策提言を支援するAIがめざすことの2つ目は、自分の意見や政策を、誰もが説得力のある形で発信できるようにすることです。インターネットが登場する1990年以前は、政策の検討に必要なデータへのアクセスや政策の検討そのもの、意見の発信は、専門家のみが行えるものでした。

それに対し、インターネット社会になった現在は、政策検討のためのデータへのアクセス、自分の考えた政策や意見の発信は、ある程度誰でも可能な時代になっています。ところが、実際の政策の検討やデータに基づき、自分の考えを入れながら、説得力のある形で政策を発信したり考えたりすることは、今でも専門家しかできません。これが、現在起きている社会の分裂の一因になっているのではないかと思われます。

そこで、政策提言を支援するAIを使って、誰もが政策の検討ができるようにしようと考えています。政策提言を支援するAIによって、頭の中でもやもやと考えている政策や意見をデータと組み合わせて、説得力のある形でまとめることが可能になります。これにより、誰もがデータへのアクセス、検討、発信ができるようになり、より良い社会が実現できるのではないかと考えています。

画像: かつては専門家のものだった政策の発信が、インターネット社会の到来により、すべての人に開かれたものとなった

かつては専門家のものだった政策の発信が、インターネット社会の到来により、すべての人に開かれたものとなった

不確実さはそのままに、意思決定を支援する

福田:
政策提言を支援するAIは意思決定を支援するAIです。意思決定とは何かというと、不確実な状況のもとで、特定の目的を達成するために最善な行動を決めること、と考えています。この時、意思決定を支援するAIに求められることは、できるだけ正確な状況を把握するため、不確実な状況を減らすことです。最近よく言われるビッグデータ活用や機械学習がこれに該当します。ビッグデータの活用により、大量のデータから人間が気づかなかったような関係性を導き出す。そうすることで、全体の不確実さが減り、意思決定がしやすくなります。

それに対して政策提言を支援するAIは、状況の不確実さを受け入れつつ意思決定を支援することを重視しています。不確実な状況の下でどんな未来があり得るか、どういう選択肢があるか、そのメリットとリスクを示すことが大事だと思っています。

意思決定の3ステージモデルでは、最初に現状把握のための情報収集とモデル化があります。その後、つくったモデルの下で、将来どういうシナリオがあるのか、今どういう選択肢があるのかを検討します。そして、最後に議論の中で選択します。

政策提言を支援するAIは、この3ステージモデルの中で、特に選択肢の検討ステージを支援します。与えられたモデルの下で、将来どういうシナリオがあって、どういう選択肢があるのかを示すことができます。

画像: 一般的な政策提言プロセスは,(1)情報収集ステージ(解くべき問題の設定と,その問題に関連する情報を収集する),(2)選択肢検討ステージ(シナリオを列挙し,シナリオの関係性や要因を検討する),(3)戦略選択ステージ(シナリオを吟味し,政策を考案する)の3ステージから構成される。

一般的な政策提言プロセスは,(1)情報収集ステージ(解くべき問題の設定と,その問題に関連する情報を収集する),(2)選択肢検討ステージ(シナリオを列挙し,シナリオの関係性や要因を検討する),(3)戦略選択ステージ(シナリオを吟味し,政策を考案する)の3ステージから構成される。

政策提言を支援するAIの活用で、重要な意思決定に注力できる

福田:
政策提言を支援するAIを活用した意思決定は、従来の意思決定とどう変わるのでしょうか。

現在利用されているフレームワークを採用した場合は、まずいろいろな過去のデータを元に、多種多様なフレームワークを利用して現状把握をします。その後、人が集まって「この現状の下で、将来どのような選択肢があるのか」を議論します。つまり、将来どういうシナリオがあるのかを考え、それを選択するという2つのステップがあります。

それに対し、政策提言を支援するAIを採用した場合は、現状把握までは同じですが、その後、将来どんなシナリオや選択肢があるのかについては、AIが提示してくれます。人が関わるのは、たくさんのシナリオの中から優れたシナリオを選んだり、リスクを検討するなど、シナリオの選択に注力することが可能になります。これによって、従来に比べてより重要性の高い意思決定が可能になります。

――次回は、Cyber-PoCを用いた合意形成について、サービスの研究開発に関わる東京社会イノベーション協創センタ主任研究員 森本 由起子、東京社会イノベーション協創センタ 主任デザイナー 味八木 真理子、先端AIイノベーションセンタ主任研究員 福田 幸二、日立コンサルティング スマート社会基盤コンサルティング第2本部マネージャー 須藤 一磨が、日々の研究から見えてきたCyber-PoCの可能性や課題について語ります。

画像1: 社会システムの構築に誰もが参加できる未来へ│協創の森ウェビナー第10回「トランジション実現に向けたロードマップの描き方」プログラム2「Cyber-Proof of Conceptを活用したロードマップ策定支援」「政策提言のためのAI技術」

森本 由起子
研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ
サービス&ビジョンデザイン部 主任研究員(Chief Researcher)

1992年日立製作所入社、システム開発研究所、横浜研究所を経て、東京社会イノベーション協創センタで現職。自然言語処理技術、知識管理技術の研究を経て、2015年から顧客協創手法である「NEXPERIENCE」の一手法である事業価値シミュレータCyber-PoCの研究開発と同時にNEXPERIENCE手法・ツール全般の日立グループ全体への適用展開・普及促進に従事。博士(工学)。

画像2: 社会システムの構築に誰もが参加できる未来へ│協創の森ウェビナー第10回「トランジション実現に向けたロードマップの描き方」プログラム2「Cyber-Proof of Conceptを活用したロードマップ策定支援」「政策提言のためのAI技術」

福田 幸二
研究開発グループ 先端AIイノベーションセンタ
知能情報研究部 主任研究員(Chief Researcher)

2005年日立製作所入社。専門は複雑系科学・人工知能。京大-日立の産学連携拠点である日立京大ラボにおいて政府・自治体にむけて政策検討を行う政策提言を支援するAIを開発。超スマート社会(Society5.0)の実現および住民のWell-being向上を目標に各地の自治体で様々な実証に取り組む。

プログラム1「トランジション実現に向けた課題と金融の役割」
プログラム2「Cyber-Proof of Conceptを活用したロードマップ策定支援」「政策提言のためのAI技術」
プログラム3「ロードマップ、どう描く?」

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