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ウェルビーイングをテーマに、「第四の消費」「永続孤独社会」などの著書で知られる社会デザイン研究者・三浦展さんを囲む鼎談Vol.3です。Vol.1、2では、株式会社インフォバーン取締役副社長の井登友一さんと、日立製作所研究開発グループ ウェルビーイングプロジェクトリーダーの鹿志村香が、ウェルビーイングにおける若年層の課題や消費傾向、パブリック化におけるデジタルや技術の可能性についてお聞きしてきました。三浦さんのセッション最終回となる今回は、近所に知り合いがいなくなっている社会のなかで、地域とのつながりをどう作っていくか、これから地域にはどんな場所が求められるようになっていくのかなど、地域をメインに掘り下げたお話をお聞きします。

[Vol.1] 若者が見ている現代社会
[Vol.2] ウェルビーイングを生み出す「パブリック」と「シェア」
[Vol.3] デジタルは「人格」と「リアル」に向き合えるか

「人格」を見ることが大切

三浦さん:
人為的なミスによる悲しい出来事は今も絶えませんが、先日もそのようなニュースを見ていて思ったことがありました。仕組みで解決することだけに世の中が集中しすぎているように思うんです。機械だって故障をするわけだし、そこまで属人化させないことに集中してしまうと、「何かあったら警告が出るんでしょ」という世の中になってしまう。第四の消費型の人はおそらくそれが嫌い。もっと、現場で働く人を見る、現場の人はそこに来ている人を見るということをどうしていくかについても、議論をしていくべきだと思います。

井登さん:
働く人の気持ちについて、世の中が鈍感になったのかもしれませんね。

鹿志村:
一般的には人間はどうしても忘れてしまったりやり損なったりするので、仕組みでヒューマンエラーを避けるということは、安全面からはとても重要な考え方ではあります。

三浦さん:
それはもちろんそうだし、発電所や工場ではそうやって事故を防いでいかなければいけないんだけど、人間が人間を相手にしている現場で大切にするべきは、それだけではないと思うんですよ。そういう、人を見なくなっているということが、現場の予算が削減されたり、人材が足りないという話にもつながっているんじゃないかと思うんです。

井登さん:
この鼎談の最初の方でコスパ(コストパフォーマンス)について話が出ましたが、コスパという考え方が染み付いていることで、社会がなんだかすごくつまらないことになってきているなという感じがします。

三浦さん:
当分の間、日本経済ではコスパ追求が続くと思いますが、仕事でないときはあえてコスパが悪いことをするようになっていくと思いますね。たとえば、ポツンと建っている一軒家を自分1人で探しにいくような(笑)。

井登さん:
説明のつかなさが楽しくて嬉しい、という感情になるんでしょうか。

三浦さん:
やはりデジタルが進むと「脱人格化」の方向へ進み、生活がプライベート化すると思うんです。いまや八百屋に行かなくても買ったものが家に届くようになり、宅配便も置き配になりました。そのうち冷蔵庫に足りないものが勝手に補給されるようになる、みたいな話もありますよね。技術とコロナで脱人格化が進み、ニュースもAIが読んでいて、駅のアナウンスも全て録音ですよね。まさに脱人格化、脱生活化が進んでしまうので、「今日は人格になりたい」「生活したい」というときも出てくると思います。

画像: 「デジタル化が進むことでリアルな体験への欲求が増している」との指摘は示唆に富む

「デジタル化が進むことでリアルな体験への欲求が増している」との指摘は示唆に富む

同じ課題を持った地域どうしをつなぐ

鹿志村:
私の世代は女性が会社に入り、結婚や出産のタイミングで辞めるという人が多かったんです。その後の私より若い人たちは結婚しても働き続けて、育児休業制度もあるし、ある年齢で多くの女性が家庭に入るというのではなくなっているんじゃないかなと思います。私は長年職場では男性に囲まれて仕事をする機会が多かったので、自分がおじさん化してるかも、と思うことがあります。

三浦さん:
フルタイム勤務の方ほど地域とのつながりがないので、これからは地域のつながりを求める人が増えるでしょうね。

井登さん:
役割が固定化して、仕事をしようと思うと仕事ばかりになってしまう。身体的にも物理的にも拘束されていたのが、今後のデジタル化で変わっていくかどうかですね。

三浦さん:
孤独の問題も、今後は増えていくでしょうね。リモートワークも進み、昔と比べて残業も減ったと思いますが、それでも地域とはつながらないですか?

鹿志村:
つながらないですね。そもそもつながるきっかけが分かりません。私の住む地域は代替わりして、若くて新しい人が入ってくることが多いですが、挨拶程度で話をするチャンスがありません。

画像: 地域とのつながりについて、実体験をふまえて語る鹿志村

地域とのつながりについて、実体験をふまえて語る鹿志村

三浦さん:
逆にどういう場所があったら偶然つながると思いますか? 行きつけのワインバーでもいいですけど、コミュニティキッチンとかどうですか?

鹿志村:
それはいいですね。会社の近くには行きつけの店がありますが、近所に行きつけの店がないんですよね。コミュニティキッチンには行ったことがありませんが、とても興味があります。

三浦さん:
コミュニティキッチンでは、必ずしも自分で料理をつくらなくてもいいんですよ。

井登さん:
ゆるやかな参加ができるってことですね。場をコーディネートする方の力量やパーソナリティーが重要ですよね。一方で、自治体のスペースって、ハコはあっても場を利用する人が減ってきているところが多いように思います。

三浦さん:
いまのところ民営じゃないと難しいですね。でも役所もそこには気付いていて、公設民営型も増えています。空き家も活用されていくのではないでしょうか。町内のいくつもの空き家をトータルに管理して、地域を活性化の視点で「この家はキッチンにしよう」「ここは図書館に」などと考えながら見てくれる人がほしいですね。その作業のなかに、デジタルの技術も生かせたらいいなと思います。

井登さん:
社会イノベーションというとすごく大層ですが、もっと小さくコンパクトなローカルデザイン、ローカルなまちづくりにつないでいくのは面白いですね。

鹿志村:
キッチンや図書館など、どの地域でも求められているパブリックな要素は共通しているように思います。だとしたらそういうパッケージを仕組みにして、地域で必要なものを割り当てていくことができそうですよね。予約部分はITで支援して全国共通のものが使えるようになるといいですね。

三浦さん:
コーディネーターが現場に行くのは月に1度でいいですし、北海道、九州、新潟、岐阜、埼玉、東京などの地域を結んだ会議を一緒にやってもいいですよね。課題は同じですから。

最近、スナックをやりたいと言う若い女性が多く、実際に郊外の住宅地でスナックを始めた人たちが何人もいます。そこで、郊外スナックネットワークという言葉を思いついたんです。各地でスナックをやっている個人がSNS上で仲間になり、つながり、何かをやるときには集まったりする。似たようなことをしている人に情報が自然と入るような仕組みを作ると、ヒントになって、それぞれの活動の刺激になると思います。いろんな街でいろんな活動している人と知り合うことが大事ですよね。

井登さん:
小さなチーム同士でつながっていくということですね。一人の人が、コミュニティを複数持つようになるということも考えられますね。

三浦さん:
そこに住んでなくても参加できるようになってきているので、色々な参加の仕方ができますね。

井登さん:
もともと、しがらみの強い地縁を断ち切りたかったら郊外化したという面があると思いますが、これから先はどのような縁に戻っていくと思いますか。

三浦さん:
戻るなら地縁ではなく趣味縁でしょうね。地域の人だけでその地域を活性化しようと考えてもうまくいかない。やっぱり色んな街でいろんな活動している人と知り合うことが大事だと思います。

画像: 対談の終盤、「嬉しさ」を作り出す仕掛けについて語り合った3人

対談の終盤、「嬉しさ」を作り出す仕掛けについて語り合った3人

嬉しさを2倍、悲しみを半分にしてくれる場所を

鹿志村:
三浦さんの一番新しい著書「永続孤独社会」で触れている「楽しさから嬉しさへ」についてぜひ教えてください。

三浦さん:
「楽しさから嬉しさへ」について言うと、僕は、国が進めている駅前再開発の「にぎわいの創出」というコンセプトが嫌いなんです。国が言っているのは第三の消費までの消費の賑わいであって、何か画一的な気がする。でも、その賑わいが嬉しいかどうかはその人次第だと思うんです。たとえば、西荻窪が好きな人は、個性的な個人店にちゃんとお客さんが来ることを賑わいだと思うのです。全国チェーン店が儲かることを賑わいだとは思わない。画一的な賑わい創出政策では西荻らしさはむしろ阻害される。

「楽しさ」は賑わいと同じで、「こうやったら楽しくなる」ということは企業主導でつくることができます。でも「嬉しさ」はその人次第なんですよね。「今日は街で同級生にばったり会って喫茶店で少し話したのが嬉しかった」ということだったりするわけです。

いまの生活者には楽しい場所はいくらでもあります。でも、求めているのは自分が嬉しいときに行きたくなる場所、あるいは「ここに行くと嬉しくなれる」という場所なんです。

ただしもう一つ重要なのは、人は自分の悲しみを受け止めてもらえると嬉しいということです。嬉しさを2倍、悲しみを半分にしてくれる人間関係が一番いいわけで、街も嬉しさのある街は、そこにいくと楽しくてウキウキするだけじゃなくて、悲しみが和らぐことも大切なんです。

いまは横丁がブームですが、横丁には悲しみを受け止めてくれるようなカウンターがありますよね。人生は悲しいことの方が多いのですから、「賑わいの街づくり」は逆にそこに行きたくない人を増やすとも言えます。これからの社会は悲しいことの方が増えていくと思うので、それを受け止める街、場所ができるといいですね。

鹿志村:
なるほど。「嬉しさ」って何かと思っていましたが、お話を伺って、自分の心に寄り添ってもらえるということなのだと感じました。そして、人からそうやって接してもらえた時、「ありがとう」っていう気持ちになりますが、ありがとうって言うのも言われるのも、どちらも嬉しいですよね。提供する側、される側、お互い嬉しさを感じられるようなことを実現していきたいなと思います。

画像1: [Vol.3] デジタルは「人格」と「リアル」に向き合えるか│社会デザイン研究者 三浦展さんと「消費」の変化から考えるウェルビーイング

三浦展
社会デザイン研究者、カルチャースタディーズ研究所代表

1958年生まれ。82年、株式会社パルコ入社。86年からマーケティング誌「アクロス」編集長。三菱総合研究所を経て99年、カルチャースタディーズ研究所設立。消費社会、家族、若者、階層、都市などの研究を踏まえ、新しい時代を予測し、社会デザインを提案している。著書は、80万部のベストセラー「下流社会」のほか、「永続孤独社会」「第四の消費」「これからの日本のためにシェアの話をしよう」「日本人はこれから何を買うのか?」「人間の居る場所」「愛される街」「ファスト風土化する日本」「東京は郊外から消えていく! 」「新東京風景論」「首都圏大予測」など多数。

画像2: [Vol.3] デジタルは「人格」と「リアル」に向き合えるか│社会デザイン研究者 三浦展さんと「消費」の変化から考えるウェルビーイング

井登友一
株式会社インフォバーン 取締役副社長/デザインストラテジスト

2000年前後から人間中心デザイン、UXデザインを中心としたデザイン実務家としてのキャリアを開始する。近年では、多様な領域における製品・サービスやビジネスをサービスデザインのアプローチを通してホリスティックにデザインする実務活動を行っている。また、デザイン教育およびデザイン研究の活動にも注力しており、関西の大学を中心に教鞭をとりつつ、京都大学経営管理大学院博士後期課程に在籍し、現在博士論文を執筆中
HCD-Net(特定非営利活動法人 人間中心設計推進機構)副理事長
近著として2022年7月に『サービスデザイン思考 ―「モノづくりから、コトづくりへ」をこえて』(NTT出版)を出版

画像3: [Vol.3] デジタルは「人格」と「リアル」に向き合えるか│社会デザイン研究者 三浦展さんと「消費」の変化から考えるウェルビーイング

鹿志村香
日立製作所 専門理事 研究開発グループ 技師長(Corporate Chief Researcher)
兼 ウェルビーイングプロジェクトリーダー

1990年日立製作所入社、デザイン研究所配属。カーナビゲーションシステム、券売機など様々な製品のユーザビリティ研究、フィールドワークによるユーザエクスペリエンス向上の研究に従事。デザイン本部長、東京社会イノベーション協創センタ長を経て、2018年日立アプライアンス(現日立グローバルライフソリューションズ)取締役を務め、2022年4月より現職。

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