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武蔵野美術大学と日立グローバルライフソリューションズ株式会社が家電・ライフサービスのデザインに関する産学連携プロジェクト「Loop of Life」を2022年9月からの約1か月半にわたり実施しました。Linking Societyでは、このプロジェクトを振り返りながらこれからのサーキュラーエコノミー(循環型経済)について考えます。vol.1では、なぜ日立GLSが武蔵野美術大学とタッグを組んだのか?日頃どんなことを学んでいる学生たちが今回のプロジェクトに参加したのか?その意図と背景を、武蔵野美術大学 造形構想学部 クリエイティブイノベーション学科教授の岩嵜博論さんが、日立グローバルライフソリューションズ株式会社 ビジョン戦略本部長 武藤圭史と語り合いました。聞き手は日立製作所 研究開発グループ 社会イノベーション協創センタ 主管デザイン長の丸山幸伸です。

[Vol.1]サーキュラーエコノミー、その一歩目を産学連携から
[Vol.2]リサーチから生まれたナレッジを、ひたすら社会で実践する
[Vol.3]サーキュラーエコノミーに取り組む理由と、その実現に必要な概念
[Vol.4]これからは意義で差別化する時代
[Vol.5]モノの持つ情緒的価値でループをつなぐ
[Vol.6]使い方はユーザーが決める。多義的デザインとどう向き合うか

サーキュラーエコノミーに向き合う、企業と美術大学

丸山:
家電・ライフサービスのデザインに関する産学連携プロジェクト(プロジェクト愛称:Loop of Life)では、武蔵野美術大学の学生とともに、日立グローバルライフソリューションズと日立製作所研究開発グループのデザイナーとが、デザインの視点からイノベーション創出に取り組みました。この取り組みを振り返りながら、サーキュラーエコノミー(循環型経済)への第一歩をどのように踏み出すかを考えていきたいと思います。まずはお二人に、仕事内容を含めた自己紹介をお願いいたします。

岩嵜さん:
私は、武蔵野美術大学の造形構想学部クリエイティブイノベーション学科で教えています。武蔵野美術大学は美大として90年近い歴史を持った大学です。元々造形学部があったのですが、歴史ある美術大学として、美術大学の持つ可能性を新しい形で開いていこうということで、造形構想学部と新学科であるクリエイティブイノベーション学科が2019年度に新設されました。

この学科は、武蔵野美術大学のメインキャンパスがある東京都郊外にある小平市だけではなく、都心にある市ヶ谷(東京都千代田区)のビルに新設した市ヶ谷キャンパスでも活動しています。大学としては、広い意味でのクリエイティビティを社会にどういった形で貢献できるのか?といったところが大きなチャレンジです。

小平市のメインキャンパスには、主にファインアートとデザインの学科があります。デザインが社会課題解決型にシフトし拡張していく中で、デザインによる社会課題解決の側面を、より先鋭的に切り出し、都市型のキャンパスで社会との接点を作ったものが、クリエイティブイノベーション学科です。

画像: 美術大学で社会課題解決を探る岩嵜さんと、社内組織でサーキュラーエコノミーへの第一歩を考える武藤。

美術大学で社会課題解決を探る岩嵜さんと、社内組織でサーキュラーエコノミーへの第一歩を考える武藤。

武藤:
私は、日立グローバルライフソリューションズのコーポレート部門にあるビジョン戦略本部に所属しています。将来の生活者が直面する社会の課題を起点に、価値観がどう変わるのかについての情報を集めて考え、そこから少し遡って、その価値観の変化に向けてどんな商品やソリューションが必要かを描いていくビジョン駆動型ソリューションについての活動をしています。

丸山:
お二人とも、まさに、社会課題解決に繋がっていく第一歩目をどう作るかを考える活動に取り組んでいらっしゃるのですね。

「生活者発想」への共感から広告会社へ

丸山:
岩嵜さんご自身のバックグラウンドも教えていただけますか?

岩嵜さん:
僕はかなり変わったバックグラウンドを持っているように思います。大学時代は、リベラルアーツの大学で社会科学を専攻していました。その頃から、いまやっていることと近い問題に関心がありました。社会を見たり知ったりすることと、デザインや形にすること、その両方をやりたいなという思いが、大学3、4年生頃からむくむくと沸き起こってきました。その後、建築都市デザインをする別の大学院に進んだので、学生のときは社会科学と建築都市を中心としたデザインを学んでいました。

丸山:
建築というと工学領域だと思っていましたが、実際にはどのようなものなのでしょうか?

岩嵜さん:
それが、結構混ざっていて。リベラルアーツに理系的な側面があったり、建築にも文系と理系が混ざっていたり。この領域横断的なところを理解することと、作ることを整理することが、学生の時のコンセプトでした。人間を知る、社会を知る、それをデザインに変える、といったヒューマンセンタード(人間中心)な領域かなとイメージしていたのですが、建築の世界に行くと、意外とヒューマンセンタードじゃないことに気づいてしまって。

画像: 人を知って、デザインに変える。昔からその領域への関心が高かったと学生時代を振り返る岩嵜さん。

人を知って、デザインに変える。昔からその領域への関心が高かったと学生時代を振り返る岩嵜さん。

そこで、社会人になるタイミングで株式会社博報堂が持っていた「生活者発想」というコーポレートフィロソフィーの発想が、ヒューマンセンタードのアプローチそのものだったので、そこに共感するところがあり広告会社に就職しました。

最初は広告に近い仕事をしていたのですが、5年目ぐらいから、広告に興味がないことがバレてしまったのか、広告から離れてコンサルティングをやることになりました。クリエイティビティを使ったコンサルティングで、ブランドや商品、サービスの開発を行いました。その過程で、その後「デザイン思考」として知られるようになった領域と出会い、デザインを拡張してビジネスの課題解決に活かす海外のデザインファームとも仕事をする中で大きな刺激を受け、ちょうど10年ほど前にアメリカのデザインスクールへ留学しました。

その後、現地の会社でインターンを経験して、帰国後はそこで学んだことをコンサルティングの中で活用しました。最後は新規事業開発部門に所属した後、いまの大学に来たという経歴です。

脱“量産型”に向けてサーキュレーション(価値の循環)を考える

丸山:
本プロジェクトの発端ですが、実は私と岩嵜さんは10年来の親交があり、今回岩嵜さんから「一緒に何かやりませんか」とお話が来た時に、社会課題起点の構想と実装に取り組むという造形構想学部の活動が、無形のビジョンから有形のプロダクト、サービスを生み出して、それを社会に発信していくという武藤さんの仕事と非常に近しいなと思いました。それなら、武藤さんのチームがいま一番関心を持っているテーマを、岩嵜さんと一緒にやってみたらどうだろう、と推薦させてもらいました。この話がきた時、武藤さんはどう思いました?

武藤:
将来を考えるいまの部署の仕事の中で、2030年の生活者がどうなるとか、将来のお客さまの価値観が変わるきっかけはこういうところにある、ということをまとめたきざし※、と呼ぶ未来洞察に関するドキュメントを活用しております。そこに記載されている価値観の変化に向けて、いまの社会にも既に片鱗が見えていたりします。

中でも特に、当社の生活家電も含めたこれまでの量産系プロダクトが、このまま同じようなやり方で価値提供をしていたら、企業の継続が難しいんじゃないか?と思うことがあったんですね。きざしの中に描かれているような価値観の変化が生じるとしたら、当然いまからそれに合わせたアクションを取っていかないといけない。そんな中で、サーキュレーション(価値の循環)というテーマが面白いなと感じました。

あとは実利的なところで、新しい価値観で新しいモノの見方をするZ世代の学生さんたちとディスカッションができると、私たちも新たな気づきを得られるんじゃないかと考えたことが、参画させていただいた動機です。

※きざし……日立製作所は、生活者の価値観の変化のきざしについて、2010年から研究を続けており、研究結果を「人の考え方や行動の変化、社会潮流を洞察した未来の観点集」であり、本件は生活サービス分野に特化したバージョンのことを指している。

岩嵜さん:
皆さんが きざし を元にした未来洞察に取り組まれていることはWEBサイトなどを拝見しておりました。私自身もあるべき未来の姿から現在を考えるということに関心を持っていて、今回の協業をとても楽しみにしていました。

画像: これまでの量産型プロダクトに今後求められる変化とは何なのか?産学連携プロジェクトにはそのヒントが隠されているかもしれないと語る3人。

これまでの量産型プロダクトに今後求められる変化とは何なのか?産学連携プロジェクトにはそのヒントが隠されているかもしれないと語る3人。

次回は、この産学連携プロジェクトにおけるテーマ「サーキュラーエコノミー」に対して岩嵜さんが期待されていることについてお聞きします。

画像1: [Vol.1]サーキュラーエコノミー、その一歩目を産学連携から│武蔵野美術大学と共に考える、価値が巡る家電のサービス

岩嵜博論
武蔵野美術大学 造形構想学部クリエイティブイノベーション学科 教授

リベラルアーツと建築・都市デザインを学んだ後、株式会社博報堂においてマーケティング、ブランディング、イノベーション、事業開発、投資などに従事。2021年より武蔵野美術大学クリエイティブイノベーション学科に着任し、ストラテジックデザイン、ビジネスデザインを専門として研究・教育活動に従事しながら、ビジネスデザイナーとしての実務を行っている。 ビジネス✕デザインのハイブリッドバックグラウンド。著書に『機会発見―生活者起点で市場をつくる』(英治出版)、共著に『パーパス 「意義化」する経済とその先』(NewsPicksパブリッシング)など。イリノイ工科大学Institute of Design修士課程修了、京都大学経営管理大学院博士後期課程修了、博士(経営科学)。

画像2: [Vol.1]サーキュラーエコノミー、その一歩目を産学連携から│武蔵野美術大学と共に考える、価値が巡る家電のサービス

武藤圭史
日立グローバルライフソリューションズ株式会社 ビジョン戦略本部 本部長

1996年日立製作所入社、白物家電、金融システムなどのプロダクトデザイン、ユーザ・インタフェースデザイン、ブランドデザインを担当。2006年から5年間英国に駐在し、欧州マーケットに向けたAV機器、鉄道システムのデザインや、コーポレートビジュアルアイデンティティの展開をリード。2018年より同研究開発グループ プロダクトデザイン部長として日立グループの製品・サービスのデザインの取りまとめを経て、2022年より現職にて生活家電や空調を中心とする新しいソリューションの事業化を推進。

画像3: [Vol.1]サーキュラーエコノミー、その一歩目を産学連携から│武蔵野美術大学と共に考える、価値が巡る家電のサービス

丸山幸伸
研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部社会イノベーション協創センタ 主管デザイン長(Head of Design)

日立製作所に入社後、プロダクトデザインを担当。2001年に日立ヒューマンインタラクションラボ(HHIL)、2010年にビジョンデザイン研究の分野を立ち上げ、2016年に英国オフィス Experience Design Lab.ラボ長。帰国後はロボット・AI、デジタルシティのサービスデザインを経て、日立グローバルライフソリューションズに出向しビジョン駆動型商品開発戦略の導入をリード。デザイン方法論開発、人財教育にも従事。2020年より現職。立教大学大学院ビジネスデザイン研究科客員教授

[Vol.1]サーキュラーエコノミー、その一歩目を産学連携から
[Vol.2]リサーチから生まれたナレッジを、ひたすら社会で実践する
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