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これから訪れる循環型社会において、家電をより長く、その価値を下げることなく循環させていくためには、どんなデザインが必要とされるのでしょうか。日立グループと武蔵野美術大学が連携して取り組んだ「Loop of Life」プロジェクトを振り返りながらその答えを探る本シリーズ。Vol.4に続き、武蔵野美術大学 造形構想学部クリエイティブイノベーション学科教授 岩嵜博論さんと、日立グローバルライフソリューションズ株式会社 ビジョン戦略本部 本部長 武藤圭史、日立製作所 研究開発グループ 電動化イノベーションセンタ 生活システム研究部 主任研究員 上甲康之との対談の模様をお届けします。聞き手は研究開発グループ 社会イノベーション協創センタ 主管デザイン長 の丸山幸伸です。

[Vol.1]サーキュラーエコノミー、その一歩目を産学連携から
[Vol.2]リサーチから生まれたナレッジを、ひたすら社会で実践する
[Vol.3]サーキュラーエコノミーに取り組む理由と、その実現に必要な概念
[Vol.4]これからは意義で差別化する時代
[Vol.5]モノの持つ情緒的価値でループをつなぐ
[Vol.6]使い方はユーザーが決める。多義的デザインとどう向き合うか

評価が得られた、再生材活用へのチャレンジ

丸山:
環境や循環社会の型を考えるとき、いままでぼんやりとしか見ていなかった製品の成り立ちに関心をもち、解像度高く見ていくことによって、新しい循環のきっかけに気づき、社会が動き出していくのではないかと思います。武藤さんがご存知の領域だと思うのですが、先日グッドデザイン金賞を獲ったスティック掃除機も、材料などに環境面への細かい配慮がされているそうですね。

武藤:
2022年のグッドデザイン賞で金賞(経済産業大臣賞)をいただいた掃除機は、再生材を40%ほど使っています。洗濯機や冷蔵庫といった他の製品でも再生材を使ってはいるのですが、多くはお客さまの目に触れない部分に使われています。それがあの掃除機の場合は使う人の目に触れるところにたくさん使っている。そういう意味で非常に大きなチャレンジだったと思います。

今回のプロジェクトで見学していただいたリサイクル施設でも、解体して出てきた部品を再利用して新しい製品に使用しようとしたとき、色々難しい面が出てくるんです。たとえば、再生するタイミングで混ざりものがあると、プラスチックの純度が落ちたり、物性が変わってしまって強度が出ないとか、白い樹脂で綺麗な形を作るべきところに少量の黒い樹脂が入ってしまうだけで、実際の商品としては流通させられないとか。
そんなさまざまな課題がある中で、どうやったら先に進めていけるのか、デザイナーと設計エンジニアと一緒に取り組んでいます。その取り組みがようやく実現できるようになってきています。

画像: 再生材が目に見える範囲に使用された製品がデザイン賞の金賞を獲得するなど、これまでとは違う、10年後の世界観が少しずつ広がり始めている。

再生材が目に見える範囲に使用された製品がデザイン賞の金賞を獲得するなど、これまでとは違う、10年後の世界観が少しずつ広がり始めている。

丸山:
再生材を、わざと見えるところにも使ってみたわけですね。しかも、従来の製品であれば、製品にロゴを箔押しして綺麗に装飾していたものを、リサイクルしやすくするためにやめるといったこともされています。でも、他の商品は未だに装飾をやっているわけですよね。その中で既存の製品とは違うものとして、ポジティブな理解を得ることはできるのでしょうか?

武藤:
そうですね。いまから10年後の生活者の価値観からすれば、そういった製品が当たり前になっているかもしれない。ただ、いまはまだそうじゃない。とはいえ、10年後に持つであろう価値観も徐々に広がり始めていて、この先定着していくんじゃないでしょうか。

製品ごとの“揺らぎ”を価値にする

丸山:
樹脂を成型するときに不純物が入ると、しわが寄ったり模様が見えたりしてしまいます。そうすると、いままで不純物の入っていない均質な樹脂製品を見慣れてきたお客さまからは選ばれなくなってしまう。そこで、不純物も入るリサイクル材を気持ちよく使ってもらうために、見た目をある程度均質なものにするという生産技術開発をされたんだろうなと思います。

また、再生材やリサイクルに関する新しい取り組みをお客さまに受け入れてもらうためのアプローチに関して、上甲さんは研究者の立場から何か思うところはありますか?

上甲:
家電とはちょっと違うかもしれませんが、ファッションの場合、古着を集めて、それをまた別のユニークな服にして再販売する。これはリサイクルという行為そのものを価値にうまく変換できている好事例だと思います。

丸山:
岩嵜先生からはどうですか? 

岩嵜さん:
序盤に出た、「大量生産される工業製品の価値は均質性である」という点ですが、果たして本当にそうなのか?そこに対する議論ですよね。“揺らぎ”の話だと思います。生産された製品が、製品ごとに揺らいでいる、その揺らいでいる状態が、むしろ価値になるくらいにしたい。揺らぎはどうしたら価値になるのかという議論です。

価値のトランジションは、その前にやっていた期間が長ければ長いほど、変化が難しいんです。工業製品の場合は、均質的なものが価値であると考えられていた期間があまりにも長かったので、それをどう変えるのか、いまはまさにその入口に立っています。

丸山:
研究者や技術者としては、いつ来るかわからない価値観の変化に備えてオプションを用意しておかなければいけないことは確かです。いまの流れの中にもう少し寄り添うべきか、または、革新の方に手を貸すかを考える。これから難しい立場になってくると思います。

画像: 近年、機能以上に情緒的な価値を高く評価されることで復活・増加傾向にあるレコード。岩嵜さん自身も、研究室の学生との会話からその人気を体感したことがあるのだそう。

近年、機能以上に情緒的な価値を高く評価されることで復活・増加傾向にあるレコード。岩嵜さん自身も、研究室の学生との会話からその人気を体感したことがあるのだそう。

岩嵜さん:
その文脈の中でいくと、最近よくアナログレコードについて話します。レコードは工業製品として見れば録音の再現性という機能においてCDに劣ります。でもこの間研究室で学生に「レコード持ってる人いる?」って聞いたら半数が持っていて、衝撃を受けました。それで「研究室にレコードプレーヤーを置こうと思うんだけど、どう思う?」と聞いたら、「めっちゃいいですね!」と言われたことがありました。

いま、レコードが明らかに復活・増加傾向にあります。アメリカではCDのセールスも抜いて、まだ伸びているんです。レコードプレーヤーも新しいものがどんどん増えてきています。これがまさに、意味的価値、情緒的価値というものの入り口を、レコードというモノが示している、一つの大きな変化点を兆しているなと感じます。

丸山:
僕らの世代がレコードを好んで聞いていた頃の時代の気分や思想と、いまの学生たちがレコードを支持するのでは、状況が違いますが、その違いをどう製品開発などに活かしていくのかが課題でしょうか。

岩嵜さん:
デジタルネイティブの世代は、「逆にレコードいいよ!」と言っている。その「いいよ」っていう感覚って、一体何なのか?考えないといけないですね。

学生が見つけた、家電の循環を叶えるアイディア

丸山:
このプロジェクトにメンターとして関わっていただいた上甲さんは、学生の反応を見て何か思うところはありましたか?

上甲:
社会的な意義やインパクトといった意味での「デザインの的」の話について、学生さんたちにも響いた印象を持っています。最初は顕在化していなかったけれど、自問自答しながら「これはどこを狙っているんだろう?」といった会話が聞こえてきたりもしたので。丸山さんや岩嵜先生がおっしゃっていたことや、最初に提示したデータが、学生さんに通じてきた現れなのかなと思いました。

それと、プロジェクト冒頭で家電リユースを例にしながら、課題解決の難しさを提示しました。ある人が家電を手放すタイミングと、次にそれを買う人が購入するタイミングが合わない。この、“タイミングが合わない問題”が結構難しい。その上いまの世の中ではあえて中古が欲しいという価値観はまだそこまで広がっていない。だから難しいということをお伝えしました。ところが、授業が終わって成果物を見てみると、学生さんたちから生まれてきたアイディアが、その難しい問いの一つの答えになっていたんです。まず一つは、家電の購入と同時に、使い終えた後の家電を受け渡すためのマッチングを始めるアイディアです。それは、手放したい人と買いたい人の、タイミングのずれをなくすための策です。もう一つは、プロダクトの入手経路がリユースに限定されているアイディアです。そういった切り口が今回生まれてきたのがすごく印象的でした。

丸山:
上甲さんが最初に投げかけた問いの答えになっていますね。

画像: プロジェクト冒頭で上甲が投げかけた難しい問い。その答えを含んだアウトプットが学生から出てきたことが印象的だった、と話す上甲。

プロジェクト冒頭で上甲が投げかけた難しい問い。その答えを含んだアウトプットが学生から出てきたことが印象的だった、と話す上甲。

岩嵜さん:
「手渡す」ことを考え直せる機会ですね。いまの中古品リサイクルは「手渡し」が全くデザインされていない。ただ単に、減価したものが安く買えるというだけ。でも、減価じゃないデザインをしたい。

丸山:
そのあたりは、この次のセッションで詳しく掘り下げていきたいと思います。

次回は、「Loop of Life」プロジェクトの集大成である学生たちからの最終提案の紹介と、デザイナーや研究者が提案内容を振り返りながら、産学連携ならではの学びや気づきを共有します。

画像1: [Vol.5]モノの持つ情緒的価値でループをつなぐ│武蔵野美術大学と共に考える、価値が巡る家電のサービス

岩嵜博論
武蔵野美術大学 造形構想学部クリエイティブイノベーション学科 教授

リベラルアーツと建築・都市デザインを学んだ後、株式会社博報堂においてマーケティング、ブランディング、イノベーション、事業開発、投資などに従事。2021年より武蔵野美術大学クリエイティブイノベーション学科に着任し、ストラテジックデザイン、ビジネスデザインを専門として研究・教育活動に従事しながら、ビジネスデザイナーとしての実務を行っている。 ビジネス✕デザインのハイブリッドバックグラウンド。著書に『機会発見―生活者起点で市場をつくる』(英治出版)、共著に『パーパス 「意義化」する経済とその先』(NewsPicksパブリッシング)など。イリノイ工科大学Institute of Design修士課程修了、京都大学経営管理大学院博士後期課程修了、博士(経営科学)。

画像2: [Vol.5]モノの持つ情緒的価値でループをつなぐ│武蔵野美術大学と共に考える、価値が巡る家電のサービス

武藤圭史
日立グローバルライフソリューションズ株式会社 ビジョン戦略本部 本部長

1996年日立製作所入社、白物家電、金融システムなどのプロダクトデザイン、ユーザ・インタフェースデザイン、ブランドデザインを担当。2006年から5年間英国に駐在し、欧州マーケットに向けたAV機器、鉄道システムのデザインや、コーポレートビジュアルアイデンティティの展開をリード。2018年より同研究開発グループ プロダクトデザイン部長として日立グループの製品・サービスのデザインの取りまとめを経て、2022年より現職にて生活家電や空調を中心とする新しいソリューションの事業化を推進。

画像3: [Vol.5]モノの持つ情緒的価値でループをつなぐ│武蔵野美術大学と共に考える、価値が巡る家電のサービス

上甲康之
研究開発グループ サステナビリティ研究統括本部 電動化イノベーションセンタ 生活システム研究部 主任研究員

日立製作所に入社後、ドラム式洗濯乾燥機の低振動化に関する研究開発を担当。2020年より、洗濯機、冷蔵庫、掃除機、調理家電の新機能開発に従事。

画像4: [Vol.5]モノの持つ情緒的価値でループをつなぐ│武蔵野美術大学と共に考える、価値が巡る家電のサービス

丸山幸伸
研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部社会イノベーション協創センタ 主管デザイン長(Head of Design)

日立製作所に入社後、プロダクトデザインを担当。2001年に日立ヒューマンインタラクションラボ(HHIL)、2010年にビジョンデザイン研究の分野を立ち上げ、2016年に英国オフィス Experience Design Lab.ラボ長。帰国後はロボット・AI、デジタルシティのサービスデザインを経て、日立グローバルライフソリューションズに出向しビジョン駆動型商品開発戦略の導入をリード。デザイン方法論開発、人財教育にも従事。2020年より現職。立教大学大学院ビジネスデザイン研究科客員教授

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