[Vol.1]いま、公園から何が生まれつつあるのか
[Vol.2]生み出される成果をいかに示し、さらに企業を巻き込むか
[Vol.3]行政と民間、そして市民も入れる理想的な仕組みとは
誰もが公園を「自分のもの」と捉える意識と、官民両方が入る器の必要性
高田:
これまでの伊藤さんのお話にあったように、国土交通省が制度を整えて官民連携でのまちづくりをやりやすくしてくれていますし、民間側もそれに応えるような形でさまざまな工夫をしています。一方でそれぞれの活動が空間的にも時系列的にも点在している状況なので、そこをコーディネートする役割が、NPOや行政なのかなと思っています。その辺りの動き方、巻き込み方についてどう考えていらっしゃいますか。
佐藤さん:
官民連携が盛んに言われるようになって、行政もどこまでどうリーダーシップをとるべきか、とらないべきか、迷っているように思います。国分寺市で開催されている国分寺ぶんぶんウォークでいえば、行政は共催や後援という形で、市民の活動を必要に応じてバックアップしています。企画運営は市民が主体で、「これは市民がやってるからいいんだ」という声をいろいろなところでよく聞きます。市民が自発的に動くのは、市民自身の想いやニーズがモチベーションとなっているからです。
一方で、公共の場所が会場にもなりますし、地権者さんと交渉するときなどは行政がバックについているという安心感は大きいです。行政的なサポートがないと実際にはスムーズにいかないので、そこは“官”の大きな役割だなと思います。
官民連携という言葉を見てみると、“官”はある、“民”もある。けれど“官”と“民”を“連携”させる役割は誰が担うのかが、明確でないことがとても多いんです。一番大事なところなのに、すっぽり抜けてしまっている。そこで私たちは中間支援組織という立場でこの“連携”部分を担っています。言い換えれば、官民が一緒に入って連携するための器のようなものです。海外では私たちのような中間支援のNPOがたくさん活躍していますし、NYのように行政と財団が組んで中間支援的なチームを運営している例もあります。
そういう器があって適切にマネジメントされれば、“官”も“民”もそれぞれの特徴を活かして連携できて、結果として大きな相乗効果を生み出せるんです。
伊藤さん:
官民が両方入る器という言い方がすごくしっくりきます。他の公園のプロジェクトでも、“民”だけではできないことが多いし、“官”だけでもできないことが多いんです。最近、官民連携と言われていますが、“官”と“民”が一つのチームになるのは結構難しいと感じています。器をつくって官民それぞれから人を出向させるとか、お金も出し合って組織の財源を確保すればできるのではないでしょうか。
高田
渋谷区の担当者さまにヒアリングさせてもらった際に、まずはみんなで共通目的を作り、ここは自分たちが負えるとか、ここは行政としてサポートするよ、というふうに目的とそれに向けた役割分担ができると、官民連携が円滑に進む可能性があるのかなと思いました。
伊藤さん:
そのためにも、誰かが旗を振ることが必要だと思います。行政が主導で進めていくこともあると思うのですが、行政の外郭団体のようになりすぎても身動きが取れなくなり、行政の言うことを聞く団体のようになってしまいます。やるべきビジョンに向けて、官民のバランスをうまく取れる役割が必要です。
ニューヨークはそういう組織に財団がお金を出したり、周りの地権者がお金を出したりしてNPO的な団体を運営していますが、お金を出すだけのメリットがあるんですよね。資産価値も上がるし、あちらは数値として、地価の上昇などを明確にエビデンスとして示すので。
佐藤さん:
マンハッタンでは鉄道高架の廃線跡地を整備してハイラインという空中公園にしたことでものすごく変わりました。何もなかった場末の街がいまや青山のようなハイセンスの人たちが集まる場所になり、夜10時を過ぎてもすごい人でにぎわっています。
伊藤さん:
ハイラインが出来たことで周辺の建物も面白い用途に変わってきていますよね。それだけハイラインに魅力があり、周辺の不動産オーナーにとっても、ハイラインの価値が自分たちにプラスになるということですね。また、市民や企業からの寄付を受け付けているのも特徴です。
佐藤さん:
これは意識の問題なのかもしれませんが、民間や市民、企業がそれぞれ公園を自分のものだと思っていることが、そもそも日本と違います。
伊藤さん:
そうですね。自分たちが責任を持ってコミットしよう、という感じがしますね。
佐藤さん:
自分たちのものだから、という認識を“民”が持っているし、“官”も多分そう思っているんじゃないでしょうか。
伊藤さん:
もしかすると企業も公共空間を自分たちのものと思っているかもしれません。その上で、誰がそれを動かすのかがどこでも議論になっていますね。
理想は、誰でも入れる中間支援的なハブを作ること
高田:
さまざまなステークホルダーが公園の開発や運営に携わるためには、行政と間に立ちコミュニケーションを支援するような役割が必要だと考えます。そうした役割の形としては、どういったものが適しているのか、たとえば日建設計さんが手がけている北谷公園のモデルのような形がいいのでしょうか。我々日立ももしかしたらお役に立てそうでしょうか。
佐藤さん:
いろいろな形があって良いと思いますし、その中で企業の役割はますます大きくなっていると思います。私たちは公園緑地の指定管理者という立場を利用して、地域の生態系保全からコミュニティづくり、地域活性化までをトータルに中間支援しています。この方法は公園の指定管理事業としては理想形だと思いますし、全国の自治体で取り入れてもらいたいと常々思っています。一方で、指定管理者という枠組みではない形で、まちづくりを担う中間支援組織があるべきとも思っています。その際に、いつも課題になるのは、誰がその組織を支えるのか、ということです。
行政の影響を大きく受ける外郭団体ではなく、中立的な組織として存在するには、地域のさまざまなステークホルダーが連携して、共に支える形が望ましいと思います。地域の企業や市民が資金や知恵、力を出しあい、行政のサポートもあるといった運営が理想です。みんなでまちの将来像を一緒に語り合い、共に実現するためのエンジンになる組織です。
一方で、エリアマネジメント的な組織は各所でできてきていますが、都市のグリーンインフラを活かしきれていないことが多いように思います。エリアマネジメントを進めるうえで、緑のオープンスペースはとても重要な拠点ですから、緑側からエリアマネジメント組織にもっと働きかけていきたいですね。
また行政の都市計画や緑に関する施策も、官民連携が大きなテーマとして記載されていますが、市民や企業側が行政側と語り合うというシーンはなかなかないですよね。日立さんの進めているお取組みや研究成果などが行政側や市民に伝われば、施策に反映されたり社会実装につながる可能性がぐんと広がるはずです。連携を促進する中間支援組織がハブとなれば、官も民も一緒の方向を向いてまちづくりを進めていくことが容易になります。
日野水:
まさにそういうことをやりたいです。追うべき成果をクリアにして数値として証明しながら、ここが自分の場所、地域、まちと思って活動できるようなソリューションを作っていきたいと思います。
伊藤さん:
一方で、リスクマネジメントも考える必要があると思います。行政が表に立ってやろうとするといろんな声を全部受け止めて身動きが取れなくなりがちなので、敏感に、柔軟に切り抜けるノウハウがあるといいと思います。また、活動を通して地域のコミュニティを作っていくノウハウも必要です。そういうノウハウのニーズがすごく高まっているので、いまはそれをインストールしていく仕事が増えてきていますね。
サイレントマジョリティが動き出す仕掛けと、行政の協力と資金を得る仕組みをどう作るか
山田:
今日、佐藤さん、伊藤さんのお話を伺い、重要なのは市民が主役になることなんだと思いました。市民が主役にならないと、本当に持続可能な活動にはならないんだと思います。日本では自分の意見を言う人が海外に比較して少なく、サイレントマジョリティ(積極的な発言をしない多数派)がほとんどだと言われています。そうした中で、市民がこの公園についてどう考えるのか、どうしたいのか、という声をいかにして追ったらいいのかなと考えます。そこが我々が最終的に追っていかねばならない課題だと改めて実感しました。
伊藤さん:
渋谷区立北谷公園や多摩川でのTAMARIBAで感じたのですが、何かを始めると人が現れてくるんですよ。何も活動がないところで話だけしていても誰も出てこないんですが、少しやると思いを持った人や活動に参加してくれる人がワラワラと出てくる。「あ、いたんだ」みたいな感じで本当に現れてくるんです。それが何かをやることの意味なのかなと感じました。
高田:
そういう人たちを受け止めたり、手軽に何かをやってみることができるのも、オープンスペースである公園の魅力なのでしょうね。
佐藤さん:
はい、伊藤さんが仰るように、公園のようなオープンスペースでなにか始めれば、確実に人は集まってきます。国分寺市にある都立公園では、公園利用者の数がこの10年で60万人から140万人にまで増えました。公園が市民に使いこなされる中で、ここがみんなのサードプレイスとなり、公園とともにある暮らし、パークライフが日常となった結果だと思います。
山田:
公園というものは、産官学のどこかだけでもいけないし、すべてが回らないといけないということが今日のお話ですごく実感できました。中でも本当の意味で動かしていくのは中間支援組織で、そして主役であるべきは市民である。市民が関心を持ってくれないと本当の意味で持続的に公園の良さは伝わらないということが改めて分かりました。そこを見える化していくことが僕たちの命題です。
高田:
ぜひこの対談でお話ししたことをベースにして、行政の方々ともコミュニケーションをとる機会を作っていきたいと思います。
佐藤さん:
そうですね、そして、都市のグリーンインフラをまちづくりに活かす中間支援的な仕組みや組織のあり方も、この研究の大きな課題だと思うので、そこも一緒に考えていきたいですね。
佐藤 留美
特定非営利活動法人 NPO birth 事務局長
東京農工大学農学部森林利用システム学科卒業。1997年にNPO法人NPO birth、2018年にNPO法人Green Connection TOKYOを設立。都市のグリーンインフラの機能を高めるさまざまな取り組みに精通し、公園緑地の保全・利活用についての相談・企画運営に多数携わっている。都立公園の指定管理事業(NPO birth)では毎年最高評価を獲得し、都市公園コンクールでは国土交通大臣賞をはじめ数々の賞を受賞。著書に「パークマネジメントがひらくまちづくりの未来」(共著、マルモ出版、2020)ほか。
グリーンインフラ官民連携プラットフォーム運営委員、(一社)公園管理運営士会理事、(公財)日本花の会理事、茨城県自然博物館助言者、NPO法人都市デザインワークス理事。
伊藤 雅人
株式会社日建設計 都市・社会基盤部門 パブリックアセットラボ ラボリーダー
東京大学大学院都市工学専攻修了、2008年入社。国内外の都市計画、都市デザイン業務に幅広く関わった経験を元に、現在は新領域開拓としてパブリックスペースにおけるハードとソフト一体のトータルデザインを行っている。特にパブリックスペースの運営の高質化が都市の価値向上に寄与するとの課題認識から、渋谷区立北谷公園ではPark-PFI公募提案段階のプランニングから、完成後の公園運営を担う指定管理業務までを担当し、地域連携型の公園運営・エリアマネジメントの新しいモデルを模索している。その他の主なプロジェクトに蘇州市呉中区地下空間、新宮下公園等整備事業など。一級建築士。
日野水 聡子
日立製作所研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部 社会イノベーション協創センタ プロダクトデザイン部 主任デザイナー(Design Lead)
日本、デンマークでグラフィックデザイナーとして勤務ののち、文化庁新進芸術家海外研修員として派遣、Aalto大学 MA in Department of New Media修了。フィンランドでUXデザイナーとして勤務後、日立製作所入社。現在、ヘルスケア、街づくり分野などでのサービス創出を目的とした国内外の顧客協創活動を推進。
山田 健一郎
日立製作所研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部 社会イノベーション協創センタ 社会課題協創研究部 研究員(Researcher)
日立製作所に入社後、光学を応用した多領域の研究開発に従事。現在、リテール、スマートシティ分野等の顧客協創活動を推進。
高田 将吾
日立製作所研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部 社会イノベーション協創センタ サービス&ビジョンデザイン部 デザイナー(Designer)
日立製作所に入社後、都市・交通領域におけるパートナー企業との協創をサービスデザイナーとして推進。
[Vol.1]いま、公園から何が生まれつつあるのか
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