※本記事に記載の所属、役職については、2023年1月に取材した時点のものです。
[Vol.1]日本とアメリカの差を生んだ資産の捉え方の違い
[Vol.2]投資による経済的自立を求められる若者と、資産運用会社が描く未来
[Vol.3]デジタルが資産運用をどう変えていくか
[Vol.4]変わりゆく資産に、運用会社はどう向き合っているか
[Vol.5]社内公募型のプロジェクトを通し、伝統領域からの脱皮を図る
[Vol.6] 投資の未来を、ワタシたちが描く。プロジェクトPenguinのメンバーに聞く学びとアウトプット
ペルソナの変化で見えてきたサービスの方向性
丸山:
Penguinは新事業創出の方法論を考える過程で作り出したAM-Oneの社内公募制のプロジェクトということですが、まずはPenguinに関わられた3名の皆さんの自己紹介、そしてPenguin内での立ち位置やどんなことをしてきたかをお聞かせください。
中島さん:
私はみずほフィナンシャルグループからの出向です。2年半前まではみずほ銀行の九段支店の店頭でお客さまに投資信託や保険を販売する個人営業をしていました。その中で営業という立場ではなく、お客さまの変化に合わせた商品を作りたいと思っていたこと、そして新しいことにチャレンジしたいという思いがあり、2年前にAM-Oneに出向してきました。
今は商品本部に所属して実際に商品を作ったり、既存の商品をなくしたりという仕事を中心にしています。その中で2020、21年の2年間、Ppenguinに参加させていただき、機会領域を作ること、そしてその機会領域をサービスに落とし込むところを経験させていただきました。
船津さん:
私は元々、トラディショナルな証券会社で営業をしていましたが、縁あって合併前のAM-One に入りました。営業部門に配属となり、販売会社向けの営業をやっていました。基本的にはずっと営業畑でしたが2021年のプロジェクトPenguinに参加させていただき、現在は Penguinから出てきたアイディアの実現に向けて、amoterraceに出向しています。
山口さん:
私もみずほフィナンシャルグループからの出向です。ここに来る直前はみずほフィナンシャルグループで資産運用ビジネスを担うアセットマネジメントカンパニーの経営企画・ビジネス推進をする業務に従事していましたが、現在はAM-Oneで経営企画業務に携わっています。
デジタルイノベーション推進室も兼務していますが、イノベーションという観点はこれまでの業務の中で全く経験がなく、今回初めてデジタルイノベーションの世界に触れています。
丸山:
去年から今年にかけての流れをお聞かせください。中島さんと船津さんは昨年、未来洞察の成果である機会領域をテーマとして捉えたプロジェクトPenguinに参加されていたと理解して良いでしょうか?
中島さん:
私と船津さんのチームでは、機会領域を基にペルソナ、つまりターゲット顧客の課題について考え、昨年は、資産形成の必要性を感じながらも、資産形成を開始できない人は何が嫌で資産形成への一歩を踏み出せないのかについて、時間をかけて議論をしました。ユーザーインタビューを実施しながらペルソナの書き換えを行い続けた結果、当初私たちが仮定していたペルソナからだいぶ変わりました。
最初は、その人自身が情報を拾ってきて、大人の階段を登るような感じで資産形成に踏み出せるのではないか、ペルソナの中だけで完結するのではないかと考えていましたが、実際にプロジェクトでインタビューをしていくとそうではありませんでした。
そもそもペルソナが一人だけで踏み出せるのであれば、とっくに踏み出していることになります。つまり、資産形成に踏み出すきっかけとして、周りの誰か、しかもすごく親しくて信頼している誰かが背中をちょっと押してあげることがすごく大切なのではないか、ということに気づいたんです。ちょっと背中を押せる仕組みをサービスとして形にできないかと考え、そのサービスの開発をいま船津さんが担当しています。
船津さん:
大人になるステップとしての投資、という持っていき方ができると思ったのですが、調査をしてみると、「大人になりたい」というようなポジティブな気持ちよりは、「遅れたくない」という気持ちの方が強いことがなんとなく見えてきました。
丸山:
ペルソナが変わったということですが、大人になりたい人のステップを作ることと、遅れたくない人の背中を押すこと、そこにはどんな違いがあるのでしょうか。
中島さん:
ペルソナにかかるプレッシャーの違いがあると思います。本人に大人になりたいという思いがあれば、ある程度は通過儀礼のようにちょっと大変なことを乗り越えられる可能性もあると思いますが、そうではない場合は、もっと楽に簡単にできるように手助けしてあげないとなかなか踏み込めないと思います。
丸山:
つまり、サービスを利用する中で投資に対する意識や行動を前向きに変える変化を設計しようと考えたわけですね。
意図的な偶然を仕掛け、千三つにする
丸山:
中島さんは今プロジェクトPenguinの開発事業には関わられていないのですか。
中島さん:
ほとんど関わっていないです。
船津さん:
困ったときに話せる相談役です。
丸山:
事業化の中で、忘れてはいけない原点を中島さんからもらえるという関係でしょうか。どのように日々、アドバイスをもらっているのですか。
船津さん:
なんとなくみんなが空いていそうなランチタイムなどに時間を設定して「入れそうな人が入ってください」という感じで呼びかけています。
丸山:
素晴らしいと思います。それをできる人が世の中にはなかなかいませんから。
山口さんは、どんな立場でプロジェクトに関わられているのでしょうか。
山口さん:
AM-Oneに来たのが2021年12月なので、実はまだ1年ぐらいです。メンバー側ではなく事務局のサブという立ち位置でメンバーと事務局の間の立場としてコメントなどもさせていただきながらプロジェクトに関わっていました。
丸山:
樋渡さんのようなマネージャーの方と、実際にプロジェクトをやっている方の橋渡しのような、両方をつなぐ立場だったということでしょうか。
樋渡さん:
今期は運営側に回ってもらう想定をしていたので、橋渡しというよりも、Project Management Officeとして運営のサポートに参加しながら、ただ横から見ているだけでは学べないので、メンバーとしてハンズオンも経験しながら実際のプロセス・手法を学ぶことも期待しています。
山口さん:
このプロジェクトを推進しようと思っても、そもそも実際何をしているのかも全く知らない状態で入ったので、中に入りながら一緒に学んでいったのが去年の過ごし方でした。
丸山:
資産形成に踏み出せない人にリーチすること自体、AM-Oneではやってこなかった領域だったと思います。「コマーシャルを出せばいいじゃない」と言われてしまいそうなところを、新しい顧客接点となる事業を作ってお客さまを獲得しようという野心的なチャレンジを、他部署にも支持してもらえるように、ある程度管理や説明もしないといけないわけですが、これまで評価の仕方についての議論はありましたか?
山口さん:
まず、資産運用会社は、自分たちで作った商品を最終投資家となるお客さまに届ける時には、直接自らが提供するのではなく、販売会社を通して商品を提供することとなります。特に個人のお客さまの存在感が増している状況において、お客さまと直接接点を持てないという立ち位置の難しさを感じています。
一方で運用会社、資産運用ビジネスは受託者責任(Fiduciary Duty)という考えが当然にありますので、顧客起点で物事を考える、お客さまのためになることをする、ということは当たり前にやっています。けれどもなかなかそうは受け取られていないんですね。
ではどうすれば良いのか。みずほフィナンシャルグループにいたときから、このような問題意識は持っていたものの課題解決の難しさを感じていました。
そんな中でこの会社に来てみたら、こういうふうにプロジェクトを立てて、UXという考え方で、サービス・プロダクトを作る、という取り組みを具体的に進めていることに驚きました。最終的なアウトプットは、プロジェクトを進めていった結果偶然にたどり着いて出来上がったもののように思えており、このようなプロセス・成果もすごく新鮮でした。事業の評価という観点については、事業として生まれたものをどう育てていくのか、経営としてどう向き合っていくのか、ここは検討を重ねているところです。
丸山:
いま山口さんが「偶然出てきたもの」とおっしゃった、その表現が面白いなと思いました。
これまでは既存市場があって、そこを取れる確率が何割ありますか、というマーケティング思考だったのが、あるお客さまを一生懸命掘り下げていくうちに、“たまたま”事業に繋がりそうなインサイトが見つかったわけですよね。その“たまたま”を意図的に作り続けるというのが今回のプロジェクトの肝だと感じたのですが、ご自身にそのような感触はありますか。
山口さん:
そうですね、偶然生まれることを目的としたプロジェクトになっていると思います。
丸山:
商社とかだったら当たり前だと思うんですけれど、千回やって3回しかあたらない“千三つ”の商売をやっている人たちの流儀を、なんと金融の会社が持とうということなんですね。いま生まれている事業アイデアは、千の中の三つになれそうですか。
山口さん:
それはもう、三つになりたいですね。
Penguinを通して変わった自分を、元の職場や社会に生かす
丸山:
トラディショナルな会社から出向して、しかもそれが新しい分野の事業化のプロジェクトとは、激動ですね。自分の中に変化はないですか? もしかしたら元々そういう人だったのでしょうか?
山口さん:
もしかしたら元々そういう人だったのかもしれませんが、当社に来てこのような経験をする機会を得られたことは恵まれていたと思います。
中島さん:
昨年度のPenguinが終わるとき(※Penguinは毎年度新たなメンバを公募するプロジェクト)にも確か言ったんですけど、性格が明るくなりました。前向きになったなとすごく思います。それまでが後ろ向きだった訳ではないですが、日常でちょっとした不満があった時、以前は「ああ嫌だな」と不満で終わっていたところを、今は「でもこれってこういうふうに思っている人多そうだから、何かサービスがあったら面白そうだな」という発想に切り替えができるようになりました。ストレスが減ったというか、むしろ楽しくなったと感じています。
丸山:
創造的に解決策を生み出す思考を体得されたのですね。今は、元の職場に戻られてどうですか。そういう思考を発揮できていますか?
中島さん:
本部は変わらず同じところにいるんですけれども、Penguinをやったことで前向きな案件や何か新しいことをやろうという時に、「中島どう思う?」みたいな感じで、結構声がかかることが増えたなと思っています。
Penguinですごくいい経験をさせていただいたため、プロジェクトまではいかなくてもみんなが参加できるような企画が社内に増えたら良いなと思っていて、今年は全社員から新商品のアイディアを募集するコンテストの企画メンバーをやらせていただきました。そこでは、Penguinでメンバーとしてすごく良かったと感じた部分を、企画側として活かすこともできました。
丸山:
新事業と同時に人材も作っていく、このプロジェクトPenguinというチームは、この後どうなっていくのでしょうか。
山口さん:
これから人財はすごく大事になっていきます。経営戦略を考えるときには戦略に必要な人財を考えなければならない部分もありますが、一方で、人財が会社に対してもっと頑張ろう、というところから生まれてくる戦略を作っていくことも大事だと思っています。
そういった、人財から始まる戦略を描きたいと思っているので、今のお話はこれから新しい会社を作っていく土台になるんだろうな、と思いながら聞いていました。
丸山:
これからの変化多様な社会の中で、それぞれのフィナンシャル・ウェルビーイングを実現していくための新事業が次々に生まれていく予感がしました。またその事業に取り組む組織や人材の重要性にも改めて気づきをいただくことができました。本日はありがとうございました。
船津恵美
アセットマネジメントOne株式会社
デジタルイノベーション推進室兼投資信託営業本部投資信託営業企画グループ
中島有理
アセットマネジメントOne株式会社
商品本部商品調査企画グループ
みずほフィナンシャルグループより出向中。2020年5月より現職。
山口 藍
アセットマネジメントOne株式会社
企画本部経営企画グループ兼デジタルイノベーション推進室
みずほフィナンシャルグループより出向中。2021年12月より現職。
樋渡勝彦
アセットマネジメントOne TERRACE株式会社 代表
兼
アセットマネジメントOne株式会社 Chief Digital Officer(※2023年1月取材時)
2019年5月アセットマネジメントOne 入社
1994年に外資化学品メーカーでキャリアをスタート
2000年以降は主にデジタルを活用したtoC向け事業会社、グローバルテクノロジー企業などにおいてコーポレートオフィスや事業開発等に従事
toB領域では外資製薬会社のビジネスイノベーションリードに従事
丸山 幸伸
研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部
デザインセンタ 主管デザイン長(Head of Design)
日立製作所に入社後、プロダクトデザインを担当。2001年に日立ヒューマンインタラクションラボ(HHIL)、2010年にビジョンデザイン研究の分野を立ち上げ、2016年に英国オフィス Experience Design Lab.ラボ長。帰国後はロボット・AI、デジタルシティのサービスデザインを経て、日立グローバルライフソリューションズに出向しビジョン駆動型商品開発戦略の導入をリード。デザイン方法論開発、人財教育にも従事。2020年より現職。武蔵野美術大学クリエイティブイノベーション学科教授
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