[Vol.1]脱炭素へのシナリオを未来世代とつくる
[Vol.2]市民と行政で楽しい脱炭素を
[Vol.3]脱炭素の世界をリードする存在へ
日本各地で2050年のカーボンニュートラルに向けたさまざまな取り組みが実施されています。その具体的な施策を実行しているのは自治体ですが、対立関係になりがちな社会・環境・経済という3つの価値がバランスされた、長期的なロードマップを、さまざまな関係者の合意を得ながら立案しなければならないという課題があります。
そこで日立は、長期的な未来シナリオを可視化し、めざすべき社会に移行するためにキーとなる将来の分岐点や施策のヒントが得られる、AIを用いたシミュレーター(脱炭素シナリオシミュレーター)を活用し、脱炭素先行地域を抱える石狩市、環境モデル都市の帯広市それぞれの2050年の脱炭素シナリオの策定支援を目的とした協創ワークショップに取り組みました。これを起点に、北海道内の脱炭素推進のうねりを生み出すための成果共有イベントとして「2市合同発表会」が2023年3月に開催され、石狩市、帯広市、北海道庁、地域関係者、外部有識者など10数名が取り組み内容や両市の成果を前向きに議論しました。
このパネルディスカッションでは、自治体と日立が取り組んだワークショップを振り返りながら、未来世代である若者の視点で、北海道のサステナビリティについて語り合います。
脱炭素、なぜ未来世代と語るのか?
池ヶ谷:
まずは「未来世代と語る2050年の北海道」と題したこのパネルディスカッションの背景についてですが、脱炭素の目的というと、個人的には大きく2つあると思います。1つ目は、気候変動由来の自然災害の悪影響をすでに受けている人々のリスクをいかに下げるかということです。2つ目は今回のテーマでもある未来世代のリスクを下げることです。気候変動の影響をより受けるのは我々の世代というよりもむしろ未来世代です。世界的にも未来世代を巻き込んで計画策定していこうとする動きもあります。
佐座さん:
私は一般社団法人SWiTCHという、サステナブルな社会の実現をめざす若者のプラットフォームを運営していて、地球1個で暮らし、働いていくことを大きな目標としています。そのために3つの活動に取り組んでいます。1つ目はサステナビリティの情報を増やしていくこと、2つ目は世界との連携を加速すること、そして3つ目が、未来を左右する決議の場に若者たちが参加できるような仕組み作りをすることです。
一般的にはSDGsの感度や価値って実は未知な世界だと思うんですが、今の10代20代のZ世代は、SDGsの教育を受けて育っています。ですから、この若い世代の考えをもっと生かしていったら、早い段階でビジネスと自治体の役割がサステナブルになると感じています。
脱炭素社会に向けた日本の役割
佐座さん:
ロンドン大学大学院のクラスメイトの多くは発展途上国から来ていました。なぜなら、彼らの母国は気候変動の直撃を受け、今までの暮らしや仕事を続けることができなくなり、なんとかしたいという強い思いを持っているからです。でも、エネルギーを使っているのはお金持ちの国の人たちです。日本が脱炭素化することは、世界に対しても大きなインパクトがあると考えています。
COP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)はコロナ禍により2020年から2021年に延期になりましたが、気候危機は待ったなしです。そこで世界の環境専門の若者たちが、大人が開催しないなら、若者で模擬版のCOPを開催しようと、世界140カ国、2000人以上の中から選抜された330名の環境専門家の若者たちがオンラインで集まり、模擬版のCOP(Mock COP26)を開催し、COP運営事務局や各国リーダーに、本格的な18の政策提言を行い、国際的に注目され、翌年に開催されたCOP26にも正式に参加することになりました。。
私たち模擬COPメンバーは若者の声を届けるため、COP26会場で「気候変動教育サミット」を開催。世界中で気候変動教育を義務づける働きかけを行い、20カ国から合意の署名をいただき、イギリスやイタリアでは環境教育を本格的に推進しています。「若者たちの声をちゃんと聞こう」という動きが、世界中であたりまえになってきています。
ところで、世界中の人たちが日本人のように暮らしていたら、2.95個の地球が必要だということをご存じですか?サステナブルではない私たちの生き方、働き方をどうやって変えていくのか、そこが一番の肝となってきていると思いますので、皆さんがこういったシナリオプランニングをする上で、地球1個分で暮らしていけるよう話し合っていただければと思います。
AIシミュレーションでできること
池ヶ谷:
それでは、石狩市さん、帯広市さんとの協創ワークショップについて振り返っていきたいと思います。蓮見さん、いかがですか。
蓮見:
協創ワークショップで脱炭素シナリオシミュレータ―を活用する取り組みは世界初のものですので、スタート前は、このAIシミュレーションがどういう価値をもたらすのかという点と、自治体職員の方々から見てどれほど影響があるものなのか、という点に、期待も不安もありました。
しかし、活動を終えて改めて振り返ると、AIが出した結果に基づき作られたシナリオは、自治体の方々の思いがかなり反映されたものになっていたと思います。結果として人の思いがアウトプットとして形になった。そこはかなり価値のある活動になったのではないかなと思います。
池ヶ谷:
一方で、やってみて困ったり苦労した点はありますか。
蓮見:
第1回目のワークショップで、参加いただいた自治体職員や学生の方々に「このテーマについてのシナリオを出してください」とはじめに伝えたのですが、普段の業務と関わりのないことについて頭の中からいろいろ絞り出して意見を出していただくことになるので、最初のファシリテートの部分ではかなり苦労したかと思います。
脱炭素ロードマップへのデジタル活用
池ヶ谷:
AIが出してくる結果は、実は数字の羅列なんですよね。1.05とか0.98といった数字がバーッとシート上に出てきます。それをみんなで読み解いていく作業があったんですが、それはある種、データサイエンティストの仕事を参加者の皆さんにやっていただいているようなものでした。ですから、初めてそういった取り組みにチャレンジしていただいた参加者には、ちょっとわかりづらい部分もあったのかなと思います。日立のデータサイエンティストも同じような作業を日々しているというのが現状です。
蓮見:
あとは、一度できたシナリオを解釈し、良し悪しを判断するのが非常に大変だったかなと思います。
高瀬さん:
そうですね。私はAIの出した数字を紐解く回には参加できなかったため、あとからシナリオに対する考えや気持ちをピックアップしてメールで送ったんです。そのときに、ゼロから自分の意見を考えていくことがなかなか難しくて最初は困惑しました。が、最後にはなんとか乗り越えました(笑)!
蓮見:
1人で考えると固定的な意見になってしまうと思うんですが、他の人から見た意見のぶつけ合いができたことで、最終的なシナリオに辿り着いたので、参加した皆さんには頑張っていただけて良かったです。
佐座マナ
一般社団法人SWiTCH 代表理事 / サステナブル推進ストラテジスト
1995年生まれ。カナダ ブリティッシュ・コロンビア大学卒業。ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン大学院 サステナブル・ディベロプメントコース卒業。Mock COP グローバルコーディネーターとして、140ヵ国の環境専門の若者をまとめ、COP26と各国首相に本格的な18の政策提言を行い、世界的な注目を浴びる。COP26日本ユース代表。2021年「一般社団法人SWiTCH」を設立。2023年「Forbes Japan 30Under30」。現在は2025年大阪・関西万博に向け、100万人のサステナブルアンバサダー育成プロジェクトを推進中。
高瀬彩音
帯広畜産大学4年生(記事公開当時)
食品科学を専攻しており、主に発酵食品の成分や機能性について学んでいる。最近は発酵食品を毎日食べるように心がけている。
山田真治
研究開発グループ シニアチーフエキスパート 兼 基礎研究センタ 日立北大ラボ ラボ長 / チャレンジフィールド北海道 総括エリアコーディネーター
東京大学大学院を修了後、試行錯誤の12年を経て1998年に日立製作所に入社。材料、エレクトロニクス、基礎研究の各研究センタをマネジメント。2016年には北海道大学、京都大学、東京大学に共同研究拠点を開設し、社会課題解決をめざしたオープンイノベーションを推進。2020年より経産省「チャレンジフィールド北海道」を総括。趣味は家庭菜園(不耕起栽培に再挑戦中)。
蓮見慶次郎
日立製作所 水・環境営業統括本部 社会ソリューション第一営業本部 社会イノベーション戦略部 企画員
2018年に日立製作所入社。東北エリアの上下水道事業者向けソリューション営業に従事した後、2022年より北海道・東北エリア新事業創生担当として、DX/GXをテーマに活動中。大学時代は人間環境学を専攻。環境保全活動の経済価値や持続性について学び、国内外で企業やNPO・NGOと連携した、地域の自然保護活動に取り組んだ経験を持つ。
池ヶ谷和宏
研究開発グループ サステナビリティ研究統括本部 プラネタリーバウンダリープロジェクト 主任デザイナー(Design Lead)
日立製作所入社後、エネルギー、ヘルスケア、インダストリーなど多岐にわたる分野においてUI/UXデザイン・顧客協創・未来洞察に従事。日立ヨーロッパ出向後は、主に環境問題を中心としたサステナビリティに関わるビジョンや新たなデジタルサービスの研究を推進している。
関連リンク
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