[Vol.1]脱炭素へのシナリオを未来世代とつくる
[Vol.2]市民と行政で楽しい脱炭素を
[Vol.3]脱炭素の世界をリードする存在へ
未来の消費者と対話する
池ヶ谷:
今回、脱炭素へのロードマップ策定にAIを用いたシミュレーター(脱炭素シナリオシミュレーター)のようなデジタル技術を活用した点について、皆さんはどうお考えですか。
佐座さん:
デジタルを利用することで、どういったシナリオが一番いいのかということが可視化すると思うんですよね。データによって、本当は何を実践すべきなのかという裏付けができるのは、すごくいいなと思いました。
池ヶ谷:
脱炭素シナリオシュミレーターの基礎となる技術は、もともと日立京大ラボで開発したものでしたが、今回北海道で「脱炭素」というテーマでこの技術を適用しましたが、以前日立京大ラボでラボ長をされていた山田さんはどんな感想をもちましたか。
山田:
京都で作ったものを、今回北海道で使っていただいて、非常に好感を持って受け止めていただいてるってのはもちろん嬉しいですね。こういったシナリオを描くとか、データに基づいていろいろな気づきを得ることが、力としては大きいと思うんです。「こうあるべきだ」という説得ではなくて。
たとえば今、農業での「みどり戦略※」みたいなものがもう唐突にポンと置かれていますが、ああいうものも、総論賛成だとしても各論となるとどこから手をつけたらいいのかはっきりしません。AIシミュレーターはおそらくそういうものにも向いていると思うので、今後広げていっていただきたいなと思っています。
※みどり戦略……2021年に農林水産省が策定した「みどりの食料システム戦略」のこと。農業の生産力向上と持続性の両立をめざしている。
行政と市民の関係をもっとオープンに
佐座さん:
一方で、参加者の皆さんがどのようにリテラシーを上げていくかどうかでその内容が変わってくると思うんですよね。自然について考えるのであれば自然の中に身を置いてみて、「この街はどうあるべきなのか」といろんな人たちと話し合って、自分たちも学びながら、そのステークホルダーシップを多様に持って進むことが大切なステップじゃないかと思っています。未来の消費者である若者たちが対話の中にいると、違った視点からの内容が出てくるんじゃないかと思います。継続的な対話を皆さんがスタートされ、これからが楽しみだなと思っています。
池ヶ谷:
市民参加型のデザインの重要性というところでしょうか。
山田:
市役所ってどうしても責任を負うので、これまでは、市民と何かを共有するとしても、結果として形だけのパブリックコメントを出す、といったものになりがちだったのではないかと思います。しかし、今回の場合は本当に最初の政策決定やシナリオ作りの第一歩から市民と一緒にやっていただけた。これがどれだけ実際の政策に反映されるかはこれからの問題ですが、そんなふうに行政と市民の関係がよりオープンで近い関係になっていけば、地域は絶対に良くなると思います。今回そういう意味ではすごく良いきっかけを提供させていただいたと感じています。
デジタルネイティブが街への愛着を育む
池ヶ谷:
このパネルディスカッションに入る前のプログラムでは、今回取り組んだ協創ワークショップでの判断やビジョンについて、石狩市、帯広市それぞれに紹介いただきましたが、どんなことが印象に残りましたか。
佐座さん:
デジタルを有効活用しておられるのがいいなと思って見ていました。これまで街にいなかった人財がやってくる可能性が高まったのではないかと思っています。デジタルネイティブの人たちが街を作ることに関わる若者たちが増えていくと、、「やっぱり私たちが一緒に作ってきた街だから、もっとここにいたい」と思わせることができると思います。世代を超えてまち作りをしていくことが、2つの都市で実践されていることが、素敵だなと思っています。
異年齢の交流はデジタルを使えばもっと実は加速できるんじゃないかと思っています。どうやったらデジタルに縁のなかったシニア層が課題だと思っていることを解決できるかをいいネタにして「デジタル+異年齢」の交流を行えば、地域のコミュニティ作りも活性化できるのでは、と感じています。
人の顔が見える、楽しい脱炭素を
山田:
この協創ワークショップの成果ポスターを見たとき一番最初に感じたのが、人の顔が多いなということです。脱炭素って出てきたときに、またEVだ、風力発電だ、といった無機質なものの話ばかり出てきたらどうしよう、と内心思っていたんです。でも実際は、地域作りやまち作りが上位概念にある中で、脱炭素について取り組んでくれた。これがやっぱり本当なんだと思うんです。いかに所得が上がろうと、あるいはいかにインフラが整おうと、人が生き生きしてないとその地域は活性化しないでしょう。ですから、帯広市も石狩市も人の顔が前面に出てきていることに、非常に好感を持ちました。
池ヶ谷:
ワークショップに参加してくれた方々から「住民に強制はしたくない。できるだけ楽しい施策を考えたい」というアイディアが出ていて、僕もそれは日ごろ思っていることで、「楽しい脱炭素って何だろう」「脱炭素疲れしない形で継続できるものってなんだろう」と常日頃考えてるんですけども、そういった観点を自治体の方も考えてくれていることが嬉しかったですね。また、それぞれ実際に、帯広市だと、アウトドアのアクティビティと脱炭素を組み合わせるような話がでたり、石狩市だとエンタメイベントと脱炭素が組み合わさったようなアイデアがあったりして、個人的にはそういう強みを伸ばしていくやり方があるんじゃないかと思っています。
山田:
それぞれ地域の強みっていうのは当然意識されているんですよね。帯広市はやはり農業がすごく強いし、それを脱炭素の中でも生かそうとされてる。石狩市は今まさに再エネの設備や施設をどう生かそうか、という話題もありました。ただ、両者ともそこに囚われすぎていないのがすごくいいなと思ったんです。強みを認識しながらもフェアにあるべき姿を描いていこうとするその姿勢は素晴らしいと思いました。
池ヶ谷:
そうですね。一方で施策の公平性や公正性については民間企業としてあまり意識したことがなかったので、自治体の方からいろいろと勉強させていただきました。
2050年、北海道はどんなふうに変化しているのでしょうか。最終回は、協創ワークショップの成果や現在の社会課題をふまえ、北海道の未来に向けた今後の展望を語り合います。
佐座マナ
一般社団法人SWiTCH 代表理事 / サステナブル推進ストラテジスト
1995年生まれ。カナダ ブリティッシュ・コロンビア大学卒業。ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン大学院 サステナブル・ディベロプメントコース卒業。Mock COP グローバルコーディネーターとして、140ヵ国の環境専門の若者をまとめ、COP26と各国首相に本格的な18の政策提言を行い、世界的な注目を浴びる。COP26日本ユース代表。2021年「一般社団法人SWiTCH」を設立。2023年「Forbes Japan 30Under30」。現在は2025年大阪・関西万博に向け、100万人のサステナブルアンバサダー育成プロジェクトを推進中。
高瀬彩音
帯広畜産大学4年生(記事公開当時)
食品科学を専攻しており、主に発酵食品の成分や機能性について学んでいる。最近は発酵食品を毎日食べるように心がけている。
山田真治
研究開発グループ シニアチーフエキスパート 兼 基礎研究センタ 日立北大ラボ ラボ長 / チャレンジフィールド北海道 総括エリアコーディネーター
東京大学大学院を修了後、試行錯誤の12年を経て1998年に日立製作所に入社。材料、エレクトロニクス、基礎研究の各研究センタをマネジメント。2016年には北海道大学、京都大学、東京大学に共同研究拠点を開設し、社会課題解決をめざしたオープンイノベーションを推進。2020年より経産省「チャレンジフィールド北海道」を総括。趣味は家庭菜園(不耕起栽培に再挑戦中)。
蓮見慶次郎
日立製作所 水・環境営業統括本部 社会ソリューション第一営業本部 社会イノベーション戦略部 企画員
2018年に日立製作所入社。東北エリアの上下水道事業者向けソリューション営業に従事した後、2022年より北海道・東北エリア新事業創生担当として、DX/GXをテーマに活動中。大学時代は人間環境学を専攻。環境保全活動の経済価値や持続性について学び、国内外で企業やNPO・NGOと連携した、地域の自然保護活動に取り組んだ経験を持つ。
池ヶ谷和宏
研究開発グループ サステナビリティ研究統括本部 プラネタリーバウンダリープロジェクト 主任デザイナー(Design Lead)
日立製作所入社後、エネルギー、ヘルスケア、インダストリーなど多岐にわたる分野においてUI/UXデザイン・顧客協創・未来洞察に従事。日立ヨーロッパ出向後は、主に環境問題を中心としたサステナビリティに関わるビジョンや新たなデジタルサービスの研究を推進している。
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