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ChatGPTをはじめとする「生成AI」の急速な普及により、私たちの働き方は大きく変わろうとしています。「産業革命に匹敵する歴史的転換点」とも評される生成AIの登場を、20代の若者たちはどう受け止めているのでしょうか? 生成AIの活用が進んでいるといわれる職種で活躍している3名のゲスト——AINOW編集長で株式会社Cinematorico Founder & COOの小澤さん、株式会社piconのCOOでエンジニアの渋谷さん、株式会社サイバーエージェントでAIクリエイティブプランナーを務める洞ノ上さんを迎え、日立製作所 研究開発グループの神崎がお話を伺います。3回に分けてお届けする本セッション、1回目のテーマは「生成AIが仕事や周りにもたらす変化」です。

[Vol.1]20代が使い倒して見えてきた生成AIの現在地
[Vol.2]誰でも「言語化できれば創造できる」のか?
[Vol.3]人間にしかないスキルと「働きがい」のゆくえ

生成AIを活かすために人間が培うべきなのはディレクション能力

画像: 株式会社サイバーエージェント 洞ノ上茉亜子さん(写真左)、株式会社picon 渋谷幸人さん(写真右)

株式会社サイバーエージェント 洞ノ上茉亜子さん(写真左)、株式会社picon 渋谷幸人さん(写真右)

神崎:
本日はよろしくお願いします。まずは、生成AIの登場を、皆さんがご自身のキャリアにどう位置付けているのか教えてください。

渋谷さん:
僕は2016年に株式会社piconを立ちあげてから、経営者兼エンジニアとして、7年間で10以上のプロダクトをつくってきました。例えば、YouTubeを見ながら通話ができる『Talkroom』や、eスポーツの賞金付き大会を検索できる『プライザ』などです。

それなりのダウンロード数を記録していますが、大きくヒットしたといえるものはありませんでした。正直、経営的にも楽ではない状況が続いていて、「次が売れなければ、受託開発会社になろう」という決意のもとでつくったのが、OpenAIが開発したChatGPTをLINEで使える『AIチャットくん』です。

画像: 『AIチャットくん』の活用例(写真提供:株式会社picon)

『AIチャットくん』の活用例(写真提供:株式会社picon)

AIチャットくんは、2023年3月のリリースから3か月半で登録者数200万人、総メッセージ数6000万通を突破することができました。このヒットのおかげで、画像生成の『AIイラストくん』、いつでも悩み相談ができる『AI占いくん』と、続けざまに生成AI×LINEのプロダクトをリリースすることができたんです。そんな背景から、生成AIは会社の方向性を決定づけてくれた、とても重要なファクターだと捉えています。

小澤さん:
「AIチャットくんの開発期間はわずか半日」って記事を拝見しました。登録者数200万人越えのプロダクトを半日でつくれるってすごいですよね!

渋谷さん:
ありがとうございます。AIチャットくん以前の開発は、70~80点の完成度までもっていくのに1か月ほどを要していました。AIチャットくん以降は開発自体に生成AIを用いるようになって、1日、早ければ半日程度でその完成度に到達できます。

そこから90~100点にまで引き上げるのには、それなりの時間がかかるのですが、初期開発のコストと時間は大幅に減りましたね。生成AIが今後もどんどん賢くなっていくのは間違いなく、「生成AIが100点近くまで整えてくれる」という時代がすぐにやってくるんじゃないでしょうか。

神崎:
そこまでスピード感が変わるとは驚きです。小澤さんは著書の執筆に生成AIを活用されたそうですが、同様に仕事のスピードに影響はありましたか?

小澤さん:
僕も同じで、生成AIのおかげで仕事がめちゃくちゃ速くなりましたよ。例えば、学生時代から運営に携わっているAI専門メディア『AINOW』で500人以上に取材を行い1500本以上の記事を書いてきた経験から、2023年に『生成AI導入の教科書』(ワン・パブリッシング)を出版したんですね。その約12万文字の原稿は、生成AIを活用して1週間ほどで書き上げることができました。

洞ノ上さん:
それもすごいですね! 生成AIはどう使ったんですか?

小澤さん:
生成AIへのプロンプト(質問や指示)を、箇条書きのわかりやすい論理構造で、できるだけ詳細に書くのがポイント。そこがしっかりしていれば、生成AIが一瞬でそれなりの原稿をつくり出してくれます。その原稿を全部チェックしてディテールを整えていけば完成です。

この一連のプロセスって、ライターさんにお願いして素稿をつくるプロセスと近いんですよ。プロンプトを書くのは、僕の頭の中にあるアイデアやオピニオンを「こういう流れで、こういうふうに書いてね」ってライターさんにお願いする行為と同じで。生成AIがつくり出した文章を全部チェックして整えるのも、ライターさんが書いた素稿を確認するのと同じ。だから、生成AIを使って本をつくり上げたとしても、その本は“僕の本”でしかないよねって感覚です。

神崎:
それはやっぱり、土台となる知識と経験、さらに自分の意見を「生成AIを使う側」がちゃんと持っているからできることですよね……?

小澤さん:
そうですね。そのようなベースがあればあるほど、生成AIは原稿作成の時間を大幅に短縮してくれるでしょう。「こういう流れで、こういう解説で」といった要素が全部入った台本や設計図を書いて指示するようなイメージですから。一方、知見が乏しく、根本のロジックやプロンプトをうまく組み立てられていない台本だと、生成AIを使っても時間がかかると思います。

神崎:
その観点から考えると、書き手の意見や考えの入る余地がほとんどない原稿、例えばスポーツの勝敗やニュースなどの「事実を伝えるだけの記事」は、生成AIを使うことで、書き手の負担を限りなく小さくできそうですね。

小澤さん:
はい。そのような文章や記事は、生成AIが一瞬で書き上げるところまできています。事実を書くだけなら、いずれ、生成AIが書き手の代わりをつとめることになるかもしれませんよね。

一方、専門的知識やオピニオンがある書き手は、生成AIを活用してどんどん仕事の効率を高め、幅を広げることができています。書き手に軸があるから生成AIが代わりをつとめることができず、むしろ生成AIを活用して単価の高い仕事をどんどんこなしていく。そういう時代が始まりつつあるのではないでしょうか。

生成AIでめざすのは広告業界のゲームチェンジ

画像: 生成AIによる仕事の変化について語る洞ノ上さん

生成AIによる仕事の変化について語る洞ノ上さん

神崎:
洞ノ上さんは、株式会社サイバーエージェント(以下、サイバーエージェント)に入社して以来、「AI」が身近にあるそうですが、生成AIの登場によって仕事に変化はありましたか?

洞ノ上さん:
私は2019年に新卒でサイバーエージェントに入社し、インターネット広告事業本部でクリエイティブプランナーとして仕事をしてきました。現在はダイレクトマーケティングの領域で、自社で開発した効果予測AIで広告効果を最大化するシステム『極予測AI』を中心として、積極的に生成AIを活用しながら広告クリエイティブを制作しています。

もともとサイバーエージェントには、「テクノロジーで広告業界にゲームチェンジを起こしたい」というモチベーションの高い社員が多く、生成AIの登場で、さらにその機運が高まったと感じます。今はまだ実験段階で、生成AIをどう活用すればより広告効果の高いクリエイティブをつくれるのか、試行錯誤しながらメンバーと議論を重ねているところです。メンバーは20代が中心で、刺激を与え合えています。

渋谷さん:
特に活用が進んでいる分野などはありますか?

洞ノ上さん:
1枚ものの写真の生成に関しては、かなりのレベルまで到達しています。『極予測AI』も商品画像の自動生成機能を実装していて、あらゆるシチュエーションの商品画像を、実際にセットを組んで撮影したかのようなクオリティで大量につくることができます。

画像: 『極予測AI』の例。ペットボトルなどの透明商材が背景に溶け込む画像や商材へ差し込む光などの表現にも対応できる(画像提供:株式会社サイバーエージェント)

『極予測AI』の例。ペットボトルなどの透明商材が背景に溶け込む画像や商材へ差し込む光などの表現にも対応できる(画像提供:株式会社サイバーエージェント)

その機能によって、配信ターゲットに合わせて複数のクリエイティブを使い分けることが容易になりました。ユーザーのパーソナルデータから「その人にピッタリの画像」を生成して個別に配信し、より広告配信効果を高める、という運用も将来は可能になると思います。

ただその半面、クリエイティブの数が増えれば増えるほど、クライアント側での成果物のチェックも増えるため、配信のベストタイミングを逃してしまうことにもなりかねません。大量に生成された画像に、広告表現違反はないか・何か間違いはないかなどを判断する、チェック体制の自動化もセットで考えていく必要があるでしょう。

神崎:
なるほど。私自身は、日立製作所の研究開発グループで、望ましい未来を探索するためのデザイン研究に携わっていて、最近は「生成AIが生活や組織へどう定着していくと望ましいか?」という視点でリサーチをしています。

今、皆さんのお話を伺って、ご自身の主張や方針が明確な方やオピニオンのある方が生成AIにより仕事やご自身の作業を加速させているという印象を持ちました。生成AIが定着していくための1つのヒントになりそうです。また、チェック体制の自動化に関しては、大企業ならではの稟議へ応用されていくと、個人的にはうれしいですね。

仕事が効率化する一方、寡占化・独占化が拡大する危険性も

画像: AINOW編集長/株式会社Cinematorico 小澤健祐さん

AINOW編集長/株式会社Cinematorico 小澤健祐さん

神崎:
ここまで皆さんの「仕事」を中心にお話を伺ってきましたが、生成AIによって、「世界はこれからこんなふうに変わるだろう」というイメージがあればお聞かせください。

小澤さん:
SEO対策からAIエージェント対策へとシフトしていくと思います。AIエージェントとは、すでに僕たちの生活に入り込んでいる、Amazonの「Alexa」やAppleの「Siri」などのサービスのこと。今後ますます普及が進んで「衣食住の中心にAIエージェントがある」という世界になっていくでしょう。そうなったら、AIエージェントがレコメンドしてくれるか否かが、製品やサービスの売上に直結するはずですよね。

神崎:
となると、事業者側にはAIエージェントが理解しやすいように説明文やPR文を書くスキルが必要になるということですね。洞ノ上さんはどうですか?

洞ノ上さん:
海外だと、料理のレシピにも生成AIが活用されています。人が思いつかないような食材の組み合わせを提案してくれそうで、ワクワクしませんか? 料理とか、伝統工芸とか、無意識のうちに固定観念に縛られてしまいそうな分野で生成AIを活用したら、想像もつかない化学反応を起こしてくれるのではないでしょうか。

渋谷さん:
冷蔵庫などにある食材からレシピを提案することって、実は、生成AIがすごく得意なんです。あと、自分好みのファッションコーディネートを生成AIが提案してくれるサービスも人気のようですよ。

生成AIの登場によって、こうした利用者一人ひとりにパーソナライズされたコンテンツが一気に増えていくんじゃないかと思います。僕たちが提供している生成AI×LINEのコンテンツのように、柔軟に素早い動きを取りやすいスタートアップ向けの分野かもしれません。

神崎:
生成AIによって精度や満足度が高められたそのようなコンテンツが充実していくと、レシピだったら料理家、ファッションならスタイリストといった人たちの仕事やタスクに大きな影響を及ぼす可能性がありますよね……? 極論になりますが、仕事を奪われてしまう可能性もあるかもしれない。そうした既存の仕事への影響や機会喪失の可能性についてはどう考えますか?

洞ノ上さん:
サイバーエージェントでは目下、芸能人の方のデジタルツインをつくるプロジェクトに挑戦しています。全身をスキャンして、声も複製して、本人そっくりなアバターをつくって、それを広告に利用できないか、と。もしそれが実現すれば、写真や動画の簡単な仕事はアバターに任せて、舞台や生放送など、本人にしかできない仕事に多くの時間を費やせるようになるわけです。

つまり、生成AIによってマイナス影響の恐れがある半面、可処分時間が増えて今まで以上に仕事ができるようになるプラス影響の可能性も十分あるのではないでしょうか。そういうポジティブな捉え方もできると思います。

小澤さん:
俳優のデジタルツインは、海外でも以前から研究が進められていますよね。ただ、もし人気俳優の完璧なアバターが完成したら、その俳優に仕事が集中して、どの映画を見ても同じ俳優ばかり……という状況にもなりえます。その分、人気のない俳優の出番はさらに減ってしまう。生成AIには「格差助長」という側面があるともいえるでしょう。

洞ノ上さん:
あらゆる業界でそういう格差が広がる恐れはありますよね。

小澤さん:
そう。特にクリエイティビティが勝負の業界では、生成AIの登場で寡占化・独占化が進むかもしれません。

渋谷さん:
コンテンツの制作側からすれば、「人気の俳優やクリエイターに仕事をお願いできる可能性が広がる」ことでもあります。実際に仕事をしてくれるのはアバターかもしれませんが、コンテンツの自由度や選択肢が広がることに変わりはありません。制作側としてはうれしいですよね。世の中のコンテンツがどんどん豊かになるかもしれないし。

小澤さん:
500円で著名なタレント(のアバター)をナレーションに起用できちゃうかもしれない。オーディエンスの側は、推しの声を聞ける機会が増えてうれしいとか、いつも同じタレントで飽きちゃうとか、いろいろな反応があるでしょうね。

神崎:
出演する側からすると、個性や差別化がポイントになりそうです。例えば、NHKのニュース番組で、スタジオにアナウンサーがいても生成AIが自動音声でニュースを読むことがあります。

設定時間内に間違いなく原稿を読み終える、イレギュラーが発生しないので編集など技術スタッフの負担軽減につながる、といったことが主な理由のようです。これは、アナウンサー業務での分業が進む予兆と捉えることができませんか? 単純なニュースは生成AIが読んで、個性や意見を発信するとような文脈は従来のアナウンサーが担当するといったように、求められる役割が従来と変わってくるのかもしれません。

セッションはまだまだ続きます。次回(2回目)は「生成AIによる個人のエンパワーの加速」をテーマにお届けします。

画像1: [Vol.1]20代が使い倒して見えてきた生成AIの現在地|生成AIで変えていく、働き方と生活のこれから

小澤 健祐
AINOW編集長
株式会社Cinematorico Founder & COO

「人間とAIが共存する社会をつくる」がビジョン。ディップが運営するAI専門メディア AINOW編集長を務める。書籍『生成AI導入の教科書』(ワン・パブリッシング)。1000本以上のAI関連記事を執筆。一般社団法人生成AI活用普及協会 協議員。その他、AI領域で幅広く活動。ディップの生成AI活用推進プロジェクト「dip AI Force」の推進、生成AI教育事業を展開するCynthialyの顧問、日本最大のAI活用コミュニティ「SHIFT AI」のモデレーター&パートナーインフルエンサー、社長のAI化を進めるサービス「AI社長」を運営するTHA顧問、生成AIとエンターテイメントの融合を進めるAI Booster顧問、東大発AIスタートアップ Lightblue顧問。AIに関するトークセッションのモデレーターや登壇、講演、メディア出演も多数。AI以外の領域では、2022年にCinematoricoを創業しCOOを務めるほか、SDGs専門メディア「SDGs CONNECT」編集長、ITフリーランス向け案件プラットフォームを運営するテックビズのPR、フリーカメラマン、日本大学文理学部 次世代社会研究センター プロボノ。デヴィ夫人 SNSプロデューサー。ディップの社員総会の企画や中期経営戦略タスクフォースメンバーも歴任。

画像2: [Vol.1]20代が使い倒して見えてきた生成AIの現在地|生成AIで変えていく、働き方と生活のこれから

渋谷 幸人
株式会社picon
COO/エンジニア

2016年、株式会社piconを共同創業。エンジニアとしてtoCプロダクトをメインに複数の事業立ち上げを経験。2023年3月にLINEでChatGPTが使える「AIチャットくん」をリリースしたことを皮切りに、LINEで画像生成AIの「AIイラストくん」、「AI占いくん」など、生成AIを多くの人に届け、使いこなせるようになるプロダクトに取り組んでいる。

画像3: [Vol.1]20代が使い倒して見えてきた生成AIの現在地|生成AIで変えていく、働き方と生活のこれから

洞ノ上 茉亜子
株式会社サイバーエージェント
インターネット広告事業本部 AIクリエイティブプランナー

2019年、サイバーエージェント入社。『極予測AI』を活用したクリエイティブチームの立ち上げを経験。広告クリエイティブにおけるAI活用を推進する。

画像4: [Vol.1]20代が使い倒して見えてきた生成AIの現在地|生成AIで変えていく、働き方と生活のこれから

神崎 将一
株式会社 日立製作所
研究開発グループ デジタルサービス統括本部

デザインセンタ ストラテジックデザイン部(兼)サイバーシステム社会実装プロジェクト
2021年、日立製作所に入社。金融領域でのサービスデザインや地域から社会変容を促すデザイン研究に従事。現在は生活者目線での資源循環に関するデザイン研究や生成AIの経験価値に関するデザイン研究に取り組んでいる。

[Vol.1]20代が使い倒して見えてきた生成AIの現在地
[Vol.2]誰でも「言語化できれば創造できる」のか?
[Vol.3]人間にしかないスキルと「働きがい」のゆくえ

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