[Vol.1]感動のなかで空間ごとサステナビリティを受け取る
[Vol.2]ハードとソフトの両面から考える意味ある価値の創出
[Vol.3]スポーツがはらむイノベーションの可能性
スポーツで得られる喜びを、スタジアムから街へ
――DeNAさんはスポーツと街づくりとに取り組んでいらっしゃいます。まずは、横浜DeNAベイスターズから始まったスポーツ事業について教えていただけますか。
那須さん:
2011年に、ベイスターズは横浜DeNAベイスターズに変更となりました。そのあと本拠地である横浜スタジアムの運営管理もやらせていただくことになったのですが、その一連の流れはDeNAにとって転換期となったと聞いています。スタジアムの運営管理を担うことによって、球団だけではなくエリアに対してできることが増え、球団とスタジアムが一体となってより多くの喜びを届けられるようになりました。
直近では、新しい街づくりをめざす企業とともに、関内駅前の旧市庁舎街区の再開発に取り組んでいます。これは、旧市庁舎行政棟を保存・活用しつつ、ホテルや商業施設など新たなにぎわいの場をつくり出すもの。DeNAは、そのなかにある常設型ライブビューイングアリーナとエデュテインメント(「エデュケーション=教育」と「エンターテインメント=娯楽」を組み合わせた新しい教育の形)施設を直営事業として展開します。
那須さん:
これまではどうしてもチームや球団が主語になる閉じた活動になりがちでしたが、街との一体開発をすることで、スポーツを核として、よりその輪が広がっていくようなイメージをしています。横浜の街に来てもらうことが、球団とのタッチポイントになる。そんなことをめざしています。
――2017年から取り組んでいる「横浜スポーツタウン構想」をはじめとした、スタジアムを起点とした街づくりについてもう少しくわしく教えてください。
那須さん:
スポーツを軸とした賑わいのある街づくりの一環としては、2020年から毎年、横浜スタジアム・横浜公園を中心に開催している「BALLPARK FANTASIA」というアクティビティ&イルミネーションイベントが象徴的かと思います。シーズン中だけでなく、オフシーズンにもたくさんの方に街を訪れ、楽しんでもらうために、野球場を開放してイベントを実施しています。普段はプロ野球選手が使っているスタジアムで子どもたちが遊んでいる光景を見ると、まさに街に対する広がりをつくり出している瞬間だと感じます。ハード面だけでなく、こうしたイベントを通したソフト面からも街づくりにアプローチしています。
――DeNAというと、以前はIT企業というイメージが強かったと思いますが、心と身体を熱狂させるようなスポーツの事業に進出したことはインパクトが大きかったのではないでしょうか。
那須さん:
そうですね。スポーツ事業に参入したことによって、リアルなものを扱うようになったというのはすごく意義深いと思います。昨日もDeNAが運営しているプロバスケットボールクラブの川崎ブレイブサンダースの試合があったのですが、惜しくも負けてしまいました。DeNAの関係者もチームの勝敗に対して本気で向き合っており、負けたときの悔しさや、勝ったときのよろこびをみんなで共有しているというのは、身をもって感じます。
いいハードを建てるだけでなく、意志を持って運営していく
――那須さん、神鳥さんと澤田さんからスポーツサステナビリティのお話を聞いて、どのように感じましたか?
那須さん:
まさにいま私が担当している「川崎新!アリーナシティ・プロジェクト」に大きく関係するお話だなと思って聞いていました。このプロジェクトは、京急川崎駅に隣接する場所に、15,000人規模収容のアリーナを中心にホテルなどを併設した複合エンターテインメント施設をつくるもので、2028年に開業予定です。
サステナビリティに関するさまざまな取り組みをハード・ソフトの両面で行い、世界最先端のSDGs拠点をめざしています。個人的には、これまでのキャリアのなかでサステナブルな建築について一定の知見があったので、今回のプロジェクトでその実現に向けて貢献していきたいと考えています。
先ほど、日本はスポーツサステナビリティに関しては少し出遅れているという話が出ましたが、国内においても、直近で多くのスポーツ施設などでサステナビリティに取り組んでいる実績が多く積み上げられつつあると思います。世界と肩を並べるくらい、いいハードをつくっておりますが、運営においてもそのサステナビリティに関するコンセプトを活かせているかとまた話が変わってくると思います。「川崎新!アリーナシティ・プロジェクト」においては、民設民営で行います。建設時のインパクトを生み出すだけではなく、その後の運営にもずっと関われることで、サステナブルの意識を人々に染み込ませることを目指してやっていきたいと思っています。
――施設や場所に関わり続けられることが重要なんですね。
那須さん:
そうですね。川崎ブレイブサンダースは2018年から事業承継をして、本拠地の川崎市とどろきアリーナで熱狂を届けていますし、その運営で鍛えてきた力があります。チームに対して、より改善できるところはなにか、観客やファンのみなさんにより楽しんでもらうためにはどうすればいいかといった方向性を考えるほか、現在もバスケットボールやホームゲームを通じて行っているSDGs関連施策については「川崎新!アリーナシティ・プロジェクト」の開発にあたって新たにできることも増えると思うので、今後はその視点がより重要になっていくのだろうと思っています。
澤田さん:
きっとそのためには、新たなパートナーを獲得していくような形になると思いますので、将来的にはサステナビリティレポートで「このようなインパクトを創出しています」と公表したりするのも重要ですよね。一般的な地域貢献プログラムや社会連携プログラムを発信することとは一線を画すものとして、意志ある資本とパートナーシップを構築する意思を示していくために、ベニューを運営する人間が国際スタンダードに沿った方法で日々の実践を可視化していなきゃいけないと思います。
みんなの意志がきちんと伝わるような空間が随所にあって、それを意志ある人たちが運営していく。そうして空間とともに意味のある価値を届けられるような仕組みが整ったときには、不動産としての価値もそれまでよりもグッと高まっていくのだと思います。
――最終回となる次回は、スポーツと、スポーツを起点とした他分野へも広がるイノベーションの可能性について議論します。
澤田陽樹
一般財団法人グリーンスポーツアライアンス 代表理事
2002年、京都大学経済学部を卒業し、三菱商事に入社。国内での化学品事業を経験後、台湾三菱商事、ドイツ三菱商事等、世界の化学品事業で活躍。2017年に同社退後、LUKOILへの勤務を経て、一般財団法人グリーンスポーツアライアンスを設立。2024年3月三重大学生物資源学研究科博士課程単位取得満期退学。German Sustainable Building Council(DGNB)インターナショナル認定取得。
那須洋平
株式会社ディー・エヌ・エー
スポーツ・スマートシティ事業本部 川崎拠点開発室
2006年、武蔵工業大学大学院(現:東京都市大学)環境情報学修士課程を終了後、(株)岩村アトリエに入社、建築・街づくりの環境デザインに関する計画、設計業務に従事。2014年に退社後、ソーラーフロンティア株式会社にて太陽光発電システムの開発、再生可能エネルギーに関する事業企画等の業務に従事。2022年に株式会社ディー・エヌ・エーに入社し、現在「川崎新!アリーナシティ・プロジェクト」の開発、アリーナシティにおけるサステナビリティに関する取り組みの実現に向けた企画に従事。
神鳥明彦
日立製作所 研究開発グループ 基礎研究センタ 主管研究長
1990年、上智大学理工学研究科博士前期課程を卒業し、(株)日立製作所中央研究所に入社。その後、同社基礎研究所と中央研究所との転属を経て、現在は同社基礎研究所の主管研究長。主に磁気計測などを使った医療機器の基礎研究から薬事承認までの研究開発と、生体計測による心臓、脳などの臨床応用研究に従事。1997年には上智大学理工学部より工学博士の学位取得、2003年には筑波大学医学研究科より医学博士の学位取得し、2005年には十大新製品賞(にっぽんぷらんど賞)受賞、2013年には文部科学大臣賞を受賞、2020年にはIEEE Fellowを受賞。
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