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日本のスポーツ&サステナビリティや街づくりへの取り組みについて語り合ってきた本鼎談。最終回となるVol.3では、スポーツを起点とした街づくり、そして他分野へも広がるイノベーションの可能性について、グリーンスポーツアライアンスの澤田陽樹さん、DeNAの那須洋平さん、研究開発グループ 基礎研究センタの神鳥明彦の3人が引き続き対話を重ねます。

[Vol.1]感動のなかで空間ごとサステナビリティを受け取る
[Vol.2]ハードとソフトの両面から考える意味ある価値の創出
[Vol.3]スポーツがはらむイノベーションの可能性

ビジネスとしての成功事例を重ねることが重要

――神鳥さん、DeNAさんの取り組みについてどのように感じましたか?

神鳥:
すばらしいですよね。ひとつ人間視点から考えると、健康に寄与するような仕組みも取り入れられると良いと思いました。たとえば、認知症や高齢による運動能力の低下には両手を動かす運動が効果的だということがわかっているので、「川崎新!アリーナシティ・プロジェクト」のエリアにも、高齢者が手を使った農作業で育てた作物をレストランに提供したら入場料が無料になるとか。お金が回るサーキュラーな仕組みをつくれたりするといいですよね。

澤田さん:
環境の制約というとエコや温暖化をイメージされる人が多いと思いますが、日立の研究者である神鳥さんは、人口動態を見て高齢者がこんなに増えているとか、そういうものを制約だと捉えていらっしゃるのだと感じました。その制約に対して、「どういうパートナーとどういうことをやると街にとってもスポーツチームにとってもプラスになるのか」ということを考えるのがポイントになってくると思います。それは、塩分を抑えたフードを提供することかもしれません。スポーツ施設を意志あるチームとしてどう運営していくかという話になってくるんでしょうね。

神鳥:
そこにイノベーションの可能性がありそうですね。

澤田さん:
はい、その通りです。でもプロのスポーツ界でそれをビジネスにするのはすごく難しいと思います。いまの日本のプロスポーツ業界で神鳥さんのおっしゃるスポーツに今後求められる、勝ち負けや競技だけではない意味のある価値、たとえば健康などを、どのように自身のクラブやベニュー内に再構築できるかということを考える人が出てくるのには、やはり時間がかかるのではないでしょうか。だから私が那須さんに期待しているのは、ビジネスとして成功していただくことです。成功事例ができたら、ほかの人もきっと追随してきてくれるはずです。

那須さん:
DeNAはいま、横浜DeNAベイスターズをはじめ、川崎ブレイブサンダース、そしてSC相模原と、3つのプロスポーツチームを経営しております。ただ、DeNAは事業会社なので、スポーツを事業としてきちんととらえ、DeNAのミッションである「一人ひとりに想像を超えるDelightを」届けることに対してプロ意識を持っている人が多いです。

今回のプロジェクトにおいては、積み上げてきたスポーツエンターテインメントだけではなく、サステナビリティに関する取り組みについてもきちんと事業としてやってきたいと考えているところです。

画像: 鼎談の終盤は、日本のスポーツ&サステナビリティの今後の展開に期待を寄せる会話が繰り広げられた

鼎談の終盤は、日本のスポーツ&サステナビリティの今後の展開に期待を寄せる会話が繰り広げられた

イノベーションの可能性は他分野へも広がっていく

――DeNAさんのように、意志ある企業やチームが日本でもどんどん増えていくといいですよね。

神鳥:
本当に、その通りだと思います。そういえば、DeNAさんはリアルなスポーツだけでなくeスポーツにも携わっていらっしゃいますよね。リアルがあるからeスポーツが成り立つわけなので、すごくいい組み合わせだと思います。eスポーツを通して右手と左手で違う動きをすることが認知症予防になるという研究結果もあったりするので、たとえばスポーツから医学へなど、広がりはどんどん出てくるだろうと感じました。

澤田さん:
私もグリーンスポーツアライアンスの日本法人をつくったときに、創設者のひとりから、日本ではスポーツと医薬(ヘルスケア)のインターアクションを他国に先駆けて進めていくべきだと言われました。理事のひとりが脳神経外科医なのもその理由なのですが、その先生は、自身の所属する医療機関を中長期的に国際基準に照らし合わせても引けを取らないレベルに引き上げていきたいだけでなく、海外の医学会で進む変化のプロセスを日本でもという思いで「脳神経外科が考えるグリーンホスピタル」など、これまでとは違う発想を取り入れたテーマの論文を学会で発表してらっしゃいます。いまはそういう地道な方法で発信して徐々に認知を広げていくしかないので、時間はまだかかると思いますが、そのなかで神鳥さんがおっしゃるようなこともどこかのタイミングで自然と出てくるのではないでしょうか。

ただ、医師と話していると、治療をすることが第一の使命であるわけなので、グリーンホスピタル(環境や社会的要素にも配慮したサステナブルな施設づくりや取り組みを行う医療機関)といった考え方が日本ですぐに受け入れられるのは簡単ではないというのが当然だと思います。スポーツ・ベニュー同様、医療機関も大事な使命を負っている地域社会の機関施設だからこそ、果たす社会的役割も大きいはずだと考えてらっしゃる先生が、それに同じように共感される先生を見出すことからはじまっていくのではないかと思います。

神鳥:
そういう意味だと、アスリートの健康管理や怪我の治療という視点からイノベーションが生まれる可能性もありますよね。最近アメリカのアスレティックトレーナー(アスリートに対し、健康管理やケガの予防・応急処置などをするトレーナー)と話す機会があったのですが、日本の現状とはまったく違うことがわかりました。アメリカでは、准医療従事者であるアスレティックトレーナーはスポーツの現場、特に子供のスポーツ教育現場に欠かせない存在で、アメリカのほとんどの学校で常駐していますが、日本では数校しか常駐していません。またメンタルトレーナーに至っては、プロ野球でも日本ではDeNAさんくらいしか導入していないと聞いています。

私は医学をずっと見てきたわけですが、スポーツ医学は独立して発展してきたので、臨床医学とはほとんど交流がないんです。そんななかでスポーツ&サステナビリティは、両者をつなぐひとつのハブになり得るものだと思っています。DeNAさんは、街を巻き込みながら、まさにそこにチャレンジしているのではないでしょうか。

那須さん:
おふたりからいただいたご期待に応えられるように頑張っていきたいですね。そして、そのスポーツ&サステナビリティの取り組みの過程で得られる成果を、きちんと街の人々に届けられるように取り組んでいきたいと思います。

画像: イノベーションの可能性は他分野へも広がっていく
画像1: [Vol.3]スポーツがはらむイノベーションの可能性|スタジアムから周辺地域へ。スポーツ・ベニューを超えたサステナブルな街づくり

澤田陽樹
一般財団法人グリーンスポーツアライアンス 代表理事

2002年、京都大学経済学部を卒業し、三菱商事に入社。国内での化学品事業を経験後、台湾三菱商事、ドイツ三菱商事等、世界の化学品事業で活躍。2017年に同社退後、LUKOILへの勤務を経て、一般財団法人グリーンスポーツアライアンスを設立。2024年3月三重大学生物資源学研究科博士課程単位取得満期退学。German Sustainable Building Council(DGNB)インターナショナル認定取得。

画像2: [Vol.3]スポーツがはらむイノベーションの可能性|スタジアムから周辺地域へ。スポーツ・ベニューを超えたサステナブルな街づくり

那須洋平
株式会社ディー・エヌ・エー
スポーツ・スマートシティ事業本部 川崎拠点開発室

2006年、武蔵工業大学大学院(現:東京都市大学)環境情報学修士課程を終了後、(株)岩村アトリエに入社、建築・街づくりの環境デザインに関する計画、設計業務に従事。2014年に退社後、ソーラーフロンティア株式会社にて太陽光発電システムの開発、再生可能エネルギーに関する事業企画等の業務に従事。2022年に株式会社ディー・エヌ・エーに入社し、現在「川崎新!アリーナシティ・プロジェクト」の開発、アリーナシティにおけるサステナビリティに関する取り組みの実現に向けた企画に従事。

画像3: [Vol.3]スポーツがはらむイノベーションの可能性|スタジアムから周辺地域へ。スポーツ・ベニューを超えたサステナブルな街づくり

神鳥明彦
日立製作所 研究開発グループ 基礎研究センタ 主管研究長

1990年、上智大学理工学研究科博士前期課程を卒業し、(株)日立製作所中央研究所に入社。その後、同社基礎研究所と中央研究所との転属を経て、現在は同社基礎研究所の主管研究長。主に磁気計測などを使った医療機器の基礎研究から薬事承認までの研究開発と、生体計測による心臓、脳などの臨床応用研究に従事。1997年には上智大学理工学部より工学博士の学位取得、2003年には筑波大学医学研究科より医学博士の学位取得し、2005年には十大新製品賞(にっぽんぷらんど賞)受賞、2013年には文部科学大臣賞を受賞、2020年にはIEEE Fellowを受賞。

[Vol.1]感動のなかで空間ごとサステナビリティを受け取る
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[Vol.3]スポーツがはらむイノベーションの可能性

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