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マスプロダクトの新たな社会性について考える本対談では、哲学者イヴァン・イリイチの言説を補助線に現在のプロダクトが抱えうる問題に焦点をあて、問題を乗り越える端緒として、人とモノの対話の重要性や、モノをつくる喜びをユーザーとされてきた人と分かち合う可能性に注目してきました。Vol.3では、Takramの緒方壽人さんと、日立製作所 研究開発グループデザインセンタの福丸諒、森真柊が、次代のマスプロダクトが新たな社会性を獲得するために求められる性質についてその展望を語ります。

[Vol.1]マスプロダクトの価値を問い直す
[Vol.2] コンヴィヴィアリティのための道具とは
[Vol.3]マスプロダクトの余白が、「ともに生きる喜び」を可能にする

画像: 長野での米作り体験を例に、「ものを作ることで生活が充実する」と語る緒方さん

長野での米作り体験を例に、「ものを作ることで生活が充実する」と語る緒方さん

福丸:
便利さや安価であることや、品質の安定を追求してきたこれまでのマスプロダクトが、「行き過ぎ」から立ち戻るためにはどうしたらいいのか考えています。そもそも、「人とともに生きる道具」としてのマスプロダクトは、どんな性質を持っているのでしょうか。ご著書では「つくれる道具」が人と生きる道具になる、との仮説を示されていますが、もう少し詳しく教えてください。

緒方さん:
僕は、作ることはより良く生きることにつながるのではないかと思っているんです。ものを作ると、生活が充実するし、楽しい。かといって全部自分で作れと言われたら、それは無理なのでバランスが大事だと思いますが。いま僕は移住先の長野県で米づくりに関わっているんですが、自分が作ったと思うと米がおいしく感じられるんです。草取りなどの作業自体も適度なリフレッシュになります。そんなふうに、作ることと生きることがもう少し重なると、面白くなるんじゃないかと思います。

福丸:
米をおいしく感じるのが成分の話ではないというところが面白いですね。草取りの経験が情緒的な価値として付加される。そういうものを作って楽しみをともに分かち合うことが、「作れる道具」の示唆する価値のような気がしました。

スマートフォンはコンヴィヴィアルな道具になり得るか

画像: 生活と切り離せないスマートフォンの問題について投げかける森

生活と切り離せないスマートフォンの問題について投げかける森

森:
ところで、スマートフォンはコンヴィヴィアルな道具になり得るでしょうか。生活を便利にするためにスマートフォンを使っているつもりが、気づいたらスマートフォンにかなりの時間を使っている、スマートフォンに使われている、というような現実もあります。

緒方さん:
難しいですよね。それは、スマートフォンというよりはインターネットとはどうあるべきかという問題かもしれないし、インターフェースの問題として、たとえばタッチスクリーンの引きが強すぎるといったことかもしれない。

福丸:
インターネットという背後にあるプラットフォームと、人とプロダクトの境界にあるインターフェースの問題と両方ありますね。そこに、物理的なプロダクトを作る我々はどう介入をすべきかを考えるべきだと思っています。

緒方さん:
個人的な話でいうと、スマートフォンはあれば見てしまいますよね。スクリーンタイム(アプリケーションやウェブサイトの利用時間を管理・制限することができる機能)を設定しても、それでセーブできるかというと難しい(笑)。米を作ったりDIYをしている間はぜんぜん見ないので、スマートフォンの外にある他の楽しみを作っていくのも大事なのかなと思いますね。

森:
「スマートフォンの外にある他の楽しみ」に、コンヴィヴィアルな道具を作るヒントが隠れているのかなと思いました。そういった、他の楽しみをスマートフォンに導入した事例として、他社のものですが、モジュール式のスマートフォンを開発するプロジェクトがありました。しかし、コスト面で頓挫してしまったという話を聞いたことがあります。

福丸:
組み立て式で、モジュールとして必要なものだけ取り付けるような携帯電話だったのですが、ユーザーの側にそれを取り付けるだけのリテラシーがなく、また、メーカーとしても取り外しができるモジュールを作ること自体のコストが高いなどの問題が生じて受け入れられなかったんですかね。

緒方さん:
それは、スマートフォン自体の価値がハードウェアじゃなかったということなのかなと思います。それと、やはりハードウェアを作ることは難しい。スマートフォン自体がすごく完成されていて真似できないものになっているので、あれをモジュールで作るのはちょっと厳しい気はしますね。それで、結局ソフトウェアの中でカスタマイズすることになったのではないでしょうか。

ハードウェアの例でいうと、自著に半導体チップの研究をしている高宮真先生との対談を掲載していますが、その中で、「半導体チップ業界には多様性がない」という話をしています。というのも、半導体チップを作るのには相当なコストがかかるため、巨大テック企業しか作れないんです。IoT分野ではArduino※を使ってプロトタイプレベルのものは作れるようになっていますが、スマートフォンをDIYできるわけではなく、いまだに良い答えは出ていません。

※ Arduino……ワンボードマイコンの一種。AVRマイコンや入出力ボードを備えた基盤とソフトウェアから構成される。専門的な知識がなくてもデジタルなものが作れるように、とのコンセプトで開発された。

福丸:
なるほど。私たちが当たり前のように使っているモノの多くが、既にともに作る喜びを分かち合うには複雑になりすぎてしまっているということかもしれませんね。

あと、スマートフォンを「共に生きる道具」にするには、スマートフォンというプロダクトだけではなく、やはりインターフェースや、提供価値を支えるプラットフォームについて考えることが必要になるなと思っています。

スマートフォンの話を聞いて、プロダクトを作る身としては、自らが生み出すモノやサービスが社会において当たり前とされるカタチや振舞いを固定化される前に、“在るかもしれない”可能性について考えを巡らせて、ユーザーとされてきた多くの人たちとの対話を通して「ちょうどいい」具合を探っていきたいなと思いました。

「関与の余白」を残す

画像: プロダクトの新たな社会性とは。探求は続く

プロダクトの新たな社会性とは。探求は続く

緒方さん:
最近、ある人が「クラフトインターネット」という言葉を使っているのを目にしました。ぼくもまさにインターネットの黎明期を通ってきているのですが、その時代は本当にクラフトだったんです。自分でHTMLを書いて、レンタルサーバ借りてといったクラフト的なことを、現代のマスプロダクトにどうつなげていけるだろうか、というのは考えますね。

福丸:
そこが我々の仮説に当たる部分です。「マスプロダクトが担うこれからの社会性とは」と問うたとき、もとより多元的な価値観の下で一緒にものを作っていくこと、価値を一緒に作っていくことが必要で、まさにクラフト的なところがこれからのマスプロダクトには必要だと思っています。

これまで安定的なプロダクトを提供してきた身としては、とにかく製品の品質を管理して担保することに意識が向きがちだったのですが、そこをあえてちょっと引き、関与の余白があるプロダクトを世に提供することで多様な価値と新たなプロダクトの美しさが生まれてくるのでは、という仮説を持っています。

緒方さんはこれからのマスプロダクトにどんなことを期待しますか。

緒方さん:
マスプロダクトだからこそできることは何かを突き詰めて、そこからプロダクトを考えられたらいいなと思っています。あえて完成形を出さず、他では絶対に作れないものを作った上で、それぞれが新たな価値を作っていくとなると、一緒にやる我々も工夫する甲斐があると思うんです。そのように、原初からの試行錯誤をユーザーと一緒にやっていくのが望ましい形なのではないでしょうか。

画像1: [Vol.3]マスプロダクトの余白が、「ともに生きる喜び」を可能にする│Takram 緒方さんと考える、マスプロダクトの新たな社会性

緒方壽人
Takram
デザインエンジニア/ディレクター

ソフトウェア、ハードウェアを問わず、デザイン、エンジニアリング、アート、サイエンスまで幅広く領域横断的な活動を行うデザインエンジニア。東京大学工学部卒業後、国際情報科学芸術アカデミー(IAMAS)、LEADING EDGE DESIGNを経て、ディレクターとしてTakramに参加。主なプロジェクトとして、「HAKUTO」月面探査ローバーの意匠コンセプト立案とスタイリング、NHK Eテレ「ミミクリーズ」のアートディレクション、紙とデジタルメディアを融合させたON THE FLYシステムの開発、21_21 DESIGN SIGHT「アスリート展」展覧会ディレクターなど。2004年グッドデザイン賞、2005年ドイツiFデザイン賞、2012年文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品など受賞多数。2015年よりグッドデザイン賞審査員を務める。

画像2: [Vol.3]マスプロダクトの余白が、「ともに生きる喜び」を可能にする│Takram 緒方さんと考える、マスプロダクトの新たな社会性

福丸 諒
日立製作所 研究開発グループ
デジタルサービス研究統括本部 デザインセンタ UXデザイン部
主任デザイナー

日立製作所入社後、鉄道情報サービスUI/UX設計を担当。2017年から未来洞察手法の研究と実践により中長期的な事業機会探索を行うビジョンデザインを推進。英国日立ヨーロッパ駐在を経て、現職。

画像3: [Vol.3]マスプロダクトの余白が、「ともに生きる喜び」を可能にする│Takram 緒方さんと考える、マスプロダクトの新たな社会性

森 真柊
日立製作所 研究開発グループ
デジタルサービス研究統括本部 デザインセンタ UXデザイン部

2023年に日立製作所に入社。プロダクトデザインの新領域探索と、社外向けDXプロジェクトのUI・UXデザインに従事。

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