[Vol.1] 地球環境のために動き出す若者たち
[Vol.2] 地球の声を聴く:研究者たちが語った世界各国の気候変動の実像
[vol.3] 未来を描く:佐座マナさんと研究者たちが語る「サステナブルな社会」への道筋
アンデス山脈の氷河融解が加速している
2023年の世界平均気温は、産業革命前と比べて1.48℃も上昇しました。観測史上最も暑い年だったと報じられています。急激に進む地球温暖化の影響は、すでに世界各地で体感できるレベルになってきました。
コロンビア出身のエフラインは、温暖化が故郷にもたらした影響について話しました。
エフライン:
私の出身地コロンビアはとても暑い国だというイメージを持っている人もいるでしょう。しかし実際は、南アメリカ大陸を縦断するアンデス山脈がコロンビアの中心を通っていて、標高5000メートルを超える地域もあります。この地域では近年、温暖化の影響により、山脈の氷河融解が加速していることが問題視されています。
美しい氷河が失われていく。問題はそこにとどまりません。氷河は周辺地域に住む人々にとっての重要な水資源です。氷河の融解スピードが加速することで、地域の農業や生活に大きな影響が出てしまいます。
周辺住民にできることは、この変化に「適応」することだけです。なぜなら、どう頑張っても彼らの努力だけでは、融解スピードをコントロールすることができないからです。
この地域に住む誰もが水の消費量を減らしています。また、ダムの貯水量も減っているため、水力発電が十分に行えず、電力も不足しているのです。温暖化の悪影響は、すでに深刻になっています。
極端な気候の変化に戸惑う中国の東北部の人々
中国東北部の黒竜江省出身だというハンは「冬の厳しい寒さ」について語りました。
ハン:
ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』をご存知なら、登場人物が長く厳しい冬の訪れを恐れて「冬来たる」とつぶやく、そのときの暗い表情を思い出してもらえばと思います。だから、私も幼いころ、地球温暖化という話を聞いたとき、「なぜ暖かくなることを心配しているんだろう?」と不思議に思ったぐらいでした。むしろ、冬の自宅は寒すぎたので、温暖化してほしいと誤解していたぐらいです(笑)
ところが、むしろ気象の変化が極端になり、冬の寒さが、より厳しくなってしまいました。黒竜江省では2023年冬、マイナス53℃の観測史上最低気温を更新したのです。
みんなが気候の変化に戸惑っています。
夏は暑くなりました。私の祖父母はエアコン嫌いで、エアコンなしの生活を長らく続けてきたのですが、周囲の人たちから「そろそろ買わないと」と説得されています。
レミさん:
日本でも、夏がいちだんと暑くなっています。小学生に聞いたら「プールサイドが暑すぎて歩けない」とか「暑すぎて外で遊ばせてもらえない日がある」と言っていました。私が小学生のころはそんなことはなかったので、驚きました。
インドの「干上がった川」が問いかける課題
インド南部出身のマニは、こんなエピソードを紹介しました。
マニ:
雨が多く暑い地域なので、子供のころ、夏休みになると家族で川に泳ぎに行きました。泳ぎ方を学んだり友達と遊んだりと、たくさんの思い出がある川です。ところが、その川はいま、完全に干上がってしまったようです。いとこの結婚式に出席するために川の近くを通りかかった母親から聞いたのですが、ネットで調べると、見る影もない干上がった川の写真が出てきました。
この干上がった川は、気候変動への対応を間違うと何が起きてしまうかを示す、好例です。
おそらく川を干上がらせてしまった原因は、温暖化だけではなく、他の原因もあるはずです。たとえば、都市計画に伴って、保水力のある森林を伐採しすぎてしまうケースは、あちこちで起きています。
参加者:
そもそも気候温暖化も、人間によって引き起こされたものですよね。我々がそれを引き起こしたという視点で、この問題にどう対処すべきかの議論を進めていくべきでしょう。
鍾:
都市開発によって地面がコンクリートで覆われると、土が持っていた保水力が失われ、洪水が起こりやすくなるそうです。人間の活動が想定外の事態を巻き起こしているケースはよくありますね。
参加者:
自然環境が持っているエコシステムに「値段」をつけるのは難しいですが、生物多様性がもたらす価値や、それが「未然に防いでくれていること」の価値を定量化できれば、人々もその重要性に気づくのではないでしょうか。
マニ:
未熟な都市計画が環境への被害をもたらすケースが、世界中で起きています。少なくとも私の故郷では、被害を未然に防ぐ代わりに、事後的な「ダメージコントロール」しかできていない。産業を育てて都市を拡充し、人を集める一方で、サステナビリティは二の次になってしまっています。うまく行っている地域のノウハウや失敗例を、世界で共有することが必要です。
マナさん:
なにかのプロジェクトを進めるうえで、サステナビリティをどこまで優先させられるかは難しい課題ですね。私も、ある企業が進めていた「生物多様性のある庭つきの家」をつくるプロジェクトが、せっかく環境的な側面ではうまくいっていたのに、収益が期待に及ばないという理由で中止になってしまったという事例を知っています。サステナビリティや環境が持つ価値への理解を、もっと広めていかなければなりません。
東京湾が「南国の海」に変化した
イタリア出身のビビは、いま暮らしている日本での体験を紹介しました。
ビビ:日本に来て6年経ちますが、東京湾でダイビングをしていると、短い時間でその生態系に大きな変化が起きていることがわかります。サンゴや南方系の魚が、目に見えて増えているのです。
海に関する議論としては、「海洋プラスチック問題」への言及もありました。
マナさん:
日本ではリサイクルやプラスチック削減の取り組みが盛んですが、河川や海にプラスチックがいつのまにか流れ込んでしまうことまで防ぎきれているわけではありません。外に捨てられたプラスチックが細かく砕かれてしまう前に、砂浜や河川のゴミ拾いをすることなども有効です。また、生分解性プラスチックなどへの置き換えも重要でしょう。
参加者:
ペットボトルの代わりに何度も使える容器を使うなど、身の回りの小さなことでも積み重なれば大きな差が生まれます。食品で汚れたプラスチックでも、ちょっと洗えばリサイクルできるケースもあるでしょう。
鍾:
今日は気候変動が世界各地で引き起こす深刻な影響を、身近なものとして聞くことができました。そのうえで、私たちはどうやって環境問題に対処していくのかを考えていきたいですね。
――ワークショップの後半では、「未来のニュース」が掲載された雑誌の見出しを考えるグループディスカッションが実施されました。深刻度を増す地球環境の問題を解決するために、テクノロジーで何ができるのか。次回は、日立の研究者たちが自由な発想で考えたアイデアを紹介します。
佐座 マナ
一般社団法人SWiTCH 代表
1995年生まれ。カナダ ブリティッシュ・コロンビア大学卒業。ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン大学院 サステナブル・ディベロプメントコース卒業。Mock COP グローバルコーディネーターとして、140カ国の環境専門の若者をまとめ、COP26と各国首相に本格的な18の政策提言を行い、世界的な注目を浴びる。COP26日本ユース代表。2021年「一般社団法人SWiTCH」を設立。2023年「Forbes Japan 30Under30」。COP28に日本政府団として参加。
佐座 レミ
一般社団法人SWiTCH 循環型アーティスト
使い捨てられ循環していなかった資源に注目し、循環型の創作活動を行う。東京・ロンドンの2拠点で活動。
1998年生まれ。2021年 ロンドン芸術大学 : Central Saint Martins 卒。2022年 Stockholm+50 UN Environment Programme日本ユース代表。2023年G7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合 開催記念イベントで、札幌市ブースのアートディレクションを担当。2024年 渋谷で感じる海プロジェクトのアートディレクションを担当。
鍾 イン
研究開発グループ サスティナビリティ研究統括本部 プラネタリーバウンダリープロジェクト デザイナー(Senior Designer)
日立製作所入社後、ロボット・AIの新事業創成プロジェクトでエクスペリエンスデザインを担当。2019年~2021年にスマートシティ分野で豪州、中国など海外顧客企業との協創案件、2022年から国内の地域案件を中心に、サーキュラ―エコノミーなど社会課題にかかわるビジョンデザイン、サービスデザインに従事。2024年からプラネタリーバウンダリープロジェクトに所属。
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