[Vol.1] 地球環境のために動き出す若者たち
[Vol.2] 地球の声を聴く:研究者たちが語った世界各国の気候変動の実像
[vol.3] 未来を描く:佐座マナさんと研究者たちが語る「サステナブルな社会」への道筋
食べたフルーツの皮を石鹸に変える
鍾:
未来の可能性や技術の進化をフィクションの形で描くことで、新たなアイデアや展望を創出するデザイン手法「SFプロトタイピング」という手法があります。ここからのグループディスカッションでは、この手法を使った簡単なアイデア出しをします。世界の環境が変化した先、環境問題の解決策としてどのような「未来のニュース」が出てきそうか、自分たちの知見や関わってきた事業などもふまえながら考えてみましょう。
イタリア出身のハスナウイのグループが提案した「未来のニュース」には、「グリーン水素の復活(GREEN HYDROGEN IS STRIKING BACK)」という見出しが付いていました。
ハスナウイ:
グリーン水素とは「生成過程でCO2を排出しない水素」のことです。環境に優しいとされる水素の燃料電池も、生成のために化石燃料を使うとなると、CO2削減効果が薄れてしまいます。そこで「グリーン水素」なのですが、生成にコストの高いグリーンエネルギーが必要なこともあって、このところ話題にのぼることが減ってしまっている気がします。
しかし、そのポテンシャルは大きい。水素燃料電池の実用化も進められていて、たとえば日立が開発に携わった水素燃料電池で動くJRの鉄道車両「HYBARI(ひばり)」が国内で試験走行しています。より効率的に作り出す研究が進めば、グリーン水素の重要性が改めて認識されるようになるでしょう。
私たちのグループでは、もう一つ「石鹸じゃなくて、フルーツを使おう(FORGET ABOUT SOAPS, USE FRUITS)」というアイデアも出ました。
こちらは近所のスーパーで自分の食べた果物の皮を使って、石鹸を作れるようにならないだろうかというアイデアです。大きなビジネスにはならないでしょうが、好きな果物を選んで食べ、残った部分を好きな香りの石鹸にできたら、夢があると思いませんか?
修理しながら一生使える電子機器
インド出身のガリマが発表した見出しは「修理しながら一生使えるエアコンが、サステナビリティの新たな可能性をもたらす(Lifetime Repairable AC unit: Game changer in Sustainability)」でした。
ガリマ:
これを現実にするためには、現在の仕組みを大きく変えなければなりません。
残念ながら現在は、購入者が修理しながら一生使い続けるという前提で開発されている工業製品は、ほとんどありません。たとえば、みなさんが持っている携帯電話も、壊れたら簡単には修理できないですよね。
サステナブルな製品づくりのためには、電子機器の廃棄物(E-waste)を回収・分別して、そこから材料を取り出しリサイクルする。また、本体のボディなど、使い続けられる部分はそのまま再利用する。そういった仕組みをつくっていく必要があります。
鍾:
そうですね。たとえば靴でも、靴底はすり減ってしまったけど、アッパーはまだまだ大丈夫といったことはよくあります。製品パーツの耐久性がそれぞれ違うケースはよくあるので、その違いを計算に入れて設計することで、より長く使ってもらえるモノが作れるかもしれませんね。
参加者:
それとは逆に、購入サイクルを短くするために、あえて「計画的陳腐化」という戦略をとるメーカーもあります。でも、もしユーザーの環境意識が高まれば、そういった戦略は通用しなくなるかもしれません。
環境問題を解決するテクノロジーへの期待
レミさん:
私たちのグループで考えたのは「海からプラスチック除去に成功(0 plastic out in the ocean)」です。
2050年ごろには海にあるプラスチックの総重量が、魚の総重量を上回ってしまうと言われています。陸から海の流入阻止はともかく、いったん海に流れ込んだプラスチックを除去するとなると、その難易度は高まります。
具体的な手法・技術についてはあくまで私自身の個人的なイメージですが、再生可能エネルギーを利用しながら漁業用のネットなどで回収していくといったものを思い描いています。
厳しい現実に立ち向かうための「希望」
ハスナウイ:
これだけ地球環境への意識が高まりつつある中でも、データから予測される未来は厳しいものです。マナさんやレミさんは厳しい現実を見つめたうえで、それでも未来への期待をポジティブに伝えていくことが重要だと思いますか?
マナさん:
もちろんです。ネガティブなことばかりを言っていても、誰も聞いてくれないですよね。今日は技術者のみなさんと会話ができて、テクノロジーで解決できることがたくさんあると感じられたのは大きな収穫でした。
「厳しい現実」と言えば、国や地域によって環境問題をめぐる社会の実情が異なるのも大きな課題です。
ガリマ:
私たちのグループのディスカッションでは、「北半球の先進国(グローバル・ノース)が南半球の発展途上国(グローバル・サウス)に対して、技術的な解決策を押し付けることが多く、地元の環境やニーズを十分に理解していない」という意見が出ました。
マナさん:
環境問題の議論で重要なのは、どうやって「社会的な合意」を作っていくかです。本来、どんな事情があったとしても、社会的な地位や暮らしている国が全く異なっていたとしても、地球環境の問題はみんなにとって重要なテーマのはずです。
それを伝えていくには、どうすればいいのか。
忘れてはならないのが、これが社会・経済的な問題でもあるということです。環境問題を落ち着いて語り合い、共通のゴールを見つけるためには、社会や経済の安定性が必要です。
伝え方の問題もあります。大衆に向かって「世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて1.5℃に抑えよう!」と言っても、伝えたいメッセージはなかなか届かない。
それでも、私は強い希望を持っています。環境問題の重要性をわかっている人が世界中にたくさんいて……今ここにもいますよね。私はみんなが力強い、そして真摯なメッセージを周囲に伝えていけば、利害対立や政治的な駆け引きを超えて、前に進んでいけると信じています。
佐座 マナ
一般社団法人SWiTCH 代表
1995年生まれ。カナダ ブリティッシュ・コロンビア大学卒業。ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン大学院 サステナブル・ディベロプメントコース卒業。Mock COP グローバルコーディネーターとして、140カ国の環境専門の若者をまとめ、COP26と各国首相に本格的な18の政策提言を行い、世界的な注目を浴びる。COP26日本ユース代表。2021年「一般社団法人SWiTCH」を設立。2023年「Forbes Japan 30Under30」。COP28に日本政府団として参加。
佐座 レミ
一般社団法人SWiTCH 循環型アーティスト
使い捨てられ循環していなかった資源に注目し、循環型の創作活動を行う。東京・ロンドンの2拠点で活動。
1998年生まれ。2021年 ロンドン芸術大学 : Central Saint Martins 卒。2022年 Stockholm+50 UN Environment Programme日本ユース代表。2023年G7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合 開催記念イベントで、札幌市ブースのアートディレクションを担当。2024年 渋谷で感じる海プロジェクトのアートディレクションを担当。
鍾 イン
研究開発グループ サスティナビリティ研究統括本部 プラネタリーバウンダリープロジェクト デザイナー(Senior Designer)
日立製作所入社後、ロボット・AIの新事業創成プロジェクトでエクスペリエンスデザインを担当。2019年~2021年にスマートシティ分野で豪州、中国など海外顧客企業との協創案件、2022年から国内の地域案件を中心に、サーキュラ―エコノミーなど社会課題にかかわるビジョンデザイン、サービスデザインに従事。2024年からプラネタリーバウンダリープロジェクトに所属。
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