
田島 和幸
Hitachi Europe Ltd., European R&D Centre (Senior Researcher)
2012年 日立製作所 横浜研究所に入社。次世代光ディスクドライブ、レンズレスイメージング、遠隔作業支援向け3Dセンシングの研究開発を担当。
2022年より日立ヨーロッパR&Dに出向、企画業務に従事。
「ノーと言える我が子」から学ぶ
いまイギリスで仕事をしながら3歳と5歳の子どもを育てています。子どもたちは人生の大半をイギリスで育っていることもあり、気質がだんだんとこちらに寄ってきているのを感じます。具体的には、ノーと言える子になってきていますね(笑)。
つい先日遊園地に行ってコーヒーカップの遊具に乗ろうとしたときに、ちょうど緑色のカップが回ってきたんです。「これに乗る?」とスタッフが勧めてくれたのですが、即座に「ノー」と言ってピンクのカップの方へすたすたと歩いていってしまいました。その言い方もすごいんですよね。人差し指を立てて軽く振って、「ノー」って(笑)。
とにかく自己主張が強いので、子育てにも工夫が必要です。夏に旅行で泊まったホテルが二段ベッドだったんですが、そこで子どもがベッドを家に見立てて遊び始めたんです。備え付けのタオルを仕切りにして、「ここがわたしの部屋ね!」と。かなり集中して楽しく遊んでいたのですが、そのホテルにはプールがあって、せっかくだからプールにも連れていきたい。上の子は早くプールに行きたくてしびれを切らしているわけです。シンプルに「プールに行こうよ」と誘っても、もちろん返事は「ノー」ですし(笑)。困っちゃったのですが、苦しまぎれに「プールに行くと大きいタオルをもらえるから、それをおうちづくりにも使えるよ!」と代案を出したところ、「まあ、それならいいか」みたいな顔をしてやっと行く気になってくれました。
ただ、よく考えてみるとこれって大人と接するときにも似ているのかもしれませんね。仕事の上でなんらかの交渉や調整が必要な場面はよくありますが、やっぱり大人だって頭から「ダメです」だけじゃ納得できないんですよね。「これは難しいけれどこういう形だったらできるよ」という持っていき方が大事なんだということを、子どもとのやりとりから改めて学んでいる気がします。なにしろ子どもはこちらの事情なんて全然おかまいなく自分の主張を通そうとしますから(笑)、交渉術を子どもに鍛えてもらっている感じですね。
「その日のうちに来てくれて良かったじゃない」
イギリスは子育てしやすいと感じます。ロンドンなどの都市部にも大きな公園がたくさんあるのもいいですね。日本では公園に関する規制が厳しくなってきていると聞きますが、こちらには、日本ではあまり見かけないような大型の遊具などもたくさんあります(笑)。チャイルドフレンドリーな人も多く、子連れだと話しかけられやすいです。
子連れのとき以外にも話しかけてくるのはだいたいアニメファンです。「日本の人ですか?わたしは日本のアニメがすきです」と日本語で話しかけてくる人もけっこういます。とはいえ日本語はそこまでで後は英語なんですが、それでも、わざわざ言葉を覚えてまで自分の好きなものを伝えようとする、そのパッションがすごいですよね。アニメのキャラクターを彫ったタトゥーを見せてくれる人もいます。それも別に知り合いとかじゃなくて、道を歩いてくると「見て!」とやってくる。日本と比べてタトゥーが一般的なので、気軽に好きなキャラクターを彫っているようです。けっこう上手に彫ってあるんですよ(笑)
そんな彼らをみていると、日本人と比べて「自分」を真ん中に置いていると感じます。みんな割と時間にはおおらかですね、ロンドンはビッグベンの街なのに(笑)。部屋を午前中に修理したいと頼んでおいたのに来たのは夕方だった、なんてことは日常茶飯事です。同僚に話しても「その日のうちに来てくれてよかったじゃない」という反応です。日本の鉄道は時間に正確なことで有名ですが、「イギリスでは時間に正確なことをアピールしてもぴんと来ないよ。誰も時間を気にしないから」と言われたこともあります。自分中心な分、他者に対しては寛容なのかもしれません。
大人の僕がそのマイペースさに翻弄されている間に、我が子の方は順応力を発揮してどんどん育っています。言葉や行動が日に日に変わっていくのを見ているのはとても面白いし、人間ってすごいなと心強く感じます。いま日本もイギリスも少子化が問題になっていますが、こんなに早いスピードで成長する子どもたちがたくさんいれば、国もまだまだ成長していけるんじゃないかと思いますね。

イギリスの公園にある遊具で楽しそうに遊ぶお子さまの様子
編集部より

今回の取材中、ご担当されている地域はヨーロッパだけでなく中東も管掌エリアと伺いました。そういった経緯からサウジアラビアには行ったことがないので、行ってみたいとおっしゃっていました。そんな田島さんは日本光学会の学会誌「光学」第52巻 第6号(2023年6月)にも解説記事が掲載される実力者の1人。イギリスでさまざまな経験をされ、吸収されているので、サウジアラビアに行かれた際は感想を編集部までお聞かせください!【編集M記】