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人生100年時代と呼ばれるいま、生涯にわたって健康で活動的な生活を送ることをめざす「健康寿命」の考え方がクローズアップされています。しかし、年齢を重ねれば重ねるほど、病気と無縁ではいられなくなるのも事実です。健康とはいったいどういう状態を指すのでしょうか。私たちはどうしたら健康的な生活を送れるのでしょうか。さいたま市で高齢者が働くものづくりの職場 BABA lab(ババラボ)を主宰し、人々が「長生きするのも悪くない」と思える仕組みづくりに取り組む桑原静さんと、全世代型の疾病予防・健康づくりのための「健康・医療情報分析プラットフォーム」などデータを活用した医療・介護支援の研究開発に携わる日立製作所の髙田実佳が、シニア世代が直面する健康のリアルについて、また、健康とのより良い向き合い方について語り尽くします。
画像: ひときわ目を引く布ぞうりは、BABA labさいたま工房に集まるシニアの皆さんが作ったもの

ひときわ目を引く布ぞうりは、BABA labさいたま工房に集まるシニアの皆さんが作ったもの

健康=病気でないこと?

髙田:
桑原さんはシニアの方に近い立場で、私は保健師さんなどシニアの方をサポートする人たちに近い立場で、それぞれ超高齢社会の「健康」と日々向き合っています。そもそも「健康」ってどういう状態なんでしょうか。

桑原さん:
なかなか難しいですね。髙田さんの研究の場ではどんなふうに定義されているんですか。

髙田:
疾病予測の研究では、「健康である」ということ自体の定義は難しいです。そこで、「病気でないこと」、病気の診断が下されておらず、支援の手を借りずに自分の力で生活できる状態、フレイル※でもない状態のことを「健康」に相当する状態とみなしています。

※フレイルとは……自立して生活できる健康な状態と支援を必要とする要介護状態の中間に位置する状態のこと。現時点では問題がなくても、少しのストレスがかかると身体機能障害に陥る可能性がある。

桑原さん:
でも、実際には40歳を過ぎたあたりから、ほとんどの人が健康診断で何かしらの指摘を受けますよね。私も周りの人から「元気でいいわね」と言われますが、健康診断にはしっかり引っかかっているので(笑)、健康ではないということになってしまいますね。また、BABA labさいたま工房に来ている95歳の方が、先日、手指の関節の検査をしたと言っていましたが、年齢を重ねれば指が曲がりにくくなるのは自然なことです。それでも何か病名をつけることはできてしまう。そう考えると、病気や不調があったとしても健康でないとは言い切れません。それならば健康とはいったい何なのかと考えてみると、誰かのサポートを受けながらでも自分で動けるかどうか、自力で生活できるかどうかが指標のひとつになる気がします。

画像: 年をとればある程度の病気や不調があるのは自然なこと、と語る桑原さん

年をとればある程度の病気や不調があるのは自然なこと、と語る桑原さん

自分で生活できるかどうかが指標になる

桑原さん:
自分自身が年齢を重ねて思うのは、病気や不調は簡単に治るものではない、ということです。年をとればとるほどいろいろなものを抱えて生きることになる。ずっとつきあっていくものだという気がします。それなのに、抱えている不調全部について病院を受診して、いちいち診断名がついて……とやっていったらもう大変です。医療費も増える一方ですよね。

髙田:
症状の中には、それこそもう年齢だから仕方のない部分もありますし、病気を重く捉えすぎない方がいいのかもしれませんね。

桑原さん:
そうですね。ただ、やはり、診断されると気持ちが重くなってしまうんですよね。それがいやで健康診断に行かない人もいます。

髙田:
その気持ちもよく分かります。でも、そうなると病気があっても分からないので、身体の状態はますます悪くなってしまいます。そう考えると健康診断は体重計と似ていますね。体重計は、太ったと思ったときこそ乗るべきなのに、太ると乗りたくない(笑)。

桑原さん:
体重って、気にしてない時の方が意外と痩せていたりしますしね。「健康じゃないかも」と気にしすぎるとむしろ健康から遠ざかってしまうのかもしれません。

髙田:
いきなり数値で見てしまうとショックが大きいんですよね。いまは科学的根拠に基づく医療や介護が重視されていますが、診断の結果については伝え方をきちんと考えないと、患者にショックを与えるだけになってしまう危険がありますね。

画像: 「健康診断は体重計に似ている」と髙田

「健康診断は体重計に似ている」と髙田

“いきいき”しないとダメですか?

髙田:
BABA labのサイトには「“いきいき”しないとダメですか」というメッセージが載せられています。どんな意味を込めているんですか。
桑原さん:
シニア向けの施設には「いきいきサロン」とか「すこやかサロン」といった名称が使われていることが多いですよね。シニアはなぜか健やかでいきいきしていることを常に求められている。そういうプレッシャーが良くないと思うんです。だって、そんなにいきいきもしていられない日だってありますよね。

髙田:
たしかにそうですね。

桑原さん:
「いきいき」というと、趣味もやってボランティアもやって、地域のことにも目を配って……と精力的に過ごす人のイメージが浮かびますが、それが心地いいと感じる人ばかりではありません。それよりは自分にとって無理のないように生活できればいいんじゃない?と言いたくて、あのメッセージを載せています。

髙田:
BABA labというネーミングもインパクトが強いですよね。「おばあちゃん」と言われることに抵抗がある人もいると思いますが、あえてこのネーミングにしたのはなぜですか。

桑原さん:
ちょっと失礼かなって最初は思ったのですが(笑)、でも、何かやるにはインパクトが必要だなと思って、思い切ってつけたんです。いちおう、周りのシニアの先輩方に聞いたんですけど、「別にいいんじゃない?」という意見も多かった。いまはもう「婆(ばば)」の意味を離れて記号のようになっていますし、「ジジラボをやりたい」と言ってくれる男性もいるぐらいなので、BABA labという名前をつけて良かったと思っています。

――超高齢社会を迎え、シニアに向けた施策やサービスが充実しつつありますが、そこには高齢者自身の本音が反映されているといえるのでしょうか。Vol.2では、隠れてしまいがちなシニアの本音を聞き取る必要性やその工夫について、引き続き桑原さんと語り合います。

画像1: [Vol.1]「いきいき生きる」って何ですか?│Baba lab桑原さんと考える、健康な人生の過ごし方

桑原静

1974年埼玉県生まれ。日本大学芸術学部卒。ウェブコミュニティーの企画運営に携わった後、NPO法人「コミュニティビジネスサポートセンター」に勤務。2011年に「シゴトラボ合同会社」を設立し、高齢者が働くものづくりの職場「BABA lab(ババラボ)さいたま工房」を開設。22年、社名を「合同会社ババラボ」(通称「BABA lab」)に変更。シニアの居場所づくり支援、シニア向けのサービスや商品開発を行う。

画像2: [Vol.1]「いきいき生きる」って何ですか?│Baba lab桑原さんと考える、健康な人生の過ごし方

髙田実佳
日立製作所 研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部 デジタルサービスプラットフォームイノベーションセンタ データマネジメント研究部 リーダ主任研究員。

富山県富山市生まれ。早稲田大学BEng、MEng、The Univ. of Georgia MS修了。2012年日立製作所入社後、データマネジメントに関する研究に従事。2016-2019年Hitachi America, Ltd.に出向し、米国でのヘルスケア領域における人工知能(AI)による疾患予測を用いたソリューションの開発に始まり、2019年以降は日本国内でのAIによる医療・介護支援ソリューションとそれを支えるデータマネジメント技術の開発に従事。2023年より現職。

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