
手島久典
研究開発グループ Digital Innovation R&D システムイノベーションセンタ
社会インフラアーキテクチャ研究部 リーダ主任研究員(Unit Manager)
2009年日立製作所入社。鉄道を中心としたモビリティシステムの研究開発に従事。特に、安全・安定な列車運行を支えるシステムである運行管理システムや信号保安システムが専門。研究所勤務以外では、鉄道会社への出向、大みか工場や水戸工場への転属などを通じた設計・開発業務を経験。
苦手なものを克服し続ける、修行僧的な人生
プライベートで列車に乗るとき、つい鉄道システムのユーザー視点で見ていることが多いですね。ダイヤが乱れたときも、「多分こういうことが起きてるんだろうな」「こういう対応になるんじゃないかな」などと想像しています(笑)。というのも、入社以来、運行管理システムから始まり、鉄道システムのさまざまな部分に携わってきたので、鉄道システムに関する知識の広さは社内一といっても過言ではない…!自分だけではなくさまざまな分野の知識をもっている研究者が日立には多くいるので、それぞれの研究内容を可視化してつなげていくことで、もっと多様なソリューションを生み出したい、というのが私のライフワークにもなっていますね。
私は、仕事は楽しくあるべきだと思っています。鉄道の仕事は安全を預かるものですから、もちろんストレスも多いのですが、それを楽しく、クオリティ高くやることができれば、幸せに働けるはずだと思っています。
とはいえ、もともと電車好きかというとそんなことはなくて、実は、列車に乗っていると酔います(笑)。「列車が苦手なのに鉄道の仕事は辛くないですか」と聞かれることも多いのですが、そう言ってしまうと、私には苦手なことしかありません。小さい頃からずっと、これといって得意なことがないんです。苦手なことを克服し続ける、修行僧的な人生です。
たとえば、小さい頃から運動が大の苦手だったのですが、「このままではダメだ」と思い、高校生のときに一念発起して運動部に入部しました。大学でも別のスポーツに取り組み、いまでは普通に運動を楽しめるように。苦手なことだらけなのに、苦手なことがあるのが不満なんですよね。だから、どうにかしたいというモチベーションで動いているんだと思います。
無趣味人間から「お茶の人」に
「趣味」という言葉が嫌いです(笑)。好きでやっていることがあっても、すぐに「趣味と名乗れるほどのレベルではない」と考えてしまうんです。とはいえ、趣味を聞かれるたびに「ありません」というわけにもいかないと思い、社会人になってから、会社でできる趣味(に近い何か)を考えることにしました。
そこで思いついたのが、会社でお茶を淹れて飲むこと。始めはティーバックで淹れていたのですが、だんだんお茶の種類が増えたり、急須やカップ&ソーサーを導入したりと充実していきました。職場でも「お茶の人」として認知されています(笑)。職場でお茶会を開いて、メンバー間のコミュニケーションに少々役立ったりもしています。
興味をもつとなんでも調べたくなるタイプで、Wikipediaを見ているうちに休日が過ぎていくこともあるほどです。ウイーンに出張に行く時にはウイーンの街について「そもそもここになぜ街ができた?」というところから調べます(笑)。根本的なことから押さえて、全体像を知っておくことで安心できるタイプなんです。
お茶についてもいろいろと調べました。淹れ方もそうですが、まずは「ツバキ科ツバキ属の常緑樹で」といった植物学的なところから始まり、お茶の歴史や種類の違いといった根本的なことを調べていくうちに、霧が晴れるように全体像が見えてくるんです。いまでは気分やシチュエーションに合わせて茶葉を選べるようになってきました。

会社オフィスの自席の机上
システム研究はアートに似ている
皆さん、そもそも鉄道システムってどんなものだと思いますか?鉄道を走らせるために必要なことを俯瞰してみると、まず線路や橋、トンネルなどと、それを行うための土木工事が必要です。鉄道の敷設に耐えられるよう地盤も固めないといけません。その上に走る列車が必要ですし、列車を動かすための運転士さん、車掌さんが必要です。電車ならば送電線や変電所が必要です。事故を防ぐ信号設備や通信設備、ダイヤが乱れたときの対応システムも必要です。設備のメンテナンスもしなければなりません。お客さまを乗せるには、駅舎を作って、その中にはエレベーターや改札機、券売機などを一つひとつ作っていかなくてはいけません。運行状況をお客さまに案内する必要もあります。きっぷを発券したり、特急列車の座席予約もできなればなりません。最近だと交通系ICカードは電子マネーとしても使えるので、決済系システムとの連携も必要です。とまあ挙げればきりがありませんが、鉄道システムは、これらがすべて有機的につながることで成り立っています。
近頃、システム研究はアートと似ていると感じます。システムは複数のコンポーネントの組み合わせですから、コンポーネントが増えればその分システムも指数関数的に増えていきます。そのなかから適切なものを選択していくのはとても難しいことです。むしろ、コンセプトや哲学にしたがってあるべき形にデザインしていった方が良いものが生まれるかもしれません。そこがアートに近いと感じます。
また、システムは外の世界とつながるものなので、時々刻々と変化します。一度いいものを作ったらあとはそれを維持すればいいというわけにはいきません。外界の変化に応じてメンテナンスしたり次の時代に向けて発展させたりといった継続的な変容が、いまシステムにとって非常に重要だと思っています。変容には明確なルールがあるわけではないので、やはりそこにはアート的な視点が必要なのではないかと思っています。
そういうわけで、私は安定には興味ないんです(笑)。現状に満足して留まっていては、変化に適応できません。どうにかしてよりよい形に変えていこうとする、修行僧的なあり方でシステム研究とも向き合っていきたいと思っています。
編集部より

プライベートでは疲れを癒しに箱根まで車で温泉にふらっと行けるところに住んでいるという手島さん。「在宅勤務が多いので、都内へ行く際は新幹線を活用することで満員電車を避けられるんです!」と語ってくれました。お客さまとよりよい議論をするために交通アナリティクスラボを運営・拡充してくださり、常に高みをめざして研究活動をされているのが印象的でした。【編集M記】