Hitachi
お問い合わせお問い合わせ
日立製作所が2010年にまとめた未来洞察シナリオ 25のきざしをテーマにした座談会。前回は「環境に対する価値観の多様化」の背景を考えましたが、今回は「Micro Eco:エコ分解能の向上」というきざしに注目します。そこで描かれたのは「私が納得、実感できるEco生活」を求める都市生活者の姿です。15年後の今、人々の行動はどう変化しているでしょうか。プランナーの篠原宏一さんとサステナビリティ コンサルタントの薗田綾子さんが、日立製作所のデザイナーたちと「環境に関する行動の変化」についてディスカッションします。

[Vol.1] 環境に対する価値観は15年間にどう変化したか
[Vol.2]「私が納得できるエコ」を求めて

私が納得、実感できるEco生活へ

的場:
ここで取り上げるのは「Micro Eco:エコ分解能の向上」というきざしです。1つ目の「Beyond Green:環境に対する価値観の多様化」は、その言葉が示すように、人々の「価値観」の変化に焦点をあてていましたが、「Micro Eco」は環境に関する「行動」の変化に着目しているといえます。

「社会のEco活動」から「私が納得、実感できるEco生活」へ、人々はエコに関する行動をとるために、自分が納得できるような直接の動機を欲するようになるだろうと推測していました。

篠原さん:
このきざしが提示された2010年から現在まで、人々の行動の変化をどう評価していますか。

的場:
2025年のかなり手前で、生活者の行動の変化が明確になっています。節目は2020年ですね。プラスチック製のレジ袋が有料化されて、エコに関する行動が大きく変わりました。今では、エコバッグを持って買い物に行くのが当たり前になりました。法規制によって、人々の行動が変わったケースの1つといえます。

他の事例として、鹿児島県大崎町や神奈川県鎌倉市のように、ごみの焼却施設の稼働を停止する自治体が現れています。ごみの減量・資源化を進めるため、大崎町は27品目、鎌倉市は21種類と、非常に細かくごみを分別して収集する取り組みをしています。そのようなコミュニティの活動を通して、生活者の行動が変化しています。

ストーリーがエコ意識を変えていく

薗田さん:
エコバッグといえば、私が持っているバッグはある廃材から作られています。みなさん何か分かりますか?(笑)

画像: 薗田さんがバッグの素材について、問いかけた

薗田さんがバッグの素材について、問いかけた

実は、「漁網」を素材にして作られています。これも「Micro Eco」の一つですね。

鍾:
バッグの外見からは、漁網を材料にしているとわかりませんね!

薗田さん:
この漁網は、サケやマスなどを獲るためのプラスチック製の網です。昔は穴が開くと修理して使っていたのですが、今は安く大量に生産できるので、1〜2年で廃棄されてしまい、その一部は海に流出して問題となっていました。でも最近、プラダなどのハイブランドが漁網を素材にしたバッグを販売するようになって、すごく人気になっています。

日本でもさまざまな企業が約30社も連携して、こうしたバックや文具、スポーツ用品などが作られています。リサイクル素材を活用した商品づくりは採算が合わず、商品化が難しいと言われますが、業種の異なる多様な企業が協力することで、こういう素敵なものが作れるようになりました。

画像: バッグの素材として、リサイクルされている漁網

バッグの素材として、リサイクルされている漁網

鍾:
環境問題について、いろいろな人に興味を持ってもらうきっかけになりそうですね。

薗田さん:
重要なのは、ストーリーなんですよね。デザインや機能性も優れたバッグですが、このバッグのストーリーを語ることで、より多くの人たちと環境に関する会話をすることができます。ある高校でワークショップを開いたときも、バッグの話をしたら、生徒たちが「ほしい」と言っていました。そういうストーリーに共感してもらい、「素敵だな」「クールだな」と感じてもらう取り組みが、これからもっと重要になっていくと思います。

画像: 2010年に作成された 25のきざし のパンフレット。環境に関するきざしも取り上げられている

2010年に作成された 25のきざし のパンフレット。環境に関するきざしも取り上げられている

双方向な体験で「エコ」に目を向かせる

篠原さん:
環境をテーマにした展示でも、まさにストーリーをどう伝えていくかがカギになりますね。例えば、いま見せていただいた漁網から作られたバッグをただ置いておくだけでは、その価値は伝わりません。バッグは何からできているのか、どんな環境の課題が背景にあるのか、どのようにして作られたのかというストーリーを伝えていくのが、大切だと考えています。

そのモノの「環境」に関する背景を伝える。その伝え方によって、人々が環境について興味をもち、前向きに考えるきっかけを作れればいいなと思います。実際には複雑な背景や事情がさまざまに絡み合って存在しているものですが、そのような点をうまく咀嚼しながら、モノが持つストーリーを具現化していけるとよいなと思います。

的場:
篠原さんがプランニングを担当した「エコルとごし(品川区立環境学習交流施設)」の展示を体験してみましたが、フード・マイレージのコーナーが面白かったですね。展示されている食品の模型を手にとって、コンビニのレジみたいに「ピッ」とやると、その食品の輸送距離がモニターに表示されるという仕掛けです。

ヨーロッパでは、CO2の排出量を商品のラベルに表示する取り組みがされていますが、それだとラベルをさっと見て終わりになってしまいがちです。でも、自分で食品のバーコードをスキャンして、表示された数値を確認するインタラクティブな体験を通すことで、情報の受け止め方が違う感じがします。そういう設計ができているのが、すごく素敵だなと感じました。

篠原さん:
フード・マイレージの展示については、ただ単に文字で情報を伝えるだけでは、その意味が伝わりにくいだろうと考えました。そこで、日常生活でなじみがあって、自分でやってみたら楽しそうなものとして、レジに食品を通して情報を出すという体験をしてもらうように企画したんですが、うまく印象に残る形で伝わったのならばうれしいですね。

画像: 篠原さんが手がけた「エコルとごし」の展示コーナー

篠原さんが手がけた「エコルとごし」の展示コーナー

それぞれの「エコの動機」を見つけられるように

鍾:
このフード・マイレージのレジ体験も、人それぞれの「Micro Eco」を考えるきっかけになりそうです。エコの分解能を高めるためには、環境問題を自分ごととして捉えてもらう必要があります。そのときに大切なのは、違う人には違うアプローチで伝えることではないでしょうか。

例えば、エコに関するストーリーが、ある人の心を打つものだとしても、日常生活に追われている別の人には響かない可能性があります。そういう人には、別のストーリーで伝えるか、あるいはエコの行動が社会の仕組みに組み込まれる必要があるのかもしれません。そのとき、日立のような企業がテクノロジーの力で「手に届きやすいエコ」を作っていけると良いなと思います。

的場:
確かに「Micro Eco」のキーワードとして挙げられている「直接の動機」というのは人それぞれです。レジ袋の数円を払いたくないからエコバッグを使うという人もいれば、背景にあるストーリーに共感するからエコ製品を買うという人もいます。それぞれの人が自分に合った「エコの動機」を見つけられるようにする、ということが大事なのかもしれません。

画像: 環境問題に目を向かせるストーリーの重要性について、意見が交わされた

環境問題に目を向かせるストーリーの重要性について、意見が交わされた

――次回は、「多世代が学び合える場」をテーマに、地域のつながりの新たな可能性を探ります。異なる世代や立場の人々が集まり、環境や社会課題について考える場が、どのように地域の力を高めていくのかを議論します。

取材協力/品川区立環境学習交流施設「エコルとごし」

関連リンク

画像1: [Vol.2]「私が納得できるエコ」を求めて|未来洞察シナリオから考える将来の社会

篠原 宏一
株式会社丹青社 プランナー

2007年、静岡大学大学院教育学研究科修了。主にミュージアムなどの文化施設、文化催事などの展示において、情報・体験・コミュニケーション全般の企画を担当。近年は自然や環境、サステナビリティに関するテーマ、マンガを始めとするジャパンカルチャーに関するテーマなど、国内外で社会的潮流となっているテーマの空間づくりに積極的に取り組む。2022年5月に新設された品川区立環境学習交流施設「エコルとごし」の展示のプランニングを担当。静岡大学非常勤講師。

画像2: [Vol.2]「私が納得できるエコ」を求めて|未来洞察シナリオから考える将来の社会

薗田 綾子
サステナビリティコンサルタント

1988年、株式会社クレアンを設立。これまでに、多数の企業のサステナビリティ経営コンサルティングやサステナビリティ・統合報告書の企画制作を支援。公益財団法人みらいRITA代表理事、NPO法人サステナビリティ日本フォーラム理事、三菱地所株式会社 社外取締役、株式会社ロッテ 社外取締役、一般社団法人ALLIANCE FOR THE BLUE理事、内閣府 地方創生SDGs官民連携プラットフォーム 幹事、また次世代への教育活動として、大学院大学至善館 特任教授などを務める。

画像3: [Vol.2]「私が納得できるエコ」を求めて|未来洞察シナリオから考える将来の社会

鍾 イン
日立製作所 研究開発グループ Next Research プラネタリーバウンダリープロジェクト デザイナー

日立製作所入社後、ロボット・AI の新事業創成プロジェクトでエクスペリエンスデザインを担当。2019 年~2021 年にスマートシティ分野で豪州、中国など海外顧客企業との協創案件、2022 年から国内の地域案件を中心に、サーキュラ―エコノミーなど社会課題にかかわるビジョンデザイン、サービスデザインに従事。2024 年からプラネタリーバウンダリープロジェクトに所属。

画像4: [Vol.2]「私が納得できるエコ」を求めて|未来洞察シナリオから考える将来の社会

的場 浩介
日立製作所 研究開発グループ Digital Innovation R&D デザインセンタ ストラテジックデザイン部 デザイナー

2009年日立製作所入社。鉄道車輛や計測・分析装置のプロダクトデザイン、UI/UXデザインを担当した後、2016年より将来の社会課題を探索するビジョンデザインに従事。人視点の未来洞察「経済エコシステムのきざし」、家電・ロボットのビジョンシナリオ、神奈川県三浦半島でのフューチャー・リビング・ラボの研究を担当した。

[Vol.1] 環境に対する価値観は15年間にどう変化したか
[Vol.2]「私が納得できるエコ」を求めて

This article is a sponsored article by
''.