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効率を求めて最適化してきたはずの組織なのに、なかなか成果が出ない。協力し合っているはずなのに、メンバーが疲弊している。──そんな課題を感じたことはないでしょうか? それは、私たちの働き方がいま大きな転換点にあるからかもしれません。楽天大学学長の仲山進也さんが提唱するのが、縄文時代の協創的な関係性をアップデートした「縄文2.0」です。縄文時代に学ぶ新たな組織のあり方について、仲山さんと日立製作所 フェロー 兼 ハピネスプラネット代表取締役CEOの矢野和男が語り合います。

[Vol.1]「三角形のつながり」で、変化する時代を生きる
[Vol.2]「お題設計アプローチ」でチーム力を伸ばす
[Vol.3]「縄文2.0」と幸せなチーム作り

画像: 「縄文2.0」の概念について詳しく説明する仲山さん

「縄文2.0」の概念について詳しく説明する仲山さん

分業型ヒエラルキー組織の起源をさかのぼる

矢野:
仲山さんの提唱する「縄文2.0」について教えてください。

仲山さん:
これまで、自律的な組織やチーム作りを探究する中で、分業化が進みすぎたヒエラルキー組織の弊害を感じていました。そういう分業型のヒエラルキー組織はいつできたんだろうと遡って考えてみたら、弥生時代に稲作が始まったときだと気づきました。稲作は、一人ではできないから手分けして、自分の与えられた役割をこなすことが生産性を最大化します。一年間でどの時期にどんな作業が発生するかもだいたい計画できるので、その計画をうまく立ててみんなを動かすことができる人がボスになっていったんだと思います。

それに対して、弥生時代の前にあたる縄文時代にはボスがいません。長老はいるけれど、ボスではない。フラットなコミュニティで、イノシシをとったらみんなで分けて食べますし、他のムラとの関係性も、海の塩をもらってイノシシをあげるような、強みを物々交換する共創パートナーとしてつながっています。これが弥生時代になると、米の取れ高を上げるためには隣のムラの土地を奪う必要があるので、競争関係になります。

そんなふうに、縄文文化と弥生文化を対比させたのがこの図です。

画像: 縄文OSと弥生OS(画像は仲山さんご提供)

縄文OSと弥生OS(画像は仲山さんご提供)

いま、弥生時代以来の効率化OSで苦しむ人が増えている反動から、幸せに生きるための縄文OSへの原点回帰が起こっていると考えています。いまの組織に息苦しさがあるのは、弥生OSの終わりに来ていろんな弊害が顕在化したからだと思うんです。それがインターネットなどの技術革新によって螺旋的に発展して、弥生OSを包摂する形で「縄文2.0」にシフトしていく。糸井重里さんが『インターネット的』で提唱した3つのキーワード「リンク・フラット・シェア」が発展的に復活した縄文的コミュニティです。いまはインターネットによって、物理的に近くにいない人ともつながることができるようになりました。これからは価値観ベースでコミュニティを作って、縄文時代的なスタイルで生活する流れが生まれていくのではないかと。

チームビルディングと「お祭り」の本質

矢野:
仲山さんは、チームとコミュニティの違いをどう考えていますか。

仲山さん:
私は、「一緒にいる」のがコミュニティだと考えています。都市のように、隣に住んでいる人の顔も知らないような、つながりのないコミュニティもあります。が、そうしたコミュニティでも、同じお題に取り組むことでつながりが生まれます。たとえば、あるときムラで火事が起きて、集まった人たちで「どうしようか」と言いながらチーム化することで火を消して、「良かったね」と言いながらそれぞれの家に帰っていく。集まったときは初対面だったとしても、信頼関係や絆が生まれた状態でコミュニティに戻るわけです。それが繰り返されることで、だんだんつながりが豊かなコミュニティになっていきます。ただ、それが天災や火事頼みだといつまで経っても進みませんから、人工的にお題を作って、チーム化のプロセスがたくさん回るようにすることが重要です。その点、私は地域の祭りってそういうことじゃないかと思っています。

矢野:
なるほど。まさにそうですね。

仲山さん:
チームビルディングのアクティビティを設計するときには、1人では達成できず、協力せざるを得ないお題であることが大事です。お神輿があんなに大きいのは、協力せざるを得ない、よい設計に思えます。お祭りを最初に設計した人は、年に1回必ずこの大きなアクティビティが行われることで、コミュニティが耕されると考えたのではないでしょうか。

矢野:
学会もお祭りに近いものがあるかもしれません。お祭りに参加すると、最初は発表や論文の査読といった仕事が与えられるんですが、いつの間にか、同僚や同じ年代の人たちが、委員や座長の役割についていることに気づくんです。彼らはお祭りのときに別のリボンをつけていて、そのリボンをつけていないと彼らの会話には入れない、というようなことが起きます。そうすると、仕事は増えるけれどそっちに行った方がいいのかな?と思うわけです。もともとはいろんな会社の人や大学が集まって作ったゆるい集まりだったものが、お役目によって結束が固くなってくるんですよね。

画像: コミュニティ作りのためのアクティビティとして、仲山さんは「地域の祭り」に注目した

コミュニティ作りのためのアクティビティとして、仲山さんは「地域の祭り」に注目した

「3」をベースにしたフラットな関係性

仲山さん:
狩猟採集民族と暮らしながら研究している文化人類学者の話を聞いたことがあるのですが、彼らにはフラットさをキープする工夫がいろいろあるようなんですね。たとえば、誰かが大きいイノシシを獲ってきたときに、獲ってきた人間をわざとけなすようなことを言うんだそうです。「たいしたことないなあ」などとひとしきりけなして、そのあとみんなで均等に配分する。それが、「あの人はすごい」「えらい」という上下の概念が生まれない工夫のようだと、その学者は言っていました。

とはいえ、螺旋を一周している「縄文2.0」は、上下の役割分担も必要だという弥生OSを包摂していますから、本当に平坦なフラットではなく、ヒエラルキーも含めた新たなフラットの定義を共有していく必要はあると思います。

矢野:
私たちは人の関係性を考える時に、「あの人とは気が合う」「あの人は嫌いだ」などと相手と自分の二者関係で捉えがちですが、ネットワーク科学の基本単位は「3」、すなわち三者関係なんです。三者の人間関係はV字型か三角形しかありませんから、自分の周りにどちらが多いのかが運命の分かれ道になりますし、そういうものの見方は誰かに教えてもらわないとできません。

仲山さん:
三角形を作るには時間と手間が必要ですよね。V字型のほうが効率よく作れます。矢野さんの本にも、よかれと思って「効率化」することが「幸福化」を阻むといったことが書かれていますが、弥生OSだと「効率がよければ儲かって幸せだろう」ということになってしまうので、やはりOSが切り替わる必要があるでしょうね。

画像: 「人間関係の基本は“2”ではなく“3”なんです」と矢野

「人間関係の基本は“2”ではなく“3”なんです」と矢野

分業マインドは限界に来ている

矢野:
仲山さんは創業時から楽天にいらしたんですか?

仲山さん:
社員が20人ぐらいの時に入社しました。当時は役割分化も進んでおらず、全員でボールを拾うような感じでやっていました。また、楽天市場の新規出店営業からページの作り込み、店舗オープン後のサポートまで、一気通貫で担当する形でした。ところが業績が急激に上がってくると、業務量もすごく増えて、役割分担をしないと難しくなってきたんです。それで一度、みんなで三木谷さんに分業化してほしいと相談に行ったら、駄目だと言われました。「全体を見ながら考えるから成長するのであって、分業したら成長速度が遅くなるだろう」と。ただ、会社の成長ステージが導入期から成長期にシフトしたと感じたのでしょうか、あるときから分業のスタイルになりました。

分業スタイルになってしばらくは、それまで一気通貫でやってきた人たちがそれぞれの部署に分かれて、みんな全体像が理解できているので、効率が大幅によくなりました。でも、その後に入社してきた人は配属部署のことしか分からないので、だんだん自分の部署の部分最適を追うようになっていって。分業化の弊害が生まれるプロセスを実体験しました。

矢野:
確かに。とくに分業マインドが高い人が、ベンチャーの毎日混沌とした中に入るとかなり難しいでしょうね。

仲山さん:
三木谷さんが出すお題は、チーム化、すなわち集団的試行錯誤のカオスを乗り越えて自分たちのやり方を編み出さなければ達成できないものばかりです。最初から分業していてはクリアできないお題なので、他社で分業型のマネージャー経験のある人が入社してくると、逆にうまくいかなくなる場合があります。

みんなが分業マインドすぎると、新しい事業を立ち上げるにあたって「1人10件獲得が目標」と言われたときに、すべてを1人でやらなければならないという受け止め方をしがちです。でも、5人がチーム化して自分の得意なことに集中すればよいやり方を編み出すことができれば、5人で50件で終わらずにプラスアルファの成果が生まれやすくなるんです。

矢野:
そのOSが違っていると、コンフリクトが起こりやすいですよね。

仲山さん:
「自分は30件取ったのにあの人は5件しか取っていない。不公平だ」みたいな話になってしまうんですよね。それに対して、チーム化できていると、営業が得意な人が50件取ってきて、資料を作るのが得意な人が分かりやすい資料を作ったほうがいいよね、と考えられるようになる。そうした三角形のコミュニティ的な視点があるのとないのとで、幸福感は変わってくると思います。ただ、そのためには、言いたいことを言い合える心理的安全性を作らなければならなかったりして、短期的な効率は悪いんですよね。

矢野:
そこはやはり、最終的に意思決定をする人が必要ですね。合意形成みたいなことをやり始めると止まってしまいますから。リーダーが腹を決めて、「これで行くぞ」と言う必要があるでしょうね。

――生成AIの急速な進化は社会のあり方を大きく変えつつあります。その中で、私たち自身の幸せのあり方も変わってくるのではないでしょうか?人の幸せについて、また、幸せに寄り添う生成AIのあり方について、次回も引き続き語り合います。

画像1: [Vol.3]「縄文2.0」と幸せなチーム作り|仲山進也×矢野和男 AI時代の幸せなチームの作り方

仲山進也
楽天グループ株式会社 楽天大学学長
仲山考材株式会社 代表取締役

シャープを経て、創業期の楽天(現楽天グループ)に入社。2000年に楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立、人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。2007年に楽天で唯一のフェロー風正社員(兼業自由・勤怠自由の正社員)となり、2008年には自らの会社である仲山考材を設立、考える材料(考材)をつくってファシリテーションつきで提供している。2016年には「横浜F・マリノス」とプロ契約、コーチ向け・ジュニアユース向けの育成プログラムを実施。「子どもが憧れる、夢中で仕事する大人を増やす」ことがミッション。著書多数。

4月23日に新著 『アオアシに学ぶ「答えを教えない」教え方: 自律的に学ぶ個と組織を育む「お題設計アプローチ」とは』(小学館)を上梓。

画像2: [Vol.3]「縄文2.0」と幸せなチーム作り|仲山進也×矢野和男 AI時代の幸せなチームの作り方

矢野和男
株式会社日立製作所 フェロー 兼 株式会社ハピネスプラネット代表取締役CEO

1959年山形県酒田市生まれ。1984年早稲田大学物理修士卒。日立製作所入社。同社中央研究所に配属。2007年主管研究長、2015年技師長、2018年より現職。博士(工学)。IEEE Fellow。1993年単一電子メモリの室温動作に世界で初めて成功し、ナノデバイスの室温動作に道を拓く。2004年から先行して実社会のデータ解析で先行。論文被引用件数は4500件、特許出願350件以上。大量のデータから幸福度を定量化し向上する技術の開発を行い、この事業化のために2020年に株式会社ハピネスプラネットを設立し、代表取締役CEOに就任。ウエルビーイングテックに関するパイオニア的な研究開発により2020 IEEE Frederik Phillips Awardを受賞。

7月8日に新著 『トリニティ組織:人が幸せになり、生産性が上がる「三角形の法則」』(草思社)を上梓。

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