
沼田 崇志
研究開発グループ Sustainability Innovation R&D 計測インテグレーションイノベーションセンタ マルチモーダルセンシング研究部 主任研究員
2015年日立製作所入社。生体・行動計測・分析、バーチャルリアリティ、ヒューマンコンピュータインタラクションなどの知見・経験を生かして、半導体製造装置の保守作業向けスマート化技術、面談時の行動による性格特性の推定技術などの研究開発に従事。日本バーチャルリアリティ学会、情報処理学会、日本心理学会、人工知能学会、電気学会、IEEEなどの会員。博士(科学)。
いまやっておくべきことは、「わんこそば」なのかもしれない
いまやれることはいまのうちにやっておこう──ここ数年で、そんなふうに考えるようになってきました。「終活」みたいなものですね。年齢を重ねて、仕事や家族との日々の中で「いまの自分」が一番動けるという実感が強くなってきたからかもしれません。20代の頃と比べて、明らかに体力が落ちてきたという実感が最近ありますし、記憶力も前ほどではありません(苦笑)。
悲観しているのではなく、自分の感覚を軸に、とにかくやりたいことを最高の状態でとことん楽しみたい。そこで思い浮かんだのが「大食い」です。今年は「わんこそばを本場・岩手で挑戦する」という目標を立てました。実は2年前にも一度予約していたんですが、別の予定が入ってキャンセルになってしまったんです。再挑戦するならいまがラストチャンスかもしれない…そう思い、年内に岩手に行く予定を立てました。わんこそばのために特殊トレーニングをするならば別ですが、例えば5年後の自分がいま以上の記録を出せるなんて思えません。だったら、ベストスコアを出せるのは「今年」しかありません。なんだかわんこそばが人生の大事なタスクになってしまっていますが(笑)、でも、こういう些細なことにこだわって「いま」を楽しみたいんです。
ただ、思い立ったらすぐに行動するタイプかというと違います。僕はゲームが好きなのですが、新しいゲームソフトが欲しいと思っても、本当にほしいのか長い時は5年以上自問自答して、さらにはゲームの攻略本を買って読んでからそれでも欲しいと思ったものだけを購入するようにしています。しかも1本のゲームを始めたら、完全にクリアするまでは絶対にやめないので、攻略まで1年ぐらいかかります。いま既に20本ぐらい手をつけていないゲームが家にあるので、それをやるだけでも20年かかる計算になります(笑)。そこに新たに1本を加えるとなると、慎重にならざるを得ないという事情もありますが…
そうやって、「これは本当にやるべきことなのか」とじっくり吟味するのが好きなんです。ゲームを買った以上は最後までやり切るし、その間他のゲームに手をつけたりもしないタイプです。途中でやめるなら、そのゲームどころか今後の人生はゲームと絶縁する、くらいの覚悟をもって1つのゲームとじっくり向き合っています。
特にいま、プライベートの時間は子育てを優先しているので、空いた時間に何をやるかは大切です。いろいろ興味はありますが、その中で何を深掘りするかはよくよく吟味する必要がある。そうするとなおさら、新しいことに手を出すよりは、いまあるものにじっくり取り組んでいきたいという気持ちが強いかもしれません。

有言実行のわんこそば。家族に応援されながら104杯達成…!
50円玉と仲良くなりたい
じっくり向き合うといえば、僕はここ15年ほど、財布の中の50円玉と向き合っています。というのも、支払いのとき、100円玉を出したつもりが50円玉だったということが非常に多い。逆のパターンはないのに…。そんなはずないだろうと思われるかもしれませんが、財布の中には硬貨が縦に入っているので、同じ銀色の100円玉と50円玉を間違えてしまうんです。縁のギザギザの感触も似ていますし……。
中が見えやすい財布に変えるという方法もありますが、それだとこの先の人生にずっと、「硬貨が見えやすい財布を選ばなければならない」という制約がついて回ることになってしまいます。いまの条件のままで、50円玉に歩み寄りたい、と自分の感覚を変えていく方向で、真剣に向き合ってきました。おかげさまで、最近正解率が上がってきました。長年の対話を経て、50円玉と仲良くなりつつあります。
こういう小さな違和感をうやむやにせず、自分の感覚を大切にしながら納得するまで対象と向き合うことが好きなんだと思います。研究でも自分の納得感が重要な場面はたくさんありますので、仕事もプライベートもベースとしている感覚は似ているのかもしれません。
「健康とは?」の問いを抱いて教育学部から理系大学院へ
3歳から大学卒業までずっと水泳をやっていました。体を動かすのが好きだったこともあって、大学では教育学部で生涯スポーツを専攻しました。ところが、学んでいくうちに「健康」という概念が案外あいまいなことに気づいたんです。学校やWebなどで「これをやると健康になるよ」と言われていても、その「健康」に関係するファクターとその因果関係はとても複雑で、分かっていないことが多いと感じました。そこで、大学院に進むときに思い切って理転して、工学系の大学院でウェルビーイングに関する神経系(脳や自律神経)の研究を始めました。いまは、人の動きや行動を計測・分析することで作業の効率化を図る技術や、面談などでの人の表情や仕草から、その人の性格傾向を客観的に推定する技術の研究を行っています。
仕事は非常に面白いですね。楽しすぎて、休みを取りそびれてしまう傾向にあるかもしれません。3人目の子どもが生まれたときに、初めての育児休暇を2週間取得しました。「短いよ」って突っ込まれるのはもっともですが、僕にとっては社会人になってから最長の休暇取得で大きな一歩だったんです。
育児休暇ですので、当然、休んでいる間は子ども中心の生活になります。それも楽しくて価値のある時間だったんですが、休暇が明けて職場に戻ったときに、「仕事ってめちゃくちゃ楽しいな」と再確認しました。仕事のペースを戻すのにもう少し時間がかかるかと思っていたのですが、むしろブーストがかかって、初日からやる気がみなぎりエンジン全開になってしまって(笑)。「自分はこんなに働くのが好きだったんだ」と改めて実感しました。もちろんこれは、僕のやりたいことをやらせてもらえている職場と家族の理解があるからだとも思っています。
始めたことや自分のやりたいことには突き進むタイプなんでしょうね。だからこそ、上手に休みながら、自分の面白いと思う領域をじっくり歩み続けたいと考えています。
編集部より

仕事もプライべートも納得するまでじっくり取り組む沼田さん。楽しみながら研究をされている様子は、感情を表現するためのCGキャラクター「ピヨタ」や、VR・AR技術による遠隔作業支援の動画など、過去の研究成果からもしっかり伝わってきます。そして今年の目標だったわんこそばですが、取材後に104杯を食べて横綱認定されたとのご報告を受けました。お見事!個人的には5年後にもまた挑戦してほしい。【編集C 記】


