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研究者やデザイナーが経営視点を持ち、マーケティングを通して社内外の情報を活用することは、製品や技術の真価を引き出し、新たなイノベーションを生み出す鍵となります。しかし、情報収集や技術開発だけではその価値を市場へ届けることは難しいかもしれません。Vol.3では、この座談会を通して感じたこと、そしてこれから持つべき企業としての意識について、一橋大学大学院経営管理研究科教授の西野和美さんと同研究科教授の上原渉さん、日立製作所研究開発グループの谷繁幸、助口聡、竹上栄三郎、坂東淳子に語っていただきました。

[Vol.1]事業の目線を身につける
[Vol.2]さまざまな視点の考え方を想像する力
[Vol.3]複雑化する社会システムと事業領域を扱うために

研究者やデザイナーが持つ“手を動かす”強み

上原さん:
マーケティングという手法は、対話を通してお客さまのことを知る、あるいは社内のことをお客さまに伝えるので、広告や市場調査だと思われがちです。でも、企業のなかでマーケティングがきちんと機能するためには、得た情報を社内でどういうふうに活かすかという部分が大事なんです。ようやくその部分に光が当たってきていると思っています。

竹上:
2015年の研究開発体制再編により誕生した社会イノベーション協創センタ(当時名称。現デザインセンタ)は、デザイン部門を母体としており、メンバーの約半数が同部門の出身者で構成されていました。そのメリットのひとつは、ユーザーとの接点の在り方や要件定義のための議論の仕方を具体に考えられる人財が集まっていることにありました。そこへ研究者も合流して、パートナー企業やお客さまとのコミュニケーションセンスを身につけたり、一緒に活動することで、技術開発のネタを作り出して協創やイノベーションにつなげることが狙いです。

外部からの情報を取り込むことで、研究者側は商材に貢献する技術開発のネタを、デザイナーはデザインのネタを得る。そして全社的には新商材のネタを得て事業化したい。事業化のために研究者やデザイナーに不足しがちな観点を身に着けるために、経営学を学びに行くことになったということですよね。

画像: 研究者やデザイナーが持つ“手を動かす”強み

谷:
海外の研究拠点にカスタマーボイスを集めてもらうようお願いしたことがあるのですが「今のところお客さまはこう言っていました」という報告だけが挙がってきたことがありました。本来であればお客さまの発言を解釈して、次にどんなイノベーションを起こすべきかという検討までやらなきゃいけないと思うんですが、なかなかそれが伝わらないですね。

今はお客さまのもとには営業担当のみで足を運ぶことが多いのですが、本当は研究者やデザイナーも一緒に行った方が良いと思っています。営業担当者と研究者・デザイナーとでは、お客さまから聞き出せる情報の種類も違ってくると考えるからです。

上原さん:
マーケティングの担当者はお客さまの情報をいろいろ聞いてきて技術者や研究者に伝えますが、自分が実際に手を動かしたり、実際の技術開発をしたりはしないので、「あとはお任せします」となってしまうわけです。

一方で、研究者やデザイナーは、ご自身で手を動かせる強みがある。谷さんの言うように上流から参加できるようになれば、下流まで一気通貫で見ることができて、コンセプトがブレずに市場へと出せますよね。今までと違うアプローチで開発に貢献できると思いますね。

画像: 研究者やデザイナーがプロジェクトの上流から参加することで得られるメリットについて話す上原さん

研究者やデザイナーがプロジェクトの上流から参加することで得られるメリットについて話す上原さん

助口:
デザイン業界では古くから「鳥の目と虫の目」といいます。ものごとを考えていくときに発散して収束、収束してまた発散させることを繰り返して、探索的にアイデアをブラッシュアップすることをナチュラルにやっている。けれども、俯瞰して見るべき範囲が非常に複雑になってきています。もっと意識的に経営の目線で俯瞰とフォーカスを繰り返すことが、今後の強みになっていくのかなと感じました。

自社で研究開発することの大切さ

谷:
今日は、社会システムや事業がより複雑になっていくなかで、技術をどう考えていかなければならないかというお話が非常に示唆に富んでいました。日立にとっても今後重要になってくる視点だと思います。みなさんはいかがでしたか。

竹上:
あらためて、一橋大学で学んだことが業務に役立っていると感じました。技術開発やデザイン検討したものを事業化するために、経営視点を持ってステークホルダと対話ができることは非常に有効だと感じています。加えて、私が所属している研究センタは広い意味でシステムを考える部署なので、ITシステムはもちろん、ビジネス的なシステムを考えることもミッションです。マーケティングにせよ、テクノロジーマネジメントにせよ、いずれも経営をシステムとして考えるという意味合いでは研究センタのミッションと実は共通しているということを、今日の議論でも実感しました。

坂東:
時代はどんどん変わってきていて、企業のなかでやらないといけないことも変化しています。だから、経営の目線での視点を確保することも必要ですが、それと同時にその目線で新しい情報をインプットしていかないとうまく立ち回れないなと、2年間の学びのなかで思いました。学校を卒業してしまうことでそのような最新情報を受け取りにくくなることはとても残念ですが、情報収集は意識的に継続し、今日の会話の中で出てきた「領域を超えて言葉をつないでいく」ことを大切にしたいと思います。

助口:
今日は世の中で起こっていることを経営学の視点から見て、それをどう解釈して価値に変換していくかというプロセスや、俯瞰とディテールを見るお話など伺いましたが、それはデザイナーが普段の仕事のなかでナチュラルにやっていることでもあって驚きました。デザインする対象が複雑になればなるほど、そうしたプロセスを自覚的に行っていけると、今後のデザイナーの強みにもなると感じました。

画像1: 自社で研究開発することの大切さ

上原さん:
竹上さんと坂東さんが、大学で学んだことを会社に持ち帰って活かしていただいているというのを聞いて、教育者としてすごくうれしく感じました。今日の話のなかで、研究がコストであると捉えられ、削られてしまうという話がありましたよね。営業の方からすると「売ってるのは俺たちだ」なんて感じることもあると思うんです。そうやって社内でもいろいろ意見の相違があるなかで、みなさんは「なぜ研究が重要なのか」ということを社内でコミュニケーションする責任を負っていると思うので、ぜひ頑張っていただきたいと思います。

西野さん:
日立製作所は、日本の製造業のなかではいち早く社会システムに特化する方向性を示されたので、ずっと関心を持って見ていました。システムとして大きな目線で事業を捉えていく流れを牽引されている企業だと思うので、研究開発やデザインという観点からもそれを突き詰めていただけたらいいなと思っています。

一方で、技術経営の専門家として心配しているのは、製造業の大企業がオープンイノベーションという名のもとに研究開発をやらなくなってきていることです。大学やスタートアップから技術を買ってくればいいと言いながら、実際にはそれほど買わない企業も多くあります。そうした企業の経営幹部には、競争力の源泉である技術力を維持するために自社で研究開発することの大切さを今一度お考えいただきたいですね。そして、技術系の上の方には自分たちの事業範囲のインターフェースの少し外側も本来はやる必要があるという認識を、お持ちいただけるといいなと願っています。

谷:
担当者からトップに至るまで、今日のお話について考えられるようになるとすごくいいと思っています。本日はありがとうございました。

画像2: 自社で研究開発することの大切さ
画像1: [Vol.3]複雑化する社会システムと事業領域を扱うために|研究者やデザイナーが経営学を学ぶ価値

西野 和美
一橋大学大学院 経営管理研究科 (一橋ビジネススクール) 経営管理専攻 教授

化学メーカー勤務を経て、2001年一橋大学大学院商学研究科博士後期課程単位修得退学。2002年一橋大学博士(商学)。東京理科大学講師、准教授を経て、2017年より現職。技術を軸とした経営のあり方に関心をもち、現場に足を運び、関係者から聞き取りを重ねて作成する事例研究を中心に、定性的な調査研究を行っている。

画像2: [Vol.3]複雑化する社会システムと事業領域を扱うために|研究者やデザイナーが経営学を学ぶ価値

上原 渉
一橋大学大学院 経営管理研究科 (一橋ビジネススクール) 経営管理専攻 教授

2008年 一橋大学大学院商学研究科博士後期課程修了。博士(商学)。武蔵野大学政治経済学部専任講師を経て、2011年より現職。日本企業のマーケティング組織や海外市場におけるマーケティング戦略、消費者行動の国際比較などの研究を行っている。

画像3: [Vol.3]複雑化する社会システムと事業領域を扱うために|研究者やデザイナーが経営学を学ぶ価値

谷 繁幸
日立製作所 研究開発グループ
Digital Innovation R&D システムイノベーションセンタ センタ長

1996年 東京工業大学大学院 総合理工学研究科修士課程修了。同年(株)日立製作所システム開発研究所に入社。2014年大阪大学大学院 情報科学研究科学位取得(情報科学)。IT投資リスク管理や機器提供サービスリスク管理に関する研究に従事し、2023年より現職。

画像4: [Vol.3]複雑化する社会システムと事業領域を扱うために|研究者やデザイナーが経営学を学ぶ価値

助口 聡
日立製作所 研究開発グループ
Digital Innovation R&D デザインセンタ センタ長

食品パッケージ業界、オーディオ業界でのキャリアを経て、2008年に日立製作所に入社。情報機器や家電製品のプロダクトデザインを担当後、2016年から3年間、英国にて高速鉄道車両のコンセプトデザイン開発に従事。帰国後は生活家電のデザイン開発をとりまとめた後、プロダクトデザイン部部長を経て、2025年10月より現職。

画像5: [Vol.3]複雑化する社会システムと事業領域を扱うために|研究者やデザイナーが経営学を学ぶ価値

竹上 栄三郎
日立製作所 研究開発グループ
Digital Innovation R&D システムイノベーションセンタ ビジネスアーキテクチャ研究部 リーダ主任研究員

日立製作所に入社後、公共分野のITシステム開発、金融分野・電力分野・ITプラットフォーム分野ソリューションの人間中心設計・デザイン思考の実践研究などを担当。現在は産業デジタル分野におけるビジネスアーキテクチャの研究、0→1フェーズのプロダクトマネジメントに従事。2022年3月に一橋大学大学院 経営管理研究科(一橋ビジネススクール)経営管理専攻 経営管理プログラムを修了し、MBAを取得。

画像6: [Vol.3]複雑化する社会システムと事業領域を扱うために|研究者やデザイナーが経営学を学ぶ価値

坂東 淳子
日立製作所 研究開発グループ
Digital Innovation R&D デザインセンタ ストラテジックデザイン部 主任デザイナー

学生時代に建築・都市分野を学び、日立製作所に入社。モビリティ、エネルギー等の分野でのUI/UXデザインや、顧客協創方法論研究に従事。研究者や社外関係者との協創を通し、建築、デザイン、情報のハブ役としてモビリティやスマートシティ分野でのデジタルサービス創出に向けた活動を推進するなかで、経営的な視点の必要性を痛感。2026年3月に一橋大学大学院 経営管理研究科(一橋ビジネススクール)経営管理専攻 経営管理プログラムを修了し、MBAを取得。

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[Vol.2]さまざまな視点の考え方を想像する力
[Vol.3]複雑化する社会システムと事業領域を扱うために

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