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南極や宇宙という極限の環境でミッションを成功させるために、必要なのはどんなチームなのか。極地建築家 村上祐資さんと日立製作所 研究開発グループの木村宣隆との対談の最終回となる今回は、チーム全体の「ミッシングパーツ」を埋めるメンバーの重要性と、極限状態における言語の役割について語り合います。技術力だけでは到達できない、未踏圏に挑むための条件とはなんでしょうか。

[Vol.1]人間の想像が及ばない極地のリアリティ
[Vol.2]極限環境に求められるロボットの役割
[Vol.3]極地で壊れないチームのかたち

画像: 日立の研究開発グループでロボティクスプロジェクトを推進している木村

日立の研究開発グループでロボティクスプロジェクトを推進している木村

言語が「不安の輪郭」をデザインする

村上さん:
少し視点を変えて、極地の空間やロボットを設計するチームの「言語」について考えたいと思います。木村さんのチームでは、議論は日本語で行われているのでしょうか? それとも英語ですか?

木村:
基本的には日本語ですね。私自身は、アメリカに2年間ほど駐在したことがあって、そのときは英語で議論していましたが。

村上さん:
僕は以前、火星の模擬居住実験の国際ミッションに参加したことがありますが、公用語はもちろん英語です。そのときに気づいたのは、日本語と英語で思考回路が変わってしまうということでした。

木村:
思考回路が変わる、ですか。

村上さん:
英語では必ず「主語」が必要ですよね。つまり、何かをしたときに「I did(私がやった)」なのか、「We did(私たちがやった)」なのか、主体を明確にしなければいけません。

木村:
事実関係を理路整然と説明して、現状を正確に把握するのは、英語のほうが向いているかもしれませんね。

村上さん:
でも、極地のような未知の環境では、目の前の状況が「よくわからない」ことが多いんです。正体がわからないものについて、英語で議論を重ねると、言葉で主体をはっきり定義しようとするあまり、不安がどんどん増幅してしまうことがあります。

木村:
ああ、なるほど。あいまいなままにしておけないわけですね。

村上さん:
例えば、北極の無人島で実験をしたとき「シロクマが出るかもしれない」という話になりました。実際には滅多に出ないのですが、英語で真剣に議論すればするほど、シロクマに対する恐怖の輪郭が明確になりすぎて、いつのまにか「モンスター」のようになっていました。不安の輪郭をはっきりさせすぎると、人はパニックになります。その点、日本語は主体をあいまいにしたままにできますよね。

木村:
技術開発の現場では、あいまいさがマイナスになることもありますが、極限状態のメンタル管理においてはプラスの面もある、と。

村上さん:
すぐには解決できない問題を、ふわっと横に置いておく。いわば「塩漬け」にしておく機能が、日本語にはあるんです。極地では、すべての問題をその場で解決できるわけではありません。解決できない不安を抱えながらも、パニックにならずに冷静な状態で日常を送るためには、「日本語」というツールが意外なセーフティーネットになるのかもしれません。

木村:
英語よりも日本語のほうが冷静になれるというのは、面白い指摘ですね。

画像: 国際的な模擬火星実験プロジェクトのリーダーを務めた経験をもつ村上さん

国際的な模擬火星実験プロジェクトのリーダーを務めた経験をもつ村上さん

「腕試し」の罠と「ナンバー2」の美学

村上さん:
チームのメンタル管理という点でいうと、メンバーのモチベーションを高めるのって難しいですよね。そのときによく使われるマジックワードとして「腕試し」という言葉があるんですが、木村さんは使いますか?

木村:
「腕試し」ですか。どうかな……使うかもしれません。

村上さん:
例えば、「極地は最高の腕試しの場だから、一緒にチャレンジしてみない?」と呼びかけることがあるんですが、僕は「腕試し」を目的にする人は極地に来てほしくないと思っています。もちろん、チャレンジ精神は大切です。でも、箔をつけることが目的になってしまうと、現場ではリスクになる。「俺がやった」と言いたいがために、不要なリスクを冒したり、地味だが重要な作業を軽視したりしかねないからです。

木村:
研究者でいえば、自分の技術のアピールが目的になってはいけない、ということですね。では、どのような人が理想的なのでしょうか。

村上さん:
僕が求めているのは、自分の目的を脇に置いておける人、いわば「ナンバー2」に徹することができる人です。

「俺が俺が」と前に出るのではなく、ミッションのために何が足りないかを察知して穴を埋められる人。必要なら「NO」も言える。そして、自分で自分の身を守れることは大前提の上で、淡々と自分の役割を果たす人が極地にいてくれると頼もしいですね。

画像: それぞれの現在の活動内容にも話が及んだ

それぞれの現在の活動内容にも話が及んだ

「ミッシングパーツ」を埋めるために

木村:
いまの話は、私たちのチームにもあてはまります。優秀なエキスパートだけがいても不十分で、実際に役に立つ「ソリューション」として完成させるには、技術と技術の間の空白部分(ミッシングパーツ)を見つけ、泥臭く埋めていく作業が必要です。自分の研究のアピールではなく、チーム全体の成功に喜びを感じられる人財をどう育てていくか。それがプロジェクトの鍵だと再認識しました。

村上さん:
木村さんはどんなメンバーを求めていますか?

木村:
村上さんの考え方と近いかもしれませんが、全体が見える人ですね。プロジェクトを成功させるには、何が足りないのかをしっかり理解しなければいけない。そのミッシングパーツを埋めるために何が必要なのかを考えられる人ですね。

村上さん:
ただ、研究者というのは、基本的に自分の専門分野を深く掘り下げたい「スペシャリスト」たちですよね。そういうメンバーだけで、チームの空白部分をすべて埋めることはできるんでしょうか?

木村:
ご指摘の通りでして、そこで求められるのが、仲間づくりができる人です。自分たちのチームだけでミッシングパーツを埋められない場合は、社外の人たちと手を組むことも考えなければいけない。そのときにミッションを説明しながら、仲間を増やしていける人が必要ですね。

村上さん:
実はロボットの研究者というと、自分の研究に専念している人を想像していたんですが、木村さんの言葉を聞いて「非常に広い視野で考えているんだな」と感銘を受けました。

木村:
私も、村上さんから非常に面白い話を聞くことができました。私たち研究者とは視点が大きく違いますし、極地でどんなことに気をつけなければいけないかという点で、たくさんのヒントをもらいました。

村上さん:
今日は、木村さんと正面に向かい合って対談させてもらいましたが、木村さんがチームの人たちとどんな会話をかわしているのか、その「横顔」も見てみたいなと思いました。そこから、どんなロボットが生まれてくるのか楽しみです。

画像: 村上さんの極地プロジェクトに、木村が開発したロボットが使われる日がくるかもしれない

村上さんの極地プロジェクトに、木村が開発したロボットが使われる日がくるかもしれない

取材協力/Studio ART SCHOOL U

画像1: [Vol.3]極地で壊れないチームのかたち|極限環境で問われるAI×ロボットの可能性

村上 祐資
極地建築家/NPO法人 FIELD assistant 代表

宇宙や南極、ヒマラヤなど、厳しい環境のなかの暮らし方を研究するため、さまざまな極地の生活を踏査してきた。2008年に第50次日本南極地域観測隊越冬隊員として地球物理観測に従事した後、模擬火星居住実験や模擬宇宙船生活実験に参加。習慣を奪われる場所での生活のあり方を、実際の体験を通じて検証している。

画像2: [Vol.3]極地で壊れないチームのかたち|極限環境で問われるAI×ロボットの可能性

木村 宣隆
日立製作所 研究開発グループ Next Research ロボティクスプロジェクト リーダ主任研究員

2005年の入社以来、主に物流倉庫内のロボットの研究に取り組んできた。現在は、今後のエネルギーや食料のニーズ増大の可能性を踏まえ、極地・未踏圏を開拓できる作業リソース基盤の確立に向けて、AIを活用しながら、過酷な環境でも作業できるロボットを開発しようとしている。博士(工学)

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