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企業や行政などとのコラボレーションによるイノベーションの創出を目的として、2019年4月に日立が設立した研究開発拠点「協創の森」。オープンから2年余りが経過し、昨年来のコロナ禍でビジネスを取り巻く状況が激変してしまった今だからこそ、「協創の森」設立の意図とこれからのイノベーション創出のあり方について論じることの意義は小さくないはずだ。コロナ禍を逆手に仕掛ける協創に向けた取り組みや、イノベーション創出をめざした社内での工夫、「協創の森」がめざす顧客とのコミュニティづくりなどについて、研究開発グループの森正勝と丸山幸伸が語ります。

ウェビナーというアクセス手段

――本日は東京国分寺にある日立製作所の研究開発拠点「協創の森」から、日立 研究開発グループの森正勝さんと丸山幸伸さんへのインタビューをお送りします。まずは日立におけるお二人の役割を教えてください。

森:
わたしは社会イノベーション協創統括本部という組織の統括本部長を務めています。日立の研究開発グループはイノベーションのタイプに応じて3つの組織に分かれています。顧客との課題共有やビジョンの策定といった「協創」を起点とする、いわばカスタマードリブンのイノベーション。デジタルやヘルスケアをはじめとした日立の技術を基盤とする、テクノロジードリブンのイノベーション。そして、解決に取り組むべき社会課題を探索することで将来のイノベーションの芽を育てる、エクスプロラトリーリサーチ(Exploratory research)。わたしは1つめのカスタマードリブンのイノベーションを統括する立場にいます。

画像: 日立製作所 研究開発グループ 森正勝

日立製作所 研究開発グループ 森正勝

丸山:
東京社会イノベーション協創センタ 主管デザイン長の丸山です。研究開発グループにおいて、日立が技術基盤のひとつに位置付けている「デザイン」をイノベーションの領域に応用するための戦略を立案しています。

画像: 日立製作所 研究開発グループ 丸山幸伸

日立製作所 研究開発グループ 丸山幸伸

ここで言うデザインとは、プロダクトやインターフェースのデザインに代表される従来からのものにとどまらず、ビジネスモデルの創出段階からイノベーションに関わっていく活動のことです。日立においてデザインの意味がこのように変化した経緯を紐解くと、研究開発グループに「サービスデザイン」領域が立ち上がった2005年頃から、社内における我々の役割が変わってきました。事業部門が開発した製品をデザインするというそれまでの立場から、我々研究開発グループが持つデザインの知見や手法を活かし、社会の変化に応じた新しいサービスやビジネスモデルを事業部と一緒に考えていくというスタイルにシフトしてきたのです。

その後、2009年に日立が「社会イノベーション事業」を掲げたのを機に、世の中に価値を生み出せる新事業、つまり社会課題の解決につながるイノベーションを描くという取り組みに、デザインというバックグラウンドを活かして関わっています。

イノベーションを、より速く起こす。「協創の森」でできること

――ここ「協創の森」は2019年4月、東京国分寺にある日立の中央研究所内にオープンしました。設立の理由は何だったのでしょうか。

画像: 協創の森

協創の森

丸山:
「協創の森」の構想が練られ始めた2015年頃の研究開発グループでは、顧客協創方法論「NEXPERIENCE」をはじめ、未来における人の価値観や行動の変化のきっかけを洞察する活動「25のきざし」や、ビジネスモデルをプロトタイピングするためのツール「Business Origami」などを活用し、顧客との協創で新しいビジネスモデルを生み出す取り組みをすでに始めていました。ただ、顧客との接点を持つデザイン部隊は東京の赤坂、研究所は国分寺と離れており、テクノロジーと連携した協創の場をどう設けるかという課題を抱えていました。

プロトタイピングや社会実装も含めて、より速くイノベーションを起こしたい。そのための拠点が「協創の森」なのです。デザイン部隊が国分寺に移り、冒頭に申し上げた3つのタイプのイノベーション創出に取り組む従業員がここ協創の森に集結しました。

――企業や行政をはじめとする社外の方が協創の森に来られると、具体的にはどんな活動が行われるのでしょうか。

森:
さまざまなステークホルダーが一堂に会して国際会議のような大規模なディスカッションをしたり、先ほど丸山が触れた「NEXPERIENCE」という方法論を使って、日立と社外の方々とを交えたワークショップ形式でビジネスモデルのアイデアを出し合ったりと、さまざまな対話ができます。

画像: 協創の森におけるワークショップの様子

協創の森におけるワークショップの様子

アイデアが具体のプロジェクトとして動き出すと、同じ建物内にいる研究者もディスカッションに加わり、建物内に完備されたクリーンルームでビジネスモデルのプロトタイプをすばやくつくることができます。さらに、地域の人々にもご協力いただきながら、新しいビジネスモデルの実証実験を行えます。顧客である企業や行政、日立のデザイナーや研究者、そして地域が対話を通じて一緒にイノベーション創出に取り組める場所。それが「協創の森」なのです。

ウェビナーというアクセス手段

――2019年4月に設立された「協創の森」ですが、2020年にコロナ禍に見舞われ、世の中はいまだに対面でのコミュニケーションが限られた状況が続いています。「協創の森」を取り巻くこの1年を振り返ってみて、いかがでしょうか。

森:
やはり、企業や行政の方がなかなか「協創の森」にお越しになれず、ワークショップや会議の延期を余儀なくされる事態が続いています。ただ、2019年度に比べて来訪者の数は減ったものの、新たに始まったプロジェクトも少なからずあります。社外の方々とリモートでのワークショップを重ねた結果、コラボレーションを始めるに至ったというパターンです。

リモートでの協創に手ごたえを感じるなかで改めて問われているのが、「協創の森」というフィジカルなコミュニケーションのための場をどう使うのか。協創の形をどう変えていけばよいのか。そこで研究開発グループは、我々から問いを発信しながら社外の方々と議論する場として、今年6月に「協創の森ウェビナー」をスタートしました。

画像: 協創の森ウェビナーに出演する森と丸山

協創の森ウェビナーに出演する森と丸山

世の中では今、既存の学問領域だけでは解けない複雑な問題が非常に多く、研究の本質である「問い」に立ち返ることが我々に求められています。ウェビナーのテーマを「問いからはじめるイノベーション」としたのはそのためです。1つの「問い」に対して浮かぶ答えは、人それぞれ異なるはず。だからこそ、議論に値するテーマだと考えました。

画像: ウェビナーというアクセス手段

丸山:
なかでも「社会課題とはそもそも何なのか」という議論を深めていきたいと考えています。というのは、ここ数年我々は、研究活動を事業に結び付けてイノベーションを起こすという取り組みに注力した一方で、研究者やデザイナーにとっての肥やしであるインプットの量が減ってしまったことを実感しているからです。オンラインを活用して社外に「問い直す」ことでインプットの量を増やせれば、社会課題をより正確に把握できるのではないか。そんな思いも持っています。

雑談に代わるアイデアの源泉「100本インタビュー」

丸山:
ちょっと脱線しますが、この一年間社内を見ていて感じるのは、オンラインで気軽に打ち合わせができるようになったことで、対面の打合せ後に生まれていた雑談のような余白のコミュニケーションが激減したことです。何気ない雑談がまったくないと、アイデアのダイナミクスは生まれない。そう強く感じています。

画像: 雑談に代わるアイデアの源泉「100本インタビュー」

そこで研究開発グループでは、従業員を対象に「100本インタビュー」を行い、その音源を社内ラジオ(社内限定のネットワーク配信)で流し続けるという施策を半年ほど前から行っています。新人や異動してきたばかりの従業員の紹介にもなりますし、同僚の人となりや興味関心を知っているかどうかで、顔を合わせたときに最初に投げかける一言も変わってきます。もし共通の関心事があれば、一緒に仕事をする際にもスムーズに動き出せます。この100本インタビューが、研究開発グループ内における「信頼基盤」として拡がっていくことを期待しています。

インタビューでは、仕事の話よりもオンライン生活の状況や趣味について聞きます。すると面白いことに、趣味の話から業務や研究哲学の話につながることがあります。例えば、将棋が趣味のAI研究者が、AI将棋が人間を超えるかどうかというシンギュラリティについての持論を展開したり、最近銭湯にハマっているデザイナーが、銭湯文化と昭和の建築との関係についての考察を披露したりと、仕事のアイデアに通じる同僚たちのさまざまな視点が見えてくる。それが同僚の刺激となることを狙っています。

「協創の森」がめざすコミュニティづくり

――先ほどお話に出たウェビナーなどの活動や「協創の森」という場を通じて、どのように企業や行政を巻き込んでいきたいですか。

丸山:
R&Dが社会に貢献するひとつのスタイルとして、ウェビナーを核に、知識を創造していくコミュニティをつくっていきたいです。「問い」からはじめて、企業や行政などと一緒にビジョンを描き、新しいビジネスモデルをプロトタイピングしてソリューション化していく。それを単に日立だけの利益にするのではなく、「協創の森」の活動を通じて実現を加速する、イノベーションのパイプラインのようなものになれたらいいなと思います。

森:
冒頭でも触れた「25のきざし」のように、「協創の森」ならではの視点がここにはあります。Webサイトをご覧になった企業や行政の方から、「あの観点が面白そうなので、詳しく聞かせてほしい」というお話をいただくことがあります。お客さまが何か課題の解決に取り組もうという際に日立を想起していただければ、一緒に新しいビジネスモデルを生み出せるかもしれません。

丸山:
ウェビナーを始めたときに社外の方からの反応で嬉しかったのが、「日立がようやく外部との“対話”を始めましたね」と。結局のところ、社会課題を解決するには、日立だけの力では全然足りないのです。企業や行政などの皆さんと一緒に議論して、考えて、新しい何かをつくっていかないと、世の中は変わらない。そのために、皆さんのお力をお借りしたいです。

画像1: 日立はなぜ「協創の森」をつくったのか?│協創の森ウェビナー プロローグ-「協創の森」とは何か

森 正勝
研究開発グループ
社会イノベーション協創統括本部統括本部長(General Manager,Global Center for Social Innovation)

1994年京都大学大学院工学研究科修士課程修了後、日立製作所入社。システム開発研究所にて先端デジタル技術を活用したサービス・ソリューション研究に従事。 2003年から2004年までUniversity of California, San Diego 客員研究員。横浜研究所にて研究戦略立案や生産技術研究を取り纏めた後、2018年に日立ヨーロッパ社CTO 兼欧州R&Dセンター長に就任。2020
年より現職。
博士(情報工学)

画像2: 日立はなぜ「協創の森」をつくったのか?│協創の森ウェビナー プロローグ-「協創の森」とは何か

丸山 幸伸(ナビゲーター)
研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部
東京社会イノベーション協創センタ 主管デザイン長(Head of Design)

日立製作所に入社後、プロダクトデザインを担当。2001年に日立ヒューマンインタラクションラボ(HHIL)、2010年にビジョンデザイン研究の分野を立ち上げ、2016年に英国オフィス Experience Design Lab.ラボ長。帰国後はロボット・AI、デジタルシティのサービスデザインを経て、日立グローバルライフソリューションズに出向しビジョン駆動型商品開発戦略の導入をリード。デザイン方法論開発、人財教育にも従事。2020年より現職。

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