[Vol.1] エンゲージメントが向上するオフィスのあり方
[Vol.2] 技術の力で、働く場所はもっと自由になる。
[Vol.3] フィジカルなオフィスの利点をバーチャルに生かす
サイバーフィジカル融合技術へのチャレンジが新しい働き方を生む
丸山:
私たちは、仮想空間と現実空間を融合させることで、想像もしなかった働き方や、働く場所ができるのではないかと考えています。
坂東主任デザイナーたちが実験中のものをご紹介させてください。
坂東:
今、ロボットが人とやり取りをする機会が増えていますが、実世界の認知のし方が全く異なるため、同じ視点に立ったコミュニケーションが成立しにくいんです。しかし、ロボットと人間が共通認識を持てれば、双方がやり取りしやすくなります。このとき、都市や建築を3Dデータ化してさまざまなモノの情報を紐づけ、リアルタイムに扱いやすくすることが重要になります。これがコモングラウンドの考え方です。
電動車いすを使ってデモをしてみましょう。
この電動車いすには、実世界を認識するセンサなどがついていません。代わりにこの部屋にあるセンサやカメラが電動車いすを認識し、コモングラウンド上に認識結果をリアルタイムに送っています。
少し離れたところから人が手を振ると、センサが検知してコモングラウンドに情報を上げます。電動車いすはコモングラウンドからの情報を受け、手を振った人のところまで動きます。コモングラウンドにアクセスすることで空間を認識できるので、安全に走行することができるわけです。
「コモングラウンド」を仲立ちに、人とロボットが共生する未来へ
坂東:
ここにもう1台ロボットがありますが、こちらはセンサを積んでます。このロボットがうろうろ動きながら環境の新しい情報をコモングラウンドに上げれば、その情報もまた電動車いすにリアルタイムに共有されます。
山下さん:
認識した情報を都度反映させていくことで、デジタル側でシミュレーションしやすい実態と同じ状況に近づいていくのですね。
丸山:
空間に1人だけ情報をたくさん持っている子(機体)がいて、あとの子達はみんな教えてもらえる、という感じです。
山下さん:
人間とロボットがストレスなく共存できるための空間をつくるという意味では、コモングラウンドを構築することは機械のためのインクルーシブデザインのような感じがしました。
丸山:
そうですね。人間が過ごしやすい場所って、技術的に言うと実は機械にとって過ごしにくいんです。だから、自分たちが効率化をはかりたいなら、ロボットが動き回りやすい場をつくることに歩み寄ることが近道の一つなんです。人間のいるところに無理やり適合させようとすると、効率が上がらないんですよね。ロボットの特性を理解して、人の暮らしと共生していく場を作ろうという考え方も大事になってくると思います。
フィジカルなオフィスには情報とネットワークが蓄積されている
丸山:
さて、ここまで協創の森内のさまざまな施設を見ていただきましたが、いかがでしたか。ここであらためて、フィジカルなオフィスで働くことの価値について考えてみたいのですが。
山下さん:
仕事一辺倒でない多様な生き方、またありとあらゆる場所がワークプレイス化していくことを考えると、生産性や機能面だけでワーカーをオフィスに留まらせることは、もう難しくなってきていると思います。それこそ自宅や近所のカフェが一番生産的になれると思う方は少なくないのでは。そう考えると、なにか強く心に訴えるものがあるか、または特殊な用途でないと、オフィスに来る理由はなくなってしまいます。フィジカルなオフィスの価値について、丸山さん自身はどう感じますか。
丸山:
一番感じるのは、社会的な関係性や人的資産の問題ですね。フィジカルなオフィスでは、長い時間をかけて「この人は、以前この仕事をやったことがあるから、この領域に詳しい」といった情報やネットワークが蓄積されています。ところが今、新しく入った人がこうした、この価値あるネットワークにアクセスできない状況が続いています。
「100人ラジオ」にみる音声メディアの可能性
2020年の10月から「社内ラジオ」を始めたんです。100人と雑談して、それを音声コンテンツとして共有する。やり始めたら、新人が、それまで会ったことのない人にコンタクトする動きが出てきたんです。カルチャーや解決ネットワーク、人的資産、知の結合は、結局フィジカルな場での人の関係が大事なんだと痛感しています。
山下さん:
そうですね。アメリカの社会心理学者ダニエル・ウェグナーが、組織内の情報共有で重要なのは、メンバー全員が同じことを知っていることではなく、トランザクティブメモリーと呼ぶ「誰が何を知っているか(Who knows what)」を知っていることであると明らかにしました。そしてそれは、顔の見えない電子上のコミュニケーションよりも、フィジカルでのコミュニケーションの方が圧倒的に効率がいいこともわかっています。
とはいえ、オフィスにはもう偶然の出会いを期待できるほどの、人の密度は戻ってこない可能性が高い。であれば、今後はメタバースなど、どうやってデジタル環境を最大限活用できるかが問われてくるはずです。丸山さん達が既に取り組んでいらっしゃるような音声メディアは、その突破口のひとつになるかもしれませんね。
山下正太郎
コクヨ株式会社に入社後、戦略的ワークスタイル実現のためのコンサルティング業務に従事。手がけた複数の企業が「日経ニューオフィス賞(経済産業大臣賞、クリエイティブオフィス賞など)」を受賞。2011年、グローバルでの働き方とオフィス環境のメディア『WORKSIGHT』を創刊。同年、未来の働き方を考える研究機関「WORKSIGHT LAB.(現ワークスタイル研究所)」を立上げる。2016〜2017年、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート ヘレン・ハムリン・センター・フォー・デザイン 客員研究員、2019年より、京都工芸繊維大学 特任准教授を兼任。2020年、パーソナルプロジェクトとして、グローバルでの働き方の動向を伝えるキュレーションニュースレター『MeThreee』創刊。同年、黒鳥社とのメディア+リサーチユニット『コクヨ野外学習センター』を発足。
丸山幸伸
研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部
東京社会イノベーション協創センタ 主管デザイン長(Head of Design)
日立製作所に入社後、プロダクトデザインを担当。2001年に日立ヒューマンインタラクションラボ(HHIL)、2010年にビジョンデザイン研究の分野を立ち上げ、2016年に英国オフィス Experience Design Lab.ラボ長。帰国後はロボット・AI、デジタルシティのサービスデザインを経て、日立グローバルライフソリューションズに出向しビジョン駆動型商品開発戦略の導入をリード。デザイン方法論開発、人財教育にも従事。2020年より現職。
坂東 淳子
研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ
価値創出プロジェクト 主任デザイナー(Design Lead)
学生時代に建築・都市分野を学び、日立製作所に入社。モビリティ、エネルギー等の分野でのUI/UXデザインや、顧客協創方法論研究に従事。現在は、建築、デザイン、情報のハブ役として、モビリティやスマートシティ分野でのデジタルサービス創出に向けた活動を推進。
[Vol.1] エンゲージメントが向上するオフィスのあり方
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