オープンな交流や協創アプローチでイノベーションに取り組んできた「協創の森」。「協創の森をアップデートする」シリーズは、この取り組みをさらに進化させるべく、さまざまな知見をもつ皆さまと語り合い、新たな視点を発見していきます。今回のテーマは「複雑な社会課題を解くために問いは有効か」。「問いのデザイン」の著者である京都大学 塩瀬准教授に、日立製作所研究開発グループ平井技術顧問と、東京社会イノベーション協創センタ 主管デザイン長の丸山幸伸がお話を伺いました。環境問題のようなスケールの大きなものごとをどう自分ゴト化するか、個人を突き詰めた先にあるパブリックの存在などについてお聞きまします。

[Vol.1]まずは問い直すところからはじまる
[Vol.2]失ってしまった問う力を取り戻す
[Vol.3]自分ゴト化し、問い直す

“自分ゴト化”で社会が変わる

丸山:
最後のトピックスに入ります。これから社会を良き方向に変えていくために問うべき方向やテーマで、塩瀬さんが関心をもっていることを教えてください。

塩瀬さん:
一番のビッグチャレンジは、“自分ゴト化”かなと思います。何事も自分ゴト化する、宇宙で起こっていることさえも自分ゴト化すれば、すぐに大きく変わっていくんじゃないかなと。

例えばメタバースにしても、他人ごととしてとらえるのではなく、自分ゴト化して自分とのつながりを深めるためには、もしかしたら解像度の高い画像よりも、そこで起きているエピソードや誰かとの関係性が没入具合に影響するかもしれません。

今はどんなに遠い話をしても、逆にどんなにミクロな話をしても、全部他人ごとのような部分があるので、どんな商品を作っても自分の周辺30cmに届かないんです。もったいないですね。そこに実感が持てると、すごく面白いことができると思っています。

画像: 「一番のビッグチャレンジは“自分ゴト化”」と語る 塩瀬さん

「一番のビッグチャレンジは“自分ゴト化”」と語る 塩瀬さん

去年、iPS細胞研究所の10周年記念の展示が京都大学の博物館で開催されました。iPS細胞を見るイベントも予定されていたのですがコロナ禍で実現できず、代わりにアバターロボットが案内する形になりました。そこでエピソードを付け加え、ストーリー性を持たせたのですが、そうしたら参加者の没入が高まったのを感じました。つまり、没入してもらうためには4K解像度の顕微鏡のデータよりも、細胞を押した時のぷにっという感覚の方が重要なんですね。その方が自分ゴト化しやすくなるんだと思います。

全員が面白い問いを持っているとすると、それぞれが一歩ずつ進めるだけで世界の開き方がごっそり変わると思うので、そういうアプローチを広く一般的に提供できたら面白いなと考えています。

実体のない問題を自分ゴト化するには

平井:
今の話を聞きながら、環境問題を自分ゴト化するのは難しいなと思いました。あまりにもスケールが大きくて、南の島が水没するといってもなかなか自分ゴトにはなりません。それなのに、若い人が必死になって環境活動をしているのは、ある意味不思議です。企業としてどこまで環境問題に本気になれるのかは、僕の一番の関心であり問いです。

例えば日立は、安全と健康を守ることは全てに優先すると本気で言っています。であるならば、環境は事業に優先する、ということがロジカルに導き出されるはずなんです。環境が破壊されたら、人類が安全であるわけがないですから。

環境を事業に優先させる、つまり、実体のない問題を自分ゴト化するにはどうしたらいいんだろう、と考えます。

画像: 企業がどこまで環境問題に本気で取り組めるか、との問いと向き合う日立製作所 平井

企業がどこまで環境問題に本気で取り組めるか、との問いと向き合う日立製作所 平井

塩瀬さん:
2025年の大阪・関西万博に向けて、日本館の基本構想を策定するワークショップのファシリテーションをしました。環境問題が社会課題になっているとはいえ、ほとんどの人が、本気で何かをしないといけないと思っているわけではなく、どうやら今日は環境問題について何かをしないといけないらしい、いま環境を壊せと言うと怒られるから環境は大事だと言わざるを得ない状況がある、というだけなんです。

香川県の直島に行った時に、住んでいる人から「いま、世界中から観光客が来てくれるので、私は環境問題を伝えたい」という話を聞いたことがあります。「子どもの頃はあそこまで地続きで遊びにいけたのに、今は行けなくなった。原因は海面上昇だ」と。

その話が、それまでに聞いたどの環境問題の話よりもリアルでした。こんな風に実感しやすい環境エピソードがわりと身近にあるのに、すぐに世界的に著名な環境活動家の話や、CO2と行った、スケールの大きい話になってしまうんですよね。

危機的状況を知ってもらう仕掛けづくり

平井:
日立は環境への取り組みに力を入れていますが、経営陣をはじめ社員全員に「本当に地球を救いたいと思っていますか?」と聞いてみたいですね。でも、なかなかそういう話が出てこない。

塩瀬さん:
日立が本当に環境を救うと言えば、救えるんじゃないですか? 日立のような力のある企業が言うことが、世の中を本当に変えていくと思うんです。みんな力があるのに他人ごとにしているのがすごくもったいない。今ここが踏ん張りどころかな、と思うんです。

平井:
自分の中で、なぜ日本は戦争をしたのかというビッグクエスチョンがあります。相当調べても本当のところは結局分からないのですが、一つ分かったのは、自分が見ていないところで侵略して人を虐げて自分の幸せを築いていると、後でとんでもないしっぺ返しがくるということです。

環境問題もまさにそれだと思っています。環境破壊は未来への侵略であり、生物への侵略です。それを続けていると、きっととんでもないしっぺ返しが来るんだろうなと感じています。

画像: 問うことで、環境問題への取り組み方に変化をもたらすことができるか。(左から)京大 塩瀬さん、日立製作所 平井、同 丸山

問うことで、環境問題への取り組み方に変化をもたらすことができるか。(左から)京大 塩瀬さん、日立製作所 平井、同 丸山

塩瀬さん:
環境問題についてのベンチャーを起業した高校生がいます。なぜ環境問題だったんだろうと思ったら、バングラデシュの川に日本の企業名が書かれた箱が流れているのを見た、という個人的体験があったそうなんですね。自分たちの捨てたものがリサイクルと称して別の国に移されたり、ポイ捨てしたものが別の国の川に流れているということは、結局自分たちが別の国にゴミを捨てているのと同じだ、ということを思い知ったんだそうです。日本は本気でリサイクルをしていないと。

ある地域の産業廃棄物処理施設に行ったことがありますが、そこには行き場のない産業廃棄物が大量に集められていました。五輪のような大きなイベントでも、選手村などではその開催期間中だけしか使わない寝具や調理器具が大量に必要なため、期間を終えた後に他の使い道を計画しないと大量の廃棄物となってしまいます。0コンマ数秒の戦いに感動するのも五輪ですが、大きな社会課題の縮図が現れるのも五輪のような世界規模のイベントの特徴です。そのため、万博でも環境問題の解決策を安易に問う前に、まず今の状況がとても危機的状況であることを知ってもらえる仕掛けを作りたいと思っています。これはまずいと自覚し、なんとかしないといけない思う人が増えれば、一歩でも前に動く人が増えると思っています。

問いの力が求められる時代の中で

丸山:
今日はすごく幅広い議論ができたなと思います。問いが重要であるという事実は変わってないけれど、今後も益々、問いの力が求められる、そういう思考が求められる局面が年々増していると感じます。

塩瀬さん:
みんながこれまでやってきた解決策が悪いわけではありません。みんなが力を合わせることなく、それぞれの方向でやるのがよくないだけなんです。本当にやるべきことをみんなで一緒に考えて、一緒に向き合えたらいいなと思います。

日本を悪くしようと思っているわけではないのに、省益や局益といった狭い範囲での部門最適化を進めていくと、本来の目的とは違う方向に進んでいたりします。その時に全員で「何をすべきなんだっけ」「本当は何をしたいのかな」と問うだけで変わっていくと思います。

画像: 問いを自分ゴトに置き換える力を身につけていけば社会課題は解決に近づく

問いを自分ゴトに置き換える力を身につけていけば社会課題は解決に近づく

丸山:
環境問題のような難しい問いに向き合うために、みんながそれぞれ持っていたはずの問いの力に頼りましょう、ということですよね。それによって融合が生まれ、解決の方向に向かうのではないかと。

そのヒントとなるものは、自分ゴトに置き換えることで見つかるはずです。問うべきものが決まったら、徹底的に自分の言葉に言い換えていく訓練をすることが必要かもしれないですね。

塩瀬さん:
パブリックは個人の集合体なので、自分を突き詰めた方がパブリックにつながると思うんです。だから社会的課題も対岸の火事ではなく、向こう側にも人がいて、暮らしがあって、どんな人もみな同じように生活しているのだから、個人を突き詰めてもちゃんとパブリックにたどり着けます。でも逆に、自分を隠したり押し殺してしまうと、それはパブリックではないんですね。

平井:
いま、日立の研究所はすごく自由です。意識的にそう言う雰囲気を作っていると感じます。

塩瀬さん:
それを率先して守っていってほしいですね。期待しています。

画像1: [Vol.3]自分ゴト化し、問い直す│問いは複雑な社会課題の解決に有効か。京大・塩瀬さんと考える問いの活用

塩瀬 隆之
京都大学総合博物館 准教授

1973年生まれ。京都大学工学部卒業、同大学院工学研究科修了。博士(工学)。専門はシステム工学。2012年7月より経済産業省産業技術政策課にて技術戦略担当の課長補佐に従事。2014年7月より復職。小中高校におけるキャリア教育、企業におけるイノベーター育成研修など、ワークショップ多数。平成29年度文部科学大臣賞(科学技術分野の理解増進)受賞。著書に『問いのデザイン 創造的対話のファシリテーション』、『インクルーシブデザイン:社会の課題を解決する参加型デザイン』(いずれも共著、学芸出版社)など。
https://www.elp.kyoto-u.ac.jp/professor/shiose/

画像2: [Vol.3]自分ゴト化し、問い直す│問いは複雑な社会課題の解決に有効か。京大・塩瀬さんと考える問いの活用

平井 千秋
研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部
東京社会イノベーション協創センタ 技術顧問(Technology Advisor)

現在、協創方法論の研究開発に従事。
博士(知識科学)
情報処理学会会員
電気学会会員
プロジェクトマネジメント学会会員
サービス学会理事

画像3: [Vol.3]自分ゴト化し、問い直す│問いは複雑な社会課題の解決に有効か。京大・塩瀬さんと考える問いの活用

丸山 幸伸
研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部
東京社会イノベーション協創センタ 主管デザイン長(Head of Design)

日立製作所に入社後、プロダクトデザインを担当。2001年に日立ヒューマンインタラクションラボ(HHIL)、2010年にビジョンデザイン研究の分野を立ち上げ、2016年に英国オフィス Experience Design Lab.ラボ長。帰国後はロボット・AI、デジタルシティのサービスデザインを経て、日立グローバルライフソリューションズに出向しビジョン駆動型商品開発戦略の導入をリード。デザイン方法論開発、人財教育にも従事。2020年より現職。

[Vol.1]まずは問い直すところからはじまる
[Vol.2]失ってしまった問う力を取り戻す
[Vol.3]自分ゴト化し、問い直す

This article is a sponsored article by
''.