日立製作所研究開発グループが実施するオンラインイベントシリーズ「協創の森ウェビナー」。Cyber-Proof of Concept(Cyber-PoC/システムの能力やエンドユーザーの利用価値、事業利益等のシミュレーションを同時に行い、有効性を視覚化するツール)を用いた実証実験が進み、実際に合意形成に活用する段階にきています。サービスの研究開発に関わる東京社会イノベーション協創センタ 主任研究員 森本 由起子、東京社会イノベーション協創センタ 主任デザイナー 味八木 真理子、先端AIイノベーションセンタ 主任研究員 福田 幸二、日立コンサルティング スマート社会基盤コンサルティング第2本部 マネージャー 須藤 一磨が、日々の研究から見えてきたCyber-PoCの可能性や課題について語ります。

※組織名・役職名はウェビナー開催時のものです

プログラム1「トランジション実現に向けた課題と金融の役割」
プログラム2「Cyber-Proof of Conceptを活用したロードマップ策定支援」「政策提言のためのAI技術」
プログラム3「ロードマップ、どう描く?」

AIで未来像検討の物差しをつくる

Cyber-Proof of Concept(以下Cyber-PoC)を使って実際に合意形成しようという施策段階に入っていますが、合意形成の課題を教えてください。

須藤:
私のいる日立コンサルティングは、省庁や自治体、大学といったお客様のフロントに立ち、政策に関する人の意思決定を支援するためのAI技術を使ってEBPM※ の推進支援を行っています。研究開発グループメンバーや京都大学 こころの未来研究センターの広井良典先生のご支援をいただきながら、プロジェクト全体のマネジメントや、AIのモデルをつくるために、指標出し、モデルの作成、AIを使ったシミュレーション、読み解きの支援まで、一貫したサービスを展開しています。

※EBPM……Evidence Based Policy Makingの略。証拠に基づく政策立案のこと

丸山:
現場でのご苦労はありますか?

須藤:
総合計画や戦略をつくる政策検討の現場は、まず未来像をつくり、「これを実現するためにはどういう政策が必要なんだろう」と考えて計画をたてていきますが、未来像をつくるためには物差しが必要です。しかし、それは今だと人口推計の情報程度しかなく、「2050年にこの自治体の人口が何人になるか」という情報のみで無理矢理つくっているのが現状です。検討に参加するメンバーにも、「こういう地域にしたいな」という思いはあると思いますが、何を重視するのかは頭の中で考えていることなので、合意形成が図りにくいのが課題です。そこをAIを用いて解決していきたいと思っています。

AIを使うと、いくつかの未来像が見えてきます。未来像の中にはいろいろな指標が入っており、例えば観光客数が上がるとか、CO2が下がるとか、経済的には向上するけれど環境的には向上していない、といった姿が見えます。その未来像を共通の物差しとして議論することで、メンバーの合意形成が図りやすくなります。

丸山:
正確な判断が求められる政策の現場で、未来像の候補を出し、物差しとして使っていくわけですね。

画像: 政策提言を支援するAIの提案する未来像が共通の物差しになる、と須藤

政策提言を支援するAIの提案する未来像が共通の物差しになる、と須藤

政策提言を支援するAIで可視化されるシナリオと分岐点

丸山:
その心臓部ともいえるのが政策提言を支援するAIです。政策提言を支援するAIとは何か、福田さんに伺ってみましょう。

福田:
私たちは、政策提言を支援するAIを通じて「起こり得る未来シナリオ」と「将来の重要な分岐点・施策」を可視化しようとしています。自治体の制作担当者は多様な関係者と議論しながら政策を決めていきますが、その時にどういう未来が我々の手の中にあり、どれを選べばいいか、選ぶためにどうすればいいかを議論できるようにするのが政策提言を支援するAIの役割です。

最初に、現状の社会をモデル化する必要があります。システム思考を使い、自治体の職員や有識者と議論し、自治体のもつ過去の統計データも組み合わせて、現状の社会のモデルを構築します。

画像: 政策提言を支援するAIで可視化されるシナリオと分岐点

これは日本の持続可能性に関する政策検討時につくったモデルで、いくつかの指標をネットワーク状につないだものになっています。このモデルをもとにして、AIは、起こり得る未来のシナリオを列挙し、シナリオ間の分岐構造を示すことができます。そして、「このシナリオは、人口的には良いが環境的には良くない」といった評価ができるようになります。また、そのシナリオに向かうにはどんな分岐点があり、いつ、何をしなければならないのかを、分岐構造の形で表すことができます。

さらに分岐要素解析も可能です。これはシナリオの分岐点における感度解析(※)をするもので、分岐点で何をすれば望ましい分岐に持っていけるかを判断できるようになります。たとえば地方分散と都市集中の分岐がありますが、たとえば地方に分散する形がいいと思った場合には何をすればいいかが導き出せるのです。

※感度解析……シミュレーションの入力を変更したときの、シミュレーションモデルの出力の変化を定量化する解析手法

未来像を選ぶのは自分たち

丸山:
過去のデータを分析した知見から生まれたAIが未来のことをファシリテートしていく時に時間軸はどう設定するのでしょうか。また、2030年にはそれが本当に実現するのでしょうか。

福田:
まず、2050年という長い将来の意思決定だということが前提にあります。完璧なモデルというのは存在せず、使う数字にも、信頼度●%といった信頼区間※がついている、そういうモデルしかできません。しかし我々は、それを逆手に取って、いわゆるモンテカルロシミュレーション※を行い、幅をもった形で分岐点が到来する時期を予測することができます。

※信頼区間……統計学で、母集団に真の値が含まれると推測される数値範囲を指す。
※モンテカルロ・シミュレーション……ランダムに抽出された乱数を用いて予測モデルのシミュレーションを行う数値計算手法を指す。

丸山:
数理の世界では最適解を期待されることが多いと思うのですが、コンサルティングの現場では、揺れがあった方が議論しやすいですか?

須藤:
AIが答えを1つだけ出すとしたら、逆に受け入れにくいのではないでしょうか。AIは数字のばらつきを含むことで取り得る未来像をいくつか提示しますが、その中から選ぶのは自分たちであるというところが非常に重要になってきます。

丸山:
計算機が出した最適解に人間が従うのではなく、そこにいるメンバーが納得して合意していくことがアウトカムとしては大事、ということでしょうか。

画像: 完璧なモデルが存在しない分、未来像に幅をもたせることができる、と福田

完璧なモデルが存在しない分、未来像に幅をもたせることができる、と福田

視認性の高いデザインで、エンドユーザーに使いやすく

丸山:
多様なステークホルダーがいる中で、ダイナミックな情報を用いて即時に判断していく必要があると思います。そうなるとUXデザインが大事になってくると思うのですが、味八木さん、いかがでしょうか。

味八木:
政策提言を支援するAIは、シミュレーションした数万通りの未来シナリオを生成します。膨大なシナリオがつくられますが、類似するシナリオ同士を集めて、20個程度のシナリオグループにまとめます。しかし、AIの提示したシナリオは理解にコツがいります。

Cyber-PoCは、特徴や違いが色で認識できます。そこで、CO2の排出量や観光者数といった重要な指標の増減を手がかりに各指標を評価し、似通ったパターンをグルーピングし、エンドユーザーに共有しています。

例えば政策提言を支援するAIが提示した23の未来シナリオでは、シナリオを色分けし、色の数だけ特徴があることが直感的にわかるように提示しています。また、専門家が評価していた重要なファクターを評価材料にした結果も色で認識し、AIが出した評価結果とエンドユーザーの解釈とのギャップがないか確認できるようにもしています。

政策提言を支援するAIが特徴づけた評価結果はあくまで提案ですので、Cyber-PoCでは、エンドユーザーである人間の判断で修正できるようにしています。

また、政策提言を支援するAIによるシミュレーション結果では、未来のいろいろなできごとの関係性も提示しています。枝分かれする構造が複数ある中で、一度分かれてしまうと再び合流することができない、「後戻りできない分岐点」があります。これが、関係者が将来のロードマップを描く際、施策を議論する上での大切なよりどころになります。

画像: Cyber-PoCシミュレータに適応することで、AIが提示した起こりえる未来シナリオを評価し、人間の判断で修正できるようになる

Cyber-PoCシミュレータに適応することで、AIが提示した起こりえる未来シナリオを評価し、人間の判断で修正できるようになる

「後戻りできない分岐点」を見つける

味八木:
後戻りできない分岐点の読み解きと特定にもコツが必要です。これまでは、専門家が目視で、シミュレーション結果からシナリオの関係性をたどり、シナリオが枝分かれする場所をいくつか見つけ出し、その分岐に起因するファクターがどれくらい寄与しているのかを確認しつつ、後戻りできない分岐点かどうかを読み解くことで、エンドユーザーにとって分かりやすい未来シナリオを提示していました。

Cyber-PoCでは、後戻りできない分岐点という長期ロードマップを引く上で重要なよりどころをエンドユーザー自身が特定できるよう、視認性、誘目性を高めた表現をしています。分岐を選択することでよりわかりやすい未来シナリオの分岐図を描けるようにしているのです。

画像: AIのシミュレーション結果を読み解き、自ら未来シナリオを描いて関係者間で将来に向けたよりよい意思決定ができる

AIのシミュレーション結果を読み解き、自ら未来シナリオを描いて関係者間で将来に向けたよりよい意思決定ができる

エンドユーザーの自治体だけでなく、多様な関係者が自ら後戻りできない分岐点を確認し、自分たちの将来のロードマップを描いて関係者みんなで意思決定できるよう、Cyber-PoCで政策提言を支援するAIのシュミレーターを実現しています。

丸山:
後戻りできない分岐点はどうやって出すんですか。

福田:
例えば、今の時点でシナリオを出すと2つあるとします。少し進んでからもう1回シミュレーションすると、そこからまた2つのシナリオが生まれます。あるところまで進むと、もうこれ以上は2つのシナリオを出せない、というところに出ます。

丸山:
計算機のパワーがないとできませんね。須藤さん、使ってみていかがですか。

須藤:
自治体でも顧客でも、いつまでに何をすればいいのかの優先順位ってつけられないので、ヒントがあるとだいぶ計画を立てやすいとの声は聞きますね。

画像: それぞれの現場から見えるAIの現状について、対話が深まる

それぞれの現場から見えるAIの現状について、対話が深まる

Cyber-PoCをまちづくり支援のプラットフォームに

丸山:
シュミレータとしてまとめるために、システムのエンジニアリングが必要になってきそうですが、どうでしょう。

森本:
Cyber-PoCには2つのアプローチがあると思います。1つは、あり得るゴールをめざし、データを使って解析する論理的なアプローチ。もう1つは、数十年先までの何万通りものシナリオを要因と合わせて選ぶデザイン思考的なアプローチです。この2つを融合し、Cyber-PoCをWebアプリとして開発中です。それにより押し付けではなく自治体や住民、地元企業に、施策を自分ごととして選び、道筋をシュミレーションしながら、最終的にロードマップを描いていければいいのかな、と思います。Webアプリは現在開発中ですが、完成したら自治体の方に使っていただき、実際にロードマップを描けるのか、きちんと判断していきたいと考えています。

この先の展望は4つあります。1つ目はまちづくりの議論だけでなく、いろいろな商材を入れ、実際のまちづくり支援に生かせるようにしていきたいと考えています。2つ目は、自治体だけでなく企業の方たちにも使えるようなモデルを作っていきたいと考えています。3つ目は、環境問題や社会課題に対しての意識づけや次の行動を促すツールへの進化も図っていきたいです。そして、4つ目は、今は日立だけで取り組んでいますが、実際にはみなさんいろいろな技術をもっていますし、中にはシミュレーション技術をもつ会社もあると思います。そうした技術も取り込み、社会全体で未来づくりを議論しながら、合意形成できるプラットフォームになっていければいいと考えています。

画像: Cyber-PoCのWebアプリを開発中の森本は今後の展望を語る

Cyber-PoCのWebアプリを開発中の森本は今後の展望を語る

丸山:
これだけ多様な時代に、どうやったら主体的に現場を変えていけるのかを求められる中で、シュミレーションや合意形成の枠組みが非常に大事なんだな、とよく分かりました。

また、先ほど開発中のwebアプリの話も出ましたが、こういう場で途中経過をお伝えすることが非常に大事だと思います。製品化のリリースを待つ方もいるかもしれませんが、むしろこの段階からどんどん問い合わせをいただいて、一緒に使って、みなさんの使いたいものを一緒につくっていこうという形になると、デザイナー、やコンサルタント、シミュレーションやソリューション研究者は本望なのではと思います。

画像1: 未来シナリオの可視化で、エンドユーザーを合意形成の主役に│協創の森ウェビナー第10回 「トランジション実現に向けたロードマップの描き方」プログラム3「ロードマップ、どう描く?」

森本 由起子
研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ
サービス&ビジョンデザイン部 主任研究員(Chief Researcher)

1992年日立製作所入社、システム開発研究所、横浜研究所を経て、東京社会イノベーション協創センタで現職。自然言語処理技術、知識管理技術の研究を経て、2015年から顧客協創手法である「NEXPERIENCE」の一手法である事業価値シミュレータCyber-PoCの研究開発と同時にNEXPERIENCE手法・ツール全般の日立グループ全体への適用展開・普及促進に従事。博士(工学)。

画像2: 未来シナリオの可視化で、エンドユーザーを合意形成の主役に│協創の森ウェビナー第10回 「トランジション実現に向けたロードマップの描き方」プログラム3「ロードマップ、どう描く?」

味八木 真理子
研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ
プロダクトデザイン部 主任デザイナー(Design Lead)

金融・公共・医療・IT・産業分野のUI・UXデザインを経験。北米のBig data Lab立ち上げ時に、データアナリティクスプラットフォームの顧客PoCに参画し、データの特性を生かした可視化研究(2013–2017)、現在は、AI技術の社会実装に向けたインタラクションデザインの研究や鉄道事業に関する情報・サービスデザインに従事。2016年からCourseraのイリノイ大学データビジュアライゼーションコースのメンターに就任。2020年統計士資格取得。2022年データ解析士資格取得。

画像3: 未来シナリオの可視化で、エンドユーザーを合意形成の主役に│協創の森ウェビナー第10回 「トランジション実現に向けたロードマップの描き方」プログラム3「ロードマップ、どう描く?」

福田 幸二
研究開発グループ 先端AIイノベーションセンタ
知能情報研究部 主任研究員(Chief Researcher)

2005年日立製作所入社。専門は複雑系科学・人工知能。京大-日立の産学連携拠点である日立京大ラボにおいて政府・自治体にむけて政策検討を行う政策提言を支援するAIを開発。超スマート社会(Society5.0)の実現および住民のWell-being向上を目標に各地の自治体で様々な実証に取り組む。

画像4: 未来シナリオの可視化で、エンドユーザーを合意形成の主役に│協創の森ウェビナー第10回 「トランジション実現に向けたロードマップの描き方」プログラム3「ロードマップ、どう描く?」

須藤 一磨
日立コンサルティング
スマート社会基盤コンサルティング第2本部 マネージャー(Manager)

間接材購買コンサルティング企業にて、地方の宿泊施設や小売店などのコスト改善業務を経験し、2016年から現職。その後、自治体関連の調査研究や日立京大ラボ等における各種共同研究、政策提言を支援するAIを活用したコンサルティングサービスの立ち上げ・デリバリーを担当。京都大学広井良典教授と共著で「AI×地方創生~データで読み解く地方の未来~」(東洋経済新報社、2020年)を上梓。

画像5: 未来シナリオの可視化で、エンドユーザーを合意形成の主役に│協創の森ウェビナー第10回 「トランジション実現に向けたロードマップの描き方」プログラム3「ロードマップ、どう描く?」

丸山 幸伸
研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部
東京社会イノベーション協創センタ
主管デザイン長(Head of Design)

日立製作所に入社後、プロダクトデザインを担当。2006年にサービスデザイン、2010年にビジョンデザインを立ち上げ、2016年に英国デザインラボ長。帰国後はロボット・AIサービス、ライフサービス事業分野のストラテジックデザインをリード。デザイン方法論開発、人材教育にも従事。2020年より、現職。立教大学大学院ビジネスデザイン研究科客員教授。

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