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社会からの要請が複雑化し混沌とするなかで、デザイナーにも研究者にも、自らの世界観を描き出す力が求められています。そうした機運に合わせ、学びを通じて自らの世界観をつくる取り組みが始まっています。アート思考とデザインを本格的に学ぶ「Kyoto Creative Assemblage」を立ち上げた京都大学経営管理大学院 山内裕教授に、日立製作所研究開発グループ 社会イノベーション協創センタ技術顧問の平井千秋と、主管デザイン長の丸山幸伸がお話を伺いました。「Kyoto Creative Assemblage」で何をしようとしているのか、めざしているところなどについてお聞きします。

[Vol.1]なぜいま、アートなのか
[Vol.2]見ることから始まる創造性
[Vol.3]歴史のなかの「文化をデザインする」を再構築する

創造性=再構築活動

丸山:
企業においては、昨今の変化の激しい事業環境において、従業員それぞれが内省し、自身は何をすべきかと問い直す力や、社会と自我に向き合う力を育む教育が必要になってきている気がします。

「Kyoto Creative Assemblage」にも、自分のやるべきことと改めて出会い直したい方たちが学びに来ているのだと思いますが、今後の展望はいかがでしょうか。

山内さん:
3年ほど前から、アメリカのモーターサイクルの文化の軌跡について、ヤマハ発動機さんと共同研究をしています。なぜハーレーが流行ったのかなどを分析していると結構手応えがあって、ベビーブーマー(団塊の世代)などの歴史的背景や、フロンティアスピリッツ、仲間意識などのイデオロギーとの関係が見えてくるんです。

この共同研究を通して、他の企業でもこれぐらいの時間を使って分析したら、見えてくるものがあると確信しました。そこで、この方法を整理して、様々な企業が実践できるようにするために、京都クリエイティブ・アッサンブラージュを立ち上げました。社会をよく見て、人々の自己表現となっているさまざまなイデオロギーを読み解いて、自社の商品やサービスを再定義し、新しい世界観をつくる方法を学ぶプログラムです。

画像: 新たな文化をデザインしていくために何が必要か。それぞれの思いを語る

新たな文化をデザインしていくために何が必要か。それぞれの思いを語る

世界観とは何か

丸山:
ここでいう「世界観」という言葉は、「ビジョンや意思を持って描いたもの」という意味ですか?

山内さん:
世界観というのは、何かひとつのスタイルを持っているような世界の表現です。可士和さんとユニクロの話でいうと、たとえばプラダを着ている人がユニクロのニットを加えることでちょっと外した格好をしている、というような世界観です。マクドナルドも、スターバックスも、独自の世界観を持っています。

丸山:
もう少し佇まいとか、空気感とかも入るということですね。

平井:
先ほどおっしゃった歴史的なもの、その裏にある歴史を知らないと、という話がありましたが、歴史も世界観のなかに入っていますか?

山内さん:
厳密に調べる必要はないですが、現在のイデオロギーなどを理解するためには、前の世代のものを見ていく必要がありますよね。歴史を遡らざるを得ない。

丸山:
「Kyoto Creative Assemblage」の教育は、いきなりビジョンを描こうなどという話ではなく、歴史などを見直しながら世界観に思いを馳せるというか……よく見ることで新たなアイデアを創造できるようになるということであり、よく見る力を育てることが企業のなかでできるようになれば、もっとみんながいいビジョンで企画を作れるようになるんじゃないか、ということですね。

山内さん:
そうですね。アーティストも別に面白いアイデアを出そうと思っているわけではなく、何か新しい世界観を描こうとしている感じですね。

画像: いきなりビジョンを描こうとするのではなく、世界観に思いを馳せて物事をよく見る力を育みたい、と山内さん

いきなりビジョンを描こうとするのではなく、世界観に思いを馳せて物事をよく見る力を育みたい、と山内さん

新しい世界を作り、新しい自分を表現する

丸山:
デザインの立場からすると、歴史も含めてよく見るなど、見識を広げる必要性を感じた一方で、やはり表現して組み立てることがデザインの真骨頂だとも思うんです。デザイナーの集団は、デザインは知識創造のサイクルである、ということにもう少し正面から向き合っていくことが大切で、それがむしろアートだと言えるのかもしれません。

山内さん:
アーティストはかなり勉強していますよね。もちろん、アートヒストリーも勉強しますけど、社会批判をするために、哲学的なことも勉強していると思います。

丸山:
内発的動機を生むためには相当の量のインスピレーションが必要ということですよね。

平井:
地球の危機、サステナビリティと言っても、私たちは資本主義社会に生きていますから、結局のところ会社は利益を生もうとします。でも、本当にそれで大丈夫なのかなと。もちろん、30年以上前の会社のあり方とは大きく変わってきているので、今後も変わっていくとは思うんですが、本当に地球をどうしたらいいの? というところから、もっと社会に目を向けることが必要なんだなと感じました。

それがデザイナーに限らず我々すべてに課されていることで、技術の問題に入る前に社会を見ることが創造性であるということは、我々にとって力強い励ましとして受け取りたいと思います。

山内さん:
このアプローチで創造性を捉えた上でイノベーションを起こそうと言っている人が、世界でも他にほとんどいないんです。ある種、日本初の考え方のつもりでやっていますので、数々のイノベーションを起こしている日立さんにも取り込んでいただければ嬉しいです。

私はいままでマクドナルド、スターバックス、ユニクロ、ハーレーの事例などを扱ってきましたが、今後はもっと、地域社会をどうするのかとか、地球環境をどうするのかといった水準で考えていく必要があると思っているので、そういうところも追求していきたいですね。

やはりすべては世界観だと思います。新しい世界観を作ることで、人々がそこに一歩足を踏み入れて、新しい自分を表現し、歴史を作ることができる。資本主義で成功するためには、歴史を作るというある種の社会批判をしていくことが求められています。しかし、儲けるために社会批判をしようとしても、うまく行きません。その微妙なところまで整理して発信していきたいと思っています。

丸山:
そこはぜひ一緒にやらせていただきたいと思います。

画像1: [Vol.3]歴史のなかの「文化をデザインする」を再構築する│京大・山内裕さんと考えるアートの必要性

山内 裕
京都大学経営管理大学院教授

「Kyoto Creative Assemblage」代表。カリフォルニア大学ロサンゼルス校にて経営学博士号取得。ゼロックス・パロアルト研究所研究員などを経て、2010年より京都大学経営管理大学院 。専門はサービス経営学、組織文化論など。レストランなどのサービスにおける顧客インタラクションをビデオに記録し分析するエスノメソドロジーを研究し、また文化的な視座からのデザインのアプローチを開発している。

画像2: [Vol.3]歴史のなかの「文化をデザインする」を再構築する│京大・山内裕さんと考えるアートの必要性

平井 千秋
研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部社会
イノベーション協創センタ 技術顧問(Technology Advisor)

現在、協創方法論の研究開発に従事。
博士(知識科学)
情報処理学会会員
電気学会会員
プロジェクトマネジメント学会会員
サービス学会理事

画像3: [Vol.3]歴史のなかの「文化をデザインする」を再構築する│京大・山内裕さんと考えるアートの必要性

丸山 幸伸
研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部
社会イノベーション協創センタ 主管デザイン長(Head of Design)

日立製作所に入社後、プロダクトデザインを担当。2001年に日立ヒューマンインタラクションラボ(HHIL)、2010年にビジョンデザイン研究の分野を立ち上げ、2016年に英国オフィス Experience Design Lab.ラボ長。帰国後はロボット・AI、デジタルシティのサービスデザインを経て、日立グローバルライフソリューションズに出向しビジョン駆動型商品開発戦略の導入をリード。デザイン方法論開発、人財教育にも従事。2020年より現職。立教大学大学院ビジネスデザイン研究科客員教授

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