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アート、サイエンス、デザインの領域をつなぎ、身体空間(フィジカルスペース)と電子空間(サイバースペース)の融合が進む現代社会について早くから思考し、表現し続けているデザイナーの藤原大さんにお話を聞く対談vol.3です。これまで、研究開発グループ基礎研究センタ 主管研究長 水野弘之と、同日立京大ラボ 担当部長 沖田京子が、アートの役割や、藤原さんが日立とのオープンイノベーションプログラムで実際に量子研究者と関わって感じている量子についてお聞きしてきました。最終回となる今回は、12月に6日間に渡り初の試みとして開催される量子芸術祭について、開催の意図や見どころについてお聞きします。

[Vol.1]自然と人、フィジカルとサイバーの関係
[Vol.2]量子は社会、人、そのもの
[Vol.3]芸術祭を通じ、量子を社会につなぐ

画像: 12月8日から開催される「量子芸術祭 Quantum art festival 1/4」について語り合う、日立製作所 沖田(写真左)、藤原さん(中央)、日立製作所 水野(右)

12月8日から開催される「量子芸術祭 Quantum art festival 1/4」について語り合う、日立製作所 沖田(写真左)、藤原さん(中央)、日立製作所 水野(右)

量子芸術祭ってどんなもの?

沖田:
藤原さんと日立とのプロジェクトのアウトプットとして、12月8日から6日間の日程で「量子芸術祭 Quantum art festival 1/4」を開催しますが、どのようなイベントなのでしょうか。

水野:
アートに触れながら量子について学べるイベントとして、お子さんにも来てもらえるぐらいにオープンな建てつけの空間を作り、量子を感じ取ってもらいたいと考えています。

藤原さん:
子どもに来てもらえるぐらいオープンというのは大事ですよね。量子は先端研究です。先端というのは本当に限られた世界だからできるわけです。ある意味脆かったり、すごくとんがり過ぎちゃったりして、誰もがなじめるものではないと思います。。ですから失敗することも多いでしょうし、今回の量子芸術祭も、結果として全く関係ないところに刺さる可能性もあると思っています。

量子芸術祭は「素人思考」を重視しています。最先端の「研究」に対するカウンターパートとして「日常」というキーワードを全体のディレクションに入れました。。

画像: アートに触れながら量子を学べるイベント「量子芸術祭」のねらいを語る藤原さんと水野

アートに触れながら量子を学べるイベント「量子芸術祭」のねらいを語る藤原さんと水野

藤原さん:
モノゴトを情報、モノ、空間と3つに分けて考えると、先端研究は情報となり、その成果物であるモノと反りが合うんですよね。だから研究するとモノのことを先に結びつけて、そのモノを置く空間は?なんて、後から考えることが一般的です。芸術では扱う対象がモノも空間も情報もはじめから混ぜて考えます。超最先端の研究を街といった日常の延長にある「空間」に接続する。もちろんギャラリーや美術館は伝わりやすいので素敵ですね。同時にもっと何かがあるかもしれないとも思います。そう考えると、芸術祭ではやっぱり「空間で表現する」というポイントは絶対に外したくない。その時にそこで見たり感じたりするのはものすごく大事なことだから、来場者がその場でさまざまなことを感じ取れる内容にしたいですね。先端なので、来場者へはスーっとマイルドに刺さるくらいの内容にできたらいいですね。

そう考えると、芸術祭ではやっぱり「空間で表現する」というポイントは絶対に外したくない。その時にそこで見たり感じたりするのはものすごく大事なことだから、来場者がその場でさまざまなことを感じ取れる内容にしたいですね。

水野:
各研究者の中にある量子コンピュータのイメージを何か少しでも共有できたらいいな、と思っています。こんなことを考えて研究しているんだとか、こういう考え方で量子コンピュータを理解しているんだとか、研究者の頭の中をちょっと覗いてみるような機会になれば嬉しいですね。

研究者の頭の中をアートで表現

沖田:
今回は藤原さんのアーティスト的なアプローチのサポートをいただきながら、研究者にフォーカスした展示も準備されていますね。

水野:
研究者それぞれで捉え方が違いますから、研究者個人個人にアプローチしていただいたのはすごくいいと思います。研究としては全員で1個のものを作っていますが、芸術は、やっぱり独りよがりなものでもいいのかな、という気持ちで見ています。トータルでこう、と決めつけるよりも、1人ひとりがこう思っているということがそれぞれあって、それぞれを見て共感できればいいですよね。

そして各研究者の中にしかない量子コンピュータのイメージを、何か少しでも共有できればいいなと思っています。足を運んでくださった方が「研究者はこんなことを考え、夢をもって量子コンピュータを組み立てているんだ」とか「研究者は量子コンピュータをこう理解しているんだ」と少しでも感じてくださったら、今後の開発の励みにもなります。研究者の頭の中をちょっと覗いていただければいいなと思います。

サイエンスとアート、量子と社会をつなぐ

水野:
「お子さんにも来てもらえるぐらい」というコンセプトの中には、1つには研究者の子どもたちに、親がどんな仕事をしているのかを見てほしいという思いがありますが、もう1つ、いろんな先入観を持ってしまう前の子どもたちに量子のイメージを描いてほしいという思いもあります。

人間の頭の中のイメージは、大人になるとどうしても固まってしまいます。自分の頭の中に既にあるイメージに合わせて物事を理解しようとしてしまう。なので、どうしても先入観でイメージが限定されてしまうんですよね。

でも若い人はまだこれからイメージを作る段階にあるので、その時にぜひ量子のイメージを描いてほしいですし、そして将来、量子コンピューターに関わってくれたりしたらもっと嬉しいですね。

藤原さん:
量子芸術祭は4回を目標に開催したいと思っているので、1回目となる今回のポスターには「1/4」と入っています。最終的には3ヶ月くらいの展覧会を開催したいですね。たくさんの人に観に来て欲しいと思います。そのためにも今回の芸術祭は小規模で行い、小さな成功事例を作りたいです。毎回の芸術祭を通じて関係者や一緒に協創する方々と一緒にコンテンツを積み立てなくてはいけませんが、来場者は、それらの作品を通じて量子の世界を自分なりに解釈することで、実はご自身の中にある「未来」を発見できるかもしれません。

素晴らしい方々によって構成された組織と活動があれば、超先端サイエンスとアートが日常でつながることを考えているこの芸術祭から、きっと生まれたての具体案がピョコピョコ誕生するでしょう。未来を作る街の人たちに、クリエイターが表現する作品群を毎回観ていただきたいです。

量子はそもそも自然にあるものです。人としての営みには欠かせない機能だという気づきが生まれて、サイエンスとアートという両翼で社会が量子をどう組み込んでいくのかが考えられるようになり、その結果を社会にインストールできれば、結構大きな力になるんじゃないかな、というところは量子芸術祭で一番期待したいところですね。

沖田:
量子を社会につなぐ。今回の芸術祭が、来場される一人ひとりが量子について考えてもらえる機会になることを期待しています。

画像: 訪れた人たち一人ひとりが量子について考えるきっかけとなる機会としたい、と沖田

訪れた人たち一人ひとりが量子について考えるきっかけとなる機会としたい、と沖田

画像1: [Vol.3]芸術祭を通じ、量子を社会につなぐ│デザイナー・藤原大さんと考える量子とアートの融合

藤原大
デザイナー

1992年中央美術学院国画系山水画科(北京)留学後、1994年多摩美術大学卒業。2008年株式会社DAIFUJIWARAを設立し、湘南に事務所を構える。コーポレイト(企業)、アカデミック(教育)、リージョナル(地域)の3つのエリアをフィールドに、現代社会に向けた多岐にわたる創作活動は世界から高い評価を受けている。また、独自の視点を生かし、Google、資生堂、日立製作所など企業のオープンイノベーションにおける牽引役としても活動し、国内外での講演やプロジェクトなど数多く実施。
東京大学生産技術研究所研究員、多摩美術大学教授、金沢美術工芸大学名誉客員教授ほかを務める。

画像2: [Vol.3]芸術祭を通じ、量子を社会につなぐ│デザイナー・藤原大さんと考える量子とアートの融合

水野弘之
日立製作所研究開発グループ
Web3コンピューティングプロジェクトリーダ兼
基礎研究センタ 主管研究長兼 日立京大ラボ長

1993年日立製作所入社。2002年から2003年まで米国 Stanford 大客員研究員。低電力 マイコン回路、CMOS Annealing Machine、Emotional Intelligence、Cyber Human Systems など研究牽引。 2020年にムーンショット型研究開発事業にてシリコン量子コンピュータ研究開発のプログラムマネージャー就任。工学博士。米国電気電子学会(IEEE)フェロー。

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沖田京子
日立製作所研究開発グループ
基礎研究センタ 日立京大ラボ 担当部長

企業、行政、大学などの研究者とユーザー・市民との協創活動を推進。人間性やインクルージョン、先進医療などのテーマを深堀し、問題の本質に向けた対話の場づくりと探索型研究を推進。中国のコーポレート・コミュニケーション業務を経て、社会イノベーション事業の広報・宣伝に従事。2015年より研究開発グループに所属。

関連リンク

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