Hitachi
お問い合わせお問い合わせ
日常の生活や出来事から得られる、いま、この時代でしか得られない感覚や発想。それら「社会を切り取る視点」を、研究開発グループのメンバーのインタビューから見つけるコンテンツ、Nowism(ナウイズム)。
今回登場するのは、新しい公共サービスや将来の働き方に向けたサービス、ヘルスケアなどの分野で2030年の世界を想像する新事業創生支援を担当している佐藤弘起さん。リモートワークになってからは、「全体の90%はリモートワークに変えるべき」と感じるほど、安心感と利便性の面で恩恵を受けているとのこと。当初は家事をする時間が減って部屋が汚れたり、食料の消費が早まったりと問題があったものの、現在は生活をルーチン化することで解決したそうです。(2020年11月収録)
画像1: 「人の理」に向き合うデザイナーと「物の理」に向き合う研究者の違いをひもとく|Nowism 社会を切り取る視点の蓄積

佐藤 弘起
研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部 社会イノベーション協創センタ 社会課題協創研究部 主任研究員(Chief Researcher)
インターネット通信システムや電力システムの研究開発と事業化に従事。2017年から、地方創成活動をはじめとする新しい公共サービスや、社会協創に関わる新規事業創成を支援している。プライベートでは3児の父であり、PTA役員など子どもの教育に積極的に関わっている。

研究者としてデザイナーとともに仕事をする中で気付いたのは、デザイナーと研究者の会話を成立させることの難しさ。佐藤さんが分析するその理由と解決策とは?

デザイナーはユーザー視点で考え「人」の理を重視するのに対して、工学系の研究者は自然科学に興味があるので「物」の理を重視します。すごく乱暴に言ってしまえば、僕たち研究者は「人」そのものにはそれほど興味がないんです。その違いにお互いが気付かないので、両者の会話がうまくいかないことが多いのだと感じています。

最初に僕が衝撃を受けたのは、デザイナーの方々と一緒に仕事をし始めて2年目くらいの頃。研究者同士でとても心地のいい、有益なディスカッションができたので満足して自席に戻ったら、そのディスカッションをはたから見ていたデザイナーに「どうして研究者同士でいつも喧嘩してるの?」と言われたんです。

要は、「物」の理に興味がある研究者からすると、イエスかノーか、0か1かが極めて重要なポイントになるんです。さらにモノをつくりあげるのが大好きな工学系の研究者はネガティブな要素を全部潰していこうとするんですね。だから、相手の言っていることにわからない部分があったら、「あなたの言っているこの部分がわからない」と徹底的に問い詰める。逆に言えば否定的に言っていないところは全部OKで、「この部分さえ解決できれば大丈夫」と思っているんです。でもこれを分かってもらえないと、相手を全否定して、責めているように映ってしまうわけです。この会話のやり方で研究者とデザイナーが議論すると、結果的に、研究者の考えにデザイナーがのまれてしまうことが多い。
デザイナーと研究者の間で、そういう会話のプロトコル、様式美がそもそも違うことに気付くまで、僕自身3年くらいかかりました。お互いに違う文化を持っていることを理解して、表現方法を考えることが大事だと思います。

画像: デザイナーと研究者が一緒に仕事できる環境だからこそ、ディスカッションの時間は大切にしているそう。

デザイナーと研究者が一緒に仕事できる環境だからこそ、ディスカッションの時間は大切にしているそう。

デザイナーと仕事をする難しさを体感しながらも、最近改めてデザインやデザイナーという職能の重要性や価値の高さを実感しているという佐藤さん。デザインとアートの違いをふまえると、アーティストに近いのはデザイナーではなく、むしろ研究者のほうだと語ります。

デザイナーのことをあまり知らない研究者は驚くかもしれませんが、デザイナーは実はアーティストとは全く異なる存在なんですよね。正確に言うとデザインに関する学問の中にもいろいろ種別はあると思いますが、アーティストから遠いというのが多数派で。逆に、研究者は基本的にアーティストなんですよ。

どういうことかというと、デザイナーは自分の好きなものを作るのではなくて、ちゃんとユーザーを定義して、その人たちのために何ができるかを考えている。一方で工学系の研究者は、「自分はこれに興味がある」「これをやりたい」という自分の意志が最初にないといけないわけです。「これを作りたい」というところからスタートしつつ、その興味関心が「人」にいかずに「物」の理のほうを向いているから、研究者は結果的に論理的思考になっているだけなんです。
したがって、デザイナーの仕事は研究者とは異なる価値を持つものだと感じます。だからこそ、お互いをリスペクトすることに加えて、今後はデザイナーと研究者の会話をトランスレートできる仲介者的立場の存在が重要になっていくのではないかと思っています。

編集後記

最後には、「ユーザー視点で物事を考え抜けること、本当に尊敬しています。ぜひ一緒に使いやすくて面白いモノやコトをつくりあげていきましょう!」とデザインを生業とするすべての方に向けてエールをいただきました。歯に衣着せぬ物言いで鋭い分析を披露してくれましたが、そこに佐藤さんの人柄が出ています。思っていても口に出さない、言葉にすれば皮肉になってしまうようなタイプの人とは逆で、きつく見えるけど言葉に愛情があるんです。

コメントピックアップ

画像2: 「人の理」に向き合うデザイナーと「物の理」に向き合う研究者の違いをひもとく|Nowism 社会を切り取る視点の蓄積

研究者がアーティストで、デザイナーはアーティストじゃないって本当にそう思います。もちろんいろいろなタイプの研究者がいるから、一概には言えませんが。僕も社内社外含めてさまざまな分野の研究者とお仕事をさせてもらったので、今度、研究者のキャラクターをデザイナー視点で類型化してみたいです(笑)。同じ会社の研究所でも、茨城、横浜、国分寺などのサイトで全然違いますもんね。

画像3: 「人の理」に向き合うデザイナーと「物の理」に向き合う研究者の違いをひもとく|Nowism 社会を切り取る視点の蓄積

研究者とデザイナーの違いを単純化して語る議論は、本来あまり好きではないけど、実体験にもとづいた「研究者の議論は喧嘩に聞こえる」「歯向かうデザイナーは少ない」という話には共感しました。

画像4: 「人の理」に向き合うデザイナーと「物の理」に向き合う研究者の違いをひもとく|Nowism 社会を切り取る視点の蓄積

デザイナーがアーティストであってはいけないとは思ってきましたが、研究者をアーティスト精神が宿る存在として理解すると、言動の違いがよくわかりました。「物」の理に興味があって「人」に興味がないという分析も衝撃的でした。

Nowism 社会を切り取る視点の蓄積

日常の生活や出来事をとおして、いま、この時代でしか得られない感覚や発想に迫る、研究開発グループのメンバーインタビュー

Nowism 記事一覧はこちら

This article is a sponsored article by
''.