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Next Commons Labの林篤志さん、家冨万里さんをお迎えし、株式会社インフォバーンデザインラボ 白井洸祐さんとともにコミュニティと個人のウェルビーイングを考える対談。最終回は、新たな社会システムの今後の可能性について掘り下げます。「いままでポジションを築いていた企業がエコシステムの一部になろうとする時代が来ればおもしろい」と林さんが話す理由とは。

[Vol.1]大きな社会システムから小さなコモンズへ
[Vol.2]地域に新しいインフラをつくってみる
[Vol.3]自分たちで社会インフラをデザインする地域のエコシステム

文脈が弱いベッドタウンを再定義する

曽我:
喜びを分かち合い、コモンズ※をみんなでうまく回し合う共同体がどんどん増えてるいま、地方以外の都市部でもそれは可能なのでしょうか。たとえば多摩、西東京は高度経済成長期にベッドタウンとして発展してきた街ですが、住民の高齢化が一気に進み、住民自身にもそれが課題として認識され始めています。しかし、そこに集まってきている人たちは、地方の人たちとは土地への愛着やコミュニティに対する意識が全然違う気がするんです。このような都心に近くて課題を抱えている地域でも同じようなことができるのでしょうか?

※ コモンズ……社会の共通資本。社会全体にとって共通の財産として、社会的な基準にしたがって管理・運営されるもので、(1)森林、河川、海洋などの自然環境、(2)道路、水道、電力などの社会的インフラストラクチャー、(3)教育、医療、司法などの制度を含む概念。(宇沢弘文「社会的共通資本」(2000)より引用)

林さん:
その人たちは、暮らしの場に利便性や価格の手頃さといった機能を求めて選んだんだと思うんですよね。機能は都心の方に集中していくと思うので、都心部には滑らかで摩擦の一切ない社会が生まれる可能性があります。

ベッドタウンの機能を再定義できるかというと、なかなか難しいと思うんです。そうすると機能ではなく、なぜここに住むのかという理由やこの街をどうしていきたいのかといったビジョンを新しく作っていかざるを得ません。

そこに住み続けるためには、やはりコモンズの再定義が必要です。僕らもいま、ローカルコープという第二の自治体ともいえる活動を行う事業を立ち上げ、2種類のプロジェクトを各地で動かしています。1つは未来に目的を考えられる人が中心となって、少し遠い先の未来にマイルストーンを引くプロジェクト。もう1つは、社会との接点をもてる小さな装置を作っていくプロジェクトです。

画像: 「ベッドタウンに住み続けるためにもコモンズの再定義が必要」と林さん

「ベッドタウンに住み続けるためにもコモンズの再定義が必要」と林さん

ゴミ捨てという生活習慣から社会との接点をつくる

林さん:
そのうちの一つとして、社会との接点を持てる小さな装置を作っていくプロジェクトとして、今、アミタ株式会社と連携して進めているのが、資源回収とコミュニティ活性化機能を融合させたシステム「MEGURU STATION®」です。MEGURU STATION®は、従来型のごみステーションとは違い、住民自らがもち込んだ資源を細かく分別し、ごみの資源化をめざすものです。ゴミを捨てない人はいません。ゴミを捨てる行為を細かく分析することで、その地域全体のゴミを減らしていく。それによってCO2の削減もできるので、環境価値としてトークン※を発行することもできるでしょう。ゴミを捨てる習慣に着目し、ライトな形で人と社会の接続点を増やしていくというところから、ボトムアップな世の中を作っていく必要があると考えています。

※トークン……仮想通貨や暗号資産といったデジタルマネーのこと。

システム化される世界に対し、あえて不便さを残す

曽我:
都心部はどうでしょうか。

林さん:
都心部はどちらかというと、超高気密、超高生産性といった生活になっていくことに対してどう抗うか、システム化されていく世界に対して生活の摩擦係数を残せるかどうかが勝負だと思います。

曽我:
強い対抗勢力がある中でどうするか、でしょうか。

林さん:
共存はできると思いますね。システム化されていく世界とは、「あ、オムツがない」って思ったら、自動運転のキオスクがオムツを持って目の前に来るような世界です。「オムツないわ」って友達のお母さんに電話して、「ちょっと持ってきてくれる?」っていうコミュニケーションはしなくて済みますよね。でもそれが、ウェルビーイングに寄与するかどうかは怪しい。だからあえて摩擦係数をどんどん作る必要があると思います。

家冨さん:
「おかんのおかん」というサービスはどうでしょうか。都心部に住むお母さんたちにとって、おいしくて温かいものを届けてくれるUber Eatsがあれば幸せかというとそうではありません。お母さんのお母さん的な存在が話を聞きながら料理をふるまってくれるといった人間味あふれるサービスの方が、心のよりどころになるんじゃないかと思うんです。そういった隙間のサービスができないかなと考えたときに、いまご質問いただいたような、都市の中でできる共同体のあり方に対して、何かヒントがありそうだなと感じています。

曽我:
特定の属性をもった人たちに着目して共通の困りごとを捉えると、その地域のコモンズのあり方が見出せるのかもしれませんね。

林さん:
一定の不便さや豊かな苦労のようなものが地域の売りになるのではないでしょうか。だから、都市の中ではそれが局所的に設定されていくべきだと思います。超便利になったとしたら、それはそれで、ある一定の世代や特定の属性の人にとってはすごい意味があることだと思います。でも、それだけでは物足りません。都市と地方を行き来したり、都市の中にもそういう局所的なあえての不便さを生み出していくことが、おそらく求められているんじゃないですか。

自分たちの社会インフラを自分たちでデザインする

白井さん:
今後さらに土地性が流動的になっていく可能性もありそうです。ならば都市もローカルの一つなのかなと思ったのですが。

林さん:
物理的な空間の希少性は相対的に上がり、より象徴的になっていくとは思うんです。たとえば、デジタル村民の経済圏や生活圏が物理的に山古志にとどまることはおそらくありません。でも、山古志という物理的な象徴があることで、経済圏、生活圏が物理的制約を超えて支えられ、広がっていくことになります。

物理的な山古志をどのように存続させるかは、まだ分からないですね。生活する空間としての山古志っていうのはかなりもうシュリンクしきっていていますが、象徴性としての山古志という形で残る可能性はあります。あまりその物理的空間に引っ張られるものではないと思っています。

仮に自治体や国家に役割があるのだとすれば、自治体や山や川、土地などをどのように管理し、守っていくかという部分だと思います。テクノロジーのスピード化に追い付けない人たちも必ず出てくると思いますので、その人たちを包摂し、土地や物理的空間を守っていく役割は重要になってくるでしょう。新しいものを入れても、守るべきものは守って、その土地としての可能性を切り拓いていく世界観になっていくんじゃないかなと思います。

そもそも、日本人というアイデンティティはもっていても日本政府にアイデンティティを持っているわけではないと思うんです。だから、ある程度のテクノロジーが進化していけば、自分たちの社会インフラやセーフティーネットを自分たちでデザインして、構築していけると思っています。ブロックチェーンの力を使うと社会保障が伴った新たな共同体のようなものが無数に立ち上がっていくので、そこをみんなが自由に選んで、また物理的にどこに住むかってというのも自分で選ぶようになっていくんじゃないかなという気がします。

画像: 都市の中でできる共同体のあり方に期待を寄せる家冨さん

都市の中でできる共同体のあり方に期待を寄せる家冨さん

社会インフラを作ってきた企業に求められる変化

曽我:
新たな共同体の世界を描いてらっしゃる中で、これまでの社会インフラを作ってきた私たち日立のような大企業は、お二人からはどういう風に見えているのでしょうか。

家冨さん:
SOCIAL ENERGYという電力事業をやっているなかで、創業80年を超えるエネルギー企業グループで電力事業を手がけるイーネットワークシステムズの方が提携企業として専門的な説明をしてくださることで、地域の方々に安心していただけた場面がこれまでも何度かありました。こういった企業が長く築かれてきた安心感に我々もすごく助けられています。NCLは地域とつなげる役割なので、役割を棲み分けながら大企業の方々とご一緒することの可能性を日々感じています。

林さん:
いま、SIL(Sustainable Innovation Lab)※という新しい社会をデザインする取り組みを始めているのですが、大企業の方々とお話をして難しいなと思うのは、いかに覇権を握るかといった話になってしまうことがあるんですよね(笑)。また、ご一緒させていただいてやっていく中で、途中からなぜか営業の方が出てきて「これやるとうちの製品どのくらい売れますかね」という話になることもあります。

Sustainable Innovation Lab……企業、スタートアップ、自治体、研究者、アーティストなどが集まり、主体となって、身の回りのことから地球規模の課題までを関連付けて解決していこうという取り組み。NCLはそのボードを務める。

ビジネスの世界も、僕たちがいま作ろうとしている社会の形も、結局は自然のメカニズムに逆らえません、どれだけ科学技術の発展や経済成長がすすんでも、「10年後、この地域には住めません」と大どんでん返しをくらう可能性もあるわけです。自然の摂理に逆らうことができない私たちは、やはりエコシステムの一部になるしかないと思うんです。ただそのエコシステムのいろんなパーツが、いまはまだ全然足りていないように感じています。いままでどちらかというと堅固なポジションを築いてきた企業さんが、もう少し柔軟なエコシステムの一部になっていこうと、いろんなステークホルダーと組んでプロジェクトを進めたり新しい場を作っていく時代になれば、かなりおもしろいなと思っています。

いままでつながらなかった業種や、あまりに規模が違いすぎて商談にならなかった企業同士が、地域というフィールドをベースに繋がり始めて、いいコラボレーションをするようになる。そうすると、何かいままで見えてこなかったような、新しいビジネスの価値や、社会への提案が生まれ始めると思うんです。みんなでそのエコシステムをそれぞれ役割分担していこうとすれば、そもそも大企業は資本と技術を持っている分、価値創出のスピードが早まるでしょう。もっと早く来て、と思っています(笑)。

画像1: [Vol.3]自分たちで社会インフラをデザインする地域のエコシステム│Next Commons Labと考える、個人もコミュニティも幸福にする社会システムのあり方

林篤志
一般社団法人Next Commons Lab代表理事
株式会社 Next Commons Lab代表取締役

Next Commons Labファウンダー。2016年にNext Commons Labを創業し、ポスト資本主義社会を具現化するための「社会OS」をつくっている。自治体・企業・起業家など多様な領域と協業しながら、日本の地方から新たな社会システムの構築を目指す。日本財団特別ソーシャルイノベーターに選出(2016)。Forbes Japan ローカル・イノベーター・アワード 地方を変えるキーマン55人に選出(2017)。新潟県長岡市山古志地域で2021年2月に始めた「電子住民票発行を兼ねたNFTの発行プロジェクト」もプロデュースする。

画像2: [Vol.3]自分たちで社会インフラをデザインする地域のエコシステム│Next Commons Labと考える、個人もコミュニティも幸福にする社会システムのあり方

家冨万里
一般社団法人Next Commons Labディレクター
株式会社Next Commons Lab代表取締役

東京都出身。大学で都市計画を学ぶ。東日本大震災を機に2012年に岩手県遠野市に移住。2016年にNext Commons Labを共同創業。地域に起業家を誘致するローカルベンチャー事業の立ち上げや伴走支援するコーディネーター職を経て、2020年株式会社Next Commons Labの共同代表に就任。現在は電気代の一部を社会活動に還元する事ができる電力事業SOCIAL ENERGYの事業マネージャーを務める。その他、個人的に岩手県遠野市の駅横の飲んべえ横丁・親不孝通りにて「スナックトマトとぶ」をママとして経営する。

画像3: [Vol.3]自分たちで社会インフラをデザインする地域のエコシステム│Next Commons Labと考える、個人もコミュニティも幸福にする社会システムのあり方

白井洸祐
株式会社インフォバーン IDL(INFOBAHN DESIGN LAB.)部門
デザインストラテジスト

編集プロダクション勤務後、2012年に株式会社インフォバーンに入社。企業のインナーブランディングおよびイノベーション支援の一環として、社内と社外がつながり新しい価値を生み出す共創活動を推進する。2017年よりIDLのデザイナーとして、企業の事業開発やブランディングにおけるデザインリサーチ、プロジェクトデザインに従事する。
また、2016年ごろよりソーシャルデザイン領域での活動を広げ、社会との接続により企業の成長と変革を支援するSocietal Lab.を立ち上げる。ローカルにおける行政や事業者、生活者とのマルチステークホルダープロジェクトに多数従事。2018年より一般社団法人サイクル・リビングラボ理事を兼任。2021年に京丹後市の価値共創を推進する事業(丹後リビングラボ)の立ち上げに参画、事務局メンバーとして活動する。

画像4: [Vol.3]自分たちで社会インフラをデザインする地域のエコシステム│Next Commons Labと考える、個人もコミュニティも幸福にする社会システムのあり方

曽我佑
研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部 社会イノベーション協創センタ サービス&ビジョンデザイン部 兼 ウェルビーイングプロジェクト
デザイナー(Senior Designer)

2014年日立製作所入社。ヘルスケア、地域創生、コミュニケーションロボット等のテーマで、新規事業立上げにおけるサービスデザインを担当しながら、顧客協創手法の開発に従事。2018年から、将来の社会課題を探索しながら次世代の社会システムの構想・社会実験を行うビジョンデザイン活動を推進。

[Vol.1]大きな社会システムから小さなコモンズへ
[Vol.2]地域に新しいインフラをつくってみる
[Vol.3]自分たちで社会インフラをデザインする地域のエコシステム

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