※ PARK-PFI(公募設置管理制度)……地方公共団体が設置した公園内で、飲食店、売店などの設置や管理を行う民間事業者を選定する公募制度。事業者は運営する施設から得られる収益を公園の整備・管理に還元し、事業者に対しては都市公園法の特例措置が適用される。
[Vol.1]いま、公園から何が生まれつつあるのか
[Vol.2]生み出される成果をいかに示し、さらに企業を巻き込むか
[Vol.3]行政と民間、そして市民も入れる理想的な仕組みとは
「公園を変えるとまちが変わる」を実践するNPO birthの取り組み
高田:
今回は公園がもたらす社会価値、特にコミュニティや人と人とのつながりにどう影響を及ぼすかという点にフォーカスを当てた話を展開していきたいと思います。まずはそれぞれがどんな活動を行っているのかを教えてください。
佐藤さん:
NPO birthは「公園が変わるとまちが変わる」というテーマで、公園緑地を拠点として地域の力をどう引き出すかというマネジメントを実践しています。
日本の公園の現状から話しますと、小さな公園がたくさんある一方で、財政難で維持管理の費用が減ってしまい、植栽管理が思うように行き届かず、景観や防犯の観点からも課題のある公園が少なくありません。他方では少子高齢化対策や健康づくりの観点から公園には大きな期待も集まり、種々の法律の改正が行われたり、新しい概念が入ってきたりもしています。
たとえば国土交通省は、新型コロナウイルスのような感染症の蔓延があっても、心身の健康のために公園に来ましょう、とPRしています。私も国土交通省の「都市公園の柔軟な管理運営のあり方に関する検討会」の委員ですが、検討会では場・仕組み・担い手の観点から公園をどう活用していくべきかを検討しています。
また最近耳にすることが増えたグリーンインフラについても、国土交通省は緑をさまざまな社会課題の解決に活用しようと「グリーンインフラ官民連携プラットフォーム」を作り、私も委員の一人になっています。私たちNPO birthでは、緑を活用することでまちが活性化し、人も自然もまちもみんなが元気になるウェルビーイングなまちづくりができると20年前から提唱してきましたが、ようやくその流れが社会にできてきたと感じています。
世界に目を向けると、2000年頃には海外の先進都市ではすでに公園緑地をまちづくりに活用する動きが活発化していました。公園の利活用が進むことで、人々が健康になり、自然環境が整い、さらに公園の周辺地域が活性化して経済効果も大きい。となれば、公園に目を向けるのは当たり前のことです。NYのマンハッタンでは、点として存在している公園や緑道をシームレスにつなぎ、防災や生物多様性に寄与するまちづくりのプランが官民連携で進められています。ロンドンではまち全体をナショナルパークシティにするという公約を市長が結んでいます。パリでは、2030年までにパリを欧州で最も緑の豊かな都市にしようという気運が高まり、パリ市民が街中に緑を増やしたり、菜園を作ったりもしています。
欧米の都市では「みどりの中間支援組織」が活躍し、官民の間や異なるセクターの間に立って調整や連携を図りながら、都市の緑をまちづくりに活かし、成果をあげています。そこで日本でもそのような組織が必要と考え設立したのがNPO birthです。都市の緑を、地域の産官学民のステークホルダーとともに活用することで、環境資産の継承(エコロジー)、暮らしの質の向上(コミュニティ)、地域経済の活性化(エコノミー)をはかり、サステナブルなまちづくりに取り組んでいます。
都市緑地の中でも、特に公園は誰もが気軽に利用できる場です。公園での活動は、人々の価値観やライフスタイルにダイレクトに影響を与えます。そこでNPO birthでは、公園の指定管理者として、18の都立公園、54の市立公園のパークマネジメントを行っています。一番小さいところでは都市部の住宅に囲まれた15平米しかない緑地から、200ヘクタールもある里山の大きな公園までを手がけています。
公園の仕事というと剪定や清掃というイメージがあるかと思います。もちろんそういう仕事も大事ですが、NPO birthでは、公園での活動をまちづくりにつなげるという視点で、パークコーディネーターやパークレンジャー、エコロジカルマネージャーといった専門スタッフを配置し、地域のステークホルダーとパートナーシップを組んで、緑の保全や活用を進めるプログラムを展開しています。すると公園を使いこなす市民プレイヤーがどんどん生まれて、関係人口がみるみる増えて、公園だけでなく地域全体が生き生きと元気になっていきます。
これからのまちづくりのトレンドは、みどりの力=グリーンインフラをどう使いこなすか、活かすか、という視点が欠かせなくなっていくと思います。
PARK-PFIと指定管理によって活気とコミュニティが生まれた渋谷区立北谷公園
伊藤さん:
日建設計はさまざまな施設の設計業務を行っていますが、近年は公園などの公共空間の運営にも取り組み、2018年にはパブリックアセットラボという部署を立ち上げました。公共空間に関する計画立案や社会実験に取り組みながら、多様な地域のプレイヤーが公園や公共空間で活動を展開することで地域産業を活性化し、地域の価値を高めることをめざしています。
2021年4月からは、東京都渋谷区にある渋谷区立北谷公園の管理運営を担う指定管理者の構成員となりました。北谷公園は渋谷駅から公園通りを上り、1本内側に入ったところにある約960㎡の小さな公園です。現在は渋谷の真ん中にありながら緑が豊かで憩えるスペースとして日常的にも人が来るようになりましたが、リニューアル前は駐輪場、駐バイク場として使われており、公園としての利用が限定されていました。周囲に多くあったアパレルのお店も、この10年ほどはECサイトの増加などで減りつつあるといった状況でした。
そこで、渋谷区はこのエリア全体を盛り上げようと、区立公園として初めてP-PFI制度を活用、東急を代表企業とし、日建設計を含む企業コンソーシアムが整備を行いました。地域にいる人たちがさまざまな活動ができるように広場空間を設け、公園の外から中が見通せる設計にしたのが特徴です。
リニューアルオープン以降、日建設計は公園の指定管理者として地域連携型の公園運営、エリアマネジメントに取り組んでいます。公園のすぐ近くにある桑沢デザイン研究所(デザイン専門学校)の学生さんに公園のロゴを学内コンペで作ってもらったり、2021年11月からはJINNAN MARKETという、渋谷区の神南エリアにいる魅力的な人たちでマーケットを作る活動を定期的に行ったりしています。
公園のすぐ横にある「BARK in STYLe」というモデル事務所が神南のファッション関連の出店者を集めてくれたり、渋谷区立神南小学校とのコラボ企画、商店街振興組合とのマーケットの同時開催など、地域プレーヤーとのつながりを深めつつあります。
2022年10月のJINNAN MARKETは過去最大規模のスペシャル版として開催し、公園外の道路にまで開催エリアを広げ、隣のビルの壁面を使った映画の上映をしたり、廃棄予定のアウトドア用品をアップサイクルした服を着て歩くファッションショーを開催したりしました。周辺の店舗とも一緒に共同開催することで街の回遊動線を作ることもでき、2日間で1万人を超える来場者を達成できました。
公園内には二次元バーコードを設置し、それを読み込むと管理者へ声を届けられるアンケートフォームにアクセスできるシステムも導入しています。「公園にお店を出したい」「こんなイベントをやりたい」「こういうイベントがあったらいいな」という声を管理者に届け、「あなたの公園」として公園を使ってもらいたいという思いから「YOUR PARK」と名付けました。システムを通じて、いろいろな声が届きますが、映画の上映会もYOUR PARKを通じて届いた声から実現した取り組みの一つです。こんなふうに、公園に来てくれる地域の人たちの声に答える運営ができたらといいなと思っています。
佐藤さん:
昔から渋谷に住む私の友人が、このまちにはお祭りや地域コミュニティもしっかりあるけれど、外から来た人にはそれが見えないし、わかりづらいと言っていました。北谷公園のような新しい取り組みがお祭りのような古い文化や歴史とつながると、地域に根ざした新しいカルチャーが生まれそうですね。
高田:
公園の指定管理は日建設計さんとしての新しい取り組みとのことですが、伊藤さんは自ら「やりたい」と手を挙げられたのでしょうか。
伊藤さん:
以前から「作るだけでなく出来上がった後どうしていくかが大切だ」ということを社内でも言っていたこともあり、自分から手を挙げました。北谷公園の前に、宮下公園の再整備事業の都市計画業務も担当していましたし、多摩川で開催されている「TAMARIBA」というフェスイベントに個人として関わる中で、場所の使い方一つで人の行動が変わる、という実感があったので、北谷公園でもそうした活動をやりたいと思いました。
公園から生まれる地域活性の効果をどう測定し、取り組みの後押しをしていくか
日野水:
日立製作所としてはサステナブルな社会の実現に向けて、環境問題、社会課題、プラネタリーバウンダリー、ウェルビーイングに真摯に取り組んでいます。解決をめざす社会課題の中でも、このプロジェクトで私たちが大きな課題だと捉えたのが地域コミュニティの希薄化です。
先ほど佐藤さんが渋谷区のお祭りやコミュニティの話をされましたが、都市で暮らしているとコミュニティを遠く感じている人が多いのではないかと思います。そこにコロナ禍が加わったことで、リアルでのつながり、コミュニティはさらに遠いものとなりました。コミュニティの希薄化は引きこもりがちな生活を加速化し、結果として不健康につながったり、災害時の助け合いが起こりにくい状況へもつながります。私たちはそれは大きな問題だと捉えました。
最初は私たち自身がその課題を解決することを考えましたが、リサーチを進める中ですでに地域のプレーヤーの方たちが地域コミュニティの希薄化やそれに紐づく課題に対して取り組んでいることが分かりました。一方で、取り組んでいることの効果を数値で示すことが難しく、活動を持続的なものにすることが難しいことも見えてきました。
同時に、投資家などもESG投資をはじめ社会課題解決に向けて積極的な投資をしたいけれど、どこに投資したらいいのか分からず、本当に価値がある投資先を知りたがっていること、また社会課題に関心のある地域住民にとっても関わり方やその入口が分からないことが課題になっていることも知りました。
そこで私たちは、そうした課題に対して何かできないかと考え、コミュニティ活性化などの社会価値向上をめざす施策の効果を測定し、価値や効果を定量的に可視化することで、施策の立案をデータに基づいて支援することをめざすこととしました。
そこで、日建設計さんに北谷公園の整備運営事業に関連した情報提供を頂き、検討を進めています。そのきっかけは、公園という場はコミュニティ活性化という観点で、幅広い年代の方が利用しさまざまな活動やイベントを通してコミュニケーションが起こっているものだと考えたからです。渋谷区立北谷公園は、P-PFIの取り組みのなかでも先進的な取り組みだと思い、ぜひお話をうかがいたいと日立からお願いをしました。
山田:
その検討の中では、ロジックモデルを用いて施策が街へもたらす効果をブレスト的にまとめました。ロジックモデルは取り組みの因果をロジカルにつなぎ合わせ、最終的にその取り組みがどのようなインパクトをもたらすことができるのかを体系的に表すスキームです。私たちは社会課題に対しての取り組みが最終的にどのような効果、インパクトを出せるかの因果関係の仮説を作りました。
公園を起点とした取り組みがもたらす最終的なインパクトを、地域経済の活性、そこに定住している人にとっての地域コミュニティの創出、公園に人が集まることの波及効果の点からまとめることをめざしました。人と人の間のコミュニティをどう評価するのか。私たちとしては、その評価を金銭的な便益評価にまで落とし込めないと本当の意味で価値の提言ができないと考えました。
日野水:
そうやって一旦作ったロジックモデルについて渋谷区さんや日建設計さん、そのほか北谷公園プロジェクトでの関係先のご意見なども伺いながら、因果関係を証明できるような指標を絞り込み、整理しています。
山田:
北谷公園を具体例に考えており、公園の流入人口に加えて、公園内のカフェの利用者数や、公園のイベントの開催数、そして地域通貨を用いた場合はその利用量を測定することで、地域コミュニティの活性化と、それを通じた地域経済循環率などの指標を追跡できると考えています。
日野水:
コミュニティが活性化することは良いことだと、みんなが直感的に感じていると思います。問題は、活性化のための活動に向けた予算を継続的に確保することです。人と人との繋がりを表す社会関係資本の増加が具体的な介護費用の減少や地域内の経済循環率の向上などのメリットにつながることが示せれば、社会的に価値のある施策が予算面で続けやすくなるかもしれません。また、コミュニティのもたらす価値を定量化した指標で表すと無味乾燥に見えるかもしれませんが、便益評価を行いつつ、社会関係資本という人と人とのつながりがそこに生まれていることの価値も一緒に説明していきたいと思っています。
次回は、イベントが地域のつながりを生み、コミュニティ形成につながっている事例を伊藤さん、佐藤さんからお聞きしながら、評価指標の必要性や、どう企業を巻き込んでいくか、という視点でさらに話を深めていきます。
佐藤 留美
特定非営利活動法人 NPO birth 事務局長
東京農工大学農学部森林利用システム学科卒業。1997年にNPO法人NPO birth、2018年にNPO法人Green Connection TOKYOを設立。都市のグリーンインフラの機能を高めるさまざまな取り組みに精通し、公園緑地の保全・利活用についての相談・企画運営に多数携わっている。都立公園の指定管理事業(NPO birth)では毎年最高評価を獲得し、都市公園コンクールでは国土交通大臣賞をはじめ数々の賞を受賞。著書に「パークマネジメントがひらくまちづくりの未来」(共著、マルモ出版、2020)ほか。
グリーンインフラ官民連携プラットフォーム運営委員、(一社)公園管理運営士会理事、(公財)日本花の会理事、茨城県自然博物館助言者、NPO法人都市デザインワークス理事。
伊藤 雅人
株式会社日建設計 都市・社会基盤部門 パブリックアセットラボ ラボリーダー
東京大学大学院都市工学専攻修了、2008年入社。国内外の都市計画、都市デザイン業務に幅広く関わった経験を元に、現在は新領域開拓としてパブリックスペースにおけるハードとソフト一体のトータルデザインを行っている。特にパブリックスペースの運営の高質化が都市の価値向上に寄与するとの課題認識から、渋谷区立北谷公園ではPark-PFI公募提案段階のプランニングから、完成後の公園運営を担う指定管理業務までを担当し、地域連携型の公園運営・エリアマネジメントの新しいモデルを模索している。その他の主なプロジェクトに蘇州市呉中区地下空間、新宮下公園等整備事業など。一級建築士。
日野水 聡子
日立製作所研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部 社会イノベーション協創センタ プロダクトデザイン部 主任デザイナー(Design Lead)
日本、デンマークでグラフィックデザイナーとして勤務ののち、文化庁新進芸術家海外研修員として派遣、Aalto大学 MA in Department of New Media修了。フィンランドでUXデザイナーとして勤務後、日立製作所入社。現在、ヘルスケア、街づくり分野などでのサービス創出を目的とした国内外の顧客協創活動を推進。
山田 健一郎
日立製作所研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部 社会イノベーション協創センタ 社会課題協創研究部 研究員(Researcher)
日立製作所に入社後、光学を応用した多領域の研究開発に従事。現在、リテール、スマートシティ分野等の顧客協創活動を推進。
高田 将吾
日立製作所研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部 社会イノベーション協創センタ サービス&ビジョンデザイン部 デザイナー(Designer)
日立製作所に入社後、都市・交通領域におけるパートナー企業との協創をサービスデザイナーとして推進。
[Vol.1]いま、公園から何が生まれつつあるのか
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