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社会課題解決に向けた公園開発と、公園がもたらす価値について、vol.2では、イベントが地域のつながりを生み、コミュニティ形成を促した事例をもとに、評価指標の必要性や、どう企業を巻き込んでいくかという視点でさらに話を深めていきます。対話するのはvol.1に引き続き、P-PFIによる選定を受け、公園の運営に取り組む株式会社日建設計 パブリックアセットラボリーダーの伊藤雅人さん、公園や緑を活用したまちづくりに早くから取り組み、国の検討会のメンバーなども務める特定非営利活動法人NPO birth事務局長の佐藤留美さん、日立製作所研究開発グループ社会イノベーション協創センタの日野水聡子、山田健一郎、高田将吾の5人です。

[Vol.1]いま、公園から何が生まれつつあるのか
[Vol.2]生み出される成果をいかに示し、さらに企業を巻き込むか
[Vol.3]行政と民間、そして市民も入れる理想的な仕組みとは

画像: 時には身を乗り出してお互いの意見に耳を傾け、意見を交わし合った

時には身を乗り出してお互いの意見に耳を傾け、意見を交わし合った

国分寺市の市民企画イベント「国分寺ぶんぶんウォーク」で生まれた、日常にも持続する地域のつながり

高田:
人と人とのつながり、コミュニティの形成という観点から、公園で行っているイベントの意義や目的について教えてください。

佐藤さん:
私たちは、公園でのイベントとはハレの日でありながら、日常にもじわじわと染み出していくようなものだと考えています。そういうイベントとは、市民自身がつくるイベントです。とはいえ、一般市民は企画づくりでは素人だったり、公園に関連する条例などの知識もありません。そこで公園に常駐するNPO birthのパークコーディネーターが、市民のアイデアを企画として実現するサポートをしています。そうすると、市民だけでも公園管理者だけでもできないユニークな企画が実現します。また出展している市民の姿を見て「自分もやれるんだ」と思ってやり始める人が現れたり、出会った人同士が一緒にプロジェクトを始めようと動き出して、公園外のまちの中で新たな企画が始まったりしています。

まちづくりの中で、公園は人やモノ、情報、お金など、地域のリソースが集まり巡る、重要なハブ拠点です。そんなハブは公園だけではなく、まちの各所にあるんだと思います。それらをつなげていくと、こんなにまちが活性化したよという具体例が、国分寺市で開催されている「国分寺ぶんぶんウォーク」です。

このイベントは市民が発案した企画で、メイン会場である都立武蔵国分寺公園の指定管理であるNPO birthも実行委員会のメンバーです、日立さんからは企業協賛をいただいていますし、地産地消の「こくベジプロジェクト」に関連した企画で参画されたこともありますね。

国分寺市には史跡や国分寺崖線からの湧水など見どころがたくさんあるのですが、「こんなにいいところがあるのにもったいない」と思う市民が何人か集まって、まちの魅力を再発見しようと、それらを巡るウォーキングを12年前に企画したのがこのイベントの始まりです。

画像: 国分寺市のぶんぶんウォークのチラシを手にイベントがもたらした価値について語る佐藤さん

国分寺市のぶんぶんウォークのチラシを手にイベントがもたらした価値について語る佐藤さん

このイベントは年1回、二日間にわたって開催されてきました。年々参加者も企画側の市民もどんどん増えて、いまでは関係者だけで数百人を超えていると思います。市内の大学生もボランティアスタッフとして参加しています。さきほどの「こくベジプロジェクト」もぶんぶんウォークの企画から生まれました。

またコロナ禍では、「ぶんさんウォーク」と名前を変えて、、2021年には、市内約100ヶ所のクイズラリー拠点をつくりました。なんと全拠点をまわった人は1,000人ほどもあったようです。

このイベントが良かったのは、何かを新たに作るのではなく、元々国分寺市にある地域資源を見える化したことです。それまでその存在に気づいていなかった人たちが「いいものいっぱいあるじゃん!」と来るようになり、まちを巡る間にたくさんの出会いが生まれていきました。

こういった市民企画のイベントをきっかけに、仲間ができたからと市外から引っ越してくる人も少なくありません。私たちの管理する公園の隣の小学校は教室が足りなくなるほどです。コロナ禍の影響で、閉店の危機に陥っていた自然食レストランをクラウドファンディングで助ける動きもありました。ここで生まれた人のつながりが、知らず知らずのうちにまちのセーフティネットワークをつくっていたことに気づかされました。

日野水:
こうした活動が続くのは本当にすごいと思いますが、運営に関わっている人たちは全員ボランティアですか?

画像: 現場で実践を重ねる人たちの話が、研究の大きな糧になる

現場で実践を重ねる人たちの話が、研究の大きな糧になる

佐藤さん:
はい、イベント企画自体はボランティアで運営されていますなぜ続いているかというと、一言で言うと「楽しい」のだと思います。普段だったら出会わない人と出会えるし、コミュニティが生まれて、このイベントをきっかけに日々の暮らしが豊かになっていく。また各企画の運営側も、自分たちが日常的にやっていることを、このイベントに合わせてプラスするなど、無理のない形で参画しています。単独でするより集客が見込めるなど、相乗効果も大きいんです。またここでの出会いが新たなコミュニティビジネスにもつながったりしている。みなさんそんな化学反応を面白いと感じていて、さまざまな資源が巡る好循環が生まれています。

また、まち巡りのルートが知られるようになったら、普段から歩く人たちがとても増えました。するとルート沿いの住民が自宅の1階部分をカフェや蕎麦屋にしたり、農家の庭先の野菜販売所も以前より増えるなど、まちが賑わってきました。市民のアクションが、まちを変えていく原動力になっているんです。誰もが自由にチャレンジできて、あれこれ試行錯誤しながら、本当に楽しいこと、面白いこと、みんなの役立つことを、市民自身の手で選んでいけるのが楽しいんです。

人が集まり、自走し始めた地域において成果や価値をどう指標に落とし込むか

日野水:
活動を通して皆さん価値を十分に体感しているので、それが可視化されなくてもどんどん伝わって大きくなっているのだと思いますが、グリーンインフラの成果や価値はどうやって伝えていらっしゃいますか。

佐藤さん:
まちのみどりを活かすことで地域が元気になる、暮らしが潤う、ということは、みんな実感しているはずです。一方で、そのエビデンスを質と量の面で、どう示して証明していくのか、その方法を模索しています。ぶんぶんウォークを12年続ける中で、市内外の関係人口は確実に増えていて、まちが変わってきたという実感はあります。私自身も、市内を歩いていると知り合いに会うことがとても多いんです。

伊藤さん:
もはや定住人口の増加にも寄与していそうですね。

画像: お互いの取り組みがさらなる関心を呼び、活発に意見が交わされた

お互いの取り組みがさらなる関心を呼び、活発に意見が交わされた

佐藤さん:
はい、そう思います。都立公園の隣の小学校では、周辺の子育て世代の人口が増えて教室が足りなくなりました。人気のエリアとなったので、マンションの価格も強気で設定しているなと思います。また、市民の中でもぶんぶんウォークを機会に、自身が住んでいる場所だけではなく、行ったことがない地域の畑で農家さんと交流したり、お店の常連さんになったりということは、たくさん起こっています。市民が地域にあるお宝を知って、地域に仲間が増えていく。そうするとシビックプライドといいますか、「この地域いいな」「ずっとすみたいな」と思うようになっていく。子どもの頃からそうした体験や交流をしていると、大人になってからもまた国分寺市に戻り「ここで何かやってみよう」と考える人も増えると思います。

日野水:
このイベントをやったから、地域の子育て世代にとって住みやすい街だとみんなが思うようになり、実際に住む人がだんだん増えてきた、ということを可視化できるといいですよね。

佐藤さん:
特にアーティスト系などの若いご夫婦とか、子どもが生まれたから緑があるところに住みたいと探して来られる方もいます。単に緑が多いだけではなく、豊富な湧水が湧く崖線があるということは、何よりの価値です。水があれば災害時にも安心ですし、作物も育てられる。だからこそ旧石器時代から人が住んでいて、奈良時代には聖武天皇が国分寺を建立したわけです。さらに誰でも参加できて自分が主役にもなれるイベントや活動が日常的にあったら、それはここに住みたいと思う大きな動機になります。

日野水:
自分が何かできるかもしれない、という場をうまく準備することで人を呼び込むことができるということですね。

画像: この場で聞いた話、交わした意見が、今後の研究につながっていく

この場で聞いた話、交わした意見が、今後の研究につながっていく

そうですね。そうなるともう勝手に自走していくというか、いろいろなところで化学反応が起こっていることをすごく感じています。さまざまな事象を見える化して、例えばエリアの資産価値がどう上がったのかなど示せるとよいと思っています。そうすれば、こういったやり方をしようと思う自治体や市民、事業者が増えてくるんじゃないかと思うんです。

また、国分寺ぶんぶんウォークを体験した地方出身の人たちが、自分のふるさとでまちづくりをしたくなってUターンするということも起こっています。まちづくりを担うプレイヤー、プロデューサー的な人が育つ場にもなっているんだなと思います。

山田:
まさにそのコミュニティ活性化による化学反応に伴って起こるさまざまな価値を施策の指標に落とし込み、見える化していくことが私たちのめざしているところですね。

近隣の企業を巻き込み、投資してもらえる仕組みをどう作るか

高田:
伊藤さんは北谷公園の指定管理をされている中で、課題や難しさなどを感じられたことはありますか。

画像: 取り組みを通じて見えてきた課題について問いかける高田

取り組みを通じて見えてきた課題について問いかける高田

伊藤さん:
北谷公園では、地域の人たちと共に活動することを目標としています。その中でも、特に僕がやりたいことは、神南という街の中にある面白いお店をみんなに知ってもらい、まさにいまあるものを輝かせることです。先日のJINNAN MARKETに商店街を巻き込んだことで商店街にあるテナントさんとようやくつながり始めたので、こうした活動をどんどん続けていきたいと思っています。

また、イベントの際に道路を使う意味の大きさも感じています。公園から大通りにつながる道路をイベントに使ったことで、道路を通じて公園が拡張し大通りと接することができたんです。また、大通りに接する道路の入り口にゲートを置いたことで、興味を持って中に入ってもらい、中にある面白いものを見てもらうことにも繋がりました。

画像: 取り組みの先駆者が感じている課題を解決することが、今後の活動の広がりにつながる

取り組みの先駆者が感じている課題を解決することが、今後の活動の広がりにつながる

日野水:
企業を巻き込むだけでなく、投資までしてもらおうと思うのであれば、実施するイベントの成果や実効性をどう示すかがやはり必要になりますよね。NPO birthさんでは、緑がある場所の住みやすさや、企業が投資することで得られる成果や実効性をどう示しておられますか。

佐藤さん:
以前は興味を持ってもらえるように説明することが非常に難しかったんですが、去年ぐらいから一気に情勢が変わり、逆にご相談を持ちかけていただくようになりました。自社ビルの周りの外構を公園のようにして地域の人に使ってもらうにはどうしたら良いかとか、菜園を作ってみたけどコミュニティスペースとしてどう活用すべきか、といったご相談が増えています。

緑を配置し、そこを居心地よくサードプレイス的に使っていただくことは企業のブランディングやイメージアップにダイレクトにつながります。さらに最近では、生物多様性への配慮も大きな注目点となっています。企業の中でも地域やコミュニティという言葉がつく部署がどんどん増えていますし、このような取り組みが進んでいることを感じています。

高田:
日建設計さんとしてもその実感がありますか?

伊藤さん:
ものすごく実感しています。高度経済成長期から続く都市開発の中で、公開空地を設けて建物の容積率を付加する事例が増えてくる中で、緑も人が憩えるスペースもなく、人のいない殺風景な公開空地も生まれてきたように思います。

ですが、近年は都市開発の中でも、質の高い緑の空間や、地域の人たちが活動できて、エリアマネジメントに寄与する場所を作ること等がしっかり評価されるようになってきました。結果として魅力的なパブリックスペースが数多く生み出されているように思います。良質なパブリックスペースをつくることによって、容積率のボーナスを得ることに留まらない、それ以上の利点を街に生み出すことが出来ます。そこに対して投資が行われる社会をどう作るか、ということを考えています。

次回は、行政と民間、そして市民もが加わって公園を活性化させ、地域の価値を上げていくためにはどんな仕組みが必要か、それぞれの視点を絡ませながら考察していきます。

画像1: [Vol.2]生み出される成果をいかに示し、さらに企業を巻き込むか│公園がまちへもたらす価値、そして社会課題解決に繋げるGreen Powerの作り方

佐藤 留美
特定非営利活動法人 NPO birth 事務局長

東京農工大学農学部森林利用システム学科卒業。1997年にNPO法人NPO birth、2018年にNPO法人Green Connection TOKYOを設立。都市のグリーンインフラの機能を高めるさまざまな取り組みに精通し、公園緑地の保全・利活用についての相談・企画運営に多数携わっている。都立公園の指定管理事業(NPO birth)では毎年最高評価を獲得し、都市公園コンクールでは国土交通大臣賞をはじめ数々の賞を受賞。著書に「パークマネジメントがひらくまちづくりの未来」(共著、マルモ出版、2020)ほか。
グリーンインフラ官民連携プラットフォーム運営委員、(一社)公園管理運営士会理事、(公財)日本花の会理事、茨城県自然博物館助言者、NPO法人都市デザインワークス理事。

画像2: [Vol.2]生み出される成果をいかに示し、さらに企業を巻き込むか│公園がまちへもたらす価値、そして社会課題解決に繋げるGreen Powerの作り方

伊藤 雅人
株式会社日建設計 都市・社会基盤部門 パブリックアセットラボ ラボリーダー

東京大学大学院都市工学専攻修了、2008年入社。国内外の都市計画、都市デザイン業務に幅広く関わった経験を元に、現在は新領域開拓としてパブリックスペースにおけるハードとソフト一体のトータルデザインを行っている。特にパブリックスペースの運営の高質化が都市の価値向上に寄与するとの課題認識から、渋谷区立北谷公園ではPark-PFI公募提案段階のプランニングから、完成後の公園運営を担う指定管理業務までを担当し、地域連携型の公園運営・エリアマネジメントの新しいモデルを模索している。その他の主なプロジェクトに蘇州市呉中区地下空間、新宮下公園等整備事業など。一級建築士。

画像3: [Vol.2]生み出される成果をいかに示し、さらに企業を巻き込むか│公園がまちへもたらす価値、そして社会課題解決に繋げるGreen Powerの作り方

日野水 聡子
日立製作所研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部 社会イノベーション協創センタ プロダクトデザイン部 主任デザイナー(Design Lead)

日本、デンマークでグラフィックデザイナーとして勤務ののち、文化庁新進芸術家海外研修員として派遣、Aalto大学 MA in Department of New Media修了。フィンランドでUXデザイナーとして勤務後、日立製作所入社。現在、ヘルスケア、街づくり分野などでのサービス創出を目的とした国内外の顧客協創活動を推進。

画像4: [Vol.2]生み出される成果をいかに示し、さらに企業を巻き込むか│公園がまちへもたらす価値、そして社会課題解決に繋げるGreen Powerの作り方

山田 健一郎
日立製作所研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部 社会イノベーション協創センタ 社会課題協創研究部 研究員(Researcher)

日立製作所に入社後、光学を応用した多領域の研究開発に従事。現在、リテール、スマートシティ分野等の顧客協創活動を推進。

画像5: [Vol.2]生み出される成果をいかに示し、さらに企業を巻き込むか│公園がまちへもたらす価値、そして社会課題解決に繋げるGreen Powerの作り方

高田 将吾
日立製作所研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部 社会イノベーション協創センタ サービス&ビジョンデザイン部 デザイナー(Designer)


日立製作所に入社後、都市・交通領域におけるパートナー企業との協創をサービスデザイナーとして推進。

[Vol.1]いま、公園から何が生まれつつあるのか
[Vol.2]生み出される成果をいかに示し、さらに企業を巻き込むか
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