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日立製作所 研究開発グループが開発した「Business Origami」が、多摩美術大学 TUB(Tama Art University Bureau)にて2022年12月から販売開始となったことを記念したトークイベント「関係を生み出すデザイン−Business Origami®の可能性」(多摩美術大学 TCL主催)が2023年2月10日、東京ミッドタウンデザインハブ内のインターナショナルデザインリエゾンセンターで開催されました。顧客価値の創造が期待されるさまざまな産業においてサービスデザインの重要性が高まる中、Business Origamiは、サービスデザインの創造的な開発ツールとして世界的に認知されています。イベントには、産業、行政のサービスデザイン案件の実務家である株式会社コンセント シニアサービスデザイナーの赤羽太郎さん、サービスデザインの実践フェーズをけん引されている株式会社インフォバーン 取締役副社長/デザイン・ストラテジストの井登友一さん、そして日立製作所研究開発グループ 社会イノベーション協創センタ 主管デザイン長の丸山幸伸が登壇し、多摩美術大学統合デザイン学科教授の永井一史さんの司会進行のもと、サービスデザインの現状やBusiness Origamiの可能性について語り合いました。

[Vol.1]サービスデザインのいまと海外動向
[Vol.2]意味の捉え方やエコシステムの構築に対してできること
[Vol.3] 多様な現実に目を向け、めざすべき社会像を描く

画像: トークイベントは東京ミッドタウンデザインハブ内のインターナショナルデザインリエゾンセンターで開催された

トークイベントは東京ミッドタウンデザインハブ内のインターナショナルデザインリエゾンセンターで開催された

日立で開発したBusiness Origamiを多摩美TUBが販売することになった理由

永井さん:
本日は、多摩美術大学から販売することになったサービスデザインのツールキット“Business Origami”の販売を記念して、デザインやイノベーションの現場で活躍されている方々であり、このツールにも詳しいお二人をお迎えし、「関係性のデザイン」をテーマにトークイベントを開催します。まずは簡単な自己紹介からお願いします。

丸山:
元々はプロダクトデザインからキャリアをスタートしましたが、世の中の要請に従って会社も変わり、事業会社としてデザインの領域を広げていきました。その中で生まれたのが、ITソリューションやサービス事業に貢献するためのBusiness Origamiです。Business Origamiを使うと、ノンデザイナーの方もデザイン活動に参加しやすくなることから、多摩美術大学TCLでも活用してもらっています。

今日一緒にお話いただくデザインエージェンシーの方々もBusiness Origamiを使っていただいているユーザー仲間なので、お話を楽しみにしています。

画像: 司会進行を務めた永井さん(左)と、Business Origamiを開発した丸山さん

司会進行を務めた永井さん(左)と、Business Origamiを開発した丸山さん

赤羽さん:
コンセントでは営業からキャリアをスタートしましたが、サービスデザイナーとしてキャリアチェンジをしました。サービスデザインネットワークというドイツに本拠地を置く団体の日本支部の共同代表をしたり、一般社団法人デザインシップでサービスデザイナーを育成するコースの講師をしたりしています。

サービスデザインが普通の他のUX(ユーザーエクスペリエンス)デザインやデザイン思考と一線を画するところは、複雑なものを複雑なまま、包括的に捉えてデザインする点であり、Business Origamiのアプローチは有効だと思っています。今日はいろいろと議論したいと思います。

井登さん:
HCD(Human Centered Design)、UXデザイン、サービスなどデザイン領域の仕事を始めて四半世紀になります。社会学を学び社会調査、リサーチからデザインの世界に飛び込みましたが、全体の関係性や要素、状況を捉えやすいという、Business Origamiのツールキットとしての優秀さを感じていますし、実際に使っているといろいろなアイディアが浮かんできます。今日は普段活用している立場から話していきます。

画像: 産業、行政のサービスデザイン案件の実務家である赤羽さん(左)と、サービスデザインの実践フェーズをけん引している井登さん

産業、行政のサービスデザイン案件の実務家である赤羽さん(左)と、サービスデザインの実践フェーズをけん引している井登さん

永井さん:
最初に3名から少しずつお話をいただいた後、サービスデザイン分野におけるBusiness Origamiの可能性について話したいと思います。

会場にいる方の中にもBusiness Origamiをご存知の方は多いと思いますが、これは世界的にも有名なメソッドで、多くのサービスデザインの書物でも扱われています。昨年(2022年)12月12日、多摩美術大学がミッドタウンのデザインハブ内で運営しているTUBで販売を開始しましたが、まずはその経緯からお話しします。

15年ほど前、私がお手伝いしていた東京大学のイノベーション教育プログラム i.schoolでBusiness Origamiが使われていて、そこで丸山さんと知り合いました。その後2021年9月に多摩美大でデザイン経営を教えるスクールTCL(多摩美術大学クリエイティブリーダーシッププログラム)を立ち上げた際にBusiness Origamiを使いたいと思い立って丸山さんにお声がけして、現在もお手伝いをしてもらっています。その時丸山さんが、Business Origamiは社内ツールなので販売が難しいと言っていたんですよね。

画像: 誰もが購入できるようになったBusiness Origami

誰もが購入できるようになったBusiness Origami

丸山:
Business Origamiは元々、2000年代中盤に社内でサービス分野のデザインを立ち上げるときにどのように取り組んでいけばよいのか分からず、必要に駆られて自分のために作った道具でした。それが社内のノウハウになり、ソリューション提案の競争力と捉えられるようになったんです。そのときは、顧客企業との事業協創の案件で利用するか、社内のソリューション開発者のスキル教育で利用する「日立独自のワザ」だったので、パブリックナレッジとして外に出せる感じではありませんでした。

しかし、十数年経っていろいろな方に記事や書籍で取り上げていただくようになり、「日立グループは、社会の三方よしを考える社会イノベーション事業の会社だから、パートナーとなる社外のステークホルダーに、イノベーションを生み出す共通のやり方として拡げても自分達の利益は排除されないはずだ。」と社内を説得しました。ただ、どうやって、社外のステークホルダーに届けるか、つまり適切な形での頒布が課題で、3、4年考えていましたがうまくいかなかったんです。

そんな時に永井先生が「これをTCLの学生たちにちゃんと自分達で買って使わせたい。日立から無償で提供してもらうのは申し訳ない」と言ってくださいました。「事業部門ではない研究所からでは、直接一般の方に販売する方法がないんです」と言ったら、「どうすれば売ってもらえますか?」と踏み込んで来てくださったんです。それをきっかけに1年かけて永井先生と一緒にビジネスモデルのプロトタイプツール(=Business Origami)のビジネスモデルを考え、ついに販売できるようになりました。大変ありがたかったです。

永井さん:
多摩美でも物を売るということはあまりやってないので、学内を通すのが大変で時間がかかってしまいましたが、昨年12月にやっと販売を開始することができました。

井登さんが語る、サービスデザインの現在地

永井さん:
本日はBusiness Origami販売開始を記念してのイベントですが、ここからはそれに絡めてサービスデザインに関するお二人のお話をお聞かせください。

井登さん:
正式な発売おめでとうございます。僕自身も早くからのユーザーでしたが、ずっと日立さんから頂戴して使っていたんです。胸が痛かったので、購入できるようになり本当に良かったです。

少し前に『サービスデザイン思考 ―「モノづくりから、コトづくりへ」をこえて』という本を書きました。今日は本の中で書けなかったことやサービスデザインの昨今の潮流を交えながら、サービスデザインの現在地についてお話しします。

画像: 20年以上デザインに関わってきた立場から、今のサービスデザインについて語る井登さん

20年以上デザインに関わってきた立場から、今のサービスデザインについて語る井登さん

昨今のデザインの常識としては、デザインがいわゆる色・モノ・形だけを扱うものだと捉える方はほぼいないと思います。それを共通認識として少し大きめのデザインという言葉の定義について話をすると、デザインの常識はいろいろあります。20年以上HCDをする中で、顧客、ユーザー中心であることが当たり前で、かつ、顧客のニーズに応えて問題解決することが前提だと、ずっと肝に銘じてやってきました。しかしここ10年は企業の仕事を受託しながら「これだけではしんどいな」と考えてもいました。

顧客中心であることは当たり前ですが、顧客だけが神様であるかのように崇められて良いのかいいのかという観点や、クラウドソーシングやデジタル技術の進化によって問題解決のためのアイディアが世の中にあふれる中、解決する意味のある問題が何なのか、問題自体の意味を問い直していくことが非常に重要になってきたということです。

10、15年前から専門家の間ではサービスデザインというアプローチについて知られ始め、この4、5年は一般的な世の中でもすごく注目を浴びていると思います。なぜ注目を浴びて期待されているのかというと、一つはさまざまなサービスが複雑化し、関わり合う人たちが増えてくる中で、ダイナミックな関係性を捉えていくことが求められているからだと考えています。そしてその複雑な関係性の中で、大事なことは何なのかを見出すことが簡単ではなくなってきているという流れがあります。サービスデザインは、より包括的に、より俯瞰的に全体を見ることが得意ですから。

画像: 井登さんは、サービスデザインが必要とされるようになった背景から紐解いた

井登さんは、サービスデザインが必要とされるようになった背景から紐解いた

その中で、サービスデザイナーがサービスデザイン的なアプローチで考えていくときに重要なことの一つが、安易にユーザーを見ないということです。ユーザーはすごく記号的な存在です。世の中にユーザーという人物は存在しておらず、必ず一人の人間なんです。安易に「ユーザー」という記号で捉えてしまうことで、解像度を落としてしまっているのではないかと思います。また、複雑化する製品やサービス、ビジネスの流れの中では、いわゆるダイレクトユーザーだけでシンプルに捉えられるものではなくなってきています。

つまり、サービスデザインを一緒に実践していく立場の人々にとっては、ユーザーから距離を取り、ユーザーが存在する世界全体を見ていくことが必要だろうと考えます。これがサービスデザインの現在地でもあり、要請でもあり、簡単じゃないからこそ非常にワクワクするお題だと考えています。

サービスデザインという言葉が生まれる前は、サステナビリティを考える際に、ものすごく大きなレベルの視点しかなかったそうです。地球全体で考えるともはや一人のデザイナーでは取り扱うことはできません。でも、サービスデザインはそれをミクロスケールから扱えます。一人から始められて、一人でサステナビリティに向き合うことができる領域でもあります。これらを含めながら、サービスデザイナーでない方々も含めてサービスを考えていくというところがまさにいま、サービスデザインが立っている場所ではないかと考えています。

赤羽さんが語る、サービスデザインの海外の動向

永井さん:
続いて赤羽さんから世界におけるサービスデザインの状況についてお話をお願いします。

赤羽さん:
2021年は、Black Lives Matter運動などが世界で話題になった年です。サービスデザインネットワーク(SDN)が主催する年に1回のグローバルカンファレンスは 「Taking a Stand(立場を表明していこう)」がテーマでした。サービスデザインの中ではエコシステムを意識しながらデザインしていこうと言いつつ、実は企業や行政など自分たちのターゲットになっているエコシステムの話をしていたり、割と西欧中心的、男性中心的な価値観になっているのではないか、それを自己批判する機能がなかったんじゃないか、という反省が語られていました。

この年は、キーノートスピーチで脱植民地化デザイン(デコロナナイズドデザイン)のようなテーマが扱われ、それまでのサービスデザインのあり方から次のステップへ進む転機となった年でした。2020年に出版されたレポート「The Future of Service Design」の内容からも見て取れるように、コロナの影響もはじめ社会の変化を受けてサービスデザインもこれから変わっていかなければならない、という議論がコミュニティの中でも活発に行われていました。

画像: 世界ではサービスデザインに関してどんな動きが起きているのかを解説してくれた赤羽さん

世界ではサービスデザインに関してどんな動きが起きているのかを解説してくれた赤羽さん

2022年には、「Courage to Design for Good(より良い社会をデザインをする勇気)」、というテーマでSDNのグローバルカンファレンスがコペンハーゲンにて開催されました。サービスデザイナーやサービスデザイン業界は単にサービスシステムの最適化や皆さんにとって価値のあるエコシステムを作ろうというだけではなく、そもそも何のためにそれをやるのかなど、その裏側に潜む暗黙のコンテクスト自体も問い直さなければいけないのでは、という前年のテーマを踏まえた上で、ちょっとずつ変わっていかなければならないけれど、どうやって社会変革やデザインアクティヴィズムのような視点を実践の中に入れ込んでいるかという共有がされました。なぜなら、実際それをやっていくのは怖いからです。僕らはエージェンシーなので、クライアントワークで「もっとこれからは社会の新しいことを考えていかなきゃいけない」と言うと、「いや、でもちゃんと売り上げはあげてよ」と言われるんです。

結論から言うと、こっそりやるのがいいと言うことになりますが(笑)、諦めないことが大切ですよね。イベントなどでは、大々的に「こういうことをめざしています」と語ってもいいですが、クライアントワークでやってしまうと「じゃあ(他に頼むから)いいよ」と言われてしまいますから。諦めず、でもこっそりと自分たちが本当に実現したい社会に向けたメッセージをサービスの発展過程に入れ込んでいて、それはすごく大事だなと思いました。

ビジネス業界ではサービスデザインは常にニューノーマルだと2015年ごろから言われていましたが、企業の事業としてうまくいくだけではなく、さらに社会との関係性や持続可能性を見たり、今年盛り上がっているChat GPTなどのテクノロジーとの付き合い方、テクノロジーに対しての倫理的な向き合い方、その未来洞察をどうビジュアル化するか、といった興味深い議論を、The Future of Service Designのレポートで読むことができます。

画像: 「The Future of Service Design」のレポートは、Webサイトで全文を読むことができる

「The Future of Service Design」のレポートは、Webサイトで全文を読むことができる

2020年を転機として地球全体として持続可能な社会にどうサービスデザインのアクティビティとして貢献していくかは、これからもしばらくホットトピックとして続いていくと思います。

次回はBusiness Origamiにフォーカスし、誕生の背景やBusiness Origamiだからできること、特徴などについて登壇者それぞれの実体験を通して意見を交わし合います。

画像1: [Vol.1]サービスデザインのいまと海外動向│トークイベント「関係を生み出すデザイン Business Origami®の可能性」

赤羽 太郎
株式会社コンセント シニアサービスデザイナー

国際基督教大学教養学部人文科学科卒。株式会社コンセントにおいて新規サービス事業開発や体験デザイン、またそれを生み出す組織やプロセスを作るデザインコンサルティングに従事。Service Design チームの大規模プロジェクトにおいて多数リードを務めたのち、現在はDesign Leadership チームにおいて新しいデザイン方法論やアプローチの探求を行う。国際団体であるService Design Networkの日本共同代表を務め、国内外でのUX/SD 関連セミナー登壇活動のほか、「This is Service Design Doing」「Good Services」ほかデザイン関連書籍の翻訳や編集協力を行っている。飛び込み営業が社会人としての原体験なので、泥臭いプロセスもわりと得意である。HCD-Net 認定人間中心設計専門家。

画像2: [Vol.1]サービスデザインのいまと海外動向│トークイベント「関係を生み出すデザイン Business Origami®の可能性」

井登 友一
株式会社インフォバーン 取締役副社長 / デザイン・ストラテジスト

2000年前後から人間中心デザイン、UXデザインを中心としたデザイン実務家としてのキャリアを開始する。近年では、多様な領域における製品・サービスやビジネスをサービスデザインのアプローチを通してホリスティックにデザインする実務活動を行っている。また、デザイン教育およびデザイン研究の活動にも注力中しており、関西の大学を中心に教鞭を執りつつ、デザインとイノベーションを主題とした研究を実施中。

京都大学経営管理大学院博士後期課程修了 博士(経営科学)
HCD-Net(特定非営利活動法人 人間中心設計推進機構)副理事長
日本プロジェクトマネジメント協会 認定プロジェクトマネジメントスペシャリスト

画像3: [Vol.1]サービスデザインのいまと海外動向│トークイベント「関係を生み出すデザイン Business Origami®の可能性」

永井 一史
アートディレクター/クリエイティブディレクター
株式会社HAKUHODO DESIGN代表取締役社長
多摩美術大学教授 TCL(Tama Art University Creative Leadership Program)エグゼクティブスーパーバイザー

1985年多摩美術大学美術学部卒業後、博報堂に入社。2003年、デザインによるブランディングの会社HAKUHODO DESIGNを設立。さまざまな企業・行政の経営改革支援や、事業、商品・サービスのブランディング、VIデザイン、プロジェクトデザインを手掛けている。

2015年から東京都「東京ブランド」クリエイティブディレクター、2015年から2017年までグッドデザイン賞審査委員長を務める。経済産業省・特許庁「産業競争力とデザインを考える研究会」委員も努めた。

クリエイター・オブ・ザ・イヤー、ADC賞グランプリ、毎日デザイン賞など国内外受賞歴多数。著書・共著書に『幸せに向かうデザイン』、『エネルギー問題に効くデザイン』、『経営はデザインそのものである』、『博報堂デザインのブランディング』『これからのデザイン経営』など。

画像4: [Vol.1]サービスデザインのいまと海外動向│トークイベント「関係を生み出すデザイン Business Origami®の可能性」

丸山 幸伸
研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部
デザインセンタ 主管デザイン長(Head of Design)

日立製作所に入社後、プロダクトデザインを担当。2001年に日立ヒューマンインタラクションラボ(HHIL)、2010年にビジョンデザイン研究の分野を立ち上げ、2016年に英国オフィス Experience Design Lab.ラボ長。帰国後はロボット・AI、デジタルシティのサービスデザインを経て、日立グローバルライフソリューションズに出向しビジョン駆動型商品開発戦略の導入をリード。デザイン方法論開発、人財教育にも従事。2020年より現職。武蔵野美術大学クリエイティブイノベーション学科教授。

関連リンク

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