※記事文章内に記載の登壇者の所属、役職などはウェビナー開催時のものです
プログラム1「サーキュラーエコノミーの現状と日立の取り組み」
プログラム2「サーキュラーエコノミーがめざす社会と経済」
プログラム3 パネルディスカッション「サステナブルな製品開発への挑戦」
※以下は、上に掲載しております動画のサマリー記事となっております。動画の内容詳細については「Executive Foresight Online」からテキストでお読みいただけます。
サーキュラーエコノミーを万能な経済システムとして捉える
サーキュラーエコノミー(CE)の取り組みは、いまどのように進んでいるのでしょうか。中石さんからはまず、日本国内の取り組み状況について話題提供がありました。
中石さん:
日本のサーキュラーエコノミーの取り組みは、欧州をはじめ、中国やアメリカに比べても大きく遅れています。CIRCULAR ECONOMYが“循環型経済”という日本語に訳されることで、2000年前後に日本が世界に先んじて取り組み、成果を納めた日本式の循環型社会(循環経済)とサーキュラーエコノミーを同一だと考えてしまったことで出遅れてしまいました。しかし実際は、サーキュラーエコノミーは設計段階から廃棄物や汚染を出さないことであるのに対し、日本の循環型社会は大量消費の事後処理であり、リニア型経済システムと本質は変わりません。めざす方向が間違っていたのです。
サーキュラーエコノミーの定義を考える時にはあまり具体化(リサイクル、アップサイクル、リユース等)しすぎず、あえて抽象化し、地球規模で起こっているさまざまな問題を解決できる万能な経済システムと捉えて事業を考えてほしいと思っています。この「万能な経済」という抽象度からひとつ解像度を上げるとサーキュラーエコノミーの三原則※となり、さらに解像度を上げるとバタフライダイヤグラムになるということです。あくまでCE三原則を実現するための手段として物質を循環させるという構造観を持つことで、事業化につながっていくと思います。
※ サーキュラーエコノミーの三原則……エレン・マッカーサー財団が提唱するEliminate(排除する)・Circulate(循環する)・Regenerate(再生する)の三つの原則。
多くのステークホルダーと、めざす方向を共有するために
サーキュラーエコノミーのシステムを実現する上で、具体的に何が必要なのでしょうか。宮崎さんは、日立-産総研サーキュラーエコノミー連携研究ラボでの研究内容について語りました。
宮崎さん:
昨年10月に立ち上げた日立-産総研サーキュラーエコノミー連携研究ラボでは、循環経済社会のグランドデザインの策定、循環経済向けデジタルソリューションの開発、標準化戦略の立案・政策の提言という三つの共同研究テーマに取り組んでいます。サーキュラーエコノミーは社会観であり、社会全体、地域社会、民間企業、アカデミアと多くのステークホルダーが関わっているため、その中でめざす方向を共有しようと、12個のホットトピックを抽出しました。これをみんなで共有して課題解決を進めていくとサーキュラーエコノミーが近づいてくると考えています。サーキュラーシステムを実現する上ではデジタルソリューションを活用することも効果的です。ただし、デジタルの力でアクセラレートしながらも、実際に実現するのはフィジカルワールドに生きている我々であるということを覚えておく必要があります。
緩やかなトランスフォーメーションを
サーキュラーエコノミーの必要性が増す一方で、既存の製品をめぐる循環との折り合いをどのようにつけていくべきなのでしょうか。谷口は、「緩やかなトランスフォーメーション」をめざすべき、と現在進行中の研究について語りました。
谷口:
産業のデジタル変革が進み、グリーントランスフォーメーションが流れになっていますが、一方で現業の製品が既に世の中に出ています。その中で、緩やかに変化させていくことが大切だと考えています。既に市場に出ている製品の設計を突然変えるのは難しいので、回収して5R※という循環経済に載せていく道筋を設計していくことと、新しいプロダクト設計においては、それに適したビジネスモデルと新しい設計のあり方を強調していくことの2本立てが必要だと思っています。そして、エネルギーの観点は無視できないと思っています。バタフライダイヤグラムに描かれている循環させる経路のどこが最適なのか、できるだけエネルギーを使わずにループを回すことを研究しています。
※5R……ごみを減らすための5つの活動Reduce(リデュース)、Reuse(リユース)、Repair(リペア)、Return(リターン)、Recycle(リサイクル)の頭文字
中石 和良
サーキュラービジネスモデル・デザイナー
一般社団法人サーキュラーエコノミー・ジャパン 代表理事
株式会社ビオロジックフィロソフィ 代表取締役CEO
一般社団法人日本ビオホテル協会 代表理事
パナソニック、富士通・富士電機ジョイントベンチャー、ITベンチャーを経て、2013年に独立、起業。2010年頃より、欧州のサステナビリティ思想・政策に関わり、2013年にドイツ発のサステナビリティに特化したホテル団体「BIO HOTEL協会」と公式提携。
2018年、企業と政策決定者に向けて一般社団法人サーキュラーエコノミー・ジャパンを創設。日本企業及び経済の「サーキュラーエコノミー」への移行を加速するプラットフォームを運営し、日本でのサーキュラーエコノミーの正しい認知のために講演、セミナーを精力的に行っている。
著書『サーキュラー・エコノミー:企業がやるべきSDGs実践の書』ポプラ社
宮崎 克雅
国立研究開発法人産業技術総合研究所 日立-産総研サーキュラーエコノミー連携研究ラボ ラボ長
1993年 株式会社日立製作所 入社。機械研究所、日立研究所において、主に発電プラントの設計および供用期間中の構造健全性評価に関する研究開発に従事。2001年から1年間、米国コーネル大学にて、原子炉内構造物の余寿命評価技術の開発に従事。また、研究成果の社会実装の観点で、米国機械学会をはじめとした国内外の関連委員会において規格基準活動を推進。2018年からは材料イノベーションセンタ、生産・モノづくりイノベーションセンタ 主管研究長として、モノづくりに関する研究開発の取りまとめに従事。2022年10月、産総研内に日立-産総研サーキュラーエコノミー連携研究ラボを立ち上げて、ラボ長に就任、現在に至る。博士(工学)。
谷口 伸一
研究開発グループ 生産・モノづくりイノベ-ションセンタ サーキュラーインダストリー研究部 部長
2004年に博士号取得後、株式会社日立製作所に入社。基礎研究所、生産技術研究所において、マテリアルサイエンスの知見を活用してヘルスケア関連の計測機器開発に従事後、計測・材料プロセス分野の研究ユニットリーダ。その後、研究開発グループ技術戦略室勤務を経て、産業ソリューション強化PJリーダー、加工・検査研究部長の後、現在に至る。フィジカル技術とデジタル技術を融合するサーキュラーエコノミープロジェクトをリードする。
丸山 幸伸
研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部
デザインセンタ 主管デザイン長(Head of Design)
日立製作所に入社後、プロダクトデザインを担当。2001年に日立ヒューマンインタラクションラボ(HHIL)、2010年にビジョンデザイン研究の分野を立ち上げ、2016年に英国オフィス Experience Design Lab.ラボ長。帰国後はロボット・AI、デジタルシティのサービスデザインを経て、日立グローバルライフソリューションズに出向しビジョン駆動型商品開発戦略の導入をリード。デザイン方法論開発、人財教育にも従事。2020年より現職。立教大学大学院ビジネスデザイン研究科客員教授。
プログラム1「サーキュラーエコノミーの現状と日立の取り組み」
プログラム2「サーキュラーエコノミーがめざす社会と経済」
プログラム3 パネルディスカッション「サステナブルな製品開発への挑戦」