[Vol.1] Z世代が考えるエネルギー消費の未来像とは?
[Vol.2] 衣食住の見える化がサステナビリティに必要なカギ
[Vol.3] 移動ゼロ社会の未来?これからの移動の価値を考える
「自分の衣食住」と「サステナビリティ」の間にある溝。埋める鍵は「見える化」
佐々木:
衣食住チームでまず議論したのは「衣」のテーマ。特に、生産・着用・廃棄に至るライフサイクルでの持続可能性が考えられたサステナブルファッションについては、話題性は高まっているものの、まだまだその思想自体は広く浸透していません。学生たちは「環境配慮よりも価格を見て購入してしまう」「陳列商品から生産工程まではなかなか意識できない」など自らの行動を省みつつその理由を挙げ、「サステナブルファッションを流行させるには、環境を配慮するメリットをもっと見えるようにする必要があるのでは?」と指摘します。
「サステナビリティ」や「環境配慮」というお題目があまりに大きすぎるテーマのため、サステナブルファッションの選択・購入が「自分の生活に直結するメリットが感じられない」、だからこそ「価格というわかりやすい指標に引っ張られてしまう」というのです。
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ヨーロッパでは「修理する権利」という考え方が拡がっています。言葉の通り、修理用のサービスパーツを保持・供給することを販売者に義務づける規程です。日本ではファストファッション以外にも100円ショップなどが充実しているからこそ、何を買うにしても「修理せず買い換える」という思考に至ってしまうのでは。
大切な人から記念に贈られた腕時計を大切にするのと同じように、どんなモノに対しても愛着を持つことが鍵になりますね。
飯塚:
「食」のテーマに関連して、学生たちが提示した課題カード(「日常的に問題視すること・疑問に思うこと・取り組んでいること」を写真とテキストで表現したもの)に頻出していたのは世界中で巻き起こっている食品ロスの問題です。もちろん日本でも他人事ではなく、農林水産省も事業活動から発生する事業系食品ロス、家庭から発生する家庭系食品ロスを問題視しています。
ワークショップに参加したコンビニでのアルバイト経験のある学生は「廃棄された弁当を見ていると、人間の食のために殺された動物も浮かばれないと思った」と話し、また別のメンバーは「大量生産・大量廃棄のビジネスモデルが間違っているのかも」と意見しました。
出口がなかなか見つからないこの社会課題の解決策として彼らが注目するのは「食育」です。「『食』というテーマは、世代や性別、職業といった属性の壁を超えて、すべての人にとって『自分ゴト』になりやすい共通言語。食を通じたコミュニティがあれば解決の糸口になるかもしれない」「SDGsの問題も自分ゴトにできるかどうかが大事」「食育というとどこか難しいテーマのように聞こえるかもしれないけれど、肩肘の張ったものではなくて、隣家のおばちゃんからレシピを教わるような、緩やかなつながりがコミュニティを育むのではないか」などの意見が出ました。
衣食住に共通する要因を探る
飯塚:
「住」のテーマでは「社会課題解決をテーマとしたビジネスコンテストのフィールドワークで、友人の家族が所有する空き家を訪ねた」という学生の課題カードをきっかけに、地方に点在する空き家の活用方法についてが話題となりました。
空き家の有効活用は海外諸国が活発ですが、日本でも徐々に取り組みが進んでいます。一方で「有効策がどんなに進んでも、空き家を活用する人間がいなければ物事が前に進まない」「生活様式や家族形態の変化、都市への人口移動が起こり、結果として親世代の住居が継承されなかった。空き家問題はそもそもなぜ日本に空き家が出てしまうのか」もっと包括的に考えなければいけない社会問題だとという指摘もありました。
このほかにも、衣食住チームに共通する諸問題の根本要因として、貧困問題や男女格差問題などにも議論が向かっていたのが印象的でした。衣食住チームに参加した日立社員も、学生から出たいくつかのアイデアが「まさに自分たちが研究していたもの近いアイデアだった」と、学生たちの着眼点が自分たちと大きな違いがないことに驚いていました。
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今流行りのSDGsも、海外の貧困地域の問題として語られることが多い。しかし実際は、自分の身辺にも貧困層は存在します。どんな社会課題もよそゴトの話ではなく、自分ゴトとして捉えていく必要があると思います。
日本は服の値段が安いし100円ショップも多いです。コンビニではお弁当が大量生産・大量廃棄されているし、建物も空き家が増えています。“過剰な消費欲”という意味合いでは、衣・食・住とも、根っこの部分で共通している要素が多いと思いました。
「強烈な見える化」と「開かれたコミュニティ」がサステナブルな衣食住をモチベート
佐々木:
サステナブルファッションの普及について、衣食住チームがヒントにしたのは有機野菜でした。私たちが服を購入するとき、どうすれば環境への影響を意識するようになるのか。例えば有機野菜は、地球環境に優しく、かつ、人間のカラダにも優しい。地球だけでなく自分にもメリットがあることが明確だから、消費者に好まれているという事例から、「『自分のカラダ』は身近だけど『地球環境』だけではモチベーションを維持するのが難しい。だから私たちはわかりやすい指標=低価格に飛びついてしまうのではないか」という議論になりました。
サステナブルファッションにも「消費者が納得感を得やすい何かしらの指標が必要」とするチームメンバーが求めたのは「強烈な見える化」でした。
環境に良い商品を選択し続けることは、経済的にも、モチベーションの維持という面でも、負荷が大きいです。「例えばダイエットでは、成果が見えれば続けられるし、好きな俳優が応援してくれたら頑張れる。同じように、自分の暮らしに直接関わる指標がもっと見える仕組みが重要」と提案しました。
「食」や「住」のテーマでは「開かれたコミュニティとして活用できる」という意見がありました。日本社会の中にも既存のコミュニティが障壁になり、地域や学校、会社・配属先など自分の属性や所属の内側から出られない人が大勢います。誰も住まなくなった空き家を上手く活用して、食などをテーマにしたイベントを開催すれば「属性や所属に左右されずいろいろな人と関われる」といった考えです。
「一人分の料理を作るより、大人数分をまとめて料理するほうがロスも減る。安心して話せるコミュニティでのやりとりから、食に対する関心も集められるのではないか」「子どもから大人まで世代や属性を問わず集まれるコミュニティをつくるとともに、そこへ入ってこられない人をサポートする仕組みも必要」とさまざまなアイデアが出ていました。衣食住という生活に密接なテーマだったので、学生生活から湧き出た意見が他チームよりも多かったと思います。
「サーキュラーエコノミー」など、5〜10年前は一般的には知られていなかったキーワードが、今では学生から当たり前のように出てきています。若い世代の常識や前提が大きく様変わりし、そうした前提の違う世界で暮らしていく世代との対話を続けていくのが重要だと思います。
次回は、モビリティチームで議論された内容と今回のワークショップ全体を、プラネタリーバウンダリープロジェクトリーダの鈴木朋子と、主任デザイナーの池ヶ谷が振り返ります。
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飯塚 秀宏
日立製作所 研究開発グループ サステナビリティ研究統括本部
プラネタリーバウンダリープロジェクト サブリーダ(Sub Leader)
博士(工学)。日立製作所の研究所に入社。1990年に電力会社と共同で地球温暖化対策のためのメタネーション触媒の開発からはじまり、自動車会社と連携した自動車排気浄化触媒など、顧客と直接対話しながら環境問題と顧客課題を解決する触媒開発に従事。2015年以降は顧客協創、ビジネスエンジニアリング、プラネタリーバウンダリーなどに関わるプロジェクトに携わる。
佐々木 剛二
日立製作所 研究開発グループ サステナビリティ研究統括本部
プラネタリーバウンダリープロジェクト 主任研究員(Chief Researher)
博士(学術)。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了後、日本学術振興会特別研究員、東京大学学術研究員、森記念財団都市戦略研究所研究員、慶應義塾大学特任講師などを経て現職。人類学、移民、都市、持続可能性などに関する多様なプロジェクトに携わる。著作に『移民と徳』(名古屋大学出版会)など。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。
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