[Vol.1] Z世代が考えるエネルギー消費の未来像とは?
[Vol.2] 衣食住の見える化がサステナビリティに必要なカギ
[Vol.3] 移動ゼロ社会の未来?これからの移動の価値を考える
世代から見た、環境負荷に配慮した移動手段とサービスの現状
池ヶ谷:
モビリティチームの望ましい2050年を考える過程では、環境負荷に配慮した新たな移動手段に対する意見が頻出しました。
なかでも「排気ガスが出なくて、いわば自分の足がエンジンになる。」「環境負荷の少ない移動手段として、とても優れている」と、学生たちに人気だったのは「自転車」です。自転車でモノを運ぶサービスとして、日本でもUber Eatsが広く知られるようになりましたが、サービスが普及しているのは大都市が中心で、土地が広大な地方では、どうしてもバイク・自動車が主流になってしまうという現状から、「都心でも出前を頼むとバイクで配達してくることが多いけど、自転車のドライバーを選べるようになったら面白いかも」といった意見も挙がっていました。
一方、問題点としては「車道と歩道の間に自動車専用レーンが敷かれている町も増えているが、実際に走行してみると結構怖い。都会に行くほど車の速度が速く、自動車のほうもきっと怖い思いをしているはず」「自転車の運転には運転免許を必要としないこともあり、危険な走行者がいるのは確か。運転者の安全基準を上げていく必要もある」などの指摘がありました。
“車離れ”が加速していると言われるZ世代。「自動車」に対しては、シェアサービスや、高齢者の運転免許返納問題などについて核心を突いた指摘もありました。
コメントピックアップ
サークル仲間との旅行でカーシェアサービスを利用しましたが、多くのサービスは使用時間と移動距離ごとに課金されるシステムで、ガソリン代を払う必要がないので、極端な話、停車したままならエアコンをいくら使っても料金は変わらない。ガソリンのサブスクリプション状態です。自分の車だったら、ユーザーもそんなことはしないはず。他人の車を“自分の車のように”使ってもらえる、そんな仕組みが必要だと思います。
自転車のシェアサービスでも、サドルの位置や質感が自分の体にフィットしてくれたら「これは自分の自転車だ」と感じやすいかもしれないですね。それが走行時のマナーにも反映されることもある。シェアする車・自転車の「カスタム化」は面白い視点だと思います。
高齢者の運転免許返納問題は、市営バスやカーシェアサービスなどの公共交通の整備とともに語られることが多いですが、公共交通があったとしても、地方の高齢者が『車に乗らない』選択肢を現実的に選べるのでしょうか。
池ヶ谷:
ほかに挙がった論点としては、「通勤・通学時の満員電車」「公共交通機関でのベビーカー使用」などがありました。
都心部でいまだ常態化している満員電車については「地方に行けば廃線も多くある」と、同じ電車の問題でも都市・地方の間に問題意識に違いがあるとの意見が出ました。
2050年、移動は無くなる?「速さ」や「効率」ではない「移動の価値」とは
池ヶ谷:
そうした議論を続けるなか、移動に関するあらゆる問題を解決する手段として、ある学生からは「2050年にはそもそも移動する必要がなくなる」との意見も提示されました。
「メタバースの技術がヒトの五感を補完するレベルまで発達すれば、仕事も遊びも旅行すらもメタバース空間で完結する。そうすれば、そもそも移動自体が必要じゃなくなる」と、メタバースに対する期待が大きいのも印象的でした。
これまでは、移動に速さや効率を求めてきましたが、現代のニーズはそれだけではありません。「徒歩や自転車での移動に価値を見出す人もいれば、車窓から外の景色をぼーっと眺めるのを好む人もいる。各駅停車の旅なんかも、その帰結かもしれない。そうした多様な移動の価値が埋もれてしまっている気がする」といった、移動の未来についてZ世代のさまざまな本音が共有されました。
楽しみとしての移動と、移動ゼロの効率の共存
池ヶ谷:
環境負荷の少ない自転車、カーシェアサービス、次世代自動車など、さまざまな移動手段のこれからについて議論したモビリティチームは、2050年という未来を「移動ゼロの社会」と想像しました。
具体的には、「生活のすべてがオンライン化されることにより、移動そのものを必要としない世界」。話題のメタバースにも大きな関連があります。ある学生は「信頼関係の構築には、一度は対面で会って話すことが大事」と前置きしながらも「メタバースは無敵!」と断言しました。
「VR技術が発達して、五感のすべてをVR端末で感じられるようになれば、わざわざ移動する必要がなくなる。旅行に行くのも、仕事に行くのも、メタバース空間で完結する。あらゆることを家の中で済ませられて、移動そのものがなくなったら人類の幸福度も上がるはず」という意見が出る一方で、同チーム内には、そうした「完全なオンライン化による移動ゼロ社会」が到来すると「移動の魅力が失われる」と危惧する学生もいました。
「旅行に行くときは、目的地に着くまでの道中がとても楽しい。会社から家に帰る時間がオンオフの切り替えとして重要な意味を持っているという人もいる。」と、時間的な余韻、距離的な余韻、あるいは移動中の“ワクワク感”が、移動ゼロの社会では失われてしまうのが残念という意見でした。
そんなモビリティチームが辿り着いた結論は、オンラインとオフラインのハイブリッド化でした。
メタバースでの旅行も、リアルの旅行も、そのときどきで選択しながら楽しめる。そんな未来像が提示されました。背景には、コロナ禍の学校でオンライン授業が進み、登校の手間が省けて楽になった一方で、ゼロから人間関係を築くのはやはり対面でなければ難しい、と自身の実感があったようです。「大切なのは、選択肢とモノサシの多様化」だという提案でした。
メタバースが台頭しても、リアルな移動との共存を望むZ世代。だからこそ、彼らが「罪悪感なく使うことができる」と語る自転車や電動キックボードといった、環境配慮型の交通手段の整備は不可欠です。また「人間の移動だけでなく、物流システムも公共交通インフラと同じレベルのサステナビリティが必要になる」という意見もあり、社会インフラの構築にも携わる日立メンバーにとって重要な視点を再確認することができました。
“前提”を問うために、対話を続ける場をつくるのが企業の責任
池ヶ谷:
今回のワークショップでは4時間半にわたる対話が繰り広げられ、「エネルギー」「衣食住」「モビリティー」という異なるテーマで話していたチームそれぞれが、「選択の自由」「選択肢の多様性」という共通項に辿り着きました。
この結果がどのように未来に繋がっていくのか。今回のワークショップのように、我々大人世代が若い人たちの意見を受け取り発信する——意見をぶつけ合うのではなく“対話”が成立していれば、彼らも意見を伝えやすくなるのかもしれません。「イルミネーションを純粋に見られない」とか、研究者のアタマをガツンと叩くような痺れるコメントが多かったのも印象的でした。研究者はデータや数字を重用しがちですが、こうしたナマの声のほうがデータ・数字より響くことがあります。彼らの意見・視点を個別の研究活動に生かすのはもちろん、今後もこのような場を継続的に設けなければいけないと感じています。
鈴木:
私自身もメンバーとしてワークショップに参加しましたが、自分の学生時代を思い返しても、皆さんのように日頃から課題意識を持ったり、自分の意見を言えたりはしなかった。とても素晴らしいことだと思います。今回のワークショップで皆さんからいただいた2050年の未来像を実現するため日立は何ができるか、これから研究員たちと共に考えていきます。
世界中に向けて、誰もが自分の意見を発信できる現代社会。表現の手段やプラットフォームの多様化に伴って、世代や属性を超えたすれ違いが可視化されることも増えました。
しかし、生まれ育った環境や、大切にしている価値観が違うとしても、未来を想う気持ちは同じはず。「意見をぶつけ合うのではなく、お互いの意見を受け取る姿勢」を表明すれば、対話は成立するのです。
社会的合意形成を進めていくのに必要なのは、まずは私たち企業や上の世代が対話の姿勢を見せること。その思いを新たにしたワークショップでした。
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鈴木 朋子
日立製作所研究開発グループ技師長(Corporate Chief Researcher)
兼 サステナビリティ研究統括本部 プラネタリーバウンダリープロジェクト プロジェクトリーダ
1992年日立研究所入社。入社以来、水素製造システム、廃棄物発電システム、バラスト水浄化システム等、一貫して脱炭素・高度循環・自然共生社会の実現に向けたシステム開発に従事。2018年からは、顧客課題を起点とした協創型事業開発において事業拡大シナリオを描くビジネスエンジニアリング領域を立ち上げ、現在は、社会課題を起点とした研究開発戦略の策定と事業化を推進する環境プロジェクトをリードする。
池ヶ谷 和宏
日立製作所 研究開発グループ サステナビリティ研究統括本部
プラネタリーバウンダリープロジェクト 主任デザイナー(Design Lead)
日立製作所入社後、エネルギー、ヘルスケア、インダストリーなど多岐にわたる分野においてUI/UXデザイン・顧客協創・デザインリサーチに従事。日立ヨーロッパ出向後は、主に環境を中心としたサステナビリティに関わるビジョンや新たなデジタルサービスの研究を推進している。
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