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2050年の脱炭素社会の実現に向けて、国際的合意、各国の法制度、社会インフラの構築などのトップダウンでの取り組みと、市民や地域内での実践や取り組みといったボトムアップの動き、その両方が欠かせません。それらを連携させ、気候変動の問題についてどのように取り組んでいけばよいのでしょうか? Vol.1やVol.2で紹介した神戸大学と日立製作所の取り組みを踏まえつつ、ステークホルダー間の合意形成のプロセスやトップダウンとボトムアップの取り組みの連携について、神戸大学大学院法学研究科教授の島村健さん、公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)フェローの前田利蔵さん、日立製作所研究開発グループ デザインセンタ リーダ主任研究員の森木俊臣で考えていきます。

[Vol.1]気候危機に立ち向かうために、アカデミアとビジネスはどう連携する?
[Vol.2]気候変動を自分ゴト化するための、SFプロトタイピングと未来シナリオの可能性
[Vol.3]トップダウンとボトムアップの連携が、気候変動対策のカギを握る?

学際的な議論の場を整備する重要性

──脱炭素社会の実現のためには、トップダウンとボトムアップの取り組みの連携が必要不可欠だと思います。アカデミアという視点から見たときに両者の連帯のためには今後どんな取り組みが求められていくと感じていますか?

前田さん:
両者の視座を持ち合わせる人財をいかに育成できるか、が重要だと思っています。近年だと、グレタ・トゥーンベリさんが2019年の国連気候行動サミットでより強い気候変動対策の必要性を訴え、世界的な影響を与えた事例が印象的です。グレタさんの発言が国際的なムーブメントにまで広がったのは、彼女を支える草の根組織「未来のための金曜日(Fridays for Future)」があったことも起因しており、組織には気候危機の専門家も多数所属していて、グレタさんの主張に科学的なエビデンスを補強していました。日本のアカデミアとしても、人財育成から包括的な視座の提供まで、まずは草の根の運動を支えるような仕組みづくりを行うことが重要だと思います。個人的にも研究者として知の探求を行いつつ、同時にアカデミアの知を論文以外のかたちでも社会へと積極的にアウトプットしていければと考えています。

島村さん:
同感です。大学教育の現状を考えると、学部間の分断が顕著という状況があります。そのため、環境問題について包括的に議論できる人財を育成するのが難しい状況にあります。例えば、経済学部の学生であれば、効率性という観点から社会を設計し、環境問題などの社会問題を解決するという観点を学び、法学部の学生であれば既存の法制度の内容を理解しその運用を通じて企業や市民を統制するという観点を学びます。両者の視点を合わせ持つことができたらとても有益ですが、大学教育は、通常は、学部ごとに完全に分断されてしまっています。地球規模の課題を解決するためには学際的な学びや学部間の連携が重要な訳であって、そういった体制を大学内につくることも人財育成のためには重要なはずです。

画像: 脱炭素社会の実現に向けたトップダウンとボトムアップの連携について語る3人

脱炭素社会の実現に向けたトップダウンとボトムアップの連携について語る3人

トップダウンとボトムアップをつなぐ役割を企業が担う

森木:
島村さんの話を聞いていて、ビジネスの視点から考えたときにも、業界の構造を変革することは重要だなと感じました。これまでインフラ産業では、企業やメーカーは国から資金をもらい技術の開発や導入を実施するのが当たり前でした。そうなると技術革新や性能向上ばかりに目がいってしまい、エンドユーザーである市民の顔が見えなくなってしまうことが多々あります。インフラは公共財であるため、本来は市民の利益を最大化することを前提に設計されるべきです。そうなると企業は必然的に法制度や国際的規範を理解する必要がありますし、同時に生活者のリアルな声を拾い上げることも重要になってくると思うんです。

島村さん:
企業が行政と生活者をつなぐような役割をもつということですね。

森木:
そうですね。私が日立製作所でプロジェクトを実施するなかで、市民の方々の声を聞くと、脱炭素社会の実現や再生エネルギーの導入のような大きなテーマに対して意見を言っても反映されることはなく無駄だと考えている人が大半なんですよね。だからこそ、私たちのようなインフラに関わる事業を持っている企業がSFプロトタイピングのようなワークショップを行う過程で市民の方々の望む(あるいは望まない)未来を拾い上げて、行政へと提言したり、実践につなげていくことが大切なはずです。

画像: トップダウンとボトムアップをつなぐ役割を企業が担う

──市民の声を拾い上げる場としてワークショップは有効だということですよね。

前田さん:
同時に、SFプロトタイピングのような手法は大学にしろ企業にしろ、組織のマインドセットを変革するためにも有用だと思います。脱炭素社会の実現のために、それぞれの立場や所有するリソースを駆使して何ができるのかを考えることは、業界としての固定観念にとらわれずに未来を構想する力を養うことにつながるはずです。

島村さん:
そう考えると、日立製作所と神戸大学で実施した今回のSFプロトタイピングを活用したワークショップも、大学の学生のみに提供するのではなく、企業向け、大学向け、行政向けなどとカスタマイズして展開していきたいですよね。ワークショップは事業モデルとしても明確なため持続可能に実施できるソリューションだと思います。

森木:
ぜひ取り組んでいけたら幸いです!脱炭素社会の実現に向けた分野横断的な議論の場としてワークショップを捉え、業界の垣根を超えた多様な属性の人々に参加してもらうことで新たな視座が得られそうだと感じました。

島村さん:
いいですね。再生エネルギーの導入にあたっての地域での合意形成は難航することが多々ありますが、このようなワークショップを実施し、事前に同じ未来を共有することで後の合意形成もスムーズになっていくはずです。未来に対する期待が膨らみますね。

画像1: [Vol.3]トップダウンとボトムアップの連携が、気候変動対策のカギを握る?|“地域づくり”から考える、「脱炭素社会」へのロードマップ

島村 健
神戸大学 大学院法学研究科 教授

2001年、東京大学法学政治学研究科博士課程単位取得退学。2004年まで日本学術振興会特別研究員(PD)。2004年、神戸大学大学院法学研究科助教授。2012年より現職。2023年4月から、東京大学ビジネスロー・比較法政研究センター・客員教授も務める。

画像2: [Vol.3]トップダウンとボトムアップの連携が、気候変動対策のカギを握る?|“地域づくり”から考える、「脱炭素社会」へのロードマップ

前田 利蔵
公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
関西研究センター フェロー

専門は都市環境管理や都市環境政策。青年海外協力隊(ガーナ国)、建設技研インターナショナル株式会社、UNDPマレーシア事務所を経て現職。北海道大学工学部衛生工学科卒、サセックス大学大学院環境・開発政策修了。

画像3: [Vol.3]トップダウンとボトムアップの連携が、気候変動対策のカギを握る?|“地域づくり”から考える、「脱炭素社会」へのロードマップ

森木 俊臣
研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部
デザインセンタ 社会課題協創研究部 リーダ主任研究員 (Unit Manager)

1999年、九州大学大学院システム情報科学研究科知能システム学専攻修了。同年株式会社日立製作所入社、企業向けストレージの管理ソフトウェア研究開発等を経て、社会課題解決型の新事業創生活動に従事。

[Vol.1]気候危機に立ち向かうために、アカデミアとビジネスはどう連携する?
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