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一社では解決しない複雑な課題を解くため、日立は協創による社会イノベーションを推進してきました。7月25日に配信されたSPEEDA R&D主催のオンラインセミナー「日立研究開発の現場から、社会イノベーション事業創出の最前線に迫る」で、これまでの研究開発の現場における協創の歩みを語った日立製作所の谷崎正明。Vol.2では、実際に体験した協創事例について語ります。

[Vol.1]社会イノベーション事業を支える場と方法論
[Vol.2]協創のカギはビジョンの共有と関係性の構築
[Vol.3]地域に入り、未来の社会ニーズを捉える

業務課題を共に解く。ダイキン工業さまとの事例

画像: これまでの協創事例について問いを投げかける半澤さん

これまでの協創事例について問いを投げかける半澤さん

半澤さん:
社会イノベーションを実行していく上で、研究者やデザイナーの方々に求められる思考法とはどんなものなのでしょうか。プロジェクト事例を通してご紹介いただければと思います。

谷崎:
では、まず協創事例の一つ目をご紹介します。こちらは、業務課題から解決策を描き出したもので、ダイキン工業の化学部門の皆さまとの協創事例です。ダイキン工業の幹部の皆さまと当社の幹部との「日本のもの作りを元気にしていこう」という合意形成がこのプロジェクトの始まりでした。

ダイキン工業さまは非常に多くの商材を扱っていらっしゃいますが、お客さまからの急なリクエストに対応していく上で、需要の変動が激しいことに苦労されていました。そうした中で、エンジニアリングチェーンとサプライチェーンをいかに最適化していくかが課題になっていました。

実際にはまず、研究開発グループ内のエスノグラファーという心理学や現場観察を得意とするメンバーが現場観察から入り、現場の課題や困りごとを見出していきました。そして、エンジニアリングの研究者がどういった方法で解いていけばいいかのアプローチを考え、ワークショップでお客さまにも入っていただきながら妥当性の確認(バリデーション)をし、ソリューションを作っていきました。結果的に、製造部門と販売部門をデジタルで結んでKPIを最大化していくソリューションとして作り上げることができました。また、実際に導入してみると、意思決定に要する時間を95%短縮することができました。ダイキン工業さまはその後も事業のプロセスをどんどん改革されており、現在も一緒にディスカッションを継続しています。

この事例では、エスノグラファーが入って質的な課題をつかみ、それを研究者がエンジニアリング観点で定量的に解いていき、さらにそこにデザイナーが入り、いろいろな意見をどんどん吸い出して、ワークショップの中で良い案に結びついていく、といった組み合わせが非常にうまくいった事例かと思います。

研究者、デザイナーはどう関わったか

伊藤さん:
ダイキンさんの事例は、幹部同士のビジョンの共有から、一つの会社に対してOne to Oneで協創を進めていった、という構造の事例かなと思います。そのなかで、研究開発部門の皆さんはどのフェーズからどういうふうに関わっていきましたか。

谷崎:
この事例は協創活動に向けた組織改編後、割と初期のプロジェクトだったので、事業へのアプローチ方法を探りながらやっていったところがあります。ワークショップが初めての研究者もいましたし、エスノグラフィで得た結果と技術を組み合わせることも初めての取り組みだったのですが、課題を見出すという割と最初のフェーズから入っていって、技術課題を紐解いて、課題がどういう関係性にあるのかをエンジニアリングリサーチャーが解いて、さらにそれを最適化のプログラムで解いていく、という流れを繋げていったと思います。

画像: これまでに経験してきた協創事例をもとに、3つのアプローチを整理する谷崎

これまでに経験してきた協創事例をもとに、3つのアプローチを整理する谷崎

伊藤さん:
初期の事例ということで、聞いている皆さんにも共感しやすいポイントが多いんじゃないかなと思うんですけど、NEXPERIENCEとして体系化しつつある初期のフェーズにおいて、研究者やデザイナーの皆さんは、慣れない中でどういうふうに価値を見出していたのでしょうか。

谷崎:
そうですね。リサーチャーやエスノグラファーが「御社の現場に入らせてください」と言って現場に入るんですけれど、急にはなかなか本音を教えてもらえないところもあります。丁寧にコミュニケーションを取って、例えば夜に飲み会などもしながら人間関係を作った上で、初めて本当のことを話していただけるということは、現場に入る人間が非常に留意していたところです。そうやって人間関係を築いた相手方のキーパーソンとの関係性は非常に強く、今でも続いています。

伊藤さん:
やはり一つの事業を作るということは、お互いにそういう関係性を作り続け、ソリューションを作り続けていくということで、非常に難しいと思うんですけど、それがうまくいっている、ということですね。

谷崎:
そうですね。これは個人的な考えも入るかもしれませんが、やはり会社の考え方や理念にある程度マッチングが取れるところ、相性がいいところというのはあるかもしれません。

たとえばお互い製造業であるとか社会貢献していきたいとか、基本的なところが合致していて、思考や方向性、ビジョンが握れているところは継続的に進みますし、そういう関係性ができると、お客さまが当社に対して結構痛いことも言ってくださいます。こちらもそれに対して御社はこうあるべきでしょう、ということもちゃんと言わないといけないですし。お互いにちゃんと言える関係性を作れると、継続性が取れますし、また声をかけていただける、ということがあるのではないかと思います。

画像: 協創パートナーとは時間をかけて人間関係を築くことが大切、と谷崎

協創パートナーとは時間をかけて人間関係を築くことが大切、と谷崎

社会課題をステークホルダーと解く

谷崎:
業務課題への対応から環境や社会課題への対応へと広がっていくとき、なかなか一対一では解けない課題を扱うことが多くなってきます。そこで、マルチステークホルダーとの事業創出にシフトしていった経緯をもつ事例をご紹介します。

これは、西日本鉄道株式会社(西鉄)さまとの「安心安全お出かけサポート実証」という実証実験の事例です。交通事業者は、例えば朝や晩の混雑のピークを緩めたい、という課題を抱えています。一方で、交通機関の利用者は、混雑の不快さを回避して、快適に移動したい、というところが最初のビジョンでした。
ところが途中で新型コロナウイルス感染症が流行しはじめ、利用者は混雑した車両に乗ることに心理的な抵抗を感じ、交通事業者も安心な移動環境を提供する必要が生じる、という状況が起きました。一方で、交通事業者には、コロナ禍で落ちてしまった移動需要を上げたいという別の課題も生じてきました。そこで、快適さを担保しながら移動需要を上げる、というビジョンを合意したところからのスタートになりました。

ここに、3つのステークホルダーが出てきます。交通利用者と交通事業者、それに加えて、西鉄さんは地域を支えるインフラ企業で、地域の活性化に対する責任感を強く持っていらっしゃるので、地域の商業施設もステークホルダーに取り込み、三方良しになるようなビジョンを考えました。

こうした中で生まれたのが、ナッジ技術を活用したアプリケーションを用いた実証実験です。

画像: 西日本鉄道株式会社さまと行った「安心安全お出かけサポート実証」

西日本鉄道株式会社さまと行った「安心安全お出かけサポート実証」

実証実験では、スマートフォンに朝の時間帯、夕方の時間帯の移動をずらすことを提案するメッセージや、近所の店舗を紹介し、ひと休みしてから混雑時を避けて快適に移動することを提案するメッセージが表示されるようにしました。

実証の結果、朝夕ともにピークシフトが起きました。コロナ禍で出社スタイルが柔軟になったこと、また、行動制限に対して張り詰めがちな気持ちを少し和ませるようなメッセージを出すことで、ひと休みしてから帰宅するといった動きが生まれたことが、結果に結びついたと思っています。

コロナ禍での実証実験をどう進めたか

伊藤さん:
西日本鉄道株式会社さまの事例は、複数のステークホルダーがいる中で、複雑な状況変化にも揉まれながら進んできた事例だと思います。社会変化に伴って生活者や企業の考え方が変わっていく兆しを捉えてチャンスに変えていくといった転換のしかたもあると思うのですが、今回の取り組みの中で、どういうマイルストーンで変化に順応していったんでしょうか。

谷崎:
今回のプロジェクトでは、対峙するパートナーさま側にもコロナで需要が落ちた中での実証実験にためらいもあったかと思いますが、地域としてはやはりいずれ人口減少の課題と直面し、地域の活性化に取り組む必要があるということは使命として持たれていましたので、そこに私たちも共感しました。プロジェクトのフェーズゲートについては、実証実験で安全を担保しつつ進める一方で、実施時期については、行政の指導による行動制限もあったので、かなり変動しました。実施のタイミングは非常に難しかったと思います。

伊藤さん:
とすると、このプロセス設計には最初に大きなビジョンを共有しておくといったこだわりが重要だったということでしょうか。

谷崎:
そうだと思います、多様な方が参画いただく中で、それぞれの立場もありますし、目先のことだけでいくと、これはもう参加しないという判断もあったかと思いますが、最終的にめざすビジョンに共感いただいて参画いただく方も多くいらっしゃいましたので、初めに作ったビジョンに共感いただくことで一緒に進んだ、というところは確かにあったと思います。

伊藤さん:
そうやってみんなで目線を合わせていくプロセスでは、どういうコミュニケーションをしているんですか。

谷崎:
そうですね。社内では、営業や事業部門の社員とも対話しながら、なんとかこのプロジェクトの先につながるものを見出して、日立の事業部門領域との接続性を持たせていく、という点で合意形成をはかりました。社外では、やはり西鉄さま側の強い意志がありましたね。コロナ禍であってもやらなければいけないことだからやり続ける、という意思を示していただいたことがとても心強かったです。そこを丁寧にコミュニケーションしつつ、参加者のかたにも丁寧に説明しつつ進めていきました。現場の苦労は大きなものがあったと思います。

次回は地域創生をテーマに地域住民との協創に取り組んできた日立製作所。企業間の取り組みとは異なる要素も多いなか、協創はどのようなプロセスで進んでいったのでしょうか。最終回は、地域を舞台とした協創事例を中心に、谷崎、伊藤さん、半澤さんが語り合います。

関連リンク

画像1: [Vol.2]協創のカギはビジョンの共有と関係性の構築│研究開発の現場から社会イノベーション事業創出を語る

伊藤 竜一
株式会社ユーザベース SPEEDA事業執行役員 技術領域事業CEO
INPIT IPランドスケープ支援事業 審査委員

2007年名古屋大学大学院工学研究科を修了後リクルートに入社。製造業のヒト組織課題解決に従事。2016年ユーザベースに参画。経営の意思決定支援が技術部門の課題解決に横展開できる市場期待に着眼。技術・知財経営の重要性を説き、SPEEDA上に「特許・論文・科研費動向及び研究者情報」等を機能拡張した『SPEEDA R&D』の企画および事業・組織立上げをリード。技術者が輝き、技術が大きな経済価値になる社会の実現を志す。

画像2: [Vol.2]協創のカギはビジョンの共有と関係性の構築│研究開発の現場から社会イノベーション事業創出を語る

半澤 瑞生
株式会社ユーザベース SPEEDA R&D/FORCAS Marketing Manager

大学卒業後、米国大学留学。帰国後、大企業役員向けのマッチングビジネスなどを展開する英系グローバル企業に入社。法人営業を経て、日本支社経営全般と売上/人事管理に従事。2016年、ユーザベースSPEEDA事業マーケティングチームにジョイン。2020年よりSaaSマーケティング横断組織の主メンバーとして、SPEEDA R&Dマーケティングの立ち上げ、SPEEDA R&D/INITIALマーケティングマネジャーを経て、2022年よりSPEEDA R&DとFORCASマーケティングマネジャーを兼務、現在に至る。

画像3: [Vol.2]協創のカギはビジョンの共有と関係性の構築│研究開発の現場から社会イノベーション事業創出を語る

谷崎 正明
研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部
デザインセンタ センタ長

日立製作所に入社後、中央研究所にて地図情報処理技術の研究開発に従事。2006年からイリノイ大学シカゴ校にて客員研究員。2015年より東京社会イノベーション協創センタ サービスデザイン研究部部長として、顧客協創方法論を取り纏める。2017年より社会イノベーション事業推進本部にてSociety5.0推進および新事業企画に従事したのち、2019年からは研究開発グループ 中央研究所 企画室室長を経て、2021年4月より現職。

[Vol.1]社会イノベーション事業を支える場と方法論
[Vol.2]協創のカギはビジョンの共有と関係性の構築
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