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日立製作所は、地域創生をテーマに地域住民との協創にも取り組んできました。地域と企業、異なる風土をもつ両者の協創はどのようなプロセスで進んでいったのでしょうか。SPEEDA R&D主催のオンラインセミナー「日立研究開発の現場から、社会イノベーション事業創出の最前線に迫る」の模様をお届けしているレポートのVol.3は、地域を舞台とした協創事例を中心に、日立製作所の谷崎正明、株式会社ユーザベースの伊藤竜一さん、半澤瑞生さんが語り合います。

[Vol.1]社会イノベーション事業を支える場と方法論
[Vol.2]協創のカギはビジョンの共有と関係性の構築
[Vol.3]地域に入り、未来の社会ニーズを捉える

地産地消のサプライチェーンに住民を巻き込む。国分寺市との取り組み事例

半澤さん:
それでは、最後の事例のご紹介をお願いします。

谷崎:
私たちは、デジタル技術を活用しながら地域の人々や事業者とともに未来の価値観の潮流や地域を支える新しいインフラのあり方を実践を通じて考えるフューチャー・リビング・ラボ(Future Living Lab)という活動を行なっています。東京都国分寺市と、神奈川県三浦市の2か所で実施しました。世の中が変化する中で、人々がどんなことに関心をもっているか、地域の今後の活性化に向けてどんなインフラが必要なのかといった考え方を、地域の中に私たちが実際に入り込んで掴んでくる、という取り組みです。

画像: 東京都国分寺市、神奈川県三浦市。二つの地域からはそれぞれ全く異なる協創が生まれた

東京都国分寺市、神奈川県三浦市。二つの地域からはそれぞれ全く異なる協創が生まれた

まずは国分寺市の取り組みからご紹介します。
当社は、この「協創の森」という研究拠点が国分寺にあることから国分寺市さんと包括協定を結び、地域に根ざす接点作りを進めています。そのうちのひとつが「こくベジ」の取り組みです。地産地消という言葉がありますが、国分寺市に住む人たちは地場産の野菜にどのくらい関心をもつか、どれくらい愛着を持てるか、という問いから出発しました。地場の農産物は通常商業ベースの流通に乗りますが、市民の皆さんがサプライチェーンの中に入り込むような、例えば畑から農作物を受け取って、こくベジと提携している商店街の中のレストランの情報をスマートフォンで検索し、自分でそのレストランに持っていく。そしてその野菜で作ってもらったおいしい料理を食べることができる、といった一連の流れを体験していただく取り組みを行いました。こうした体験を通し、人と人との関係性が見えたり、地場に対する愛着や地域活性化につながる取り組みを一つ進めることができました。

画像: デジタル技術を活用しながら未来の価値観の潮流をとらえるフューチャー・リビング・ラボの活動について語る谷崎

デジタル技術を活用しながら未来の価値観の潮流をとらえるフューチャー・リビング・ラボの活動について語る谷崎

「みんなの地図」を住民共通のインフラに。三浦市との取り組み事例

谷崎:
次にご紹介するのは神奈川県三浦市との取り組みです。京浜急行電鉄の三浦海岸駅の高架下に、「みんなの地図」という大きな地図を貼り出しました。地域の方々に、「ここが私のお気に入りの場所」「ここにはこういうことがあるんだよ」などと、自分自身それぞれが持っている大事な情報を貼り出していっていただく。すると、他の人が貼ったものを見て「こんなところもあるんだ」と新しい発見があったり、そこに他の人がいるということが視覚的に分かったりする。みんなの地図が共通のインフラになり、他の人が存在する地域との関係性が見つかっていく、といった形で地縁の活性化を図る実証実験です。

三浦海岸近辺は人口減少が非常に激しい地域です。大都市に隣接する中で人口減少が激しいというのは全国各地に共通する課題ですし、地域で活動されている藤原大さんというデザイナーとの縁もあり、取り組みに繋がりました。

デザイナーがこういった場に出て、地域の方とコミュニケーションしながら実験することで、地域の方がどんなことを考えているのかということや、その考えの変化などを察知しています。私たちが一方的にソリューションを世の中に提供しても受け入れられないかもしれないし、価値や考え方がどんどん変わるかもしれません。常に先を見つめてキャッチアップしていかないと、世の中の需要に合わなくなってしまうと考え、こうした取り組みを続けています。

地域に入るには、個人として向き合うことが必要

伊藤さん:
地域活性化や地方創生というテーマは、ドライに言ってしまうとビジネス的に儲かるのかという課題があります。特にビッグビジネスが多い御社がどの程度リソースをかけているのか興味があるのですが、やはり、先行投資的に未来の社会ニーズを捉え続けていくというスタンスなんでしょうか。

画像: 地域との協創事例に対し、ビジネス視点での意図を問う伊藤さん

地域との協創事例に対し、ビジネス視点での意図を問う伊藤さん

谷崎:
今はちょうど、コスト積み上げで価値が決まっていく世界から、社会的な価値をベースに消費するという形に購買行動が変わっていく転換点に来ていると思います。これから私たちが事業を作ったりお客さまと協創していく中で、まずそのことを理解しておく必要があります。確かにおっしゃる通り、直近ですぐ大きな事業につながるわけではありませんが、私たちが進める事業の先には必ずこの知見が必要です。そうした還元価値を含め、総合的にバランスを取っています。

伊藤さん:
地域に入り込んでいくことは、そう簡単なことではないと思いますが、どういう接点でどうやって出会っていくのでしょうか。

谷崎:
そうなんですよね。地域に入っていくというのは実はかなり勇気のいることです。普段私たちがやっている事業や研究開発の活動では、契約に基づいてお客さまとの対話や議論があり、契約が終了するとその関係性もいったん切れたりと。プロジェクトが契約ベースになりますが、地域の場合はそういった契約がそもそもなかったりします。そこに参画するデザイナーや研究者が個人として向き合う必要が出てきます。相手となる地域コミュニティの皆さんも、最初は「なぜ日立さんがここに来たんですか?」といぶかしがります。それに対して、個人が自分の社会に対する思いや意思を示さないと受け入れていただけないので、メンバーも勇気をもって社会とコミットメントを取るという気持ちでやっていく必要があります。それは非常に難しいことですし、継続が必要なことでもあります。

伊藤さん:
やはり、自分たちの軸を持ち、ビジョンを発信し続けていくスタンスが大事なのかもしれませんね。

画像: 協創の具体的なプロセスについて、オンライン参加者からも多くの質問が寄せられた

協創の具体的なプロセスについて、オンライン参加者からも多くの質問が寄せられた

オープンイノベーションのプロセスはらせん状に進む

半澤さん:
これからの社会に向けて、継続して協創を生み続ける上で大切なことはなんでしょうか。

谷崎:
こちらはオープンイノベーションのプロセスを図解したものです。課題を見つけて世の中にも発信しながら、最終的には社会実装やイノベーションにつなげていくわけですが、そのときに、一直線ではなく、試行錯誤して行きつ戻りつしながら、らせん状に進み続けていくことを旨としています。

画像: らせん状に試行錯誤を繰り返しながらイノベーションを進めていく

らせん状に試行錯誤を繰り返しながらイノベーションを進めていく

コロナ禍前の2019年時点ではこの協創の森にも非常に多くのお客さまに来ていただいていて、ディスカッションの機会をもつことができていました。ところが、コロナ禍以降ぴたっと来訪が止まってしまいました。ただ待っているだけではお客さまとの対話の機会は得られないので、2021年にこの協創の森から発信していく「Linking Society」というメディアを作り、情報発信を始めました。また、あわせて「協創の森ウェビナー」として、いくつかのタイトルで発信してきました。例えば、ウェルビーイングについて哲学者とディスカッションして考えたり、地域に根づくインフラについて台湾鉄道を例に考えたりと、多様な観点でトピックを取り上げ、継続的に発信しています。従来、研究開発グループの情報発信は技術的な成果を発信するのが中心でしたが、Linking Societyや協創の森ウェビナーでは、今までの常識を一度疑って、そもそも何を社会課題として取り上げるべきかということを、最初のフェーズから発信することを心がけています。

当社の2024中期経営計画には「データとテクノロジーでサステナブルな社会を実現して人々の幸せを支える」という内容があり、サービスやプロダクトを通して人々がしなやかに繋がり、暮らしの中で幸せを感じる瞬間を増やしていくための取り組みや考え方を、情報発信を通じて整理、紹介しています。それらを、イノベーション事業を作る過程で迷ったときにそれらを参照しています。

半澤さん:
大手の伝統ある日立製作所さんが、成功体験から脱却し、現場の皆さんがそれぞれラーニングしながら顧客起点で必要なものは何か、価値ベースで発信し、模索していることがとても興味深かったです。そのことは、事業創出に向き合っている方々にとってのヒントや勇気づけになるのではないでしょうか。

画像: セミナー終了後、会場となった協創の森では、デザインセンタメンバーによるデザインや協創の事例に関するポスターセッションによるセミナー参加者との交流会も実施された

セミナー終了後、会場となった協創の森では、デザインセンタメンバーによるデザインや協創の事例に関するポスターセッションによるセミナー参加者との交流会も実施された

関連リンク

画像1: [Vol.3]地域に入り、未来の社会ニーズを捉える│研究開発の現場から社会イノベーション事業創出を語る

伊藤 竜一
株式会社ユーザベース SPEEDA事業執行役員 技術領域事業CEO
INPIT IPランドスケープ支援事業 審査委員

2007年名古屋大学大学院工学研究科を修了後リクルートに入社。製造業のヒト組織課題解決に従事。2016年ユーザベースに参画。経営の意思決定支援が技術部門の課題解決に横展開できる市場期待に着眼。技術・知財経営の重要性を説き、SPEEDA上に「特許・論文・科研費動向及び研究者情報」等を機能拡張した『SPEEDA R&D』の企画および事業・組織立上げをリード。技術者が輝き、技術が大きな経済価値になる社会の実現を志す。

画像2: [Vol.3]地域に入り、未来の社会ニーズを捉える│研究開発の現場から社会イノベーション事業創出を語る

半澤 瑞生
株式会社ユーザベース SPEEDA R&D/FORCAS Marketing Manager

大学卒業後、米国大学留学。帰国後、大企業役員向けのマッチングビジネスなどを展開する英系グローバル企業に入社。法人営業を経て、日本支社経営全般と売上/人事管理に従事。2016年、ユーザベースSPEEDA事業マーケティングチームにジョイン。2020年よりSaaSマーケティング横断組織の主メンバーとして、SPEEDA R&Dマーケティングの立ち上げ、SPEEDA R&D/INITIALマーケティングマネジャーを経て、2022年よりSPEEDA R&DとFORCASマーケティングマネジャーを兼務、現在に至る。

画像3: [Vol.3]地域に入り、未来の社会ニーズを捉える│研究開発の現場から社会イノベーション事業創出を語る

谷崎 正明
研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部
デザインセンタ センタ長

日立製作所に入社後、中央研究所にて地図情報処理技術の研究開発に従事。2006年からイリノイ大学シカゴ校にて客員研究員。2015年より東京社会イノベーション協創センタ サービスデザイン研究部部長として、顧客協創方法論を取り纏める。2017年より社会イノベーション事業推進本部にてSociety5.0推進および新事業企画に従事したのち、2019年からは研究開発グループ 中央研究所 企画室室長を経て、2021年4月より現職。

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