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メルカリに代表されるフリマアプリの普及により、複数の使い手の間を物が巡っていく新しいスタイルが広まりつつあります。一方で、循環型社会の実現のためには、素材に戻して使うリサイクルや地域で資源を循環させる仕組みをいかに作るか、といった観点も必要です。Vol.2ではデザインセンタが行なった市民参加型プラスチック循環の実証実験「キャップノソノゴ」を中心に、メルカリデザインの宮本麻子さん、山田静佳さん、岩部真和さんと、日立製作所研究開発グループ デザインセンタの伴真秀、井口匠、神崎将一が語り合います。

[Vol.1] 物を買うこと、手放すことの価値観はどう変わるか
[Vol.2]新たな価値観をもつ世代を循環型社会の主人公に
[Vol.3] サーキュラーエコノミーの未来

画像: ユーズドの物に対する抵抗感が薄れてきているのでは?と指摘する伴

ユーズドの物に対する抵抗感が薄れてきているのでは?と指摘する伴

物に対するオーナーシップが変わった

伴:
物に対するオーナーシップの価値観が変わってきてるんだろうな、と感じています。「買ったら一生使う」と思っていると他人の物を使うのにも抵抗がありそうですが、「いまから買うこれは、半年ぐらいしたら多分もう次の人に渡すんだ」と思ったら、たぶんそこにオーナーシップは芽生えないですよね。僕は2番目とか3番目の人であって、終わったら4番目に渡すだけ、という感じだと、リユース品に対する抵抗感はだいぶ薄れているのかなという気がしますね。

神崎:
そうですね。だいぶ下がっているかもしれません。僕らの場合、回っていくのが当たり前。MacBookとか、ある程度高く売れることが分かっているから、買うときと売るときの差額が他社より大きいかな、といった感覚もありますね。

井口:
出品された商品を買った後、「これはたぶん売れるだろう」と頭の中のリストに入り、タイミングが来れば今度は自分が出品する、という流れですね。メルカリではこうしたユーザーの行動をどのようにサポートしているのでしょうか?

宮本さん:
持ち物リストという機能があって、商品を買ったら「この人はこれを買った」ということが分かります。それを一覧として見せて、「だから次はこれが売れるよね」という流れを作ろうとしています。

山田さん:
頭の中でどの商品が売れるかリスト化する、ということですよね。売れる物リストのような物をメルカリのアプリ上で、むしろメルカリのアプリの外で買った物も入ってくるとよりいいですね。

画像: 持ち物リストの活用はまだ途上、と宮本さん

持ち物リストの活用はまだ途上、と宮本さん

物の循環にはブラックボックスがある

井口:
先ほどのお話にあったように「環境にいいですよ」とアピールするのではなく、たとえば資産がお金になるといった分かりやすい動機で、まずは買う意識から売る意識に変える、という話、とても面白いです。売る側に回ると、二次流通がたくさん増えるわけだし、使っていない物が他の人に使われる機会を増やすということでもありますね。

さらに循環型社会の実現という点で考えていくと、捨てられた物を一度素材に戻し、リサイクルして使うことを考えたり、物の移動によるCO2をできるだけ使わないように地域の中で回すことを考えたり、といった視点も必要になってくるかと思うんです。

伴:
僕がいま研究しているサーキュラーエコノミーは、作る人、使う人、回収して再生する人のつながりやサイクルをうまく作って経済を回していこうという考え方なんですが、その実現にはまだまだ乗り越えるべき課題があるように思います。なぜかというと、作る人は実際どう使われるかを詳細には追いきれませんし、使う人も物がどこから来たのか、捨てた物がその後どうなるかよく分からないけど、とりあえずペットボトルはスーパーやコンビニエンスストアの回収ボックスに入れている、という状況なんです。ブラックボックスになっている部分がある。自分がいま持ってる物がどこから来てどこに行くのか、もっと透明性が高くなれば、たとえば「自分はこのペットボトルが洋服になることに賛成します。だからそこに使われる回収ボックスに入れます」というふうに自信をもって手放せるはずです。具体的にどうやったらそこに踏み出せるかを、神崎くんが実証実験したので紹介してもらいましょう。

画像: 市民参加型の実証実験にチャレンジした神崎

市民参加型の実証実験にチャレンジした神崎

資源循環を小さく見える化する

神崎:
僕のやっている「キャップノソノゴ」プロジェクトについてご紹介しますね。物の廃棄から再製造までのプロセスは日常生活から離れたところで行われているので、なかなか実感をもつことが難しいですよね。そこで、回収から素材化、成形してまた新しい物ができるところまでをひとつの場所で体験すると、実感につながるんじゃないかと思って挑戦したプロジェクトです。そこで、色別に集めたペットボトルのキャップを粉砕し、粉砕した物を手動の射出成形機にかけて、ボタンの型を使ってボタンを作る、という体験を国分寺市の街歩きイベントに合わせて2日間行いました。

なぜペットボトルのキャップかというと、プラスチックとして純度が高いので、射出成形がしやすいんです。それに、生活に浸透していてみんなが手に持っている。キャップでやると変化が大きいかなと思ってやってみました。
実物を持ってきたので見てください。

画像: キャップノソノゴプロジェクトから生まれたボタン。元はペットボトルのキャップを素材に射出成形している。

キャップノソノゴプロジェクトから生まれたボタン。元はペットボトルのキャップを素材に射出成形している。

一同:
おおお、持ってきた。すごい綺麗ですね。

神崎:
けっこう綺麗なのがありますよね。聞いた話ですが、日本のペットボトルの色ってすごく綺麗なんだそうです。デザインの努力の結晶だと思います。こうやってボタンになったのを見ると、たしかに綺麗です。

山田さん:
生きてる感がありますね。色が一色じゃないからかな。

神崎:
ボタンなので、カバンにつけたり帽子につけたり自由に楽しめるのが良かったと思います。受け手側に「どこにつけようかな」と余白が生まれる。ある方は自分の服につけて学会とかで紹介したりされたそうです。そうやって自分語りができるアイテムにもなってきます。

伴:
子どもも喜びそうですね。

神崎:
街歩きのイベントに合わせてやったので、ふらっと立ち寄った小学生のお子さんが興味持ってやってくれていました。

画像: カラフルなボタンをそれぞれが手に取り、ひとしきり場が盛り上がった

カラフルなボタンをそれぞれが手に取り、ひとしきり場が盛り上がった

親の消費行動が子ども世代にインパクトを与える

伴:
子どもを見ていると、こういう物の受け取り方やインパクトとか全然違うんだろうなと思うんです。たとえばこのボタンなら、瓶に入れて大事にしたりしますよね。ペットボトルのキャップがこれになったんだということも、たぶん大人とは違う受け取り方をするでしょうし、インパクトも大きいでしょうね。

山田さん:
小学校でもこういうことが習慣化できるといいですよね。何となくベルマークを思い出したんですが、何かを集めて新しい物を生み出すことが小学校で普通になったら、またもうちょっと身近になるかなと思います。

岩部さん:
それは、親がメルカリを使っていると子どもにも自然に入ってくるんじゃないかなと最近思っています。我が家では、僕が「もうこれはうちでは使わないからいらないね」っていうと、子どもが「これメルカリで売るの?」って聞くんです。ああ、そういうところから循環への意識が入ってくるんだな、と思います。Z世代やもっと下の世代にとっては、資源の循環はもっと普通になってくるかもしれませんね。

伴:
我が家では、メルカリで物を売る、ということを子供に体験させてみました。これを出品したい、という娘のポーチを見て、僕が「これはお小遣いにならないかもしれないよ」ってつい言っちゃったんです。すると、「自分はそれでお金を稼ぎたいわけではない。それより自分が大事にしていたこのポーチが他の誰かに渡ることの方が大事なんだよ。」っていう返事が返って来たんですよね。僕はもう何も返せなかった(笑)。子どもたちは、物が巡っていくこと自体をもう既にそんな風に捉えているんだと感じました。自分が持ってる物って、僕らの時代にはもうほぼ100%使い終わったら捨てていたと思うんですが、僕らにとっての「捨てる」と同じぐらいの大きさで、娘たちの中には「回す」とか「巡らせる」が当たり前に備わってるんだな、と。そのときにやっぱり身近なプラットフォームといえばメルカリなんですよね。

井口:
うちの娘はいま中学1年生なんですけど、小学校のときから授業でSDGsを勉強していて、海洋プラスチックとかいろいろなことを調べて社会科の授業で発表しています。そうして得た知識と、たとえばこうやってボタンを作ったり、メルカリで出品したりという、リアルな生活の中で実際にできることが結びついていると思います。

――次回はZ世代よりもさらに若い世代にとって、物を循環させることは当たり前のことになりつつあります。そうした若い世代も含め、生活者が循環型社会の主役になるために企業として取り組みたいことを語り合います。

画像1: [Vol.2]新たな価値観をもつ世代を循環型社会の主人公に│メルカリデザインメンバーと循環型社会を考える

宮本 麻子
株式会社メルカリ 

日立製作所に新卒で入社後、金融・電力・公共サービスに関わる情報デザインやサービスデザインの手法研究に従事。2018年にReaktor Japanに入社し、Agile・Scrum開発をベースにクライアントのプロダクト開発をサポート。2021年に株式会社メルカリに入社し、Product DesignとDesignOpsの企画・推進を担当している。

画像2: [Vol.2]新たな価値観をもつ世代を循環型社会の主人公に│メルカリデザインメンバーと循環型社会を考える

山田 静佳
株式会社メルカリ

2016年より株式会社メルカリに入社以来、メルカリJPのUI/UXデザインを一貫して担当。自身がメルカリユーザーであることを活かし、UXデザイナーとしてプロダクト開発に関わりながら、デザインチームの貢献を最大化すべくDesignOpsの推進している。

画像3: [Vol.2]新たな価値観をもつ世代を循環型社会の主人公に│メルカリデザインメンバーと循環型社会を考える

岩部 真和
株式会社メルカリ

2011年からデザイナーとしてキャリアをスタートし、2015年、グローバルに展開するデザインファーム、Designitに入社。リードデザイナーとして、戦略的デザイン、サービスデザイン、UXデザインなど、様々なデザインプロジェクトを担当。2022年より株式会社メルカリに入社。UXの視点からプロダクト開発に取り組みながら、カスタマーエクスペリエンスをいかにビジネスの成長につなげるかを探求している。

画像4: [Vol.2]新たな価値観をもつ世代を循環型社会の主人公に│メルカリデザインメンバーと循環型社会を考える

伴真秀
日立製作所 研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部 デザインセンタ UXデザイン部

日立製作所入社後、コーポレートWEBブランディング、建設機械・IT運用管理システムのインタラクションデザインを担当。2011年より北米デザインラボを経て2015年より家電、ロボット・AI領域の将来ビジョンや地域活性に関するサービスデザインを担当。企画部門を経て、現在サーキュラーエコノミーに関するサービスデザイン研究に従事。

画像5: [Vol.2]新たな価値観をもつ世代を循環型社会の主人公に│メルカリデザインメンバーと循環型社会を考える

井口匠
日立製作所 研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部 デザインセンタ ストラテジックデザイン部

日立製作所入社後、鉄道情報システム分野のUI・UXデザイン、顧客協創ツールの開発、生活家電分野のアドバンスドデザインとサービスデザインを担当。2020年から日立グローバルライフソリューションズに出向し、未来洞察を活用したビジョン駆動型のソリューション企画や顧客協創に従事。現在は事業創生研究をリード。HCD-Net認定 人間中心設計専門家。

画像6: [Vol.2]新たな価値観をもつ世代を循環型社会の主人公に│メルカリデザインメンバーと循環型社会を考える

神崎将一
日立製作所 研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部 デザインセンタ ストラテジックデザイン部

2021年、日立製作所に入社。金融領域でのサービスデザインや地域から社会変容を促すデザインリサーチに従事。2022年より、生活に定着する資源循環の仕組みに関するリサーチスルーデザインに取り組んでいる。

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