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「自然共生サイト」の認定を受けた協創の森をはじめ、その周辺地域には都市農地・緑地が数多く残されています。本対談の最終回では、ネイチャーポジティブに向けて具体的にできることは何か、生物多様性保全のカギとなる最新技術をどう絡めていくことができるのか。その可能性について東京大学大学院 工学系研究科教授の横張真さんと日立製作所執行役常務CTO兼研究開発グループ長の西澤格が語り合いました。

[Vol.1]協創の森に秘められた、自然共生社会に必要なこと
[Vol.2]グレーなマテリアルで作られるインフラに、グリーンな発想を展開できる?
[Vol.3]生物多様性の確保をするカギは、最新技術をどう絡めていくかにある

食糧自給をめざして走る世界の先端をいく「こくベジ」における実証実験

西澤:
当社の研究開発グループでは、研究者とデザイナーが協働し、地域の方々と共に未来の社会の姿を模索する「フューチャー・リビング・ラボ」という取り組みがあります。これは従来型のグレーインフラからグリーンの方向性へと染み出していくトライアルと言えるかもしれません。国分寺市には、地場の農畜産物ブランドとして「こくベジ」というものがあるのですが、フューチャー・リビング・ラボでは「こくベジ」の地産地消の仕組みを技術やアイデアで下支えすることで、地域活性を図ることに挑戦しました

画像: 横張さんが開催した「都市農業・緑地国際ワークショップ」でも高い評価を得た「こくベジ」に関するフューチャー・リビング・ラボによる実証実験

横張さんが開催した「都市農業・緑地国際ワークショップ」でも高い評価を得た「こくベジ」に関するフューチャー・リビング・ラボによる実証実験

西澤:
この取り組みでは、国分寺市のイベントを実証実験の場として活用させていただきました。自分で野菜を市内のレストランに運び、その場で調理してもらい、食べる、という一連の経験をウェブアプリを活用し、実施してもらうというサービスです。市民の皆さんに野菜の運び手となってもらうことで、地域を廻る良い資源の循環と、そのつながりに自身が関与できる余地を感じてもらい、地域活性の一助にできないかと考えたのです。また、その活性に緩やかに技術による下支えの機会を持ち込めないだろうか、という狙いを込めました。

この取り組みは実証実験なので、一過性の活動ではありますが、これまでずっとグレーの方にフォーカスしていたところから、我々なりに、おそらく先生がおっしゃっているグリーンの方を見て進み始めた一歩かなと、お話を聞きながら思いました。

横張さん:
とても面白いと思いますし興味深いです。こくベジに関するフューチャー・リビング・ラボの取り組みには、国際ワークショップの際にも、海外の方々が感銘を受けておられました。

先ほど、キューバでは都市農業がすでに行われると言いましたが、日本以外の国での都市農業の多くは、農産物を作るのはいわゆる農家ではありません。都市住民がレクリエーション感覚でやっている場合がほとんどなので、収穫できる農産物のクオリティは、こくベジとして生産されているものとは雲泥の差です。これだけ高品質な農作物が街の中で、しかもこういうシステムを伴いながら生産されていることに対して、海外の研究者はすごく感銘を受け、なぜこんなことが成り立つのかと、とても驚かれていました。

画像: 高品質な農産物を、生産者と消費者と地域とをつなげるシステムの中で生産するという実証実験は世界でも先進的な事例だと評価する横張さん

高品質な農産物を、生産者と消費者と地域とをつなげるシステムの中で生産するという実証実験は世界でも先進的な事例だと評価する横張さん

横張さん:
いま、新型コロナのパンデミックから復興をしていく中で、完全自給は難しくても、少しでも食糧など日常に必要なものを自給するという動きが世界の都市で起きています。最も有名なのはパリの「15分圏のまちづくり(15分都市構想)」で、徒歩や自転車で15分ほどで行ける範囲を一つのユニットにして、その中でできる限り自給できるものは自給しようとするものです。これはCO2の削減にもつながる話です。シンガポールでは、2030年までに食糧自給率30%を達成という目標を掲げて、今後の屋上の緑化は原則として食べられるもので行うことをめざしています。

そういう世界的な潮流の先を走っているのがフューチャー・リビング・ラボが仕掛けたこくベジにおける取り組みであると私は評価をしています。ですから私は「街の中でプロの農家がきちんと農作物を作っています。1400万人が暮らす東京都の中に、そういう土地が3%もあるんです」と伝えています。

さらに、消費者と売り手とがデジタル(アプリ)でつながる仕組みを作られたというのは、極めて先進的な事例だと思います。こういった持続的に続いていくような仕組みづくりがこれからは必要ですね。

今年の夏、G7のサミットが広島で開催された際、高松では都市大臣会合が開かれました。その際の主要議題がグリーントランスフォーメーション(GX)でした。その場で日本は、都市農業の重要性にも言及したのですが、今後、どうやって都市農業をより積極的にサポートできるかが問われていくことになると思います。生産緑地法など、自治体が区域内の農地を守っていく制度はありますが、永続性を担保するための制度的な整理がより一層必要になるのではないかと思います。その際には、GXに積極的に取り組んでいる企業に経済的なインセンティブが発生するような側面もとても重要になってくると思います。

画像: 政府の今後の政策展開について見通す横張さんの話を受けて問いかける西澤

政府の今後の政策展開について見通す横張さんの話を受けて問いかける西澤

西澤:
私たちが研究的態度で取り組んでいることが、先生のおっしゃるグリーンインフラを作るためのひとつのアプローチであり仕組みづくりであると考えて良いのでしょうか。

横張さん:
その通りだと思います。だからこそ、ビルの緑化など狭い意味合いでグリーンインフラという話にとどめるのではなく、グリーンな発想に基づく、マテリアルは問わないグリーンインフラに概念を拡大していく必要があると思います。その概念の中で、御社としてはこういう貢献ができるということが増えれば、私はまさにそれこそがグリーントランスフォーメーションだと思います。

グリーントランスフォーメーションと表裏一体のレトロフィットとは

西澤:
グリーントランスフォーメーションに取り組む私たち自身がトランスフォームし、自分たちが提供する価値によってお客さまもトランスフォームしていく。そのためのカギとなるものについてはどうお考えになりますか。

横張さん:
最近私は、レトロフィットという言葉を使っています。たとえば、性能をアップデートさせながら昔ながらの機械を使い続けることがレトロフィットの例ですが、こういう発想がこれからのグリーントランスフォーメーションを進める上で大事になると思っています。

従来、レトロフィットというと、新しい機械を開発したり製造したり、あるいは購入するだけのお金がないから、仕方がなく昔のものを手直ししながら使う、という側面が大きかったと思います。しかしこれからのレトロフィットは、余計な資源を使わず、環境に対してできる限りの配慮をする、ということが動機になっていくでしょう。その中で、いままで使ってきたものだけれど、そこに一部最新技術を導入しながら使い続けるという「新しいレトロフィット」の話と、「グリーントランスフォーメーション」というのは表裏一体ではないかと思います。

学生によく話すんですが、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」に出てくる売れない発明家が、お金がないから既存のスポーツカーを改造してタイムマシンにした例は、古いタイプのレトロフィットだと思います。でも実は、あれこそが環境やCO2の削減も含めてこれからの時代の要求に応えるあるべき姿、と考えることもできるんじゃないかと思います。

画像: これからは、余計な資源を使わず、環境に対してできる限りの配慮をするためのレトロフィットが増えていくという横張さん

これからは、余計な資源を使わず、環境に対してできる限りの配慮をするためのレトロフィットが増えていくという横張さん

西澤:
先生のおっしゃるレトロフィットとは、新しい環境への適合であったり、求められる新たな要件にうまくマッチングさせていったりするような意味合いと考えればよいでしょうか。

横張さん:
おっしゃる通りです。冒頭の話に戻ると、元々武蔵野の地にあった、原風景としての雑木林、田んぼ、畑がある景色だけれど、そこに込められている機能はまさに低炭素であり、環境配慮であり、実は昔ながらの景色が最新の景色でもある、と。そういう新しい武蔵野の原風景に、日立製作所の開発された最先端技術を積極的に導入していただきながら作り変えていくというのが、この地でいうところのレトロフィットではないかなと考えています。

表向きは、昔の原風景が戻ってきたように見えますが、実は昔に戻っているわけではないです、と。見た目はそう言えるかもしれないけど、実は最先端の時代要求に応えるものが、この景観なんです、ということをめざされるといいのかなと思います。

市民とともに、生物多様性の保全を協創していく

横張さん:
雑木林にしても多様な年齢の木がモザイク状にあったからこそ、それぞれに適した生き物がいて、全体としてすごく多様になりました。その多様性が何に裏付けられていたかというと、経済合理性でした。その文脈の中でもう一度、何がなされるべきかというところにうまく最新技術を絡めながら考えていくと、OECM(保護地域以外で生物多様性保全に資する地域)に対する期待の答えがあると思います。決して懐古主義ではありません。

画像: 生物多様性の保全について語らいながら協創の森の中を歩む横張さんと西澤

生物多様性の保全について語らいながら協創の森の中を歩む横張さんと西澤

西澤:
モザイクにしながらうまくマネジメントをしていくという発想は本日のお話の中で新たに得た視点で、大きな学びになりました。森の木の病気にしても、木の年齢が高くなっているのだから当然の現象で、適切な対処によってモザイク化し、多様性を確保していくことが必要なのですね。また、ここに新たな技術を当て込んでいくことで、モザイクにしていくことの良さをさらに一歩深めていくことに寄与できることを改めて認識しました。

横張さん:
自然保護に熱心な方のなかには、「木を切るなんてけしからん」ということをおっしゃるケースもありますが、なぜ切らなければいけないのか、切った後にどういう将来があるのか、どんな生き物が戻ってくるのかなどを説明し、モニタリングなども含めて市民の方々と一緒にやっていくと、まさに協創になっていくと思います。

西澤:
そういった意味では、フューチャー・リビング・ラボの活動では少しずつ市民の皆さまとの協創の第一歩を踏み出しました。生態系のモニタリングという観点では、アメリカの熱帯雨林で違法伐採から自然を守るため、AIを活用した生態系モニタリングに取り組んでいます。それとともに、ネイチャーポジティブ実現に向けた仲間づくりという点で、国内ではサーキュラーエコノミーに関する連携研究ラボを国立研究開発法人 産業技術総合研究所と共に立ち上げ、ネットゼロ社会を実現するため、脱炭素化や気候変動対策などの基礎研究・応用研究に取り組んでいます。また、海外ではインペリアル・カレッジ・ロンドンと脱炭素・自然気候ソリューションの開発加速に向けた共同研究センターを設立し、サステナブルな社会の実現や脱炭素への貢献をめざしています。

日立は、「環境ビジョン」のもと、脱炭素社会、高度循環社会、自然共生社会の実現をめざしておりおりますが、ネイチャーポジティブの実現に向けて、本日伺った「グリーンな発想」の考え方もぜひ取り入れながら、引き続きプラネタリーバウンダリーを超えない社会の維持と、一人一人のウェルビーイングの実現が両立した、サステナブルな社会の実現に貢献していきたいと思っています。

画像1: [Vol.3] 生物多様性の確保をするカギは、最新技術をどう絡めていくかにある│グリーンインフラから未来を描く

横張 真
東京大学大学院 工学系研究科 教授

緑地環境計画学専門。農林水産省農協環境技術研究所、筑波大学大学院システム情報工学研究科等を経て、2013年より現職。日本都市計画学会長、日本造園学会会長、国土交通省社会資本整備審議会臨時委員、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会委員、東京都農政審議会委員長等を務める。

画像2: [Vol.3] 生物多様性の確保をするカギは、最新技術をどう絡めていくかにある│グリーンインフラから未来を描く

西澤 格
日立製作所 執行役常務CTO兼研究開発グループ長

1996年東京大学大学院 工学系研究科 電気工学専攻 博士課程修了後、日立製作所 中央研究所 入社。並列データベース管理システムのクエリ最適化、異種データソースアクセス機構の研究開発に従事した後、ファイルシステム、データベース管理システム、ストリームデータ管理システムなどのミドルウェアシステムの研究開発取り纏め。2013年にITプラットフォーム事業部門に異動し、グローバル市場向けリアルタイムデータ管理ソリューションの開発に従事。2015年に研究開発部門に戻り、CME (Communication, Media and Entertainment)および金融バーティカルの顧客協創プロジェクトを牽引。2017年よりテクノロジーイノベーション統括本部デジタルテクノロジーイノベーションセンタ長、2020年よりテクノロジーイノベーション統括本部副統括本部長、2022年よりデジタルサービス研究統括本部長を経て、2023年より現職。

[Vol.1]協創の森に秘められた、自然共生社会に必要なこと
[Vol.2]グレーなマテリアルで作られるインフラに、グリーンな発想を展開できる?
[Vol.3]生物多様性の確保をするカギは、最新技術をどう絡めていくかにある

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