プログラム1「好奇心が駆動する社会 – Society 5.0に向けて」
プログラム2「未来の暮らしと働き方はどうなる?『次の社会の作り方』を考える」
プログラム3「リアル×デジタルが私達の暮らしの何を繋ぐのか」
生活者観点から、リアルとデジタルの融合がもたらす変化を考える
福丸:
ナビゲーターを務めます、日立製作所 研究開発グループ デザインセンタの福丸諒と申します。本日の対談では、リアルとデジタルがどのようにつながると生活の風景が変わっていくのかをテーマに、メタバース事業に取り組まれているKDDI株式会社 事業創造本部 Web3推進部長の舘林俊平さんをお迎えし、日立製作所 研究開発グループ デザインセンタで社会課題協創研究部 部長を務める沖田英樹との対談をお送りします。

左からナビゲーターの日立製作所 福丸諒、KDDI株式会社 舘林俊平さん、日立製作所 沖田英樹
舘林さん:
KDDIの舘林と申します。2006年にKDDIに入社後、移動体通信のネットワーク設計を担当しました。2012年から事業共創プラットフォーム「KDDI ∞ Labo(ムゲンラボ)」の推進や、スタートアップへの投資を目的とした「KDDI Open Innovation Fund」に携わり、スポーツやエンタメ、XR(クロスリアリティ※)の事業を推進しています。こういったオープンイノベーション活動に加え、2023年に提供を開始した「αU metaverse(アルファユーメタバース)」「αU wallet」「αU market」というWeb3のサービス群「αU」を管掌しています。本日はよろしくお願いします。
※ 現実世界と仮想世界を融合することで、現実にはないものを知覚できる技術の総称。VR(仮想現実)やAR(拡張現実)、MR(複合現実)はいずれもXRに含まれる。
沖田:
日立製作所 研究開発グループ デザインセンタの沖田と申します。通信ネットワークの研究者としてキャリアをスタートしたのち、セキュリティ関連の新事業創生に従事してきました。現在は研究開発の立場から新事業の創生に関わり、スマートシティ分野を中心に新たなソリューションの事業化に取り組んでいます。よろしくお願いします。
渋谷のまちに出なくても、渋谷ならではの体験を
福丸:
まずはこれまでのお二人の取り組みから、サイバーとフィジカルの融合が引き起こす“変化の胎動”をつかんでいきたいと思います。はじめに舘林さん、KDDIがメタバース事業「αU metaverse」に取り組むに至った経緯をご紹介いただけますか。
舘林さん:
発端は、2020年に5Gのサービス提供を開始したことです。5Gの通信環境がもたらすメリットを一般のお客さまに伝える手段として、大容量コンテンツが配信されるシーンを実感できる仕掛けをつくりたい――そう考えたときに浮かんだまちが渋谷でした。渋谷は音楽のまちでもあるし、ファッションやアートのまちでもある。そういったユニークな渋谷の文化をAR(※)の体験として提供したいと考え、2019年に「渋谷エンタメテック推進プロジェクト」を発足しました。
※ Augmented Reality(拡張現実):現実世界に仮想世界を重ね合わせて表示する技術。

KDDI株式会社 舘林俊平さん
例えば、渋谷の特定の場所に行くと、スマートフォンに音楽が配信される。まちにスマートフォンをかざすと、リアルタイムの電車の混雑度やまちの盛り上がり度が可視化できる。ARコンテンツを通じて、渋谷ならではの面白い体験を提供できたという手応えを得ました。ところがその後、コロナ禍によって、まちを介した体験の提供が難しくなったのです。
ARを通じた体験を、渋谷に出なくても味わっていただけるにはどうすればよいか――。たどり着いたアイデアが、2020年5月にオープンした「バーチャル渋谷」です。渋谷のまちをVR空間に再現し、そこでさまざまな体験ができるようになれば、コロナ禍でもお客さまにエンターテインメントをお届けできると考えました。

ビルと街区のシーンを変える「リアル×デジタル」の力
福丸:
「αU metaverse」の前段として、都市の情報を拡張することで都市の回遊性や検索性を向上させていく取り組みがあったということですね。都市の情報的拡張という観点で、日立が社会インフラ整備において取り組んでいることはありますか。
沖田:
ビルや街区といったフィジカルな場に、デジタルを生かしていくという取り組みをしています。

日立製作所 沖田英樹
例えばビルの場合、設備管理の人員不足を解消するために、ロボットを活用しています。ただ、空間に対する認識においてどうしても人間とのズレが生じてしまいます。ズレを解消するために、ビル空間内の人物の位置や設備の状態といった情報を人間と共通の認識で捉えられる「コモングラウンド」というデジタルなシステムを構築しています。

街区では今後、ドローンを使った配送が増えていくと思われます。そうなった場合、地面だけではなく空も含めてデジタルに管理していく必要が生じます。どこにどんな高さのビルがあるのか、風の向きや速度はどうか――ドローン同士の衝突を避けるために、各ドローンの位置や間隔などの情報をすべてデジタル空間上に落とし込み、安全な経路や飛行のタイミングを算出する。そういった仕組みの事業化に向けて、試行錯誤を重ねています。

5G時代のコミュニケーションのあり方
福丸:
2020年の「バーチャル渋谷」オープンから2023年の「αU」リリースにかけて、KDDIではどのような取り組みがあったのでしょうか。
舘林さん:
「バーチャル渋谷」を運用する中で、2つの気づきを得ました。1つは、リアルのまちをバーチャルに再現したことによって、文化に関するさまざまな情報が流れ込んでくるというポジティブな効果。もう1つは、店舗の商標や建造物の画像を使用して良いか否か、法的な判断が難しい領域が存在します。実際の運用経験を経て初めて得られた気づきをもとに、メタバースのあり方について議論を重ねた末、「バーチャル渋谷」を進化させたWeb3サービス群「αU」を2023年にリリースしました。

3Gの時代は、メールをはじめとする1対1のコミュニケーションやウェブ閲覧などが主流でした。その後、4Gのスマートフォンが普及し、だれもが発信者になれるようになったことで、カメラで写真や動画を撮ってSNSでシェアするという文化が形成されていきました。
5Gの時代になった今、コミュニケーションはどう進化していくのでしょうか。まず、発信者になる人の数が爆発的に増えるはずです。そして、これまで主に2Dでしか見られなかったコンテンツを、3Dで見せることができるようになります。さまざまな3D空間を用意することで、多くの方々がクリエイターになれる環境を整備したい。そんな思いが「αU」に込められています。
労働人口減少とメタバース
福丸:
ここからは、リアルとデジタルの融合が必要とされる社会的な背景について考えてみたいと思います。舘林さん、いかがでしょうか。
舘林さん:
まず大きな問題として、労働人口の減少が考えられます。今よりも少ない労働力で現在と同じ仕事量を消化するためには業務の効率化が必須であり、リアルとバーチャルの融合が欠かせません。
KDDIが展開している「αU metaverse」では今、メタバース空間の拡張にともない、アルバイトを雇っています。初めて「バーチャル渋谷」を訪れた人に「今、あそこで音楽ライブやってますよ」「あのお店に行ったら服が買えますよ」と案内をする。あるいは、メタバースに不慣れなユーザーに対し、アバターの動作説明をするという仕事です。
アルバイトの方々は、メタバース上では渋谷で働いているのですが、実際には北海道や九州など、全国各地の自宅からスマートフォンで「バーチャル渋谷」にアクセスし、仕事をしているわけです。こういった新しい働き方が、労働人口減という問題の解決につながるのではないでしょうか。

社会インフラ整備とメタバース
沖田:
今の舘林さんのお話は、メタバース空間ならではの仕事の形ですね。メタバース空間を介して、だれかとだれかをつなげることで価値が生まれる。それって実は、リアル空間でもできることだと思うのです。
近年のEVの普及を受けて日立では、個人が所有するEVを災害時の給電に提供していただく取り組みをしています。災害が発生して電力の供給が止まってしまったときに、避難所や一般家庭に住民が所有するEVを派遣、電力を供給いただくというものです。ただ、どこに供給すればより多くの人々が助かるかは、個人ではなかなか判断がつきません。そこで日立は、蓄電所としてのEVと電力需要のマッチングを図るサービスの開発に取り組んでいます。こういった地域への貢献がメタバース空間に履歴として残せるようになれば、リアルとデジタルのつながりが、より加速するのではないでしょうか。

また、舘林さんが指摘されるように労働人口が減少していく中で、社会インフラをいかに構築・運用していくべきかも重要な課題と考えています。デジタル空間とリアル空間との連携がしっかりとれていれば、インフラの今の状態を住民の方々によりわかりやすく伝えることができます。住民同士が共通認識を持った上で、インフラ整備のあり方について意見を出し合える――そういった仕組みづくりも必要になってくると思います。

福丸:
インフラがどのような仕組みで運用されているのかを住民間で共有し、インフラのあり方を住民が主体的に考えていく――そんな未来像が、おぼろげながら見えてきました。
「都市連動型メタバース」がリアルのまちに及ぼす影響
福丸:
舘林さんが推進する「αU」の活動は、渋谷などの実在する都市をモデルにした「都市連動型メタバース」を掲げています。メタバースが実在するまちに与える影響とはどのようなものでしょうか。
舘林さん:
そもそもメタバースの面白さは、リアルではできないことをできる空間であり、そのほうがユーザーにとってもわかりやすいという面はあると思います。一方で「都市連動型メタバース」がめざしている姿は、例えば渋谷のまちをモデルにしたメタバース空間で何かが起きると、リアルの渋谷のまちで活動している人々にポジティブな影響を与えることです。

例えば、わたしがボーダーのシャツを買うために渋谷のまちに出かけたとします。でも、渋谷のアパレルショップを転々と歩き回って、気に入ったシャツを探すことは結構大変です。
では、メタバース空間ならどうか。リアルとバーチャルのデータがきちんと連携されていれば、ボーダーシャツ専門アパレルの「メタバース渋谷店」をつくることだってできます。わたしがそこでボーダーのシャツを買うと、それを出品したリアルな渋谷のアパレルショップが収益を得られる。そんな仕組みを構築できれば、生活者が渋谷のまちを転々とする手間が省けますし、店舗にとっても商品の販売チャネルが増えることになります。
優れた検索性や、移動する手間の解消といったバーチャル空間の特性を生かすことで、リアル空間が持つ価値を高めることができるのです。
メタバースで変化する、地域コミュニティのあり方
沖田:
面白いですね。社会インフラ整備の観点から見ると、舘林さんの今のお話の逆――リアル空間における行動をバーチャル空間に写像することで新たな価値を生み出せるかもしれません。例えば、先ほどのEVの例でもお話ししたように、生活者の方々がリアル空間で社会インフラ整備に貢献していることがあれば、それをメタバース空間上で可視化して共有する。さらに、インフラに対する意見を住民の方々から募る際に、普段から貢献度の高い人の声を視覚的に大きく表示するなど、住民同士を媒介する手段としてメタバース空間が機能するとよりよいのではないでしょうか。

福丸:
まちに対する関与を深めていく文脈においても、メタバースが機能する可能性がある、と。例えば、地域において再生エネルギーをどのように導入するかを判断する場合に、AとBという選択肢があるとします。どちらにするか投票で決めるという方法ではなく、2つの選択肢の間にグラデーションがあることも認めた上で、実験したうえで判断したり、住民同士が意見を出し合ったりという社会インフラへの関わり方が、メタバースを通じてできるかもしれない。
沖田:
メタバースだからこそ、一人ひとりが意見を表明しやすいという点も大きいと思います。
福丸:
確かにそうですね。個人間のコミュニケーションが多元化するだけでなく、リアルにおけるコミュニティのありようも変化してくる。そこにメタバースの可能性があるように思います。
デジタル技術を前提としたまちづくりへ
福丸:
リアルとデジタルの融合によって社会インフラのあり方が変わっていくと、生活者視点のまちづくりにはどのような変化が生まれてくると思われますか。
舘林さん:
デジタルの側でできることを想定したまちづくりに変容していくのではないでしょうか。
近年、コンビニエンスストアのアルバイトで大変だと言われている業務が、冷蔵庫の品出しだそうです。やはり、庫内は寒いので身体への負担が大きい。この課題を解決するために、ロボットアームを運用して品出しをさせる仕組みを開発しているスタートアップがあります。この仕組みが実用化し、「ドリンクの品出しはロボットアームにさせる」という前提でコンビニエンスストアをつくれば、品出しに割いていた人件費を削減することができます。
ただ、ロボットには失敗が付き物です。導入の初期段階ではやはり人間が現地に張り付いてロボットのミスをカバーし、将来的には遠隔運用によりロボットだけでミスなく品出しができるようになる――というように段階的に自動化していくと思います。

例えばビルを建てるにしても、人間ではなくドローンで監視することを前提にした空間が出来上がる。あるいは、まちの中の何も置かれていないスポットにスマートフォンをかざすと、ARでポップアップストアが出せるなんてこともできるようになる。デジタル技術を活用することで、人やモノを省ける部分を明確化したまちづくりを進めることができ、まち全体にかかるコストを削減できると同時に、まちづくりの自由度が上がると思います。狭い日本の国土に、いかにレイヤーを重ねて有効活用しやすくするか――そんな発想のまちづくりが今後増えていくのではないでしょうか。
沖田:
ロボットアームのお話にあったように、どのような段階を経て自動化すると、リアルとデジタルがよりつながりやすくなるかという視点は重要です。例えばビル空間における配送の自動化でしたら、まずは清掃の自動化からロボット活用を始める。初めから、最後の1%まですべてロボットで自動化しようとするとコストがかさむので、まずはユーザーの方々が価値を感じられるレベル――例えば作業の60%を自動化するところからスタートするというように、人が機械に関わる余白を残しつつ、段階的な自動化が求められるのではないでしょうか。
「所属」の流動化・分散化
福丸:
リアルとデジタルが融合することで、コミュニケーションのあり方はもちろん、働き方に関しても、住んでいる土地や持っているスキルに関係なくさまざまな社会貢献ができる。そして、まちづくりのあり方も変化していく――そんな社会の姿が、お二人の対談から見えてきました。

ナビゲーターの日立製作所 福丸諒
これまで関心はあったけれども関わることができなかったまちのあり方に、例えばメタバース空間を介して意見を表明できることで、まちづくりをはじめとするリアルをも変えていける――そんな流れができつつあると感じます。舘林さんは今後、「リアル×デジタル」が新たにどんなものをつなぐと想像しますか。
舘林さん:
「所属」という概念がもっと流動化すると思います。例えば今、札幌に暮らしている人がいるとします。住民税は札幌市に払っている。一方で、バーチャル空間では福岡市にも名古屋市にも貢献している――となると、その人は札幌市、福岡市、名古屋市すべての関係人口にカウントされる。1人が複数の都市に関与できるようになるわけです。

働き方にしても、夜は「バーチャル渋谷」でまちの案内をするアルバイトをしている。日中はリアル空間で企業に勤めている――というように、もっと流動化していくのではないでしょうか。
セットアップされた個人のプロファイル(設定情報)がどんどん分散化されていくことが、リアルとデジタルの融合が生み出す価値と言えます。
福丸:
個人としてのプロファイルを背負いながらも、それを柔軟に楽しんでいく生き方が可能になるということですね。
沖田:
同感です。もっと言えば、多様な生き方の1つのジャンルとして、ぜひ社会インフラへの関与も加わると、よりよいなと思います。今回ご紹介したビル空間の運用であったり、街区を飛ぶドローンの制御であったり、あるいはEVを蓄電所として共助の形で提供するという日立の取り組みも含めて、生活者の方々が個人としてさまざまな地域の支援に参画していく。そのための手段として、リアルとデジタルの融合が価値を発揮すると思います。

福丸:
社会インフラへの住民の関わり方を、いかに義務や責任という形で押しつけずに構築していくか。そのためにはデジタルにおけるコンテンツ設計が核になりそうですね。
本日は「リアル×デジタルが私達の暮らしの何を繋ぐのか」と題し、対談をお送りしました。お二人とも、ありがとうございました。
協創の森ウェビナー:第18回 対談「リアル×デジタルが私達の暮らしの何を繋ぐのか」- 日立
www.youtube.com
舘林 俊平
KDDI株式会社 事業創造本部 Web3推進部長
2006年KDDI株式会社⼊社。移動体通信事業のネットワーク設計を担当
2012年よりスタートアップ⽀援プログラムKDDI∞LaboやCVCであるKDDI Open Innovation Fundの設立に関わり、主にエンタメ領域の企業への出資や共同事業を手掛ける。
2017年からグループリーダーとして、スポーツ、エンタメ領域でのアライアンス、バーチャル渋谷などの新規事業を担当。
2021年4月 ビジネス開発部 副部長。モビリティ領域でのJV設立を推進。
2022年4月BI推進部長。KDDI∞Labo、KDDI Open Innovation Fund、KDDI Digital Gateを統括
2023年4月より現職。オープンイノベーション活動に加え、αU Metaverse、αU Marketなどの事業を管掌。

沖田英樹
日立製作所 研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部
デザインセンタ 社会課題協創研究部 部長
日立製作所入社後、通信・ネットワーク分野のシステムアーキテクチャおよびシステム運用管理技術の研究開発を担当。日立アメリカ出向中はITシステムの統合運用管理、クラウドサービスを研究。2017年から未来投資本部においてセキュリティ分野の新事業企画に従事。2019年から社会イノベーション協創センタにおいてデジタルスマートシティソリューションの研究に従事。同センタ 価値創出プロジェクト プロジェクトリーダを経て、現職。

福丸 諒
日立製作所 研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部
デザインセンタ UXデザイン部 デザイナー
日立製作所入社後、鉄道情報サービスUI/UX設計を担当。2017年から未来洞察手法の研究と実践により中長期的な事業機会探索を行うビジョンデザインを推進。英国日立ヨーロッパ駐在を経て、現職。
プログラム1「好奇心が駆動する社会 – Society 5.0に向けて」
プログラム2「未来の暮らしと働き方はどうなる?『次の社会の作り方』を考える」
プログラム3「リアル×デジタルが私達の暮らしの何を繋ぐのか」





