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私たちの働き方を大きく変える可能性を持つ「生成AI」。それゆえに、世代や業界によって生成AIが急速な普及していくことに対するとらえ方はそれぞれ異なります。肯定的にとらえる人もいれば、否定的にとらえる人もいるようです。生成AIとの親和性が高いといわれる20代の若者は、その可能性をどう受け止めているのでしょうか? AINOW編集長で株式会社Cinematorico Founder & COOの小澤さん、株式会社piconのCOOでエンジニアの渋谷さん、株式会社サイバーエージェントでAIクリエイティブプランナーを務める洞ノ上さんの3名をゲストに、日立製作所 研究開発グループの神崎がお話を伺います。3回目の今回は「生成AIの発展は『働きがい』の喪失を生み出すのか」がテーマです。

[Vol.1]20代が使い倒して見えてきた生成AIの現在地
[Vol.2]誰でも「言語化できれば創造できる」のか?
[Vol.3]人間にしかないスキルと「働きがい」のゆくえ

ハードスキルから、ソフトスキル重視の時代に

画像: モデレーターの日立製作所 研究開発グループ 神崎将一

モデレーターの日立製作所 研究開発グループ 神崎将一

神崎:
私の周りには、「バグを直すところにちょっと楽しみがあった」というエンジニアや、「いろいろ工夫しながらUIを構築するのが楽しかった」というデザイナーもいます。そうした作業の楽しみが生成AIを活用することで減って、仕事のやりがいを見いだせなくなる日が来るかもしれない……。そんなちょっとした不安を、皆さんはどう思われているでしょうか?

渋谷さん:
僕は正直なところ、株式会社picon(以下、picon)が拡大期のフェーズにあるので、“やりがい”よりも1人当たりの生産性向上が、何よりありがたいです。もし、(他社で)経験豊富で優秀なエンジニアやデザイナーが、仕事がなくなってやる気をなくされているようだったら、ぜひうちにきてほしい(笑)。スタートアップ業界は今完全に売り手市場で、常に人財を欲していますから。とにかく「生産性を上げることが正解」といった状況になっています。

洞ノ上さん:
人財を採用する際、スキルとか資質とか、どういう点を重視しているんですか?

渋谷さん:
大きく「変化に対応できそうな柔軟性をもっていること」「piconのカルチャーにマッチしていること」の2つです。スキルとか働き方というのは、今後もどんどん変化していくと思うので、どのような状況になったとしても“前向き”に取り組める人がいいですよね。

小澤さん:
これからの時代、専門性の高い仕事をするための技術や知識(=ハードスキル)よりも、コミュニケーション能力や創造性(=ソフトスキル)のほうがより重要になってくると思います。ハードスキルは、どんどん生成AIが代行するようになるのではないでしょうか。

つまり、ビジネスアーキテクト(※)が求められるんです。そして、いいビジネスアーキテクトになるためには、例えば、いろんな立場の人と交流したり、自分の趣味や好きなことを突き詰めたりと、一次体験を重ねてインプットの量を増やしたほうがいいでしょう。そのインプットが閃きや発想につながるはずですから。

僕の場合、いろいろな人とつながってきたら、新宿の飲み屋街でAI業界の人たちと週4日飲むとかになっちゃって。どちらかというと、プライベートがAIに侵されてきてしまった気すらします(笑)。

神崎:
ハードスキルに自分のリソースを全投下してしまうと、仕事が生成AIの影響を受けたときの変化の度合いや喪失感がより大きくなるかもしれませんね。また、ソフトスキルをいかに伸ばしていくかが大事になってくると、企業にも、組織として従業員のマインド変化を応援することが求められるのでしょうか?

小澤さん:
そうだと思います。近年、多くの教育機関が取り入れ始めている「プロジェクトベースドラーニング(課題解決型学習)」もソフトスキルを磨くためのものです。

これからの時代は自ら課題を見つけ解決し、変わり続けられなければならない。向こう10年ほど、「ハードスキル重視からソフトスキル重視への転換」は、企業における制度や組織づくりで大きなひとつのテーマになるんじゃないでしょうか。

※ビジネスアーキテクト:DXの取組みにおいて、ビジネスや業務の変革を通じて実現したいこと(=目的)を設定したうえで、関係者をコーディネートし関係者間の協働関係の構築をリードしながら、目的実現に向けたプロセスの一貫した推進を通じて、目的を実現する人材(出典:経済産業省ホームページ「デジタルスキル標準」)

生成AIには理解できない、「なんとなく、好き」という感覚

画像: 生成AIにはできない仕事について語る洞ノ上さん

生成AIにはできない仕事について語る洞ノ上さん

渋谷さん:
洞ノ上さんは生成AIを活用して働いているなかで、「生成AIの影響をあまり受けたくないな、生成AIに任せたくないな」と感じる仕事はありますか?

洞ノ上さん:
あまりなくて、どちらかというと私たちがやっている仕事をどんどん生成AIに任せたいと思っています(笑)。というのも、生成AIにはできない、人間が必死に頭を悩ませて結論を出さないといけないことってたくさんあると思うんですね。

でも、日々のタスクに追われて、その「考える作業」に時間を割けていない人は多い。人間にしかできない、創造的なことに取り組む時間を生み出すためにも、生成AIにできる仕事はどんどん代行してもらったほうがいいと思います。

神崎:
なるほど。創造的なことって具体的にはどんなことでしょう?

洞ノ上さん:
それは人それぞれですよね。言語化するのが難しいんですけど、「自分がなんとなく好きなこと」ともいえるかもしれません。嫌いなものはいくらでも言語化できるけど、「なんとなく好き」という感情を言語化して説明するのって難しくないですか……?

そして、その「なんとなく好きなこと」は人それぞれ違っていて、その感情を生成AIはまだ理解できないんです。私は、そこに人間の創造性の本質が隠されている気がして、自分が好きなことを、自分で極めたいと思います。

渋谷さん:
広告クリエイティブを制作する際も、自分の“好き”を大切にしていますか?

洞ノ上さん:
もちろん自分の主観は多少入りますけど……、広告クリエイティブはクライアントのものという前提があるので、客観性が最も大事になります。その客観性を数値化、指標化して反映することができるのは生成AIの強みで、得意とするところです。だから、広告業界は生成AIととても相性がいいと思っています。

神崎:
先ほど、洞ノ上さんが所属する部署では、学生インターンを受け入れているとお聞きしました。学生の生成AIとの向き合い方はどうですか?

洞ノ上さん:
学生インターン全員に生成AIを使ってもらって、例えば、その使い方について社員と一緒に議論してもらったりしています。ただ、仕事に直結させるというより、新しいことに挑戦する場や雰囲気を感じながら経験を積んでもらうために使ってもらっています。

インターンの多くは美大生ですが、美術大学では学ばないであろうプログラミングを自分で勉強して、「これつくってみました」とか、つくったプロダクトを見せに来てくれる人もいます。みんなすごい熱量だし、すごく一生懸命。その姿を見ると、探究心というのは人から促されるものではないなとあらためて感じます。自発的に物事に取り組める人は、めちゃめちゃ強い。領域を飛び越えて、何でもできちゃう。その原動力が“好き”なんだと思います。

生成AI推進のカギは「まずやってみよう」が可能なカルチャーづくり

画像: 左からモデレーターの日立製作所 研究開発グループ 神崎将一、株式会社picon 渋谷幸人さん、株式会社サイバーエージェント 洞ノ上茉亜子さん、AINOW編集長/株式会社Cinematorico 小澤健祐さん

左からモデレーターの日立製作所 研究開発グループ 神崎将一、株式会社picon 渋谷幸人さん、株式会社サイバーエージェント 洞ノ上茉亜子さん、AINOW編集長/株式会社Cinematorico 小澤健祐さん

神崎:
生成AIが急速に台頭している今、どんな組織に所属したいか教えてください。

渋谷さん:
僕にとって生成AIはすごく便利なものなので、利用を制限されるような会社は嫌ですね。僕たちpiconは拡大期のフェーズにあって、リスクを取りやすい状況でもあるので、より積極的に生成AIを活用していく組織にしたいと思っています。

小澤さん:
やはり生成AIの活用推進のためには、ちゃんと使えている人をきちんと評価する制度や給与体系を整えることが重要。僕はそういう会社に勤めたいですね。あと、大事なのは分散型にすることだと思います。

神崎:
分散型とは?

小澤さん:
ボトムアップで分散的に生成AIを活用できている組織のイメージです。今、多くの企業が「AI推進室」とか「DX推進室」を設けている。でも生成AIって、ユーザー登録すればすぐ使えるものが多いんだから、そうした専門部署が音頭を取るまでもなく、各部署で推進すればいいんですよね。

神崎:
ハブアンドスポークということでしょうか?

小澤さん:
そうですね。DX推進室のような部署は「ハブ」と呼ばれ、生成AIの新たな活用法やテクノロジーを提供し、「スポーク」と呼ばれる各部署では、部署主導で生成AIのスキルを高めていくといったものです。

例えば、僕が生成AIの活用推進に携わっている会社では、すべての部署にアンバサダーを置く方針を打ち出しています。分散的にちゃんと生成AIを使えるような環境を整えていくのも、推進のカギになるんじゃないかな。

画像: 生成AIと組織について語る小沢さん(右)と神崎

生成AIと組織について語る小沢さん(右)と神崎

神崎:
なるほど。洞ノ上さんはいかがですか?

洞ノ上さん:
昨年、生成AIの活用コンテストが社内で開催されたんです。賞金総額1000万円で、さまざまな部署から2200件ほどの応募がありました。私は広告業務において、日々、生成AIの活用に真剣に取り組んでいるんですけど、隣を見ると、ABEMAでこんな取り組みを始めただとか、ゲーム事業でこんなふうに利用しているだとか、すごいスピードで社内に生成AIが広がっているんですね。

みんな「失敗してもいいから、まず、やってみよう」みたいな感じで実験的なアプローチで取り組んでいる。その空気がとてもポジティブで、すごくいいんですよ。そういう自由な雰囲気のなかで、生成AIの社内実験ができる組織が増えたら面白いと思います。

渋谷さん:
そのあとのキャリアを考えたら、若いうちにそういう会社に身を置きたいと思います。それこそ、生成AI活用のスペシャリストが続々生まれそう。

洞ノ上さん:
そうなんですよ。若い人も積極的に参加していました。

小澤さん:
そのように本人自らが行動したり変化したりする意識は大事ですよね。さらに、企業側には、それを後押しするような組織やカルチャーが求められるはずです。

先ほど、ハードスキルよりもソフトスキルが重要といったお話をしました。ただ、実際のところ、ハードスキルだけで仕事を動かしてきた人って多いだろうし、そこには絶対、現状維持バイアスが存在する。だからこそ、企業として、変化への対応力がある人財をどう育てていくのかがマネジメントのポイントになりますよね。チャレンジの機会が与えられる、ソフトスキルがちゃんと評価される、給与体系がその評価に連動しているとか。生成AIがビジネスや社会を大きく変えていくには、まだまだやらなきゃいけないことがたくさんあるでしょうね。

神崎:
そうですね、私も一企業人として模索していきたいと思います。本日はありがとうございました。

座談会を終えて

今回、生成AIを活用して個人や組織をエンパワーさせているお三方にお話を聞くことができました。生成AIを活用してプロダクトを高速で開発した結果、人財採用ではハードスキルよりもソフトスキルを重視するようになった。自分の主張を持ちながら生成AIと接して記事や本の執筆を加速した結果、さらなる仕事の機会につながる出会いや人間関係の構築を生んだ。言語化によって考えを生成AIに伝えてアウトプットを増やした結果、パーソナライズ化や確認の自動化など次なる挑戦が生まれた。皆さん、生成AIが定着した時代の働き方を先取りしているのかもしれません。

一方で、働きがいの喪失に関しては「スタートアップは常に人財不足」と渋谷さんがおっしゃったように、生成AI時代では探求心と柔軟性という“お守り”があればなんとかなるのだろう、と感じました。

また、2つの世界観も感じることができました。ひとつは、小澤さんが言及されていたAIエージェントのように、生成AIが私たちの生活に溶け込んでいく世界です。丁寧な言語化をせずとも思いを汲み取ってくれたり、生成AIが環境の一部となって意識しなくなったりする。それは、マーク・ワイザーの提唱したカームテクノロジーを思い起こさせます。

もうひとつは、生成AIという存在が明瞭に意識される世界。生成AIの「他者性」を意識しながら意思の疎通をはかったり、自身の役割を変化させていったりする。洞ノ上さんがおっしゃった「生成AIという相棒を肩にのっける」という表現から、生成AIとの対話では、他者とのコミュニケーションと内省が両立しているんだ、という気づきがありました。そんな2つの世界観が絡み合いながら進んでいく“生成AIに対する生活者の経験価値“を、引き続き考えていきたいと思います。(モデレーター 日立製作所 研究開発グループ 神崎将一)

画像1: [Vol.3]人間にしかないスキルと「働きがい」のゆくえ|生成AIで変えていく、働き方と生活のこれから

小澤 健祐
AINOW編集長
株式会社Cinematorico Founder & COO

「人間とAIが共存する社会をつくる」がビジョン。ディップが運営するAI専門メディア AINOW編集長を務める。書籍『生成AI導入の教科書』(ワン・パブリッシング)。1000本以上のAI関連記事を執筆。一般社団法人生成AI活用普及協会 協議員。その他、AI領域で幅広く活動。ディップの生成AI活用推進プロジェクト「dip AI Force」の推進、生成AI教育事業を展開するCynthialyの顧問、日本最大のAI活用コミュニティ「SHIFT AI」のモデレーター&パートナーインフルエンサー、社長のAI化を進めるサービス「AI社長」を運営するTHA顧問、生成AIとエンターテイメントの融合を進めるAI Booster顧問、東大発AIスタートアップ Lightblue顧問。AIに関するトークセッションのモデレーターや登壇、講演、メディア出演も多数。AI以外の領域では、2022年にCinematoricoを創業しCOOを務めるほか、SDGs専門メディア「SDGs CONNECT」編集長、ITフリーランス向け案件プラットフォームを運営するテックビズのPR、フリーカメラマン、日本大学文理学部 次世代社会研究センター プロボノ。デヴィ夫人 SNSプロデューサー。ディップの社員総会の企画や中期経営戦略タスクフォースメンバーも歴任。

画像2: [Vol.3]人間にしかないスキルと「働きがい」のゆくえ|生成AIで変えていく、働き方と生活のこれから

渋谷 幸人
株式会社picon
COO/エンジニア

2016年、株式会社piconを共同創業。エンジニアとしてtoCプロダクトをメインに複数の事業立ち上げを経験。2023年3月にLINEでChatGPTが使える「AIチャットくん」をリリースしたことを皮切りに、LINEで画像生成AIの「AIイラストくん」、「AI占いくん」など、生成AIを多くの人に届け、使いこなせるようになるプロダクトに取り組んでいる。

画像3: [Vol.3]人間にしかないスキルと「働きがい」のゆくえ|生成AIで変えていく、働き方と生活のこれから

洞ノ上 茉亜子
株式会社サイバーエージェント
インターネット広告事業本部 AIクリエイティブプランナー

2019年、サイバーエージェント入社。『極予測AI』を活用したクリエイティブチームの立ち上げを経験。広告クリエイティブにおけるAI活用を推進する。

画像4: [Vol.3]人間にしかないスキルと「働きがい」のゆくえ|生成AIで変えていく、働き方と生活のこれから

神崎 将一
株式会社 日立製作所
研究開発グループ デジタルサービス統括本部

デザインセンタ ストラテジックデザイン部(兼)サイバーシステム社会実装プロジェクト
2021年、日立製作所に入社。金融領域でのサービスデザインや地域から社会変容を促すデザイン研究に従事。現在は生活者目線での資源循環に関するデザイン研究や生成AIの経験価値に関するデザイン研究に取り組んでいる。

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