弓部 良樹
HITACHI AUSTRALIA PTY LTD. Head Office, Research and Development
General Manager of Research and Development
2009年日立製作所入社。エネルギー分野における設備保全の効率化・高度化に関するソリューション創生、顧客協創による事業創生に従事。また、スマートシティ分野における事業創生に従事。2022年より現職、オーストラリアにおける事業創生に取り組む。2020年、大阪大学大学院情報科学研究科より博士(情報科学)の学位を取得、電気学会会員。
シドニーでダイバーシティを学ぶ
シドニーに住んで2年以上経ちますが、「みんな違って当たり前」という感覚が自然に行き渡っている街だと感じています。たとえば、私がつたない英語を話しても、皆一所懸命聞いてくれるし、話してくれるんです。シドニーにはオーストラリア以外の国から多くの人が集まっています。第一言語がみんな違うので、公用語である英語でみんな頑張って意思疎通をしているんですよね。たとえ英語が流ちょうに話せなくても、みんなフランクに話しかけてくれるので、新参者でも疎外感を感じずに済むのは嬉しいですね。
オーストラリアでは、公演や国際会議など各種イベントの冒頭では必ず、「アクノレッジメント・オブ・カントリー」という挨拶があります。アボリジニやトレスアイランダーといった先住民に対する敬意を表すもので、それぞれが異なるルーツをもつことを理解し、敬意を払う姿勢の表明だと思います。
また、シドニーではLGBTQ+の世界最大のイベントも開催されています。さまざまな違いを当然のこととして受け入れ、尊重することができている都市だからこその実績だと思います。マジョリティとマイノリティの区分けもそこにはありません。そんなふうに、互いの違いを当然のこととして受け入れているのは、すごいことだと思います。
このように、暮らしのいろいろな場面で、ダイバーシティとインクルージョンが根付いていることを感じます。多くの人たちが一緒に、そして豊かに暮らせるように、住んでいる人たちの意識と社会インフラがアップデートされていく。事業創生に取り組む今の仕事においても、シドニーの生活から新たに学んだ多様性の視点とその必要性を日々学んでいます。
コーヒーがあれば名刺は不要!オーストラリア流コミュニケーション
多様性の根底にあるのがコミュニケーションの豊かさだと思います。オーストラリアで出会う人たちは、皆おしゃべりが大好きです(笑)。仕事の打ち合わせのときも皆さんアイスブレイクが長くて、30分の打ち合わせのうち10分ぐらいアイスブレイクしていることもあります。「週末、何してた?」などと言い合いながら、お互いの壁を取り払っていくわけです。
コーヒーを飲みながらの「コーヒーキャッチアップ」と呼ばれる習慣もあります。私もお客さんとカフェに行って話したりしますよ。街じゅう至るところにカフェがあって、皆それぞれお気に入りの店があるんです。カフェの店員も気さくに話しかけてくれますし、コーヒーひとつ買うにもコミュニケーションの生まれる余地があるのは、日本と違うところだと感じます。日本と違うといえば、オーストラリアでは名刺を持っていない人が多いです。会話で仲良くなってからが仕事のスタートなので、名刺がなくても「誰だっけ?」とはならない。名刺の代わりにコーヒーと会話を、というのがオーストラリアのスタンダードですね。
シドニーから車で行ける距離に、ワインの名産地があり、週末には日経企業の友人たちと一緒にワイナリー巡りをしています。ワイナリーに行くとそこのオーナーがものすごく熱心に説明してくれるのも楽しみです。話しているうちに意気投合してテイスティングを無料でさせてくれたりね(笑)。ビジネスの中心に会話があることは、ワイナリーも同様のようです。
ですから、雑談力はだいぶ鍛えられましたね。同じテンションで日本とのオンラインミーティングに入ると、「元気ですか?そちらは暑いですか?」など雑談から入ってしまい、温度差で日本の皆を困らせてしまったり(笑)。
もちろん、「空気を読む」「行間を察する」など、日本には日本の良さがあります。一方で、相手の表情を見て語り合いながら仲良くなるというのはオーストラリアの良さですね。日本を離れてみて、オーストラリアの良さを発見しつつも、あらためて日本の良さを再確認することができました。両方の良さや違いを楽しみながら、自分自身さらに成長していきたいと思います。
編集部より
東京とシドニー、両都市の魅力や、新しく始めたゴルフの話など多岐にわたって楽しそうに語ってくれた弓部さん。取材はまさに雑談モードでしたが、2022年10月に東京で実施された、日豪経済委員会 カンファレンスのパネルディスカッションでは、赴任早々ではありながら日立オーストラリアR&Dの活動をしっかりアピールするなど、オーストラリア拠点を盛り上げるべく、本業もしっかりこなしているようです(笑)。【編集S記】