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いま、日立製作所の研究者やデザイナーには、これからの社会の新たな価値について、事業創出まで視野に入れた研究活動が求められています。そんな中、改めて研究者にとっての「問い」の重要さを感じていた研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部長の花岡誠之。『ビジネスで成功する人は芸術を学んでいるーMFA(芸術修士)入門』の著者である朝山絵美さんの研究発表展に訪れた際の出会いをきっかけに実現したこのイベントで、研究をリードする人財について、また組織のあり方について語り合います。ナビゲーターは、日立製作所研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部 主管デザイン長 兼 武蔵野美術大学 クリエイティブイノベーション学科教授の丸山幸伸です。

※トークセッションの様子は、記事末尾のリンクから動画でもご覧いただけます。文字ではお伝えしきれないライブ感をお楽しみいただけると思いますので、ぜひご視聴ください。

[Vol.1]椅子作りを通して見つけたアイデア深化のキモ
[Vol.2] 五感に触れる言葉と造形でビジョンを語る
[Vol.3] イノベーションをリードする人財、組織のあり方とは
[Vol.4]「手を動かして考える」をみんなのものに

画像: イベントの後半は、イノベーションをリードする人財や組織のあり方について対談を行った

イベントの後半は、イノベーションをリードする人財や組織のあり方について対談を行った

リーダーはどうふるまうべきか

丸山:
武蔵野美術大学と日立製作所の共催イベント「 “タンジブル化”が問いを磨く ~不確実性の高い環境での研究開発や組織の在り方~ 」の後半は、「研究をリードする人材とその組織の在り方」をテーマとしたトークセッションです。前半の朝山さんの講演をふまえて、改めて生まれた問いや気づきを語り合いたいと思います。

花岡:
私はまず、椅子作りのプロセスとイノベーションのプロセスは鏡像のように実は同じようなプロセスなのだというお話にとても感銘を受けましたし、多くの気づきがありました。椅子作りにおけるリーダー(教授)と、作る人(朝山さん)の関係性は、私(研究を統括する立場)と現場の研究者やデザイナーの関係と重ね合わせることができそうですが、朝山さんにとって、教授とはどのような存在で、どんなインパクトを与えられましたか?

朝山さん:
私をご指導くださった武蔵野美術大学の篠原規行教授は、とにかく美の話をしたら逃してくれない方です(笑)。論文は自由に書かせてくださったのですが、椅子づくりや展示会の見せ方など、造形や空間デザインについてはなかなか100点を出してくださらないくらいこだわりを持っていました。ビジネスパーソンとしてプレゼン資料しか作らずタンジブルなものに触れずに15年間やってきてしまった私の脳に、篠原先生はなぜこの造形が美しいのかを理由とともにいろいろな観点から分かりやすい言葉で伝えてくださいました。それが一番大きなインパクトでした。

花岡:
リーダは相手にそれだけのインスピレーションを与える必要があるということですね。重い責任をもっていることを改めて感じます。

画像: 椅子づくりとイノベーションのプロセスの共通点について掘り下げた議論が進む

椅子づくりとイノベーションのプロセスの共通点について掘り下げた議論が進む

花岡:
椅子のデザインのお話の中で、円弧を半円から少し延長すると円をイメージできるから美しい、という話がありました。これは、先生からすると、朝山さんから問われなくてもすぐに気づくものなのか、それとも問われることでご自身の経験を思い出して説明されたのか、どちらなのでしょうか。

朝山さん:
どちらでしょうね。ただ、このお話を他のイベントでしたときに、先生は「俺、そんなこと言った?」っておっしゃっていたんです(笑)。おそらく、理論としてではなく造形とセットで記憶の片隅にあったものが、その造形を目の前にすることでたくさんの記憶の中から無意識的に出てきた言葉なのではないかと思います。

花岡:
なるほど。私も、研究をマネジメントする立場として研究者やデザイナーが生み出すモノの途中経過や成果を見に行ってその良し悪しを言えるようになる必要があると思いつつ、実際に途中経過のプロセスをタイムリーにかつ直接見る機会をなかなか持てていない気がしてきました。先生は、朝山さんの制作プロセスをどのようにご覧になられていらっしゃいましたか。

朝山さん:
修士課程では、指導教員以外にも複数の先生から講評を受ける機会があるのですが、皆さん、プロセスは見ていなくても、そこにモノが存在していれば講評できてしまうんです。モノだけを見てシャープに美を判断して言葉にできるのは、やはり、見るという感覚的な経験を膨大に積み重ねることで、記憶に美を蓄積してこられたからかなと思っています。

画像: 朝山さんの発言を受け、リーダーとしての責任の重さをかみしめる花岡

朝山さんの発言を受け、リーダーとしての責任の重さをかみしめる花岡

レビューか講評か

花岡:
ビジネスの場では、途中経過や成果を「レビュー」することは多いのですが、「レビュー」は朝山さんがおっしゃる「講評」とは違ったプロセスのように感じました。「レビュー」の時間自体は既にあるので、この時間をより有意義なものにできればと思うのですが、レビュアー側はどういった観点で関わればよいかなどアドバイスをいただけますか?

朝山さん:
私が行ったイノベーション研究の際のインタビューで、上司のレビューというものは事業リーダーやビジネスを作る方々の内発的動機付けを押さえ込む可能性がある行動だ、というお話を聞きました。そこでその方は、「この会議はバリューアップ会議なので、レビューする人は出て行ってください」というようなミーティングの場作りから始めて、それでも会議中にレビューの姿勢が出てしまった場合には、このアイデアをより良くするためのフックとなる言葉を投げかけるようにしてくださいという風にナビゲーションしたそうです。

花岡:
レビューではなくバリューアップの意識を、ということですね。

丸山:
美術大学の講評はレビューとは全く違ったものです。意見をするときにそのテーマの新しい可能性をどれだけ引き出せるのか、ということを考えて先生方は講評の場に臨んでいます。

工学の世界では、バグを取り除いて正しい方向へ導いていこうとしますが、美大で行うアートやデザインの世界では、先生方の専門性から考え得るある種のバグを埋め込んで新しい可能性の導火線に火をつけて広げようとします。ですから受け取る側にもリテラシーが求められています。

最終的には受け取る側の学生が判断するのであって、美術大学の先生は正解を与えるスタンスをとりません。正しい問いなど存在しない、というのが美大教育なのではないかと思っていますが、朝山さんはどう思われますか?

朝山さん:
そうですね、講評は主観と主観のぶつかり合いです。プレゼン資料の論理性について指摘する先生はいません。まず、「何がやりたくてこれを作ったのか?」と主観を聞かれます。その上で、「その主観を体現するものがこの形でいいのか」という観点で、いろいろな角度から先生方ご自身の主観をぶつけてくださるんです。持ち帰ったあとも、レビューをもとに修正するというよりは、たくさんの主観から来る言葉を聞いたことにより、全く違うところからアイデアが出てくる。それが講評のサイクルでした。

花岡:
より良い「レビュー」のために、「講評」のあり方から学ぶべきことは多そうですね。

画像: レビューと講評の違いについて、対話は盛り上がりを見せた

レビューと講評の違いについて、対話は盛り上がりを見せた

ビジネスに「主観」を持ち込むには

花岡:
私自身は学生時代も社会に出てからも「講評」というものに接したことはありません。会社にいるデザイナーに聞くと、「学生の頃にやっていました。」「花岡さん、講評は大変ですよ」「打ちのめされた」などの意見が出る一方、研究者たちに聞くと講評を知らないし、受けたこともないと言います。「講評」という経験が大事なものであるという感覚を持ったのですが、より多くの人が疑似的にでも「講評」を体験するにはどうしたらいいでしょうか。

朝山さん:
ビジネスの世界では、主観で判断したり伝えることが抑圧されてきたという感覚が私にはあります。客観的な評価指標で語ることが一般化している場で、主観で伝えようとしたら浮いてしまいます。やはり、「金曜日のミーティングは主観を言い合う場」というように、主観で伝え合う場を意識的にセットしていく必要があると思います。

花岡:
ビジネスの場において、主観で話すという経験値が浅い人たちが急にそれをやろうとすると難しいこともあると思いますが、なにかアドバイスをいただけないでしょうか。

朝山さん:
私の体験で言うと、自分が話し始める前に、先生方から問いかけてもらったのがありがたかったです。「これってどういう表現を考えていたの?」とか、「なぜこういう形にしたの?」など、アイデアや造形のもとになった思考について聞いていただけたことで、それを説明しているうちに自分でも気づきがありました。

丸山:
「あなたはこの問題に対して何を問おうとしているのか」というところからスタートするので、思考が開いていくのでしょうね。一方、仕事の要件について問うビジネスの問いからは、どうしても「それが合っているか、間違っているか」を精査する道に入ってしまう。難しいところではありますね。

画像: 武蔵野美術大学教授としての顔も持つ丸山は、ビジネスの現場とアートの現場の違いを語る

武蔵野美術大学教授としての顔も持つ丸山は、ビジネスの現場とアートの現場の違いを語る

手で触れながら考える「タンジブル」の発想は、ビジネスやイノベーションの場でどのように生かしていけるのでしょうか。次回も引き続き、朝山さんと花岡、丸山の3人で語り合います。

動画:トークセッション「研究をリードする人材とその組織の在り方」

画像: トークセッション「研究をリードする人材とその組織の在り方」(武蔵野美術大学・日立製作所 共催イベント) www.youtube.com

トークセッション「研究をリードする人材とその組織の在り方」(武蔵野美術大学・日立製作所 共催イベント)

www.youtube.com
画像1: [Vol.3] イノベーションをリードする人財、組織のあり方とは│“タンジブル化”が問いを磨く ~不確実性の高い環境での研究開発や組織のあり方~

朝山 絵美
Creative leadership coach /Human centric strategist

外資系コンサルティングファームにおいてマネジング・ディレクターを務め、人間中心の経営戦略を専門とする。同志社大学大学院工学研究科知識工学専攻(現:理工学研究科インテリジェント情報工学専攻)の修士課程を修了。カナダ バンクーバーにてCo-ActiveⓇ Training Institute(CTI)主催のコーアクティブ・コーチングのコアコースを通じてコーチングを修学。その後、外資系コンサルティングファームに入社し、現在に至る。公益社団法人、一般社団法人の理事や相談役を歴任、経営者を対象としたエグゼクティブコーチングの実績も多数ある。武蔵野美術大学大学院造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコースの修士課程を2021年3月に修了。その後、同大学院博士後期課程において、ビジネスパーソンが人間らしくイキイキとイノベーションを創出するための研究と椅子の制作を中心としたアートワークを行い、2024年3月に学位を取得。

工学修士(Master of Engineering)、造形構想学修士・博士(Ph.D. of Creative Thinking for Social Innovation)

画像2: [Vol.3] イノベーションをリードする人財、組織のあり方とは│“タンジブル化”が問いを磨く ~不確実性の高い環境での研究開発や組織のあり方~

花岡 誠之
日立製作所 研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部 統括本部長

1996年 大阪大学大学院 工学研究科 通信工学専攻 修士課程修了後、日立製作所 中央研究所 入社。次世代無線通信システム(3G、4G、5G、コグニティブ無線)の研究開発及び、3GPP、IEEE802等の国際標準化活動に従事した後、ネットワークシステム、コネクティビティ、ITプラットフォーム分野における研究開発及びそのマネジメントに従事。2018~2019年、本社 戦略企画本部 経営企画室 部長、2020年より研究開発グループ デジタルテクノロジーイノベーションセンタ長、2021年より同デジタルプラットフォームイノベーションセンタ長を経て、現職。

IEEE、電子情報通信学会(シニア) (IEICE)、情報処理学会(IPSJ)、各会員。博士 (工学)

画像3: [Vol.3] イノベーションをリードする人財、組織のあり方とは│“タンジブル化”が問いを磨く ~不確実性の高い環境での研究開発や組織のあり方~

丸山 幸伸
株式会社日立製作所 研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部 デザインセンタ 主管デザイン長
武蔵野美術大学 クリエイティブイノベーション学科教授

日立製作所に入社後、プロダクトデザインを担当。2001年に日立ヒューマンインタラクションラボ(HHIL)、2010年にビジョンデザイン研究の分野を立ち上げ、2016年に英国オフィス Experience Design Lab.ラボ長。帰国後はロボット・AI、デジタルシティのサービスデザインを経て、日立グローバルライフソリューションズに出向しビジョン駆動型商品開発戦略の導入をリード。デザイン方法論開発、人財教育にも従事。2020年より現職。

関連リンク

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